0007:しかし平和であるのに越した事はない
「ご馳走様でした」
美味しゅうございました、と空の皿と茶碗を前に、雨音は律義に手を合わせた。
「あはははは、ちょっと食べ過ぎた?」
「ロースにレバーに豚トロにボンジリを追加してハラミとライスをお代わりしてライスは2回お代わりしてタレご飯で〆るのは食べ過ぎとは言わないの?」
純真な子どもの声でそう問われると、雨音さんとしても真っ赤になって黙らざるを得ない。
だって美味しかったんだもん仕方ないじゃないか。
繰り返すが育ち盛りなのだ。
高校に入ってブラのサイズも変わりました。
「…………」
「どうしたの、お姉ちゃん?」
視線を胸に落とし、育ち盛りの少女はやや黙る。
「………そういやまだアイス食べてなかった」
焼き肉を本当に〆るのは、やはりコレだろう。
◇
デザートまでいただき、お腹が膨れた所で話を戻す。
韓国から連想するモノ。
韓流スター、最近は日本でも多く見るようになった複合化粧品、焼き肉、辛い漬物、ブランド品のニセモノ、政治的な問題については多くは語らない。
雨音は自分の趣味が、同世代の少女とはかなり変わっているのを自覚している。皆無とは言わないが、稀有な部類だろう。
良い趣味とは言えないのも分かっている。
雨音が韓国に持つ興味の対象は、日本で基本的に個人所有が禁止されている。
アメリカではソレの所有や売買で議論が起こっても、協会の持つ権力が規制を阻んでいる。
そして韓国では、発砲に関わるパーツを警察に預ける必要はあるが、所有自体は認められている。
その為か、韓国内では街中に、特別な商業施設を見かける事が出来た。
「よっしゃ……それじゃひとつ試してみますか」
お腹が満たされ、旋崎雨音も多少幸せな気分に。
今の状況に慣れてきたという事もあって、少しばかり気も大きくなっている。
イントレランスとガイダンスプログラムの思惑通りではあった。過程は想像の外だったが。
「それじゃ店員さん、追加お願いしまーす」
「まだ食べるの!!?」
もはや恐れすら含んでいる子供の声は無視した。
雨音は胸が高鳴り、緊張に手が汗ばんでいる。
イケない事への禁忌。フィクションだけで満足するしかない別世界の事象が、この場なら虚構だとしても、触れる事が出来る。
千載一遇のチャンス、というのは言い過ぎだろうが。何せこの状況そのものが胡散臭過ぎる。
しかし、そこで理性的になるほど、雨音は大人にはなれていなかった。頑固者ではあったが。
『ご注文をどうぞ』
「えーと……まずベレッタM8000、SCHR-L……あ、やっぱりSCHR-Hの方で。それにP90とMP7、PDR、G3SG/1、M240と249……どっちがいいかな」
「えーと何? て言うか何?」
「あ……よ、欲張り過ぎ?」
何故そこで可愛らしくテレてしまうのか。焼き肉みたいに山盛り注文しても、焼き肉とは違うのだ。焼きを入れる意味が違う。
これが、雨音の友達には言い辛い趣味。
ちょっとクールで地味目な初心者JKの正体は、黒くて硬くて大きくて先端から物凄い勢いで大量に出す男の世界の狂気of凶器、大好き少女でした。




