0013:ポッと出だから三下などという法則は現実の方が奇なりだったりするのであてにならない
魔法少女近況:なんか盛り上がってたしこっちもそれどころじゃなかったんだけどあの不健康そうな女の人何者だったんだろう?
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西方大陸中央の雄、魔導大国ジアフォージと、西方の宗教国アークティラの連合による、ナラキア地方各国への侵攻。
イレイヴェンはその前線から離れていたが、ここに来て奇襲攻撃を受ける事態となった。
更に、エルリアリ大湾側から攻撃された王都トライシアだけではなく、そこから内陸側にあったクローディース領の選手村にまで、ジアフォージとアークティラの別動隊が入り込む事に。
これを引き入れた元イレイヴェン王宮魔導士筆頭バーレム・ビーターと、聖教国アークティラの戦力を率いる聖女デュレス・コンストレイン。
ポータル管理施設に入り込んだ首謀者のふたりを魔法少女らが追撃していたが、その一方で選手村内でも戦闘が激化していた。
◇
七月第2週の水曜日。
午前9時06分。
異世界西方大陸東部、イレイヴェン。
クローディース領、選手村。
居住エリア、商業区。
選手村の商業区に入り込んだ侵略部隊の重装歩兵が、東西米軍の守備隊と派手に撃ち合っている。
仮設のような意識が抜けない真新しい建物は、今は爆風に炙られ壁面は黒く煤け、流れ弾の弾痕が刻まれるという、紛争地帯もかくやという有様となっていた。
基本的に魔法少女行く所こうなる。
他方、主に地元民で編成されたクローディース領衛兵隊、そしてイレイヴェン国内の調査活動を支援する目的で設置された冒険者制度の冒険者たちも、独自に侵略者へ対処する必要に迫られていた。
しかしである、
「ぼ、ぼぼぼボース隊長ぉ! あいつら強過ぎます!!」
「クソ頑丈な鎧で歯が立たねえッス!」
「てか本物の兵士相手に農民じゃムリだろ!!」
現状、一応立ち向かいはしたが、派手に蹴散らされている衛兵隊であった。
元々が専門の訓練を受けた兵士でもない。単なる一般募集の警備兵だ。
鍛え抜かれ、この特殊作戦の為に厳選されたフル装備の重装歩兵とまともに戦えるはずもない。
全く戦いにならないのでほぼ無視されているのが不幸中の幸いである。
まともに戦っていないにもかかわらず、既にボロボロな衛兵隊。落ち武者が如し。
建物の陰に隠れて激しい戦闘を恐る恐る眺めていたが、かと言って選手村を守る衛兵隊として逃げ隠れしたままなのはマズい、というのも分かっていた。
「まーとにかく……ワシらは衛兵隊だから。この街を守る為に戦かわにゃならん」
「絶対無理ですってー!」
「異世界の連中に任せましょうよー!!」
「そもそも戦いにならないんですって!!」
農家と兼業の丸いオッサン、ボース隊長の意外な職業意識。
なんせ異世界で最も栄えている領地の衛兵隊長である。それなりの責任感も芽生える。自身、ダメっぽいというのは分かっているのだが。
当然ながら、他の隊員からは絶望的な悲鳴が上がった。
この衛兵隊、決して装備は悪くない。
形こそイレイヴェンでよく見られる軽鎧と皮鎧のハイブリッドだが、製造は日本の自動車メーカーによる特注だったりする。ショートソードや小盾も然り。クルマと同じ、軽量スチール合金の圧延プレス加工だ。
盗賊程度なら蹴散らす装備なのだが、やはり相手が悪過ぎた。
ついでに、有名警備会社による訓練もはじまったばかりである。
職責と現実の板挟み。
装備だけ立派でも気持ちと実力で付いて来られない衛兵たち。
溜息を吐く農民の衛兵隊長は、それでもこれが自分の仕事だから仕方ないなぁ、と。
残念な結果を予想しながら、率先して侵略者に対し立ち向かおうとしていた。
その直前に滑り込むように乱入してきた三人の女傭兵が、火の付いた酒瓶を重装歩兵に叩き付けて火達磨に変える。
「ギャァアアア火がぁああああ!!?」
「どんな固い敵にも攻め方ってもんがッ、あるよねー!」
「おーおー異世界の酒ってのはよぉ燃えるわねぇ」
中肉中背ながら引き締まった四肢のミドルヘア女性、『百戦』のキーリが火に巻かれて暴れる歩兵の膝裏を蹴飛ばし転ばせた。
