0008:やや過剰摂取気味で
旋崎雨音は、ちょっと冷めた所のある少女だった、筈だ。
突発的な超異常事態に戸惑いつつも表向き冷静に対応し、状況に流されずに我を張り通す、自分をハッキリ持っている理性的な少女だった。
ところが今は、どうも頭のリミッタがとんでしまったらしい。
「アハハハハハハHAHAHAHAHAHAHAHAHA!! ヒャッハー!!」
白一色で、距離的な広がりがあるのかも怪しかった空間に、簡略化された人間のシルエットが、点々と存在していた。
胴体にあたる真ん中から外側へ、何重にも白い円が描かれている。つまり射撃用の的だ。
その射撃場の標的が、横一直線に薙ぎ払われ、次の瞬間には穴だらけにされる。
哄笑を上げ、少女がフルオートで弾丸をバラ撒く。
黒いヒト型は頭――――――の部分――――――を吹き飛ばされ、直後にど真ん中に弾を喰らい、バラバラに弾け飛んだ。
「ウフハッッ!! 次のマト!!」
雨音は大型の火器を持ち上げると、新たに湧いて出た射撃の的へ斉射を開始。
そのいずれもが、無数に弾を喰らって穴空きチーズにされ、粉々に砕け散っていった。
コレはヤバい楽しすぎる。
何か、越えてはいけない一線を見る前に飛ぶ大ジャンプで飛び越えてしまったのでは、と頭の隅では思っている雨音だが、こんな気持ちイイ事が止められるワケなかった。
そして、ガイダンスプログラムである少年は、少女の豹変具合に戦慄していた。
これ採用基準に適性だけじゃなくて人格も考慮しなくてはならないんじゃないか、と本気で上申したくなる程に。
しかしこの際、能力者となる人物の性格は重要ではない。
重要なのは、可能性のある因子を雨音達人間の領域に、可能な限り存在させておく事だ。
せめてもう少し時間があれば、こんな無謀な計画を進める必要はないのに。
適性のある人間を導くのが存在理由のガイダンスプログラムでさえ、今の担当の少女を見るに、そう思わずにはいられなかった。
◇
「ハー……アハー……、これヤバいよ……ヤバ過ぎる……楽しい………」
不謹慎だとは思うし、これで実際にヒトを撃つつもりも無いが、この破壊感はクセになりそう。というかなった。
本当に、何故こんな趣味を持ってしまったのか。
きっかけなど覚えていない。
ただ気が付けば、2万5千円もする電動ガンを買ってたり、本棚のゲームソフトはZ指定のばかりだったり、見る映画は銃撃戦シーン重視だったりする。
銃を横に傾けるな、トリガーに指をかけっ放しにするな、カッコつけて構えるな、走りながら撃つな、引き付けはしっかり頬に付けろと言いたい。
だが、現実にはそんな経験をする機会は無いし、無いに越した事はない。
戦争も犯罪も、人間が人間である以上は絶対に無くならないにしても、実戦で銃を使う機会など、無い方が良いのだ。
ヒトはヒトを殺さない。武器が人を殺させるのだから。
そんな理屈も、炸薬の反動を身に受けている間は、頭の中からはスッ飛んでしまっていた。
「これはダメだ……銃が世界から無くならないワケだ」
「お姉ちゃんを見てると心の底からそう思うよ………」
上気した顔で溜息をつく雨音は、全身を汗で濡らし、歳不相応の色気滲ませている。
散々撃ちまくったクセに、未だにPDWの洗練された曲線を、目と指で愛でている。
最新型の銃の曲線をSF的だと言って嫌うマニアもいるらしいが、雨音はその辺の守備範囲は広かった。
趣味そのものの守備範囲が狭すぎたが。
雨音のトリガーハッピーぶりにガイダンスプログラムは大分引いていたが、これでようやく本当の本題に入れる。
一抹どころか十抹くらいの不安を覚えながら、生まれたての少年の人格は、そう思い込むしかなかった。
そして、少年の受難はこれから始まる。




