0008:タイフーンシーズンの到来となれば台風の目である魔法少女にいったいどんな選択肢があるというのか
魔法少女近況:ペットの犬を何匹も散歩させるバイトあるじゃないアレを1億倍スケールアップした感じ(品詞
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異世界、西方大陸東部、イレイヴェン国。
王都トライシア沖、エルリアリ大湾。
銃身が三本横並びの、25ミリ三連装機銃が大空へ向け弾をバラ撒く。
ドンドンドンドンドンッ! と無数に連なる爆音。
輝く曳光弾が火の粉のように舞い上がり、空を飛ぶバスタブに似た物体を直撃していた。
バスタブに乗っていた兵士、魔導士が残骸に混じって、悲鳴を上げながら海上に落ちていく。
その海面を波立たせ、20ノット(時速37キロ)で航行を続ける全長100メートルの鋼鉄船があった。
日本旧帝国海軍の松型駆逐艦は、敵飛行物体に対し対空戦闘を展開中だ。
旗艦『トライシア』をはじめとする、『ディーベンガー』と『ファイハリア』、イレイヴェンの都市の名前を取った計三隻。
地球世界の日本(の魔法少女)から提供された、イレイヴェン海軍の主力である。
「砲塔旋回右5度!」
「俯角そのままぁ!!」
「左装弾よし! 右装弾よし!!」
「撃ぇ!!」
新米水兵が全速力で甲板上を駆け巡り、搭載された兵装を動かしていた。
鋼鉄船の艦尾側、二連装の砲塔が真横へ向けて火を噴き、水平に近い角度で砲弾を叩き出す。
一キロ以内という、海戦においては近い位置にいる攻撃目標は、魔導大国ジアフォージが繰り出してきた巨大な浮島、メガフロートだ。
イレイヴェン海軍の船は縦一列になり、回り込みながらこれを砲撃していた。
砲弾重量23キロ、砲口初速720メートル/秒の砲弾は、直撃コースに乗りながらも寸前で弾かれていたが。
それは魔導大国ジアフォージの魔道器、そして連合を組んだ神聖国アークティラの力によるモノだ。
一見して無防備に浮いているようだが、強固な守りは12.7センチ高角砲弾すら喰い止めて見せる。
更に、白い魔力の砲弾を飛ばし、反撃まで行っていた。
海上で激しい砲火が交わされる一方、空を飛び回り戦っている者たちもいる。
一見して旧式のプロペラ機、してその中身は最新の電子装備を搭載。
イレイヴェン空軍のSA-29は、リヤカーまたは馬の無い戦車のような飛行物体と激しい空中戦の最中にあった。
『エイス! 後方から荷車が2機追いかけている! こっちで片づけるぞ!!』
『クソォ後ろからとは卑怯なぁ! 正面からかかってこい!!』
『よし当たった! 敵が落ちる……落ちていくぞ! 哀れな!!』
宙を駆ける鋼と木の戦車。バスタブこと『輿』と同じジアフォージの乗り込み型魔導器だが、こちらは騎兵と似たような扱いらしい。単機ないし3機で動く機動戦力だ。
乗り込んでいるのは、ひとりからふたり。手にしているのは、槍のように構えて先端のリングから光弾を放つ魔導器である。
しかし、高度を変えはするが平面的な動きに終始するリヤカーに、縦横と立体的に飛び回るプロペラ機を捉えることはできない。
逆に、プロペラ機の左右の翼から前へ突き出た銃身、12.7ミリ機関砲の射撃を受けバラバラにされ、海へ落ちて行った。
大人数と大量の魔道器で押し寄せるジアフォージ、アークティラ軍に、地球製兵器で対抗するイレイヴェン海軍と空軍。
トライシア沖での2度目の戦闘は、双方が過去に例のない新型兵器を大量投入する大規模な会戦となる。
それを目くらましにするように、ジアフォージとアークティラ側から離脱する集団があったのは、ほかの者には全く知られていなかった。
◇
西方大陸東部、イレイヴェン、ローアンダー国境グラグツ台地。
クローディース領、選手村。
魔法少女どもは、東方大陸のオーランナトシアからダッシュで戻って来た。
瞬間移動能力者のゲートポータルを通れば一瞬で星の反対側まで来られるのだが、それはそうとダッシュで出てきた。
何せ、ジアフォージによるイレイヴェンへの本格進攻である。
それ自体は北方の国プラスイムを攻められた時から予想されていた事であり、迎撃準備を手伝っていた黒ミニスカとしても、とうとう始まった! と気が逸る事態であった。
「ど、どうなった!? …………あれ?」
そんなワケで泡を食って戻りはしたが、見回してみると比較的のどかな選手村内である。
「三佐も『警戒態勢に入ってはいるけど今は様子見』って言ってたじゃないのよ」
「まずは軍の本部に行ったほーがよくね? 三佐も米軍の偉いヒトとかもそっちにいるでしょ??」
ひとり慌てていたような黒ミニスカ、旋崎雨音が割と冷静なカウガールと三つ編み娘の方を恨めしそうに振り返る。完全に自分の醜態なので何も言えないのだが。
