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いまさら魔法少女と言われても  作者: 赤川
Wave-03 吸血鬼は文学だけにしておくべきかと
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0038:製品の不具合ではなくカスタマは仕様という

 こうして、最悪のコンディションで中間考査を迎える運びとなった。

 試験勉強は満足いくほど行えず、日々学習して来た効果にも不安を覚え、そして雨音の体調はどん底の極み。

 頭は働かず、ほとんど反射運動だけで解答用紙にペンを走らせる。

 ある意味で、理解と習熟という学習に求められる効果の程が最大限に試される、極限の試験となった。


「終わったぁ…………」

「終わったデース………」


 ゴトッと、割と派手な音を立てて、雨音は机に墜落する。

 その上から半分溶けたカティまで乗っかってきたが、もはや雨音はされるがままとなっていた。


「せんちゃん………生理?」

「おお、雨音。スゴイ顔している」

「グッ……………!!」

「ムギュう………!?」


 据わった目にクマを作った雨音を見て、マイノリティー系文学少女の北原桜花(きたはらおうか)はしたない(・・・・・)冗談を飛ばし、ダウナー系長身少女の大上菊乃(おおがみきくの)が追い打ちをかける。

 結果、雨音の上にカティ、その上に大上菊野という名状し難い(ネームレス)女子高生(JK)積層構造物体レイヤードオブジェクトが完成。


「そう思うなら上に乗るな……。あとこの娘も持って行って………ぐぇ……」

「え……いいの?」

「アマネさんッッ!!?」


 しかし、雨音は相手の攻撃力を利用して、そのまま返す事に成功。

 古米産の金髪娘がダウナー少女によって子牛のように連れて行かれるが、雨音は決して振り返らない。

 誇りを持って育て上げたからこそ、出荷の時には胸を張って送り出す。駆け出しの頃に涙は置いて来たのだ(謎)。

 畜産業へもリスペクトを忘れない雨音だった。


 喰われまいと必死の抵抗を見せるカティを他所(ヨソ)に、雨音は鞄から新たな冷却シートを取り出していた。

 (おでこ)から引っ剥がした使用済みのシートには、湯気でも立てんばかりに熱が(こも)っている。

 人間が発していい熱量ではなかった。


「……そんな有様なら病院行けばいいのにー。病欠扱いで追試受けられるんじゃないの?」

「いいのよ……何ともないから」

「えー………」


 北原桜花が「何言ってんだコイツ」的な胡乱(うろん)な目を雨音に向けるが、実際、病院に行ったところで異常が見つかるかは(はなは)だ疑問である。


                        ◇


 昨夜の事。

 銃の通用しない明らかに格の違う吸血鬼に追い詰められた雨音は、その場で吸血鬼による催眠暗示にかけられそうになった。

 いや、かけられてしまった(・・・・・・・・・)のだろう。

 雨音は抵抗も出来ず、その吸血鬼の(とりこ)にされるところだった。

 ところが、その催眠暗示の導入部分で、誰もが予期しなかった事態が発生。


「い……『違反行為』? な、にそれ………?」

「………やっぱアマネのスカート短すぎデス?」


 それはあたしのせいじゃねぇ、という突っ込みが頭に浮かびはしたが、口に出すどころではなかった。なんか違うモノが出そうで。

 カティのボケた発言はともかく、雨音は話の続きをジャックとお雪さん、二人のマスコット・アシスタントに、バックミラー越しの目線で(うなが)す。


 カティの馬鹿力で崩落した百貨店から逃げだし、追手を警戒して隣の市まで逃げて来たのが30分前。

 視界のグルグルと頭の中の空爆と全身過敏の激痛は、変身を解いたら多少マシになっていた。マシなだけで、油断したら吐きそうになるが。 

 軽装甲機動車(LAV)の後部座席で、こちらは巫女侍なままのカティに膝枕されて、どうにか小康状態の雨音である。

 流れ着いた住宅地の一角に路上駐車している車の列を見つけ、そこに紛れ込むようにして停車。

 ライトを消しても真っ暗にはならず、街灯や一般家屋から漏れ出す光で、車内や車外の視界もある程度確保出来ていた。

 辺りに動く物も無く、どうにか一息付けたと言う所でようやく、いったい雨音に何が起こったのか、という話になる。


 カティは、「あのイケすかない吸血鬼(ヴァンパイア)がアマネに何かしやがったデスよ! チョット戻って日焼けサロンにブチ込んで来るデス」と主張。

 雨音も大筋で(・・・)異論は無く、吸血鬼による精神攻撃か何かだと思っていたのだが。

 しかし、マスコット・アシスタントふたりの意見は異なるようだ。


「アマネちゃん、まだ体調おかしい?」

「……おかしいわよ……吐けと言われれば吐けるわよ……う、ヤベ……」

