0011:雨垂れ石を穿つがしかしウォーターカッターで時短に及ぶが如し所業
魔法少女近況:保障外の使用方法となります。
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魔導大国ジアフォージと、神聖教国アークティラ。
西方大陸の中央と西部に大きな版図を持つふたつの国は、ナラキア地方へ侵略戦争を仕掛けている最中だ。
その最前線となるのは、国境を接する北部の国プラスイム。
だが、ここに来て遠く南下したここイレイヴェンにまで、両国は奇襲攻撃をはじめていた。
更に、王都トライシアを攻撃する主力とは別に、地球側と行き来する境界門『ポータル』がある選手村にも、侵略軍は攻撃を行っている。
うっかりこれを迎撃する形となった地球の魔法少女たちは、逃げる間もなく両国の部隊との交戦を余儀なくされていた。
◇
七月第2週の水曜日。
午前8時31分。
異世界、西方大陸東部ナラキア地方、イレイヴェン国、選手村。
入国管理所前。
「――――銃砲形成術式!」
初手、黒ミニスカの魔法少女、『黒アリス』の旋崎雨音は白銀の回転拳銃を発砲。
魔法の弾丸を箱型無人装甲車に変形させ、攻撃を避ける為の遮蔽物と、自律攻撃兵器として
展開する。
「ジャック! ウェポンフリー! ファイアファイア!!」
装甲車を操る魔法少女のしもべ、『ジャック』は命令に従い上部の銃座を動かし、敵集団への掃射を開始。
遠隔兵器端末、センサーと連動した機関砲は、全身鎧装備の重装歩兵に12.7ミリ砲弾を叩き込んだ。
「異世界の魔法だぁあああ!」
「恐れるな! ただ神を讃えよ!!」
「神は我らと共にあり! 神罰を受けよぉおお!!!」
装甲車にさえ大穴をあける12.7ミリの直撃を受け、パチンコ玉のように吹っ飛んでいく重装歩兵。
しかし、すぐ隣にいた味方がそんな有様になっていても、アークティラの歩兵集団は全く意に介した様子も無く、突撃をやめようとしない。
集団の後方からは、魔法弾による激しい援護射撃も続いていた。
「ひゃーほほほっ! 派手なパーティーだこと!!」
「スーパーアーマーうぜぇ!!」
「拙者もう突っ込んでいいでござる!?」
「ジゴローは前衛で敵の接近に備えろ!!」
身を隠す装甲車の鼻先に光の弾が直撃し、顔を出していたカウガールが慌てて首を引っ込めていた。相変わらず危なっかしい尻出し魔法少女である。
黒ミニスカは重機関銃だけ陰から出して連射するが、あまり牽制にもなっておらず、チンピラ顔で舌打ちしていた。
30ミリで撃ち抜けなかったので精密射撃を狙ってみたのだが、敵の鎧は目の位置さえ細い溝しか開けられていない、ガチガチの重装甲だ。
盛大な鉄火場に、辛抱堪らない様子の鎧武者が装甲車の陰から飛び出してしまう。海兵隊の曹長が止める暇も無かった。
無数に飛来する魔法の光弾の前に堂々と姿をさらし、鞘から刀を抜き放つ赤備えの魔法少女。
これに対し、装甲車を迂回して接近しようとしていた全身鎧の騎士が、片端の大剣を振り上げる。
「神無き地から来た異端の戦士が! 名乗れ!!」
「島津……いや、武倉士織! いざ参る!!」
「神の威光! 神の栄光を前にしてなお歯向かうか! 愚か者め! ならば神罰の代理執行者! 神前騎士ファラス・ベリフが貴様に裁きを与える!!」
兜に高い一角を生やした神前騎士、ファラス・ベリフと鎧武者魔法少女の刃がしのぎを削り合い、火花を散らした。
光弾と銃弾の嵐の中、双方が被弾お構いなしで激しい斬撃戦に興じる。
どちらも圧倒的な防御性能を持つが、隙間が無いワケでもない。