選手村は、まず当事国であるイレイヴェンの領土内にあり、クロー子爵こと黒アリスが領主としてこれを管理するが、日本の自衛隊と東西米国軍が治安維持活動を行っている区域でもある。
よって自衛隊と東西米軍が使う基地もあり、活動全般の命令はここから出されていた。
基本的に雨音の行動に口を出してくることはない、という事で、雨音の方も来たのは2度3度だけという場所。
一応入る権限はあるのだが、ガチムチの軍人ばかりが大勢出入りしているので、今もって非常に近付き難かった。
いつも護衛に付いてくれている海兵隊の『二等軍曹』ことダニエル・ブライ曹長に先導してもらい、魔法少女どもは選手村の一画にある半円筒形の建物に入った。手前にもセキュリティゲートがあり、警備は厳重だ。
選手村内は割と普通な日常風景だったが、大型倉庫を改装した司令部内は軍人が忙しなく歩き回り、緊張感のある報告の声が飛び交っている。
横で聞いている限り、やはりトライシア沖、エルリアリ湾での戦況についての内容が多いようだった。
例によって場違い感が半端なく、邪魔にならないよう隅っこで所在なさげにしている魔法少女の黒ミニスカ。一方で軍人の皆様も魔法少女を気にしているようで、視線が怖い雨音だった。
ドキドキして心細いので、なんとなくカウガール姉さんの腕にしがみ付いてしまっている。
好きなようにさせている荒堂美由は、あえて何も言わないが少し萌えていた。
「黒衣か。戻ったな」
「三佐! グッ……!? ちょッ、カティ何だ急に!!?」
「んナー」
しかし、間もなく二等軍曹が釘山三佐と戻って来たので、小心少女もホッと一息。
かと思えば、何やら背中から巫女侍の重量物がのしかかって来たので、黒ミニスカは前のめりになっていた。
何がしたいんだかよく分からんが真面目な場面ではやめろと思う。そうでなくても背やら胸やらデッケーのに。
「状況は聞いていると思う。ジアフォージとその西のアークティラによる侵攻がはじまった。現在はトライシア沖約10キロでイレイヴェン軍が応戦中。相手はメガフロートのような移動手段と例の飛行物体、それに新種の飛行物体で攻勢を行っている。
だがドローンの監視映像で見る限り、イレイヴェンに供与した装備が有効に使われているようだ。ジアフォージ、アークティラ勢力のそれ以上の前進を阻んでいる」
露出改造巫女装束の娘をオーバーライドしている状態なのだが、釘山三佐は一切気にする様子もなく、黒ミニスカに今の状況を説明してくれる。
だが重い。のしかかってくる重量ブツを投げ捨ててやりたいが、周囲の空気的にあまり騒ぎたくない。しかも抱き付かれているので振りほどけない。
雨音は何故か、潰されないよう踏ん張りながら話を聞かざるを得なかった。今回も順調に意味が分からない。
「にしても、アークティラ、ですかぁ……。西の端にある宗教国家? でよかったっけ??」
「参戦は微妙って話だったわよね? ジアフォージが応援をお願いするにしても、そもそも仲良くないんでしょう? ここらへん」
「うーん……まぁ利害が一致したってことだよねー。ナラキアの分割統治でも約束したかなぁ」
「我のせいやもな。少なくとも侵略の建前くらいにはしたか」
地球側と協調するナラキア地方は、異世界の平均的な技術力から見て遥かに強大な力を得ることになる。
故に、対抗するジアフォージがどこかへ応援を求める可能性は以前から考えられていた。
とはいえ、カウガール生徒会長が眉をひそめて言うように、プライドの高い自称賢者の国が助けを求めるような真似をするかは疑問であったし、アークティラは主義主張的にも対立する。
片や、世界を支配する資格を持つ最優秀の民族、片や世界を統べる神の意志の代弁者だ。
一方で、自国単独でのナラキア侵略が難しいという現実を受け入れられさえすれば、利害の一致という事で手を組むという理屈は不思議でも何でもない、という三つ編みさん、北原桜花。
神聖国アークティラは魔族を目の敵にしており、これも参戦理由として使われたのではないか、と魔王嬢ラ・フィン様はつまらなそうに言っていた。この後のことを考えれば当然面白くない。
「でー……こっちの米軍とかはどうするんです? あたし達はどうすればいいですかね??」
状況は理解できたので、少し落ち着きを取り戻す黒アリス。がっしりガニ股気味に巫女侍も背負う。なんか開き直った。
年頃のミニスカの格好に、お父さんみたいな三佐の目がやや細くなった。しかし生憎と軍事以外は専門外だ。
「トライシアへ支援を出すかはイレイヴェン本国と地球側の対応次第だな。こちらはその判断が出るまで警戒体制を取り待機することになる。
黒衣には領地の責任者として判断を求めることもあるだろう。避難にもポータルに近い方がいいだろうな」
