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いまさら魔法少女と言われても  作者: 赤川
wave-12 タイトル未定
591/592

0018:エキサイティングかつスプラッシュな現場のハシゴ[※イラストあり]

亜錬様より、自称旋崎雨音の番犬、カティことカティーナ・プレメシスと、魔法少女のお供マスコットアシスタントのお雪さんのイラストをいただきましたッ。

イラスト通りたいへん愛らしい美少女ですが、中身は親友を喰う為なら手段を択ばないへんたい愛らしい少女でもありますね。お雪さんもモデルは雨音+3歳予想図だとか。劇中外で何をしているんでしょうか。

今回は攻め切れませんでしたが、奴はまだ虎視眈々と機をうかがっているようです。


      挿絵(By みてみん)


――――――――――――――――――――――――――――――――――――

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

.



 東米国海兵隊員、退役時期を逸した渋銀のベテラン兵士、ダニエル・ブライ曹長は納得がいかなかった。


「それはクロー、旋崎雨音(センザキ・アマネ)の信頼を失いかねない行為です。国益にも叶わないのでは?」


 曹長を呼び出したのは、所属している海兵隊の司令部、ではなくもっと上の統合参謀本部の背広(スーツ)組の政治屋たちである。

 指揮系統から外れているので命令を聞く筋合いはないのだが、そうは言っても全兵士のトップである統合参謀本部議長の直属の部下とあっては邪険にも出来ず。

 故に、こうしてワシントンD.Cのオフィスに呼び出し喰らっているのだ。


「任務だよ、曹長……。彼女との協定を無視するワケではない」


「中央大陸への偵察任務は正規の手順を踏んだ特殊作戦群(SOCOM)指揮による正式な作戦となる。キミらの分隊は向こう(の世界)が長い。全軍の中で向こうの地理や習慣に最も精通している。適任だ」


 東西米国、そして日本と、魔法少女の『黒アリス』が結んだいくつかの、協定(・・)

 その中には、異世界と地球世界のヒトの出入りを厳格に管理する、そして雨音の許可の無い人間と物を通さない、という項目がある。


 政府や軍による、自国の国益のみを目的とした特殊工作や秘密作戦を許さない為のルールだ。


 とはいえ雨音もヒトの子。そんな何百何千という人間を審査し、その適格を判断するとかやっている時間も能力もない。

 よって、実際の制度設計はNGO『アルバトロス』が行い、その方針により政府機関が事務手続きを代行する、という形になっていた。


 しかしブライ曹長や部下の海兵隊員は、雨音に先行して両世界を出入りする必要上、この辺のチェックがやや甘くなっている。

 そこを利用して、東米国単独での中央大陸偵察、を成功させようというのが政府の狙いであるが、雨音が把握しない軍事作戦という点で、完全にアウトであった。


 だが哀しいかな宮仕え。軍属であるダニエル・ブライに選択肢など無く。

 あの一生懸命なだけの少女を、大人の世界の理屈で裏切る事に苦しさを覚えるほかないのである。


                        ◇


 地球とは異なる異世界、主だった3つの大陸。

 中央大陸と呼ばれた、かつて最も強大な力を誇った『オリゾンデ』という国の亡びた跡地。

 そこを世界の中心とし、東方と西方の大陸が区別されている。

 地球と異なり、大陸に正式な名称など存在しないのだ。


 ヒトの住めない土地となった中央大陸と違い、東西の大陸では文明が今も息衝(いきづ)いていた。

 西方大陸。中央の雄、魔導大国ジアフォージ。

 かつては世界全域に勢力を広げた神聖教会の国、アークティラ。

 厳寒の北限にして『天道』という教えを守るもうひとつの宗教国、マト・ゾーヤ。

 大陸南部の砂漠とそこに生きる人々を便宜上国と定めて呼ぶ、ダソト。

 大陸東部の諸国をまとめた共同体、ナラキア。

 これら主要な国に、周辺の小国や土地を支配する豪族が寄り添うような形態を取っていた。


 そして、もうひとつの大陸、東方大陸。

 こちらは大きく分けて南部と北部でふたつの国がある。

 南方、魔族と呼ばれる複数の人外種族が同盟を結ぶ枠組み、ザピロス。


 それに北方、数百数千の民族、部族を吸収し続け、ひとつの巨大国家を形成するに至った大帝国。


 ニウロミッドといった。


                        ◇


 山のように積まれた石垣の更に上に(そび)える、広大かつ壮麗な大規模建建造物。

 天上人、皇帝の住まう城である。


 帝国は世界で最も偉大な国家であり、皇帝はヒトならざる、現人神(あらひとがみ)