派手な殺陣に見えて、その実高度な隙の読み合いとなってた。
「うわぁ、はじめちゃったわ……!?」
「クソッ勝手なことを! どうする!? 地球への避難は諦めて選手村から脱出するか!?」
「どうするもこうするも相手が向かって来るんだからヤルしかありません曹長!」
「ダムッ! クソがケツの出口を塞いでやがる!!」
「子供の前だ伍長!」
「待って待ってちょっと考える! いま考えますから!」
装甲車の裏で固まり被弾を避けながら撃ち返している一同。絵に描いたような修羅場に全員荒れ気味。
生き生きしているのは戦闘狂の鎧武者と危険大好きカウガールくらいのものだ。
ポータルへの入り口は、海兵に曰く邪魔者に塞がれているので使用不可。おまけにその邪魔者が妨害だけではなく積極的に攻めてきている。
侵攻してきた相手の狙いはよく分からないが、選手村の制圧にせよ支配にせよ、ろくでもない事であるのだけは疑いない。
ならば、どうせ逃げられないのなら排除して安全確保した方が建設的ってもんだと雨音は思った、多分。
「……敵くっそ固いけど、やっぱ最優先で指揮官潰して敵部隊の動きをガタガタにするのがベター、かな?」
「だが守り固めている連中に銃弾が通らんぞ!? クローの30ミリでも破壊できなかっただろう!!?」
「固いだけの相手に負けませんよ。ヒディライで巨大生物とやり合った時の方がヤバかったでしょう。
貫通出来なくても吹っ飛ばせるなら、いっそ無限に吹っ飛ばしてやろうかなと」
「流石雨音、とことん火力ね!!」
戦闘は火力。相手が重装甲でも火力。どうせ他に銃と兵器の魔法少女に出来る事なんてありゃしねぇ。
黒ミニスカが選んだのは、例によって正面からのド突き合い。
それも敵の頭を狙った最短コースである。
相手の硬さに面食らいはしたが、考えてもみれば巨大生物や怪生物の大群と大乱闘スマッシュ魔法少女してきた事に比べれば、特別ヤバい事態でもない。
ある意味いつも通りの方針を更に自覚的にやろうという黒ミニスカに、海兵は「マジかコイツ」という顔になり、カウガール姉さんは無邪気に喜んでいた。
「というワケでみんな武器どうする!? 今回に限り制限なしだよ! 選ぶなら急いで!!」
「マジで!? デイビークロケット撃っていい!!?」
「あっはっはヤダなー桜花ったら核兵器で何撃つ気なの時間ねぇっつってんだろ」
「わたし警察官なのだけど……ロケットランチャーでも持って行った方がいいかしら?」
「わたしシンプソン機関銃! ドラムマガジンで!!」
やると決めたらとことん。黒アリスは銃砲兵器の魔法を全面解禁である。ただしNBC兵器を除く。
迷ったり迷わなかったりの魔法少女に、黒ミニスカはグレネードピストルやランチャーの筒、古い型のサブマシンガンを手渡していた。
「よし分かった。敵は対爆スーツ以上の防弾性能を持っている、装甲車かヘタするとMBTと同程度のアーマーだと思え。装甲を撃ち抜くのは難しいが、ストッピングパワーで動きを止め突破する。
クロー、HEグレネードを持てるだけくれ。全員武装は7.62ミリ、増加弾倉、手数で抑え込むぞ」
「曹長ショットガンは!?」
「グルナット! ゴンドア! ショットガンでポイントマンをやれ! 立ち塞がる奴には遠慮するな! ブチ込んでやれぇ!!」
「イエッサー!」
「イエッサー!!」
ダニエル・ブライ曹長も、ゴリ押しの覚悟を決めてしまった。こうなると米軍最強の殴り込み部隊、海兵隊である。
黒ミニスカから次々と武器を受け取ると、慣れ切った手付きで弾薬を装填。いつでも撃てる状態に持っていった。
「あのなんて言ったっけ性格悪そうなおっさんどこ行った!?」
