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いまさら魔法少女と言われても  作者: 赤川
Wave-03 吸血鬼は文学だけにしておくべきかと
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0047:中には死者の書とかも有ったとか無かったとか

 まだ吸血鬼の「き」の字すらなく、銃の乱射事件などもなく、世間が平和で退屈な日常そのものであった頃。


 マイペースな三つ編み文学少女、北原桜花(きたはらおうか)は高校入学直後。県下一番から二番を争う学校に、なんかいつの間にか入学していた、と言う才媛である。


 その中身は、マイナー作品ばかりを読み(あさ)り、メジャーどころは「なんか流行(はやり)に乗ってる感じがするから」と読みたがらない面白(おもしろ)少女だった。


 知らない本にこそ出会う価値を認める桜花は、東京の神田は当然として、足が届く古本屋は行き尽していた。

 少し遠出すれば、地元交番のお巡りさんにお手数をかけるのも恐れず、場所を()いて古本屋へ突撃する。


 そんな桜花の部屋には机や床を問わず、本が山と平積みにされてる。

 椅子はその山の中に埋もれ、今は本の塔が椅子の代わりと化していた。


「あれー……? この本は読んだっけか? もーダメだなー、勝手に既読アイコン付かんかなー」


 『ダメ』なのは読み散らかして整理しないズボラ文学少女の方だったが、この少女はもう10年近くこの調子。気付いたら受験が終わっていた、と本人が言うのも伊達ではない。その彼女の能力を超える量の本が、部屋を埋め尽くしていたのだ。

 簡潔に一言で言うと、整理整頓とかはもう諦めた。


 本を探すのに歩き回り、自室の中でまで本を探していれば世話が無い、と思いつつ、まだ見ぬ――――――読まぬ――――――本を求めて頭から山の中に突っ込む。


「お……おおう。ちょっと遭難しかけた」


 比喩抜きで本の海を泳ぎ切り、どうにか生還した桜花の手には、一冊の本があった。戦利品である。

 一目見て覚えがなく、背表紙を見て直感した桜花は、本の塔の最下層から強引にそれをもぎ取って来た。

 その後崩壊する本の神殿からの脱出は、アドベンチャー映画の如しだったが。


「どーれ……これ何時(いつ)買ったヤツだー?」


 いつ買ったかどこで買ったか分からない。そんなのは今に始まった事ではないので、無理に思い出そうともせず、とにかく内容を見ようとハードカバーの本を開いてみる。


「………なんじゃこりゃ?」


 開いてみたのだが、そこには文字も絵も何も書かれてはおらず、ただ真っ白な紙面が広がっているだけだった。


                         ◇


「……………………ありゃ?」


 一瞬、足元が消えていたかのような感覚に襲われ、桜花はその場でたたらを踏む。

 これでも病気知らずの文学少女。目眩(めまい)を感じるのも、あまり経験の無い事。

 二重にブレる視界を、目をしばたたかせて戻そうとする桜花。

 意識が飛んだのは、その女を見てからだ。


 背中から(もも)(おお)うほどに長く、緩やかに波打つ金髪(ブロンド)

 淡いブルーの瞳に、美しいが挑発的な笑みを作る顔立ち。

 成熟した肉感的なカラダは、にわかに発達した魔法少女達とは比べ物にならない、危険なフェロモンを発している。

 しかし、特筆すべきはそんな普通な(・・・)特徴ではない。

 女が身に着けているのは、大事な所しか隠れていないヒモを繋げたようなボンテージと、四肢に巻き付く鎖。

 ブロンドの隙間から大きく天に伸びる、牛のようにねじ曲がった黒いツノ。

 そして、何より目を惹きつけるのが、腿のあたりで揺れている、先端が槍のように尖る尻尾。それに、腰の後ろから大きく左右に広げられた、コウモリのような大きな翼。

 その姿は、あたかも物語に出てくる、男を誘惑する悪魔の如しだ。


 銀行の壁に突如現れた悪魔の如き姿の女は、垂直の壁から信号機の上へと軽やかに飛び移る。

 とんでもない格好の異常な女だったが、それが桜花の目眩(めまい)の原因ではないだろう。


 何か、ポンっと抜けている記憶があるような。


 マイペース文学少女の北原桜花は、眉間にしわを寄せて記憶を掘り起こそうとする。

 だが、状況は彼女を置いてきぼりにして推移していた。


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