別の重装歩兵の兜を、長い手足と長い髪の目立つ美人、『潜蛇』のクロブナーが槍先で引っ掛け跳ね上げる。
「ごハンの為にー、どっこいしょー!」
「うぉ!? なんっ……だぁああ!!?」
混乱の只中にいた重装歩兵は、足下を地面ごとすくわれるようなハンマーの一撃により、ひっくり返っていた。
ぽっちゃり低身長な『丸呑み』のモニによる一撃だ。
なお重装歩兵を食べようとしているワケではない。
傭兵兼、現在は選手村の公認冒険者の三人娘。
キーリ、クロブナー、モニは揃って若い女性だが、いくつもの戦場を渡り歩いてきたベテランでもあった。
そのキャリアの中では、手に負えないような相手とも戦ってきた経験があるのだ。
見た目こそうら若い女性だが、そこからは想像もできない胆力と戦いの工夫で、魔法少女の火砲すら耐える歩兵の装甲を引っ剥がして見せる。
「いやマジ固てぇ!?」
「押さえ付けてから鎧脱がせろ! 縛れ縛れ!!」
「汚物は消毒だー!!」
「カモオォオン!!」
これに続いて殴り込むのが、同業の冒険者にして地球の特殊能力者たちであった。
遠隔操作剣を何本も射出する大学生騎士、長い舌を鞭のように振り回す全身タイツ風のヒーローコス、トゲ付き肩パッドの世紀末モヒカン、カニのように腕を振り上げるヒト型フォークリフトが重装歩兵と乱戦に突入。
「姐さんらに続けー!」
「モニちゃーん!!」
「クロ女王様ー!!!」
更に湧いて出る奇抜な格好の冒険者たちが、荒れ狂う戦場に雪崩れ込んだ。
トリケラトプスにカチ上げられた重装歩兵が空を飛び、触手をウネウネさせた能力者が歩兵を捕らえ、別の能力者が鎧を引き剥がす。
能力冒険者たちは勢いと力尽くで、魔法の鎧をまとう重装歩兵を文字通り丸裸にしていた。
「お、おい……!」
「チャンスだ! 皆行くぞぉ!!」
「突っ込めぇええ!!」
「囲め囲め!!」
あまりに次元の違う戦闘に腰が引けていた衛兵隊も、なんか勝てそう、と機を見るや、雄叫びを上げて突撃。
まさに体当たりでアークティラの重装歩兵にぶつかり、集団で押さえ付けて鎧をむしり取る。
しまいには米軍も参加して場末のケンカのような大乱闘に発展する選手村市街地戦だった。
こうして終息の気配を見せる市街側だが、侵略部隊の主力と魔法少女のいるポータル管理施設の中央では、空気さえ焼けるような灼熱の戦闘が続いていた。
◇
七月第2週の水曜日。
午前9時10分。
異世界西方大陸東部、イレイヴェン。
クローディース領選手村、ポータル管理施設、ポータル前レセプションホール。
アサルトライフルをブッ放している海兵の横を駆け抜け、露出改造された巫女服侍が大刀を振り下ろす。
受け止めるのは、華美な全身鎧を身につけた聖教国の神前騎士だ。
ゴォオオオオン! と、剛力同士による激突が鋼の爆音を生じさせ、空気を弾き地面を揺らすほど。
余波だけで周囲の兵士が吹き飛んだ。
「ンギィイイイイ!!」
「ンーもー! なんかコイツもおかしなってキモいネー!!」
怪力巫女侍にパワーで抗する神前騎士は、左右出鱈目な方向を見ている両目といい泡を吹いた口角といい、明らかに常軌を逸している。
そんな顔で獣のように噛み付いて来ようとする相手に、怖気をふるうカティは至近距離から足裏を叩き付けて蹴っ飛ばした。
成す術無く交通事故の勢いで吹っ飛ぶ神前騎士ではあったが、それでも鎧に守られ生きていた。更にその代わりのように、別の神前騎士もが群がってくる。
「なんデスこれはゾンビですカ!?」
「なんかこうお薬的なアレかねー?」
「脳のリミッターを外すだけにしてはッ、いささか強過ぎますが!!」
尋常ではない力を発揮する神前騎士に、百戦錬磨の魔法少女たちさえ押され気味だった。
三つ編み吸血鬼が人外の力で殴り飛ばし、ポニテの剣豪が捌き倒しても、騎士たちはゾンビ(走行型)のように向かって来る。
米兵も前代未聞の、現代戦にはありえない盾前衛とライフル兵の後衛という超臨時編成で迎撃中だ。
そして、黒ミニスカ魔法少女『黒アリス』、旋崎雨音の30ミリ7連回転砲身機関砲を用いた近距離掃射の爆発音が一帯を支配する。
主力戦車の装甲すら容易く撃ち抜く、タングステン弾芯の砲弾。
しかしそれは神前騎士や重装歩兵が身を挺し、正面から受け止めていた。
