表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
いまさら魔法少女と言われても  作者: 赤川
Wave-03 吸血鬼は文学だけにしておくべきかと
75/592

0028:軍用弾丸トラベラー娘

 街中に出ると、ほとんど普段と変わらない光景が広がっていた。

 スーツ姿の会社員が通勤の為に駅へ向かい、配送業者が荷車を押し、健康食品販売のおばちゃんが原付を走らせ、学生服姿の男女が談笑しながら歩いていく。どうやら学校も平常運転らしい。

 運転と言えば、電車や飛行機の方は、運航を大幅に制限しているそうだ。特に国際線は、航空会社が自主的に出入国の便を運休にしている。

 一方で、日本に住む外国人の中には、念の為にと出国を希望する人が少なくないらしい。国によって対応は異なるが、東西米国などの大きな国は、チャーター便を用意して対応しているのだとか。

 しかし、その他には今のところ(・・・・・)大きな混乱は起こっていない。これは、各地方自治体が中央に代わって一時的に機能を代行すると、早々に地方局の電波を使って県民、市民にアナウンスした所が大きいだろう。今すぐに生活が激変するという事はない、というのは、人々の大きな救いだった。

 とはいえ、先行きの見えない不安を抱えるのは、日本国民全員に共通するところだ。

 それでも皆、とりあえず(・・・・・)は自分の日常を、惰性的にでも生きて行くしかったのだ。


                        ◇


「目立つなー、このクルマ…………。やっぱり国連軍カラーの方が良かったかな」


 旋崎雨音(せんざきあまね)はこう言うが、色の問題ではなく、早朝からそんなクルマで走っている事こそが大問題だったりする。

 起こっている事態が事態なだけに、オリーブグリーンで角ばっている威圧的なクルマは、道行く人々の目を否応なく引いてしまっている。誰もが、問題の自衛隊の車両を連想しているだろう。

 例によって武装は外し、運転しているのは迷彩服の自衛官ではないのだが、そんな事は言い訳にならない。

 おまけに、厳つい40代――――――見た目――――――のタフガイと、エプロンドレスの金髪美少女という搭乗者の組み合わせは、その怪しさにより一層の磨きをかけてしまっていた。



 室盛にあるヒト気の無い自然公園から、小型攻撃ヘリの低空飛行で東京に在る田舎(・・)まで。

 そこでヘリを消し、いつもの軽装甲機動車(LAV)を出して、陸路で都心へ入るルートを取った。

 そして現在、雨音は古米総領事館のある千代田区を走っている。


「あー……ジャック、そこ右」

「うん、ナビがあるから大丈夫だよ」


 ナビシートで縮こまりながら、携帯電話(スマートフォン)の地図アプリを見て雨音が指示する。

 だが、現代の軍用車両の半分は優しさ――――――――――ではなく電子機器で出来ています。当然、カーナビも付いていた。


「近づき過ぎないでね。あたし達って職質されただけでもアウトなんだから」


 なにせ身分証明(ID)無し、勿論運転免許も無し、ナンバープレートは雨音自身どこから持ってきたか分からない代物。

 警察に目を付けられようものなら、お互いに取って悲惨な事態となる事間違いなしである。

 雨音は可能な限りシートに沈み込み、なるべく外から自分の姿が見えないようにする。そのせいでスカートが(まく)れ上がって大変な事になっていたが、外の視線が気になってしかたのない雨音は、自分の格好に気が付いていなかった。

 しかし雨音の心配とは裏腹に、警官も警察車両の姿もまるで見かけないまま、軽装甲車両(LAV)は各国の領事館が集中するオフィス街へと入っていく。

 その区画に入ると、背の高いビルが立ち並ぶ(かたわ)らで、色とりどりの旗を掲げる一際立派な建物を、あちこちに見る事が出来た。

 正面通りに面した領事館、大使館の門前では、物々しくライフルを持った兵士が立哨(りっしょう)――――――立ち番――――――をしている。

 やはり世情を考えてか、明らかに警戒している様子が見て取れた。つまり雨音の乗るクルマなんて、警戒対象以外の何物でもない。


「ジャック、向こうの通りに入って。こっちじゃ目立ち過ぎ」

「わかった」


 ビクビクしながら、雨音はジャックに大通りを折れるように指示する。思いっきり警戒されているのが恐い。

 古米領事館までは、もうそれほど距離は無い筈だった。前に一度、カティに連れられて入った事があったのだ。

 一応、カティの携帯電話からも位置情報を発信させているが、


「……おや?」

「どうしたの?」


 携帯電話(スマートフォン)の画面見ると、何故かカティの位置情報が随分近い所に。



 その時、ドンッッ!! と。



「うぉわぁああああ!!?」


 雨音が座っている方の窓ガラスに、突然何かが激突してきた。

 文字通り飛び上がるほど驚いた雨音は、ひっくり返りながら慌てて銃をポケットから引き抜く。

 そこで雨音が目撃したものとは。


「アマネー、待ってたデース! ………どうしたデスか?」


 走行中のクルマに特攻してきたのは、ノーマル状態でも猪武者(うりぼう)の様な金髪娘のカティであった。


「アマネちゃん、カティおねえちゃんだよ」

「……みたいね」

「痛いッッ!!?」


 ヒモの様なローライズパンツを丸出しにした雨音は、分かり切った事実を平然と言うジャックの頭に、その姿勢からカカトを落としてやった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