0027:吸血戦国自衛隊が現れた
翌日、自衛隊が全滅していた。
いや全滅ならば、まだどれほど良かった事か。
室盛市に先発して展開された陸上自衛隊は、その翌日に指揮命令系統を外れて首都東京へと向かう。
先発派遣隊の不審な動きに、同部隊の所属する練馬駐屯地から首都防衛部隊が急遽出動。
しかし、両部隊は接触するや否や同調する動きを見せ、大部隊となった自衛隊の一団は、一瞬にして国会議事堂と霞ヶ関を初めとする主要地点を制圧。
『我が日本の政治腐敗の根源たる、民意を無視した政治家を選び出す欺瞞に満ちたシステム! そしてそれを是正せず、寧ろ利用して国政を私する官僚! 我ら国防の士はまず、隣国からの脅威に対処する前に、国内に巣食うこれらの害悪を排除し、我らの下に真なる民主主義を取り戻さねばならない!!』
同様に制圧された某国営放送にて、クーデターの首謀者であるスキンヘッドに傷のある一佐は、このように演説していた。
日本全国の人々が目を見張る放送にて、怒りを滲ませ力強く叫ぶ一佐の口には、鋭く尖った牙が見え隠れしていた。
◇
前夜は珍しく、「なんかダディに呼ばれたんで今夜は行けんデース。ごめんネ、アマネ」という事で、カティと雨音は一緒にはいなかった。
必然的に、吸血鬼狩りもお休みにした。
突然何事かとカティは眉を顰めていたが、その理由を雨音は翌朝のニュースで察する事に。
一晩経っただけで、日本がえらい事になっていた。
(こ、これは……アレなの? アレが原因なの?? ちょっと自衛隊脆過ぎない!? どうなってんの???)
警察に通報した。テロリスト扱いも覚悟で大暴れした。自衛隊が来てくれたので、個々の吸血鬼くらい殲滅してくれるのでは、と期待もした。
その結果が、コレである。
「………カティ」
朝のニュースを見た雨音は朝食もそこそこに部屋に取って返すと、充電機から携帯電話を引っこ抜く。
液晶画面の表示には、「着信3件」の文字が。
「ッ……馬鹿かあたしは!?」
この大変な時に寝こけて、カティからの電話を取れずにいたとは。
後悔と自責で、手にしている物へ八つ当たりしたくなったが、これが無くてはカティに電話出来ない。
焦る気持ちを抑えもせず、着信番号から返信ボタンを連打すると、
『アマネー、おはようデース』
即座にカティに繋がり、そこから雨音の予想外に、緊張感の無い朝の挨拶が聞こえてきた。
カティは分裂したアメリカ、北米大陸西側の古米国から日本へ派遣された総領事のひとり娘だ。
首都東京でクーデターが起こったとあっては、領事館としても対応に慌ただしいだろう。
カティが呼ばれたのも、父親が娘の身の安全を守る為だと思ったが。
「……大丈夫なのカティ? なんか……そっち大変なんじゃない? 今お父さんの所じゃないの?」
『全然ダイジョブデース。ダディは忙しそうにしてるデスけど、カティの事はいつも通り放置プレイデース。なので、迎えに来てくれると嬉しいデスよ』
「え? ……いや、そこにいた方が安全なんじゃないの? お父さんだって心配したから領事館に来させたんじゃないの?」
『ここに居ても危なくなったら変わらんデスよ。どうせカティが見えなくても、ここに居るって思い込んで安心してるデース。だったら、国会議事堂に魔法少女モードで殴り込んで片づけた方が良いデスよ』
「……いや良くないわ」
恐らくクーデターを起こした自衛隊は、全員纏めて吸血鬼化したと見るべきだろう。
何百人居るか分からないが、流石に雨音でも正面切って撃ち合うワケにはいかない筈だ。
『とにかくここに居てカティに出来る事はなんも無いデース。それよりはアマネとガッコ行って吸血鬼狩りするデスよ。そっちの方がきっと良いデス』
「学校は……今日あるのかな……」
カティの親御さんの気持ちを考えると、娘さんはこのまま領事館内の方が良い気がする。以前に見たが、確か古米本国からの駐在武官も居た筈だ。
だが、放っておいてもカティはそこから抜け出してしまう気がする。領事館の高い塀も治外法権も、変身した秋山勝左衛門なら易々と飛び越える事が可能であろうし。
「……分かったわよ。ジャックと迎えに行くからスマホで位置送っといて。でも、あのクルマで領事館に近づくのは拙いと思うし、自分で抜け出してくるのよ」
『わーいアマネ大好きデース! 大丈夫デス。ムテキ(無敵)の巫女侍ならコソーリ出てくるなんて朝飯前デース。朝飯は後でコンビニで買うデス』
「上手い事言ったつもりか」
通話を終えた雨音は、姿見に映る自分を見て、やや考える。
雨音とて年頃の乙女。朝は洗顔やら肌ケアやら髪やら色々と面倒な手順を踏まねばならない。
「むぅ…………」
変身してしまえば、その辺の面倒を一気に省けてしまう。
「………ぬぅ」
でもそれをやると、なんか負けた気がする。
ただでさえ最近は引き金が軽いというのに、そんな事に魔法を使って大丈夫か?
毎朝、「めんどくせー。でもやんないと恥ずかしい事になるしー」と寝惚け眼で愚痴っていた雨音にとって、その考えは致命的なまでに甘い誘惑だった。
どうせ変身した時限りの話だ。日常生活には大して影響は無い。
変身する理由を作ると、今後自制が効かなくなるかも。
「……ぐぅああああああ……!!」
寝間着姿で寝ざめのままの恰好で、葛藤の雨音は頭を抱えて身悶える。やや残念な姿だが、本人としては深刻な問題だ。
だが、古米総領事館のある東京までは、それなりに距離がある。途中まではヘリを使うとしても、あまりカティを待たせてもおけなかった。
という、言い訳が立った所で、
「ジャック!」
「おはようアマネちゃん」
雨音は自分のマスコット・アシスタントである厳ついオヤジを召喚。今日はクローゼットから参上のジャックである。
雨音はジャックから魔法の杖という名のS&W M500を受け取ると、次の瞬間にはミニスカエプロンドレスの金髪魔法少女に変身していた。
小説中に登場する組織、団体、個人名は全てフィクションです
それと最近多くのアクセスがあり大変嬉しいです
楽しんで頂けるよう頑張って書きます