「固いどころか倒れもしないってどんだけ……!?」
およそ現行で最強の機関砲による暴威を前にしても、涼しげな顔で佇んでいる病み系美人と、白髪のおかっぱ頭。ビーターの方は騒音が効いているのか、心底苛立った顔をしている。
とはいえ、なんぼ鎧騎士に守られているとはいえ、実際には物理的に隙間だらけ。
これなら先の人力艦砲射撃で倒れてそうなものだが? と疑問に思いながら、黒ミニスカは鬼の制圧射撃を続けつつ片膝立ちとなり、足をグレネードランチャーに変形させた。
正面からの直射で防がれるなら、山なりで頭上を狙う曲射弾道。
ポンッ! と小気味いい空気の抜ける音が立つと、口径25ミリ空中炸裂擲弾が戦場を飛び越え病み系美人の真上へ。
「守護天使の盾」
それを受け止めるように、半透明の光の膜を放つ円形の盾が浮遊していた。
魔道器。
地球と異なる異世界に実在する魔法の力を、道具として実用化したモノ。
「ジアフォージの魔道器!? これで爆風を……」
「彼の国の外法などではなく、我らの神の御業です。お間違えなきように」
127ミリの艦砲を凌いだのはコレか、と思わず口に出す黒ミニスカだったが、病み系女が圧のある微笑で訂正をしてくる。
どうも魔術と神の力を区別させたいようだが、違いが分からない雨音にはどうでもよかった。
どっちにしろ突破せねばならん。
「道具なら耐久とかに限界あるでしょ……! 直接シールドの部分ブッ叩けば――――!!」
「唯一の賢者の名において我、バーレムー・ビーターが咎人を裁く。熱き雹」
「――――って!? うわぁ危ねぇ!!」
さりとて特に冴えた攻略法とか思いつかなかったので、いつも通り火力でゴリ押しを試みる黒ミニスカ。先人曰く、戦闘は火力。
だが直前に、おかっぱ白髪の元王宮魔導士筆頭が魔法を放ち、燈色に輝くつぶてが魔法少女を襲った。
直前でこれを喰い止めるのは、チビッ子魔法少女刑事の防弾盾だ。
張り付いて盾の表面で凝固するのは、溶解したガラスであった。
直撃したら大火傷なんてものでは済まない。
「あっつー!? なにこれ!!?」
「雨音さん後ろにいて!!」
直撃はしなかったが、細かい飛沫が黒ミニスカに飛んだ模様。熱くてビックリ、腕のゴツイ兵器もブンブン振り回す。
頼れるチビッ子お姉さん、トリアちゃんも正面でガードし黒アリスを守っていた。大人であり現役警察官の意地。
しかし、ビーターの魔法と一緒に狂った神前騎士まで波状攻撃をかけて来るので、ふたりして弾幕を張りながら大慌てで後退することに。
無人機の装甲車を突っ込ませ、それを境に激しく撃ち合う形となった。
「フフフ……玩具を振りで遊ぶ子供のようで、可愛らしいこと。同じ理の守護者であっても、やはりかつての勇者とは違いますね。
そもそもが、本来その器ではない者たち、という事でしょうか?」
「知ったように言うのだな。それも、聖教国の騙り屋如きの、貴様らが」
幼子のやり様を笑うように、しかし嘲りを込めて呟く病み系美女。これでも聖女という立場。
そのセリフが気に障ったのは、ここまで傍観者に徹していた『かつての勇者』の親友、魔王ラ・フィンである。
「ああ、そういえば貴女もこちらにいらっしゃいましたね。ヒトならざる者、神の祝福なき者たちの頭目。
翼手族のフィン」
「オマエの事など知らぬよ、教会の壺頭など、どいつもこいつも同じに見える。中身も大差あるまい、空っぽなのだからな。
そんなオマエらが、アンリエッタの何を知っている?」
東方大陸南部ザピロスの統治者、魔族の王、ラ・フィン、静かに9割強キレていた。
これで王らしい振る舞いを忘れた事はない良いところのJK風お嬢様なのだが、今は珍しく敵意剥き出しのお顔である。
殺気を漲らせ重心を前へ傾ける姿は、肉食獣のそれ。
ここに空気を読まず斬りかかる狂った騎士がいたのだが、振り払う腕の動き一発で飛んで行った。
相手を一瞥もせず、目線は真っ直ぐ病み系美人へ向いたままだ。
「アンリエッタを……世界と無辜の民を守ることを思えば、教会の独善を知りながら折り合いを付けようとしていたあの娘を裏切り、闇の中に葬っておいて、性懲りもなくまた勇者たちをエゴで道具にしようとするか。
我の目の前で、そんな事を許すとでも思うのか? 己らの権勢の為に世界の守護者さえ排除せんとする俗物どもが」
