0039:決してただの八つ当たりではない
雰囲気もそうだったが、『最初のひとり』と思しき吸血鬼は、見た目からして違っていた。
一見して育ちの良さそうな外国人の青年で、髪は風――――――熱風とか爆風――――――になびくサラサラの金髪。
線の細いな身体で脚が長く、容姿も相まって中性的な印象。さぞ女性にはモテるだろう。
物腰は優雅で俗っぽさに薄く、戦場にあっても穏やかな笑みを忘れていなかった。
それが、特に腹が立つ。
◇
復讐するは我に在り、この恨み晴らさでおくべきか。
世の多くの女性の為、犠牲になった多くの人々の為、そして何より中間考査試験の恨み。
もはや件のスカした吸血鬼の顔面に散弾をメリ込ませずにはいられない。
アレだけ気にしておいていざ当日まで忘れていた雨音も雨音だったが、初めから吸血鬼なんてハタ迷惑な人種が湧いて出たりしなければ、中間壊滅――――――予想――――――の憂き目に遭わずに済んだのだ。
「さぁ今日も殺さない程度に狩り採ろうか」
「はいデース………こよい(今宵)の『深海』は血に飢えてるデスよー……」
前日夜からのテンションを引き摺り、雨音とカティは暗黒面に堕ちっぱなしだ。
特に雨音の被害は甚大。今日も冷却ジェルのシートを額に装備し、頭の上に氷嚢を吊り下げさせている。
そして屈辱的な中間敗退。
旋崎雨音一生の不覚。
『殺さない程度に』と言っておきながら、その目は完全に殺す気だった。
カティの方も何故か、頭にハチマキでマグライト×2を括り付けている。
光の発振方向が上を向いているので、全く意味は無かったが。
この、箍が外れてしまっている魔法少女二人のターゲットは、吸血鬼発生の元凶である、『最初のひとり』の可能性が高い吸血鬼。
顔を思い出すと、雨音は吐き気がぶり返してくる。
最初に感じていた恐怖は、もはや無い。
私怨というものは、かくも強い物なのか。
またカティも、親友に手を出そうとするわ、ちょこまか動くわチマチマ攻撃して来るわと性質の悪い吸血鬼どもに、堪忍袋の緒がブチ切れていた。
「というワケでくたばるDEATH!!!!」
「おぎゃぁあぁああああああああ!!!!」
その怒りが、不運にも黒アリスと巫女侍によって補足された雑魚吸血鬼に向けられる。
吸血鬼としてそれなりに咎は背負っていただろうが、よりにもよってこのふたりに見つかるとは、因果応報の過払い状態だった。
「ほらほらさっさと逃げるデスよ!! でないとキリ落とすデース!! アハハハハハハハ!!!!」
「榴弾が1発、徹鋼弾が2発、粘着榴弾が3発、APKWSヘルファイアJr.は4連装………マガジンには100発だコラー!!!」
「ぎゃぁああああああああああああああああああああ!!!!」
ボロボロにされながら、吸血鬼が軽装甲機動車に追い回される。
魔法少女というか地獄の鬼が、ボンネットや銃座の上から、三尺三寸の大刀や重機関銃で、哄笑を上げながら吸血鬼の尻を蹴っ飛ばしていた。
「ひぃッ! ひぃッ!! こ、この犯罪者ぁああああ!!」
「吸血鬼が何言ってるデース! おまえの罪を数えるデスよ!! 具体的には何人吸ったネー!!?」
「走れ走れFNG!!! 逃げる奴は吸血鬼よ! 逃げない奴は良く訓練された吸血鬼よ!!!!」
街中に派手な銃声が響く。
軽装甲車のタイヤが白煙を上げ、分かり易くマントなど着けた吸血鬼は必死の形相で逃げ、
「ッ……クソぁ!!!」
不意に大通りから、大学や高校の集中している区画へ入る道へと逸れた。
吸血鬼の急な進行方向に対応出来ず、軽装甲機動車が派手な音を立てて減速する。
「逃がすデスかこのモスキート!!」
「撃て撃て撃ち殺せぇエエええええええ!!!」
背後からは二人の鬼の叫び声。そして、山ほど飛んでくる12.7ミリ弾。
ほんの10分前まで女子高生を追い回して遊んでいた吸血鬼は、今は全く逆の立場に追い立てられ、必死の形相でその声から逃げ出そうとしていた。
そして、
「………………………………………こんなもんデス?」
「そうね…………」
暗黒面に堕ちていた魔法少女二人は、吸血鬼の後姿が視界の外に消えると、サラッといつもの姿を取り戻していた。
極めてスカートの短いエプロンドレスの黒アリスは、額のジェルシートと銃架に装備された氷嚢で、クール具合が普段の1.5倍増し。
ボンネットの上で長い脚を組んだ巫女侍も、黙っていれば見た目相応なキレのある微笑を見せている。頭に括り付けたマグライトが間抜けな事になっていたが。
痛手を喰らってキレてはいるが、それで考え無しに、雑魚を追いかけ回すような無駄な事はしない。
やるとなったら徹底的に。確実に一撃で。恐いので安全な遠距離から。
「さーて本番はこれからよー。ジャック、お雪さん、どんな感じ?」
「うん、大丈夫。見失ってないよアマネちゃん」
「他も追いかけてございますわ」
車内には、ジャックはもちろんカティのマスコット・アシスタントであるお雪さんもいる。
特にお雪さんは、最近は無人観測機の操作装置を扱うのが様になっていた。
相変わらずの乱れた着物姿なので、今一チグハグな感じはしたが。
吸血鬼に、先日のお返しはするつもりだった。ただし、先日のように相手の舞台で踊ったりはしない。
雨音の場合、相手の射程外からその舞台ごと吹き飛ばすのが流儀だ。
たった今追い回して、逃がしたように見せかけた吸血鬼は、その舞台の水先案内人である。
案内人はあらかじめ上空からの映像で、それらしいのを選定済み。
また、今の騒ぎを見物していた吸血鬼からも、何人かを選び予備として追尾を開始していた。
探すべきは吸血鬼の集団。あるいは、他の吸血鬼同士で何らかの繋がりを持つと思われる個体。
その繋がりを辿れば、いずれはあの『レスタト』と呼ばれる個体に辿り着く。
今の雨音の狙いは、その一点であった。
「分かり易く拠点なんてこさえてた日には……AC-130で日の出と同時に爆撃してあげるわ」
「核攻撃じゃないだけアマネ優しいデース」
怪しい笑みを零しながら、銃座の雨音は重機関銃に弾を補充。
うっかり世界大戦でも引き起こしそうな事を言う巫女侍も、ボンネットから降りて軽装甲機動車の中へ戻った。
同時に、ジャックがアクセルを踏む。
もはや吸血鬼からは大きく距離を取られたが、軍事兵器系魔法少女の高空の目からは逃げられない。