「ビーターは向こうの世界への関所の中よ!!」
「敵前衛を突破しポータル管理棟に突入する! クロー、無人機を展開して外の敵にプレッシャーをかけさせろ! 守備隊に立て直す時間をやれば勝手に反撃する!!」
「了解! しおりん行くよー!!」
「承知しました!」
海兵が装甲車の向こうへスモークグレネードを投擲。
白い煙幕が視界を奪うのは僅かな間だが、直後に海兵隊がバトルライフル、Mk-017『H-Breaker』を一斉に連射。重装歩兵の頭部に弾丸を集中させ、薙ぎ倒した。
隊列を組む海兵は、巨漢と野性的な髪のふたりがショットガンを前に前進。白煙から飛び出す重装歩兵に、鎧の上からお構いなしに散弾を叩き付ける。
至近距離で喰らった歩兵は、ショットガンの大パワーで派手に吹っ飛ばされていた。
「倒せなくてもいいとにかく撃ちまくれぇ!!」
「っつぁああ!」
「士織! 時間もないんだから今すぐ倒さないなら横槍入れるからね!!」
「すぐ終わらせるから待ってください!!」
「ぬぅう!? お、おのれ異端者がぁああ!!」
鎧武者と重鎧の騎士の横を突破していく海兵と魔法少女の一団。
カウガールが発破をかけると、武倉士織は攻めの勢いを増す。
神前騎士ベリフは憎悪を吐き躍起になって剣を振るうが、ここに来て技量の差が出た武者鎧には一太刀も入れる事はできず、
「―――ッハア!」
「ギッ!? バカ、なぁああっ!!?」
終には、腕を籠手ごと斬られていた。
とはいえ切断されてはいないらしい。
「って30ミリ弾が効かない鎧を……!? どうやって斬ったの!!?」
「打ち合ってみて分かりましたが、どうも鎧に触れた瞬間に勢いを流されているように感じます。ならば流れごと斬ればよいだけの事!」
「なるほど分からん!」
「コイツ修行中もこがいワケ分からんこと言ってたデスよ」
戦車を撃ち抜く砲弾すら止める、アークティラ重装歩兵の重鎧。
それを斬って見せたとあって黒ミニスカが目を丸くしていたが、説明を聞いても分からねぇ、とカウガールや巫女侍は理解を諦めた。
◇
ボゴンッ――――! と。
まだ新しい速乾性コンクリートと白い壁紙の建物が、中にいた鎧の歩兵ごとロケットランチャーで吹っ飛ばされる。
エントランスの天井板は焦げて落下し、照明は外れてぶら下がり、ガラスは内側から砕け散り、スプリンクラーは水を撒き散らしていた。
ポータル施設内部は警報が鳴り響いているが、これはジアフォージとアークティラ軍の侵入を許した時からだ。
「正面玄関の敵ダウン!」
「よし行け行け行け!!」
粉塵と火薬の残り香で煙る中、半壊した施設入口へ海兵が先行して突入。まだ動く人影がいたなら、間髪入れず弾丸を叩き込む。殺してはいないが鎧武者も一緒になってトドメを刺す。
今まで幾度となく通り過ぎた受付前ホールが一瞬で変り果て、雨音は少し泣きそうになった。
だが感傷に浸っている場合ではないのでそれはそれとして、ホール左右から雪崩れ込んでくる全身鎧に、全長3.4メートル、106ミリ無反動砲を叩き込むが。
「ギャー!!?」
人間に撃っていい口径ではない砲弾が直撃し、鎧の兵士はビリヤード玉のように跳ね返り飛んで行った。
当然ながら流れ弾による付随被害も尋常ではなく、一発で壁に大穴が空き、コンクリの柱が粉砕される。
屋内で大砲使うのヤベェな、とは思う雨音だが、敵はそんな配慮してくれないので、今は忘れるしかなかった。
「ヒャーハー! ギャングスター!!」
「ライアットシールド固め!!」
カウガールが勝利の女神の如く尻を振動させながら古式機関銃を連射。45口径という殺傷能力の高い大口径弾を秒間20発で叩き付ける。