 帝城は神の世界であり、臣下であっても容易に目通りは叶わない。

 皇帝の姿は城の最奥、真の貴種以外は立ち入る事さえ許されない、神域にあった。


「我が君……ご親征の支度、滞りなく…………。お定めの通り、南方へ出立いただけるかと……」


「タイロン将軍が軍を整えております! 南征軍50万が、我が君に直率されるのを心より待ち望んでおりまする!!」


「兵、そして帝国の民草は、偉大なる皇帝陛下が自ら立たれるお姿に尊崇の念を新たにすることでしょう」


 その玉座の間、宰相や大臣、将軍といった大物が、皇帝へ向けて膝をついていた。

 (うやうや)しくかしずく先にあるのは、豪奢な装飾の施された、椅子。


 そこに座るヒトの姿はあまりに小さく、逆に椅子の極端な大きさが際立っている。


 玉座に座るのを許されるのは、当然ながらただひとり。

 幼い皇帝は一言も発さず、無表情のまま臣下たちを感情の無い瞳に映していた。


                       ◇


 七月第3週の日曜日。

 午前11時10分。

 異世界、東方大陸南部、南部氏族同盟ザピロス、中央都ユニトリア。

 ベスペル氏族区画、迎賓室。


「この……どアホウどもが」


 ザピロスの統治者、魔族の王ラ・フィン様は静かにキレていた。

 バツが悪そうにしているのは、魔王嬢さまと同じ翼手族(ベスペル)の美女たちだ。

 先日(もう)けた魔法少女歓待の席の後、やらかしたのである。

 席の前の時点でも十分やらかしていたが。


「いやーおもてなしよ、おもてなしー」


「そうそう、お客様を歓迎するのに香草は基本でしょ? 無いと盛り上がりに欠けて興覚めじゃん?」


「むしろとっておきを使ったね」


「だからこんな事になっとんじゃろがい!!」


 ふんぞり返って言うウェーブ金髪お姉さま、褐色スレンダーお姉さん、ショートボブのトランジスタグラマーお姉ちゃん。

 無意味に偉そうなその態度に、魔王さまのヒートゲージが一段上がった。


「そ、そんなんどうでもいーです! これ……どうやったらなおるんです!!?」


 そして、それ以上にオーバーヒートしているのが金髪黒ミニスカ魔法少女、旋崎雨音(せんざきあまね)、黒アリスである。


 明日からの行動について打ち合わせをする前に、あまり大っぴらに言えないザピロスとニウロミッドの事情を話しておきたい。

 そんな理由で魔王ラ・フィンに呼ばれたと思ったら、大変なことになったのだ。


 ザピロスの魔族には、日常の至る所で香草を焚き上げ香りを楽しむ習慣があるという。アロマのようなものか。ユニトリアに入った時から微かに香ってはいたが、これほどとは完全に想定外。

 なお、魔法少女、傭兵3人娘、銀髪姫とイケメン従者、そして護衛の海兵は、それぞれ違うモノを喰らっている。

 海兵隊は酩酊状態で全滅、魔法少女と銀髪の子も多少吸い込んでカラダがおかしな事になり、中でも濃い目の(・・・・)を吸い込んだ黒ミニスカは半泣きだった。


「ああああああ……あ、アマネがエロいことに!? ビッグワ――――! ではなくテ……ケンシン的にカイホーしなければデスよ!!!!」


「やめろ今は触るな! 今は本当に触るな!」


「来たねー、異世界エロアイテム……。あっちの世界が面白くもヤバくもなるパンドラの箱ー!!」


「ショルカーにもあったけど、やっぱりこっちにもあるのねぇ……」


「クッ、クッ……クロー!!?」


 触れようものなら引っかきかねない手負いのネコ科魔法少女、黒アリス。

 全身が敏感になるわ何かが下っ腹から込み上げてきて溢れそうになるわと、かなり崖っぷち。

 顔は茹で上がったように真っ赤に、心臓が爆動しており息も極めて荒かった。

 魔法少女になって以来、最大の危機。

 

 他人事のように言う三つ編みとカウガールも動悸が激しく軽い興奮状態だが、黒ミニスカほど重症ではなかった。

 そして銀髪の姫様は黒アリス(クロー)のエロ緊急事態に取り乱していた。偶然のチャンスに乗り遅れるとは為政者失格。


「フムぅー……! ぐむーッ! ヤバいヤバいヤバ……あっぶ――――!

