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いまさら魔法少女と言われても  作者: 赤川
Wave-03 吸血鬼は文学だけにしておくべきかと
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0019:(化けの皮を)脱いでもスゴイんです

 雨音は兵士でなければ戦士でもない。幸運な事に、背中に気を付けなくても生きて来られた。

 しかし今日まで、と言うか現在進行形で女子高生でしかない雨音は、背後を取られると言うのがどれほど致命的かを思い知っていた。

 これは死ねる。

 何の間違いか、神だか悪魔だかよく分からないモノに魔法少女モドキに仕立てられ、実戦を経験する事3回。たった3回。

 それで戦闘を知った気でいたが、今までは幸運だっただけだ。雨音の火力で圧倒したに過ぎない。

 たった一度、一瞬の油断があれば、ヒトは死ぬ。映画と現実は違うが、そこの所は映画の教訓と同じだ。

 雨音の背負う隙が、まさにそれだった。

 やはり「大牧ちゃん」は吸血鬼の犠牲者であり、彼女もまた吸血鬼となっていた。

 真後ろでは迎撃も間に合わず、無防備に背中を晒していた雨音は成す術もなく咬み付かれ、哀れ犠牲者のひとりとなってしまった。


 と、実際にそうならなかったのもまた、単なる幸運に過ぎなかったが。


「び……ビックリした……一瞬死んだかと思った」

「オーゥ……ホラーチックで、カティもちょっちビビったデース……」

 一瞬本気で襲われると思ったが、ベッドの上で身を起こした「大牧ちゃん」は突如豹変、などと言う事もなく、そのまま虚空に視線を迷わせていた。相変わらず、心ここに在らずといった様子。

 サイドアームのベレッタM9をベッドの少女に向ける雨音は、カティと二人揃って部屋の隅にまで逃げていた。恐がり過ぎだ、と言うのは酷な話である。だって夜の病院に不気味な少女なんてホラー以外の何物でもない。

