0016:病院VSヴァンパイアウィルス(ウソ
友達という体で雨音は病院に行ってみたものの、話に聞いた通り、件の彼女は面会謝絶という事だった。
「でもアマネ、フツーに会えたら何て言うつもりだったデス?」
「…………おお!?」
病院を出た所で珍しくカティに突っ込まれるが、言われてみればそうである。
しかし目的の半分、いや三分の一程度は果たせただろう。少なくとも、多少の怪我や検査入院といった軽いものではなさそうだ。
「咬まれたのなら、きっとその娘も吸血鬼になってるデース……。もしかして隔離されてるのかもデスよ」
「さっき北原さんも言ってたけど、その辺の確率も五分五分じゃない? 正直あたしは詳しくないけど、咬まれても吸血鬼になってないパターンって結構あったかも……」
真面目に考えた事はなかったが、吸血鬼感染性が額面通りならば、人類は割とあっさり滅びるかも。一人が二人、二人が四人、四人が八人、16人、32人、64人。
と、考えてみれば、一人が二人以上を犠牲にする可能性も十分過ぎるほどあるのだ。人類は一年もつのだろうか。
過剰な弱点設定は、その答えの一つだとは思うが。
「……カティ」
「んふふふぅ……」
「……なによ?」
「いえいえ、アマネがやる気になってくれてうれしいデース」
子犬のようにくっ付いてくるカティを、雨音は身体ごと振り回す。何となくカティの思惑通りに行ってそうで、そのささやかな逆襲であった。
まさに、ご主人様が遊んでくれる状態ではあったが。
「キャー!!」
「遊びじゃないのよー。もしかしたら軽く人類の危機かもしれないのよー」
「だからこその魔法少女の出番デース!」
「もうその設定忘れようよ」
そもそもお前の変身状態、あれ魔法少女要素の欠片でもあるのか、と雨音は問いたい。
そして、病院の面会時間が終わり、消灯時間を迎えた頃合い。
「……やっぱり魔法少女ちゃうわ」
「巫女侍の魔法が使える魔法少女デース」
病院裏手の駐車場に、例によってゴツイ軍用車両が停まっていた。
軽装甲機動車の前には、超ミニスカのエプロンドレスと改造巫女服の美女、つまり変身状態の雨音とカティがいる。
その姿を改めて見ての感想。若干雨音の方がソレっぽいのが泣かせる。魔法というよりはほぼ兵器だったが。
とは言え、見た目的にはどう考えても何かを勘違いした巫女だか侍だか何だか分からない存在だが、有難い事に力の方は本物である。
魔法少女系能力。概念強化を基盤に、ほぼ身体能力だけを高めたのが、カティの魔法だ。
「それじゃ、アマネ!」
「………まぁ、しかたな――――――――――――おいちょっと待ちなさいどこに手を……!!?」
病院に忍び込むのに、カティの超身体能力は非常に有効だ。どこにでも飛び込める。
一方雨音の魔法は、何をするにも非常に派手になる。魔法の起爆にも、都度.50S&W弾の発砲が必要となる事だし。こっそり何かをするには向かない。
だがそこは適材適所。
雨音は並の身体能力しか持たない代わりに、空に飛ばした無人攻撃機から病院の赤外線映像を得ていたりする。これなら、忍び込んだ後に警備や当直の看護師と鉢合わせする確率を減らせるだろう。
その後は、とにかく病院に入り込まねばならないのだが。
「おんぶで良いじゃん!? どうしてお姫様だっこよ!!?」
「でも多分、こっちの方が安定するデース。あ、アマネ。アマネもカティに抱き付いてくれると安定して楽デスよー?」
「う……ぬぅ……」
分かり切ってはいた事だが、何気ないカティの動作に雨音は全く抵抗できなかった。
お姫様だっこで抱えられるのは、他に誰にも見られていないとはいえ非常に恥ずかしい。
しかし変に抵抗すると、この絶望的な膂力の差がバレる。そんな事になったら、今後雨音がどんな目に遭わされるか。軽く貞操の危機である。今はまだ、そこまで考えが及んでないと願うしかなかった。
是非もなく、雨音はカティにされるがまま抱き抱えられる事とする。
いつになく大人しい親友に気を良くしたカティは、ここぞとばかりに不埒な所にまで手を伸ばしつつ、軽々と敷地を隔てる病院の外壁を飛び越えて行った。