 と、とりあえず、今日は寝る…………!」


「今のアマネをひとりにするのはアブねーですよ! 倒れたりするとイケないからカティも一緒にいマス!!」


「絶対来るな! 今ばかりはシャレにならないんだよ!!」


「はへー。フィンさま、これってどれくらい効果がもつもんなの?」


「ベスペルならー…………一刻くらいか? だが慣れてない上に只人となると、正直わからん。というか雷神殿、めっちゃ効いとるな」


 客室のベッドへ引き籠ろうという雨音に、下心丸出しで付き添おうとするカティ。こっちの息の荒さは香草のせいではなくほぼ自前と思われる。

 なお、遅ればせながらワンチャン狙いに行くエアリー姫だ。頭の中では地球のネットで読んだ過激な大人向け小説が展開中。現実に付いて行けていない。


 実は桜花も限界状態の雨音に性的なイタズラをしたいのだが、こちらは少々心配の気持ちの方が勝っていた。

 何せ雨音の汗の量がヤバい。トイレ我慢するようにフトモモを締めて、腰も引けている。

 魔王様は若干途方に暮れていた。身内のやらかしが想定外にヤバい結果をもたらしているので。


「とにかく、ゴメン……。今日のザピロス見学は、無しで」


「仕方ないわね。雨音さんは大事を取って、今日はお休みね」


「シックス呼んでいったん帰った方がいいんじゃないかしら?」


「しかし海兵隊の方々はまだ寝てます……。起きるまで雨音さんの様子を見るのが無難ではないですか?」


「そーだね。案外さらっと効果切れるかもしれにゃいしー」


「そーデスね今は寝かせとくデスよ今は、今のウチは寝てた方がよかデス!」


 本来ならば、今後のザピロスでの行動を決める上で、ユニトリア周辺や問題のある(・・・・・)地域を偵察する予定があった。

 だが当然、黒ミニスカがヤバいアロマにやられて感度バグったのでそれどころではなく。

いずれにせよ身動きは取れないので、今が雨音の身を第一と考えていた。


 雨音を心配している風の魔法少女約2名も、下心が口からこぼれ出そうになっているのだが。


「そんじゃーせんちゃんを運ぼうかねー♪ 今日は暇だろうしわたしもせんちゃんの隣で寝ーよおっと」


「なにを言うとりマスかーオーカは!? アマネお姫様抱っコして添い寝してオハヨーからオヤスミまでフルセットでお世話するはカティのしごとデスよ!?」


「桜花は我と休まぬか!? 香が身に回っておるであろうし我が気持ちよく――――ではなく大事無いように介抱をだな!?」


「やっぱりフィンの好みはあの娘かー」


「しかもアレ横恋慕じゃん……。統領に選ばれるくらいに器用なのに、なんでこんな厄介な恋愛ばっかりするの?」


「だから触るんじゃねぇええええええ!!」


 もろ手を突き出し拒絶の意思を見せる黒ミニスカ。それを囲む巫女侍、三つ編み、銀髪姫は小型肉食恐竜の如し。ジュラシックな攻防。

 他方、間合いの外から機を狙うのは、威厳をかなぐり捨てた魔王嬢だ。なれど人生で例が無いほどカヤの外。

 翼種族(ベスペル)の美女たちは、そんな自分たちの長の有様に遠い目を向けていた。


「いニャー! んにぃいいい!? 二の腕の内側触られるのヤダぁあああああ!!」


「おおっとぉ? もしかしてせんちゃんって二の腕が弱かった? めずらしーとこ弱点なんだねー」


「アマネのだいピンチ! カティがカラダを張っテ! カラダで守護らねバ!!」


「く、クローを守るのはわたしよ! わたしはバルディアで救われた時からクローのモノなんだから!!」


「はひぃいいい!? だから腕ダメだッ…………てぇ!!!!」


 左右と背後から取り付かれ、揉みくちゃに引っ張られる黒ミニスカである。

 全身が敏感になっている雨音には致命的だ。もう今にも表面張力が終わりそう。

 完全に泣きべそかいているのに、誰も解放してくれない。


「ヒッ……! も、もうホント、マズ――――ぅううううううう!!!!」



 結果、成す術もなく決壊した。



 翌日、大変だったのは雨音ではない、他の魔法少女どもや銀髪姫の方である。

 黒ミニスカの()はかつてないガチギレ。涙目で真っ赤な顔になり無言で睨み付けてくるという、今までにないパターン。

 全員土下座だった。どこぞの高貴な姫も従騎士を巻き込み土下座だった。


 やむを得ない事ではあった。

 いろいろ溢れてしまった雨音は、乙女として一生モノの恥を晒してしまったのだから。