「アマネ、吐いちゃった方が楽デスよ?」


 カティはそう言うが、雨音だって乙女なのだ人前で吐き出せるか。


「大丈夫よ……さっきみたいに死にそうなほどじゃないから………。だからもうちょっとこのまま………」

「いくらでも良いデスよー」


 雨音には災難な話だが、膝枕が出来るのが、カティにはちょっと嬉しいらしい。

 とは言えそれも、これが雨音の大事となれば、喜んでもいられないが。


「…………これ以上は悪くならないんじゃないかな? 魔法少女コンポーネントを終了したら良くなって来たんでしょ?」

「そうですわね……。コンポーネントが他の能力者からの干渉を受けて、機能障害を起こしていたのでしょう。同様にコンポーネントを持つユーザーへの干渉は、違反行為となりますから」


 ジャックとお雪さん、二人のマスコット・アシスタントは、これ以上の状況の悪化は無いだろうと言う。

 それは有難い。有難いのだが、何やら二人のマスコット・アシスタントの科白(セリフ)には、それ以上に重要な意味があるように思える。


「どゆことデス………?」

「………『機能障害』? 『違反行為』? 何それ?」


 当然、カティは眉を(ひそ)め、雨音も荒んだ目線をバックミラー越しのジャックへ向けていた。


 つまりこうだ。

 『ニルヴァーナ・イントランス』の与える能力は、直接ヒトの心を操ったりは出来ない。だが、一般的――――――その気になれば知識は手に入るという意味で――――――な催眠術や暗示をかけるといった手段を、コンポーネントで代用、あるいは強化増幅して他人を操る事は可能となる。そこまでは以前にも聞いた。


 しかし、そういった間接的手段を用いたとしても、能力者が他の能力者を意のままに操る行為は『ニルヴァーナ・イントレランス』、というか、多くの人間に能力を与える計画である『セルウス・プログラム』の目的に外れる為、禁止事項、違反行為とされている、らしい。

 そこで重要となるのは。


「じゃなに……? やっぱり吸血鬼どもは『ニルヴァーナ』のせいだって?」

「確定デス?」

「多分………」

「『多分』ってなんじゃい」


 そこまでワケ知り顔で(しゃべ)っていたクセに、いきなり語尾が小さくなるジャックを雨音が(にら)みつけた。

 ジャックが悪いのでもないだろうが、また(・・)ニルヴァーナの能力者だと思うと腹も立つ。能力者だろうがそうでなかろうが、人間を好き勝手に操っているのは『ニルヴァーナ・イントレランス』の方だろう。


 初めから吸血鬼などという架空の存在が実在してしまうのが、そもそもおかしな話だったのだ。

 だが、それも、ニルヴァーナ絡みなら納得がいく。いってしまう。


 本物、というのも一応可能性の内と考えてはいたが、この際魔法少女と出所が同じだと考えた方が無理がなかった。

 それに、今現在も雨音を苦しめ続ける(くだん)の格が違う吸血鬼。アレが同じ能力者だったと考えれば、魔法少女を知っているのも合点が行く。逆に、今まで雨音とカティを魔法少女だと言って来た吸血鬼もいなかったのだから。

 黒アリスと巫女侍を見て、魔法少女を連想出来るとも思えない事だし。


「最初のひとり……で、能力者……ね。ゴールが見えてきた感じがするけどやっぱりハラ立つ」

「アマネちゃん、痛い思いした時何か見たり聞いたりしなかった?」

「………ん? あ、そういや『規定違反』とか何とか誰かに言われた気も……」

「じゃやっぱりそうだ」


 ジャックのダメ押しもあり、この騒動の根幹にいると思しき者がハッキリした。

 相手は雨音、カティと同様の能力者。『最初のひとり』である可能性が高い吸血鬼。

 未だ能力の仕様は不明だが、少なくとも、この事変解決の為の最重要目標であるのは間違いない。


「お返しもして差し上げないとね………………………フフ……ゥフフフフフフ………」

「もちデース。カティを差し置いてアマネをゲットしようとか、これはもうキリ落とされても(・・・・・・・・)仕方ないデース」


 まだ青い顔をしながら、雨音がジェノサイドモードの暗い笑みを垂れ流す。

 しかしカティも今回は(おび)えず、雨音の頭やら腰やらを撫でながら、笑顔で復讐の炎を燃え上がらせていた。

 その代わり、後部座席の様子にジャックが怯え、逆にお雪さんは微笑ましくカティを見守る。


 なにやらおどろおどろしい(・・・・・・・・)空気を溢れさせた軽装甲機動車(LAV)は、やがて地元室盛市へ向けて発進。

 家に着くと流石に雨音も限界を迎え、シャワーすら浴びずにベッドに潜り込んでしまう。

 そして、体調が戻り切らずに迎えた翌日。

 中間考査の試験(テスト)があるのを朝になって思い出し、雨音はここ最近で最大級の絶望を味わっていた。 


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