「もちろん許されますとも。それが神の導きなれば、どのような事であろうとも。
それに、彼の勇者を見殺しにしたアナタが、今更それを成せるとは思えませんが?」
「……あ゛ぁ? なんならぁ??」
かつての勇者、魔王の親友であった少女、アンリエッタを謀殺し、神の名において世界より教会を優先することさえ正当化する病み系美女。
その傲慢を傲慢とさえ思わぬ平然とした物言いに、魔王さま今度こそマジギレである。
「雷神殿よ……悪いがこいつは我がもらうぞ」
「ど、どうぞご随意に……」
問われて雨音にいったいどんな選択肢があるというのだろうか。
場所をあけながら別方向に機関砲ブッ放す黒ミニスカ。周囲は敵だらけなので魔法少女を遊ばせておく余裕などない。
魔王と聖女の間で火花を飛ばすほど強烈な殺気に追いやられ、敵も味方も自然とその場から退避していた。魔王嬢の火力を知っていれば当然だ。
「こんなことなら、100年前に教国ごと教会を大陸の端に沈めておくべきだったわ……。
万物の精、エレメンタムの円環を掌りし魔王たる所以を知るがいい……!」
「恵みと導きの神の威光を恐れないなら、挑むが良いでしょう。今日までの神の慈悲と、天罰に触れる事を知りなさい」
「神など信じていまい! 支配の為に使い勝手の良い神をでっち上げたに過ぎん! ふたつの大陸の全ての者がとうに知っておる事だ!!」
「神はおりますよ。そう、少なくとも、今は」
「……貴様!?」
含みを持たせる教会の病み女に、煽られ魔王嬢は容赦なく魔法を発動。
掌から溢れる超高熱のプラズマがビームと化し、文字通り光の速さで敵へと直進する。
かに思われたが、その光線が明後日の方向で戦闘中の米軍兵士を直撃しそうになり、空飛ぶ防弾盾が何枚も連なり溶解しながらこれを受け流していた。魔法幼女の臨機応変ファインプレイ。
「なんだ――――!?」
「天罰……ですね」
これには流石に、魔王ラ・フィンの頭に上っていた血の気も引いた。危うく米兵を殺すところだ。
当然ながら、狙ってやったワケではないし、聖女コンストレインから狙いを外してもいない。
魔法のプラズマビームが曲がったのである。
聖女の宣う、『天罰』。
原理や理屈は魔王にも分からないが、自らの火力が暴発させられる恐れがあるなら、迂闊に攻撃もできない。
攻撃力の高さを逆手に取るいやらしい防御手段に、魔王が怒りを大きくしていた。
同時に、戸惑いも覚えていたが。
「キサマ…………何者だ!? 今のは魔道器のようなガラクタの力ではあるまい! しかも――――!!」
「理外の力、ですか? あるいは勇者と同じ力、と? だとしたら、まぁどうでしょう?
例えば、我々聖教会が、勇者の力を奪った、とでも?」
「ッ……叡智のイカヅチ! 万雷喝采にて賢王の威光を知らしめん!!」
逸らされるかも、とは分かっていても、逆鱗に触れられ瞬間沸騰の魔王は再度攻撃。
空間にヒビを入れるような雷撃が聖女を襲い、その尽くが相手だけを避け広範囲に拡散していた。
とばっちり喰いそうな米軍兵士は大慌てで逃げ出し、重い金属鎧を身に着けていた神前騎士や重装歩兵には流れ弾していた。
「殺して……アンリエッタから奪ったか!!?」
「フフフ……これが100年教会を恐れさせた、魔王ですか? まるで何も知らない赤子のよう。
ニルヴァーナ……外界の海に棲む超越者に与えられた理外の力。そんな物のように簡単に取り上げられるはずがないでしょう。
『魔王』といえども、所詮は翼手族の小娘に過ぎないようで」
嘲笑する病み系女だが、魔王としてもこれ以上挑発に乗るワケにもいかない、と理性では思っている。
ラ・フィンの勘違いでなければ、使い方こそまるで違うが、聖女コンストレインの使う力は勇者アンリエッタのモノと似た感触があった。
その詳細ははぐらかして明かさないが、こうなると聖教会によくいるただの詐欺師と侮る事もできないだろう。
こうして魔王が聖女に対して攻め手を無くし膠着状態に陥っている間も、魔法少女の方は重装騎士やら魔道士やらと交戦中だった。
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来週もう一話更新します。




