0025:変な経験値も上がっていた
やり過ぎて、街が戒厳令下のような状態になってしまいました。
『一連の無差別発砲事件により、利根総理大臣は自衛隊へ出動を要請し、警察と連携して室盛市の治安維持に努めるよう防衛省へ通達を出したと、本日の記者会見で発表しました。室盛市では先月より各所で大規模な銃乱射事件が立て続けに発生しており、また同市内においては10名以上の男性が現在までに行方不明なのが確認され、女性ばかりが謎の病状で入院中であるなどの不可解な事態も同時に起こっており、警察ではこれらに関連性があるかを含め現在捜査中と――――――――――――』
今朝のニュースで流れた緊急速報である。
先発隊とされるオリーブグリーンの自衛隊車両は市内各所に分散し、迷彩服にヘルメットの自衛官が抱えている物を見て、一般市民は目を丸くしている。
その物々しさや威圧的な姿に批判が出ないのは、街のあちこちに見られる破壊の痕のせいだろう。
穴だらけになったクルマ。根元から吹き飛び、ひっくり返っているポスト。中身諸共バラバラに砕けた自動販売機。折れた電柱。弾痕は建物の壁面、路面を選ばず穿たれ、見られない場所が無いほど。
夜の街中で銃を撃ちまくっている女性らしき姿を多くの人間が目撃しており、中には戦車のような大砲を付けたクルマを見たという証言まである。
ネットのニュース板では、大規模なテログループと自衛隊の秘密部隊が交戦していたのだ、とか、某国が男を労働力として拉致し、女は足手纏いにさせて国を滅ぼそうとしているのだ、とか根拠ない書き込みが連なっていた。
だがまさか、吸血鬼と魔法少女が夜の街中で戦っているとは、流石に想像の外だろう。
◇
「………これで完全にテロリストかぁ………」
自室のベッドに寝転び、グッタリとした雨音がテレビを眺めて呟いていた。
昨夜は流石に疲れた。
一晩にひとり見つかるか、と思ったらとんでもない。ちょっと無人攻撃機を飛ばしただけで、そこら中で獲物を見つける事が出来た。
ある者は勝手気ままに街中を飛び回り、ある者は女性を追いかけ回して遊んでいた。ある者は会社員らしき男性から財布を奪った挙句に吸血まで行い、駆けつけた警官は返り討ちにあう始末。
気が付けば、夜は完全に吸血鬼の支配する世界となっていた。
しかし、恐ろしい力を持つ吸血鬼にとって、魔法少女(?)は更に恐ろしい存在となった。
銃神とさえ言える火力で圧倒する魔法少女と、鬼の突撃力を誇る侍系魔法少女。このコンビが強力過ぎて、個人の吸血鬼などまるで相手にならない。
いや、所詮は自分より弱い相手に凄む事しか出来ない、調子に乗った元人間、でしかないという事か。いざ自分達より強力な存在が現れた所で、吸血鬼の矜持を以って戦おうという気など、誰一人として持ち合わせやしないのだ。
やや拍子抜けした感のある雨音だったが、それでも疲弊したのは事実。数は多かったし、その割には事態が改善へ向かっていない。色々と気苦労もあった。例えば、目の前のニュース報道とか。
「ゲヘヘヘヘ、アネさん今日もガッポリ稼げましたゼ。この調子ならオレたちゃアッと言う間に大金持ちデース」
「………なにそれ?」
某葉巻型クッキーを指に挟んだカティが、片手で札を数える真似をしていた。真似なんで、単に札束を弄んでいるだけである。
だが、カティが手にしているのは『真似』や作り物ではない。本物の紙幣だ。
決して私利私欲でやっているワケではありません。と言っても、吸血鬼を張り倒した挙句に金品強奪しているのは事実であり、どう言い分けしても犯罪であった。
「チョーっとこのアウトロー感が病みつきになりそうデース。この世のむほう(無法)をクールに乗り切るデスよ」
「やめなさい………」
無邪気なカティの発言が、無邪気故に危険すぎる。公衆道徳的にギリギリアウトだ。
RPGでザコモンスターを倒して得た通貨、ではなく、吸血鬼から強奪したお金は、主にニンニクや銀の消臭スプレー等の購入に用いられる。
意外に――――――と言うと失礼かもしれないが――――――使えるのが、元が単なるアクセサリーの十字架であり、これを出入り口に張り付けておくと、吸血鬼は装甲車から外に出られずにいた。
公共物破損の補填にも宛てたかったが、どの吸血鬼もがポケットマネーに大金を持ち歩いているワケでもない。多くても諭吉さんが10人居れば良い方だ。自販機ひとつ買えやしないだろう。
それでも、集めれば札束に紙帯が付くほどにはなる。まさに、帯に短し襷に長しだった。
これも吸血鬼を排除し、今もなお心を囚われている女性達を救い、平穏な日常を取り戻す為。
そうは思っていても、リアル犯罪者となった自覚に苛まれる雨音の心は晴れない。
「クックック………魔法少女ってよりダークヒーローだわ……。万が一正体バレしたら、あたしは魔女裁判で火あぶりよ………」
腹の底から絞り出すような暗い呟きに、雨音ラブな金髪娘でさえ若干引き気味だった。虚ろな半笑いが、まるで生ける死者のようである。
「ま……まぁイザとなったら正しい事してるて、話せば分かってもらえるデース。ダメならカティと一緒に故郷にぼーめー(亡命)すればいいデス」
「………そんな国外逃亡ヤダ」
苦笑しながら言うカティの慰めの科白に、拗ねたように返す雨音の目尻に涙が光った。