 仲間の魔法少女たちも、エロ良いモノを見た、とか、香草にやられていたので無罪、とか口が裂けても言えない雰囲気である。


 なお香草に関しては、傭兵の三人娘がよく効く薬草を知っていたのが不幸中の幸いであった。気付けとしてその業界では割とポピュラーなモノらしい。

 頭が回る三つ編みなどは、これで催淫薬と除去剤の両方が揃ってしまったのが商品価値的にヤベェ、と思っていたりもしたが。


                        ◇


 七月第3週の月曜日。

 午後02時01分。

 東方大陸、南部氏族同盟ザピロス、北側国境地帯。


 翌日も黒ミニスカの機嫌はなおらなかったが、それはそれとして時間も限られているので、予定は消化しなければならない。

 軍用ヘリに乗った一行は、ユニトリアから北へ飛びニウロミッド帝国との境へ向かう。

 偵察目的という事もあるが、特に外務省を通じてイギリスから「ニウロミッドの情報が欲しい」と強く希望を出されている事もあった。

 雨音も多少サービスして見せねばなるまい。昨日はとんだモノをサービスさせられるハメとなったが。


『大型河川を越える。これがナイアール河か?』


『GPS信号受信中。衛星からの映像によれば、恐らくそうです』


『この辺から帝国の領土なんですね。大丈夫なんですか?』


『おおよその所で川を境に帝国とザピロスが別れている、というだけであるからな。何も終始兵が張り付いているワケでもない。

 大きな砦は東の方で、こちらには街からの巡回隊が来るくらいであろう』


 ヘリを操縦するのは海兵だ。

 機内の窓からは、褐色の大地と黒い大河の流れを見る事ができる。

 その川の北側が、ニウロミッド帝国。

 そこへスルッと何事もなく侵入してしまい、日本で公僕やってるチビっ子魔法少女は不安そうにしていた。身の危険というより法的なアレで。


 とはいえ、防空レーダーなど無く領空の概念も希薄な世界。

 高速の可変翼ヘリ、SV-22オプスデイは時速560キロで空を飛ぶ特殊合金の塊である。

 帝国の兵では発見も撃墜もできないだろうというのが、魔王嬢さまの見方であった。


『巨大生物はこの辺にはいないんです?』


『おらん事もない。大河が別たれる辺りは厄介な邪神が棲みついておるでな。帝国は手を出せぬし、こちらの者の縄張り(・・・)からも外れておるからほぼ放置――――』


 地上の景色は平和そのもの。ここが巨大生物に脅かされる土地なのか、と疑問を持ってしまいそうなカウガールだ。

 しかし巨大生物が潜むのは、ここより更に東であるという話。

 今のところ緊急に対処しなければならないという状況でもなく、今回のザピロス偵察は静かなモノになるかと思われた。



 東の地平線で大爆発が起こり、静かな偵察は終わりとなった。



『今のはなんだ!?』


『軍曹、3時方向! 煙の中で何か動いている!!』


 海兵の一等兵が右側を指し示し、魔法少女らが右の窓に飛び付く。

 無骨な双眼鏡(海兵隊装備品)を覗くと、大河の上流、その先で砂色の煙がうず高く立ち上り、風下へと流れている様子が見えた。

 粉塵の中で黒い影が動いていたかと思うと、そこから遠近感が狂いそうな巨体が歩み出て来る。

 無数の節足で自身を前へ送り出す、巨大甲虫。

 ヒディライの『死の濁流』殲滅作戦(テラーブラスト)でも交戦した巨大生物種、装甲跳躍虫(アーマーホッパー)である。


『あれ、戦闘中?』


『フィンさまー!?』


『あの辺はどこの縄張りでもないはず。かと言って帝国が邪神に挑むような事をわざわざする理由も無いと思うが…………。ここまで追いやれば後は放っておくだろうし』


 そもそも勝てんし、というセリフは小声になる魔王嬢だった。


 ヘリの隅で膝抱えて小さくなっていた黒ミニスカだが、流石にこの事態ではライフルスコープ片手に遠くの現場を見ていた。

 長い節足が何本も連なる生物が、何か目的をもって暴れているように見える。

 戦場でも何度か見た、戦闘特有の動きだ。


 方眉を上げて怪訝(けげん)な顔になる黒アリス。

 三つ編み少女が現地有識者(ラ・フィン)(たず)ねてみるが、魔王嬢も何が起こっているのか推測し切れないようで、上品に小首を傾げていた。


『レッドクイーン、ここまでは距離があるが安全の為に街まで退がる!』