派手な着弾音を撒き散らす一方、チビッ子魔法少女刑事が自律飛行する防弾盾で歩兵を押さえ付けて、動けないところへロケットランチャーを撃ち込んでいた。
「せりゃ!」
「はギッ――――!!?」
巫女侍はいつも通り大刀を振り抜くが、今回は人間相手に出したことのない危険な出力。奇妙な悲鳴を上げて、重装歩兵は天井と床を何度もバウンドした。
それでも立ち上がるが、足下はおぼつかない様子。
「ンムー、加減が判らんとデスねー」
「カティーの場合、中身が崩れてないかの方が不安になるー」
朱のアイシャドウで目元を飾る美人巫女が眉を顰め、三つ編み文学少女が物見高く手の平でひさしなど作り被害者を眺めていた。
すぐに使い捨ての無反動砲、パンツァーナックルでその重装歩兵を追い撃ちしていたが。
「行くぞ! 前進! 続け! ハーパーは他の部隊に連絡を入れろ!!」
「イエッサー曹長!!」
「クロー撃ちまくれ!!」
正面エントランスを強行突破する魔法少女部隊は、通路を突き進み検疫や入国管理を行う棟へ。
その広い待合ホールで、再びジアフォージ・アークティラの集団と会敵する。
エントランスの大騒ぎを聞いていた敵集団は、既に戦闘態勢だ。
「異端者どもだ! 討ち滅ぼせぇ!!」
「コンタクト!」
「クロー壁だ!!」
「イエッサー!!」
お互いが目に入った瞬間、間髪入れずバトルライフルと魔道器の撃ち合いになった。
黒ミニスカは白銀の回転拳銃を速射。前後が寸詰まりな小型装甲車、ガーディニウムを屋内に展開。
装甲車は正面を敵に向け、車体前方に搭載した軽機関銃で敵を攻撃。微速前進し、海兵もその後ろに隠れながら前進する。
「異世界の戦闘車が来るぞ! 破壊しろ!!」
「使役兵ども行け! 首を取ってこい!!」
ホールの長椅子が流れ弾で粉砕されるような射撃戦の中、魔道士らしき裾の長い衣の男に命令され、黒ずくめ達が走り出した。
身を屈め中央の戦闘エリアを迂回するように移動すると、不意にその姿が薄れ出す。
以前のバルディア王都ラバルドーズでも見た、光学的なカモフラージュだ。
「ヤベッ!? ステルスのヤツ! あたししかサーマル装備が無い!!」
「見えないなら丸ごと吹っ飛ばしちゃえー!」
「ダイナマイトいっきまーす!!」
「ちちちょっと待てぇ! 美由さんのは敵が肉片になる!!」
無差別攻撃で迷わず死刑執行に走ろうとする恐ろしい魔法少女ども、三つ編みと尻出しカウガール。
事態が事態なので雨音も一瞬許可しそうになったが、爆弾で爆殺するとかいう手段はギリギリまで回避したい。見た感じ鎧の重装歩兵ほど固くなさそうだし。
ならば、自分の非殺傷弾で大量破壊(矛盾)をかまし、一帯諸共被害甚大を覚悟して弾痕だらけにしてやろうか。
そんな迷いと決断を迫られる黒ミニスカだったが、
「我、古の目! その命のエレメンタムを正す者なり!!」
普段の有様と全く違う、朗々たる宣言が響いた。
風のような何かが吹き抜けたのを感じると、走り寄ろうとしていたジアフォージの黒装束たちの姿がその場に暴かれる。
「今!!」
この瞬間を逃さず、黒ミニスカは予備に背負っていたバトルライフルを素早く構えて即発砲。
カウガールの古式機関銃掃射と併せて、使役兵8人を一網打尽に下した。
それはそうと、いったい何が起こったのか。
ライフルに再装填しながら装甲車に背中を張り付ける雨音が見たのは、この嵐の戦場で鼻息を荒くしている緑髪のエルダー氏族たちだった。
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