0036:吸血鬼FPSラッシュステージ
吸血鬼とは、つまり怪物だった。
我が身を霧に変えて忍び寄り、オオカミやコウモリに変身でき、催眠暗示で心を虜にし、圧倒的な怪力を振るい、血を吸った相手を同じ怪物にしてしまう。
同時に、優雅で知的な貌も持ち合わせている。
古典吸血鬼の物語では、吸血鬼はケダモノのように美女を襲ったりはしない。
紳士としてヒトの間に紛れ、友人として振舞い、愛をもって女性と接する。時として、寧ろ人間の方が、吸血鬼と女性の愛に割り込む障害となる場合すらある。
異常で強力で恐ろしい力を持つ、ヒトに近しい怪物。それこそが吸血鬼だ。
他方、古典における吸血鬼というのは、寿命、日光への忌避、信仰と、あらゆる意味で孤独であった。
それに古典の吸血鬼は、意外なほど同族を増やそうとしていない。
吸血鬼が吸血鬼を造る、と言うのは寧ろ近年になってからの作風だった。
現代吸血鬼の物語などでは、吸血鬼が単独でいる方が珍しくなっている。
これら創作物を叩き台に、吸血鬼が実在している状況に則して予想した場合。
想定される最悪のケースは、高度に統率され、知性と理性を併せ持ち、特殊能力を駆使して来る吸血鬼集団の出現、といったところであろうか。
吸血鬼の自衛隊は確かに脅威ではあったが、彼等は人間に吸血鬼としての特性を付与した程度のものであったし、何より雨音の先制不意打ち攻撃が100%有効に機能した。運が良かったとも言うが。
しかし、今の状況はまるで違う。
◇
ヘリ型無人攻撃機に吸血鬼が飛び付き、諸共に地面に墜落して行った。
屋上に吹き荒れる熱風が髪を舞い上げ、短いスカートをはためかせていたが、雨音はそんな事に構わず発砲。
軽機関銃、M249Paraの5.56ミリ弾が、吸血鬼のひとりに殺到したかに見えた。
だが、曳光弾の光は吸血鬼を通り抜けてしまう。
「グッ………!!?」
通り抜けたのではなく、そう見間違えるほど高速で逃げられたと気付いたのは、既に吸血鬼に接近された後の事だった。
咄嗟に銃口を向けようとした軽機関銃が吸血鬼に取られる。
そのまま吸血鬼は、雨音の首に手を伸ばそうとし、
「カティのデース!!!」
巫女侍の一本下駄に、真上から踏み潰されていた。
「黒アリスさんに触るのは許さんネー!!」
「ナイスよカティ!!」
雨音は両手の軽機関銃を吸血鬼共に向かって撃ちまくる。
マガジンからの給弾、秒間16発の炸薬音が轟音と連なり、排莢された薬莢が足元に撒き散らされた。
しかし、
(中たらない……!!?)
弾道は正確なのだが、雨音の照準速度が吸血鬼の動きについて行けない。
吸血鬼は凄まじい運動能力で、雨音の射線を右へ左へと逃げ回る。
それでも、秒間16発×2の軽機関銃の連射性能。面の攻撃は何体もの吸血鬼を吹き飛ばしていたが、それ以上の数の吸血鬼が雨音へと向かって来ていた。
本来ならばそこをカバーしてくれるのが、カティの役どころだったが。
「ほあッッ!? たっ! あたたたた!!!」
「んなー!! めんどいデスうざったいデス!!!」
カティの方はカティの方で、声のうるさい拳法吸血鬼に喧嘩を売られていた。
巫女侍のフルスイングは、炎を吹き散らして一直線に斬り裂くほどの大威力。なのだが、いかんせん大振り過ぎて、カンフー吸血鬼には紙一重で避けられている。
「アウッッチッ!!? こ、このアスホー!!!」
そして、隙を生んだ勝左衛門の横っ面が吸血鬼に蹴り飛ばされていた。
吸血鬼の脚力は人間ひとりくらい跳ね上げる威力があるが、身体能力に特化した魔法少女、秋山勝左衛門に致命傷を与えるほどではない。
ないのだが、顔を蹴られてカティはキレていた。
「ブッ殺すデース!!!」
「ぅあちゃー!!」
三尺三寸の大刀を小枝のように振り回す勝左衛門は、消火ボックスや電灯を斬り飛ばしながらカンフー吸血鬼へ突撃。その度にちくちくカウンターを喰らい、怒りを煽られていた。
「――――――――――――カティッ!? チィ!!?」
カティも手が離せないと見た雨音は、2丁持ちしていた片方の軽機関銃を捨て魔法の杖を引き抜く。4発撃ったばかりなので、シリンダー内に残弾は1発。
もう片方の軽機関銃をフルオートで斉射しながら、雨音は魔法の杖で新たな銃を叩き出す。
◇
百貨店の看板上で、その吸血鬼は魔法の放たれる瞬間を見ていた。
黒いメイドのような格好の少女が放つ弾丸は、直後に大きく形を変える。そこに現れたのは、少女のリボルバーを何倍にも巨大にしたかのような、6連装グレネードランチャーだった。
直後にブッ放される、バカでかい榴弾砲。
面どころか、爆発の範囲攻撃からは逃げられず、吸血鬼は四方八方に吹き飛ばされる。
「興味深い――――――――――――――それがキミの魔法か」
「は………ぁ!!?」
そして次の瞬間には、看板上にいた吸血鬼は、少女の傍らに現れていた。