「お、お昼寝し過ぎて夜型になったデス……?」

「あんたと一緒にするな。あ、後おっぱい仕舞って、下も穿きなさい」

 流石に、トップレスで(ふんどし)なカティも毒気を抜かれており、雨音の言う事に素直に従う。

 雨音は銃を向けたままで、「大牧ちゃん」の方へと改めて近づき、

「お……大牧さん?」

 恐る恐る視線を遮るように立つと、手を振って相手の反応を診る。

 やはり、反応は皆無のようだった。

 勝手に動く等身大フィギュアを相手にした時にも思った事だが、人間を人間として認識する要素は、無意識的な部分で相当に多いと思える。

 今回は間違い無く純度100%生身の人間であるにも(かか)わらず、雨音の脳は人間によく似た違う生物と認識しているようだった。結果、堪らない不気味さを与えてくる。

 カティが一緒で良かったと、雨音は心底思った。いきなり脱ぎ出した時には、どうしようかとも思ったが。

「……おーまきちゃん、トランス状態デースね。吸血鬼(ヴァンパイア)の仕業デース……」

「まぁほぼほぼ(・・・・)ね……。咬み痕が確認できれば100%(ひゃくパー)間違いないんだけど……」

 その為には、脱がして全身を視なければならない。最初にお約束の首筋を見たのだが、生憎とそれらしい傷は見つからなかった。

「変な所咬まれてなきゃいいんだけど……色んな意味で」

 雨音とて好きでヒトのパンツの中を見ているワケではないのだ。

 再度ベッドの上の彼女の身体を検めたいところだが、問題は相手の動きが読めない事だろう。平べったく言うと、不気味なので近づきたくない。

 かと言って、このまま帰ると言う選択肢もない。

「そんならカティが脱がしまース! アマネが脱がすのはカティだけで良いデース」

「カティが脱がしてくれるならいいけど、あんたを脱がさなきゃならない意味が分からん」

「ならまずアマネを脱がして、それからアマネがカティを脱がすデス」

「大牧ちゃんの方が完全にほったらかしじゃん」

「アマネとカティの間に他のオンナなんかいらんのデース!!」

「アレかしらね………『旋回ジョーズが上がったよー、の刑』か、『グリーンマイルの刑』か……その合わせ技?」

「ヒッ!? ヒィン!!?」

 幽霊も吸血鬼も恐くはないが、親友のお仕置きが一番怖いと古米産金髪娘は語る。

 大きな身体を縮こませて震える巫女侍をよそに、結局雨音は自分の手で事を進めねばならない事を悟る。

 こうなったら少々かわいそうだが、万が一襲いかかってきたら発砲して大人しくさせる方向で。

 そう心に決めた雨音は、M9――――――もちろんサイレンサー付き――――――の遊底(スライド)を少し引いて、弾が入っているのを確認してからベッドへと向き直るが、

「………ぅわッ!?」

「………ナント!?」

 雨音とカティが脱がすまでもなく、いつの間にか「大牧ちゃん」は素っ裸になって、ベッドの上に突っ立っていた。

 一体何故。何もかもがいきなり過ぎる。

 しかもこの「大牧ちゃん」、寝巻の上から見た時は普通のスタイルだったが、実は脱ぐとスゴイタイプだった。流石に変身後の雨音とカティ程ではなかったが。

「な、なんの!? おっぱいならカティの方がゴゥフッッ!!?」

「いやもう話が進まないから」

 せっかく仕舞ったのにまた脱ぎ出そうとする巫女侍は、完全に油断していたところを脇腹をド突かれ撃沈。

 その横を、文字通り一糸まとわぬ意外性グラマー少女が、音もなく擦り抜けていく。

 ある意味、夢の中のような光景だった。

 窓の外から入ってくる薄明かりの中で泳ぐ、彫像のように生気を欠く色白の少女。

 不意打ちの少女の全裸が、見ている方が恥ずかしくて直視し辛い。

 どうして良いか分からず混乱する雨音だったが、彼女の左の二の腕にある二つの血の滲みが目に入った瞬間に我に返った。

「カティ、あそこ……!」

「ッ……ぐぅ! ば、バイタルパートに直撃デース……」

「そんな事よりほらあそこ、見て!」

 カティの機動力を奪っておいて酷い言い草であるが、雨音が慌てるのも無理からぬ話。

 何故ならば、症状といい咬み痕らしき傷といい、もはや間違いようがないからだ。

(吸血鬼は古典通りに女性を操り人形に出来る! なら……今の彼女はリアルタイムでコントロール下に!?)

 咬まれた女子生徒がいて、その娘がおかしくなっている。その実態を知る為の潜入だったが、思わぬ事態に遭遇してしまった。

 雨音の考えが正しければ、「大牧ちゃん」は吸血鬼の下に向かう筈。咬んだ女性の心を捉えて離さない。映画でも時折見られる描写だ。

 だが、それは一体どうした事か。

「………ワッツ?」

「………?」

 病室を抜け出て屋上にでも赴くのか、と予想させた「大牧ちゃん」だったが、何故かそう歩かないうちに、病室の一角で(ひざまず)いてしまった。

 その目の前には、雨音が病院に侵入してきた際、うっかり撃ってしまった白衣の男性が気絶して倒れている。

「まさか……据え膳(おみやげ)と思ったデス!?」

「そんな……それならあたし達をスルーするのがワケ分からない――――――――――――」

 血を吸うのなら、いくらでも雨音の隙を突けた筈だ。そう思って冷や汗をかいたばかり。

 しかし、雨音はここで思い出す。

 白衣姿のこの男、カティは突然目の前に出て来たと言った。

 雨音が暗視スコープで前方を警戒している間、カティは無人攻撃機(UCAV)赤外線(・・・)映像で、警備員や当直の医師や看護師の動きを警戒していた。


 つまり、情報機器に不慣れなカティが赤外線映像だけ(・・・・・・・)を見ていて、赤外線が映らない(・・・・)相手を見逃した故に、突然現れたように思えたのだとしたら。


「ッカティ! コイツ――――――――――――!!」

「バハァァアアアアアアア!!!」

 雨音がM9を倒れている白衣の男に向けて連続発砲。

 だがそれと同時に、飛び上がった白衣の男は、目の前にいた「大牧ちゃん」を雨音の方に突き飛ばしてクモのように天井へ張り付く。

 雨音の精密狙撃能力は「大牧ちゃん」を完璧に躱わす一方で、本命の白衣の吸血鬼(・・・・・・)には中てられなかった。


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