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いまさら魔法少女と言われても  作者: 赤川
Wave-03 吸血鬼は文学だけにしておくべきかと
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0045:女性でもラッキースケベの対象となるのだろうか

 何事かとフロントガラスを見て、雨音とカティが目を丸くする。

 そこに居たのは、この吸血鬼の災厄の根源にして、最初のひとり――――――と思われる――――――、限りなく本物に近い吸血鬼。


「え……? なに、どうしたー?」


 突発的な事態に硬直する車内に在って、ただひとり状況が飲み込めていなかった文学少女は、運転席の大男の横から正面を覗き込もうとし、突如跳ね上がったミニスカエプロンドレスの黒アリスに吹っ飛ばされた。


「ぎゃぶ………!」


 バネ仕掛けか何かのオモチャのようにクルマの天井から飛び出す雨音は、銃座に着くや重機関銃(M2キャリバー)の装填レバーを力いっぱい引き倒し、発射ボタンを押し込む。


 この間、2秒。


 12.7ミリ弾が秒間10発分、火薬の破裂する音がひと繋がりに(はじ)け、放たれる弾丸の雨は吸血鬼諸共路面を粉々に咬み砕いた。

 雨音の放った弾丸は、完全に標的を捉えていたように見えたが。


「やっぱダメか…………!?」


 巻き上げられた粉塵が風に流され、雨音の視界がクリアになる。

 そして予想した通りに、吸血鬼の姿は無くなっていた。


 銃が通用しないのは先刻の事で承知である。

 一応対策も考えて来たのだが、まさかこんな所で事件の大本命が出てくるとは。

 不意を打たれて雨音も焦っていた。


「相変わらず激しいな……キミは」

「――――――――――――ぅえッッ!?」  


 一体どこに行ったのかと、茶翅のアイツを見失った時の100倍の重圧を感じていた所に、背後から平然と投げられる声。

 腰が抜けるほど驚かされた雨音は、足を滑らせ銃座席から車内にひっくり返った。


「え………………………ぅわわわ!? ち、ちょっとせんちゃーん!!? どこに顔入れてるのさー!?」

「ギニャァァアアアアアアア!!!! アマネはどこにジェリー追っかけて突っ込んでマスかー!!!」

「アホォォオオオォオオオ!!! 上上ウエうえぇぇええええええええ!!!」


 不幸な事に、雨音が頭から突っ込んでしまったのが、文学少女のスカートの中だった。

 北原桜花(きたはらおうか)も誰かさんのせいでひっくり返り、スカートが腰まで(まく)れ上がっている状態。そんな所へ、因果応報(?)的に墜落して来た雨音さん。

 普段は感情の起伏を見せない桜花も、一番ヤバい所に鼻先を突っ込まれたとあっては、真っ赤になって慌てもする。雨音は真っ暗なスカートの中で何も見えていなかったが。

 だが、乙女同士でじゃれ合っている場合ではない。

 何せ車上には、一番危険で重要な相手が陣取っているのだから。


 雨音がスカートに視界を遮られたままS&W(リボルバー) M500(キャノン)を天井に向けるのと、吸血鬼が車内の騒ぎを怪訝な顔で覗き込もうとしたのが同時だった。


「………? うわッッ!!?」

「キャー!!!?」

「オゥチ!!?」

「わぁああああああああああ!!!?」


 黒アリスは何も見えないまま、天井に向けてキャノン砲を発砲。

 車上の吸血鬼どころか、狭い空間の中で巻き起こる爆音とマズルファイアが、車内をも大混乱に叩き落とす。


「ちょ!? とっ! とっ!!?」

「ッ………上ネー!!!!」


 ここでカティも車上の敵に気が付き、天井に向かって大刀の連続突き。

 足元に次々と大穴が空き、某黒ヒゲゲームの如く刃が突き刺される。

 軽装甲機動車(LAV)の天井を、吸血鬼は飛び跳ねるように逃げ回っていた。


「アマネを傷付けたファッキン吸血鬼(ヴァンパイア)!! ここで遭ったが100年目デース!!!」


 カティは、雨音がこの吸血鬼により痛手を負わされたのを忘れていない。というか、つい先日の事だが。


「んウッッ!!!」


 細いクセに――――――そして出る所は出ている――――――怪力の巫女侍は、天井に突き刺した三尺三寸の大刀『深海』を満身の力を込めて握り締め、


「ヤロウなんかにアマネは渡さんデース!!!!!!!」


 気合い一発、装甲を成された軽装甲機動車(LAV)を、吸血鬼を追って内側から輪切りに両断して見せた。


「………わーお、情熱的」

「こ、コイツは何を言ってるんだ………」


 棒読みの文学少女の(フトモモ)の間から、暖簾(のれん)を上げるようにスカートを除け頭を出す呆れ顔の雨音。


「というワケでキリ落としてやるデスよ!!!」


 そして鼻息の荒い巫女侍は軽装甲機動車(LAV)を割り、アスファルトの上に地響きを立て降り立った。


「魔法少女のレディお二人は、どちらもとても熱い(・・)血潮を持っている。共に歩める者に出来ないのが残念だ」


 直前で巫女侍の刃から逃れていた吸血鬼は、街路樹の濃い影の下で薄く笑う。それほど残念そうでも無く、(むし)ろ面白がった口調だった。

 しかし次の瞬間には、その口調も薄い笑みも真っ暗な中に消える。


「出来れば敵と味方の垣根を越えてキミ達と語り合ってみたかったが、今日は別のレディに逢わなくてはならなくてね。悪いのだが」

「んなもんカティの知った事ではないデスねー! ここでお前をブッ殺せば全部解決デース!! ねーアマネ!?」

「…………なんかもう何もかもがどうでも良くなってきそうだけど……まいいわ。吸血鬼だったり能力者だったり過日の礼だったり、見逃す理由もないしね」


 カティが『深海』を肩に担ぎ、色々と諦め気味でテンション維持が大変な雨音が、軽装甲機動車(LAV)から降りて来る。なお、雨音の本名を口に出した(トガ)でカティはお仕置き決定である。

 残された三つ編み文学少女はスカートを直しながら、これから何が起こるのかと天井の銃座席から頭を出し、


「……あれ? にーちゃん??」


 (そろ)って目を丸くする面々を前に、見知った顔に眠い半眼で首を傾げていた。


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