『あ、いえ、南側から現場を見下ろせるところに下りられませんか!? 何が起こっているかは確認しておきたいし』


 異常事態に際し海兵は退却しようと言い、黒ミニスカも心情的には同意見だが、さりとて見ないフリをするのも心配になる方向性の小心者。

 黒アリスの要望に沿うのも命令の内なので、海兵はヘリを低空から高台に侵入させる。

 派手な戦場音楽は、そこまで届くほど派手に鳴り響いていた。


「せんちゃんアレどうやって倒したんだっけー?」


「えーとー……ヤバい色々あり過ぎて思い出せない。戦艦を落として潰した中にいたっけか……?」


「スゲェ……クロー様って噂通り最強魔道士だったんだー」


「選手村の近くでも一匹倒してたし、とんでもないねぇ」


 ヘリの後部ランプドアを駆け下り、丘の上から戦場を目視する魔法少女ら一同。

 ズラリと並ぶ節足で地面を突き飛ばす異形の巨体はインパクト十分過ぎ。一度見たら忘れないだろう。

 だというのに、三つ編みの問いかけに答えられず、唸ってしまう黒ミニスカである。何体巨大生物と殴り合ったと思ってるんだいちいち気にしていられんわ。

 そんな魔法少女の武勇伝に、心底畏敬の念を込めた視線を送る傭兵の三人娘だった。


「んー……あの軍装って、やっぱり帝国?」


「イギリスが接触した異世界人の資料にあったのと似ている」


「帝国の兵であるのは間違いないのであろうが……こちら側におびき寄せるでもなし、何をしておるのだあやつら?」


 何かの石積みが遺されていたので、そこに身を隠すように陣取り、双眼鏡や高倍率スコープを覗き込む。

 1キロほど先にある戦場は、悲惨なことになっていた。

 巨大生物に蹂躙されている集団は、海兵の軍曹と魔王さまに(いわ)く、帝国軍で間違いない様子。

 それが成す術なく榴弾砲のような攻撃にさらされ吹き飛んでいる。

 元は何人いたか不明だが、壊滅まではそう何分もかからないと思われた。


「…………なんか変なのいない? いや変というか場違いというか」


 そんな中、ゴツイ軍用双眼鏡巨大生物に向けていたカウガールが、大混乱の現場で何かを見付ける。


「なんです美由さん? 面白い鉄火場でも見つけましたか??」


「いやどう見て場違いな(よそお)いのヒト達がね……? 巻き込まれでもしたのかしら?」


「マジか。助けに行かなきゃマズいじゃん」


 揃って望遠装備をそちらに向けると、巨大生物の足踏みから逃げ惑うように、妙に(きら)びやかな一団の姿を捉えることが出来た。

 遠目にわかるほど、死に物狂いで走り回っている。

 特に脱出経路にあてがないのも明らかだ。


「アレに突っ込む気か!? 待てレッドクイーン! 安全を確保出来ない!!」


「思い出した! あの時は空飛べる能力者が総出で巨大生物を打ち上げて落としたんだ! この戦力じゃダメじゃん!!」


「カティとオーカあたりであの連中()(さら)って来るデス?」


「人数が多過ぎるからなぁ……。車両使わないと厳しいんじゃない?」


 魔法少女の行動に慣れない海兵が慌てて制止をかけるが、基本的に大人の言う事なんか聞きやしない10代ガールズである。さっさと突撃準備。

 当たり前に救助に行こうと言うあたり、魔法少女がすっかり板に付いていた。


 ドパンッ! と黒ミニスカが魔法の回転拳銃(リボルバー)を発砲すると、魔弾が割れて拡張展開されていく。

 こうして現れた軍用車両に乗り込んでいく魔法少女と姫と魔王に傭兵、自分の国の車両を出されては文句も言えない海兵。


 こんな経緯でまた修羅場への出席日数を増やす雨音と仲間たちだが、この後思わぬ人物を保護する事になる。

 またそれは、思いがけず大国の内部事情に巻き込まれていくはじまりとなった。





感想、評価、レビュー、何が起こっていたか知りたい方などいらっしゃいましたら感想あたりで要望いただけたらと思います。書けるかどうかはわかりません。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 「へんたい愛らしい少女」←へんたい素晴らしい文章でした。
[一言] 東米国の偵察作戦が雨音にバレたら、ニューヨーク沖とか目立つ場所に戦略原潜が浮上してミサイルハッチオープンするんですね。 分かります。
[一言] 喉元過ぎれば……の典型例ですな
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