現在のイレイヴェンは日本や東西の米国と協同歩調を取っており、非常事態にあっては応援を出す事になっている。
だがそれもイレイヴェンへの応援という形にするのが基本的な方針であり、イレイヴェンに代わりその防衛を請け負うという意味ではない。
よって、イレイヴェン軍が独力で対処しているうちは、地球側も様子見という構えだ。
そしてそれは、領主の黒ミニスカも同じようにするらしい。
「なんか……速攻準備して戦争かと思ったけど、そんな事もなかった」
「一応は戦闘に参加する立場でもないでござるからな拙者ら。一応」
それなりにテンション上げて帰って来たのに、ここに来てこの肩透かし感。
戦闘バカの鎧武者、武倉士織は面具の奥で悟りを開いたような面持ちになっていた。一般常識として女子高生は危ない戦場へ近付かせてもらえないのである。
イレイヴェンは軍はトライシア沖で防衛線を維持、東西米軍は大急ぎで出撃準備中、魔法少女の出撃はアクシデントが無ければあり得ない。
黒ミニスカの領主は選手村で待機し、万が一危なくなったら地球側へ逃げ帰る事になりそうだ。
でもだからと言ってこの非常時に何もしないのもなぁ、と思う雨音だが、
「黒衣、イレイヴェンとの協定によりポータルから選手村への移動、および治外法権となる選手村からクローディース領内の移動の許可は領主である黒衣の専権事項となっている。
地球へ避難した場合、その後の判断を代行する人物がいるだろう。申し送りしておいてもらえるとありがたいが」
「あ、そうですね。分かりましたお願いしておきます」
厳しそうだが非常に面倒見のよろしい三佐は、魔法少女への仕事を用意しておいてくれた。
女子高生だがイレイヴェン貴族の領主でもある雨音は、色々とえげつない権限を持っている。
とはいえ中身は平均JKなので、難しい実務とか無理。
よって実際に働いてくれているヒトが、選手村内には大勢いた。
クロー子爵が不在の折には、そのヒト達に後のことを任せなければなるまい。
そう考え黒ミニスカは司令部を出るのだが、大勢のケモミミ族がここまで同行していたのを、今になって思い出す事となる。
◇
初手、土下座気味の謝罪。ファミレスにテイルズ氏族のヒト達を置いていって、引き取りに行ったらえらい事になっていた。
店の従業員のヒトらも大変なご苦労だっただろう。悪い事をしてしまったと思う土下座魔法少女である。
「ウマい! 肉以外もウマい!!」
「熱いウマい熱い熱い舌が燃えるでもウマい!」
「ナマのようだがナマよりウマいぞ! でもこんなもんじゃいくら食っても腹に溜まらん! もっと持ってこい!!」
「チュルチュルは!? チュルチュルはないのか!!?」
先に軍の偉いヒトと話をしてくるので、ケモミミのヒト達には待っている間食事でもしておいてもらおう。
そんな事を思ったのは、常識的な判断だった、とは思う。
食欲に忠実な人種であるのを考慮し忘れていたのが致命的だったが。
おかげで、ファミレス店内は戦争状態であった。
何十人ものケモミミのヒトらがメニューの料理を片っ端から貪り食うのだから、その惨状たるや嵐が直撃した場外市場の如し。
「こういうところ野生のワイルド味あるよねー」
「これ……野生かしら?」
「みなさんもう行きますよ……。それと今後の交流考えて最低限のマナー仕込んでやるからな」
野生の獣のように食料に喰らい付いている、と言うよりは、お行儀の悪いお子様のような食べっぷり。
雨音は歯をギリギリさせながら、ご飯の時は散らかしちゃいけません、と躾をする決意を固めていた。東方大陸のれっきとした人類だけどもう知らん。
このような経緯で、経費は領主館の方に請求してください、と改めて頭を下げてファミレスを後にする魔法少女一同。
さてそれじゃあ気を取り直して、ケモミミのヒトらに選手村を案内がてら事後を頼む挨拶回りでもしてこようかね。
なんて能天気過ぎることを考えてしまったが、すぐに自らの浅はかさを思い知る雨音である。
「ウマそうなニオイがする! アレはなんだ!!」
「いやあんたらファミレスひとつ分もう喰い尽くしたろ。まだ食欲あるんかい」
「ぬ!? これは酒のニオイ! 強い酒精のニオイだ! 味わってみたいぞ!!」
「酒まで飲む気か。まぁファミレスのお酒じゃそんな種類もなかっただろうけど今はやめてください、地獄が目に浮かぶ」
「何か大きな音がする……あそこでは一体何が起こっているんだ」
「あ、映画館ですね。福利厚生の一環でやってる米軍の――――ってちょっと待って入らないでそもそも上映中!!」
「なにアレなにアレ!?」
「スゴイのドーンって飛んでったー!!」
「追いかけろー!!!」
「待てー! 戦闘機に追いつけるワケないでしょお子様方ー!!」
選手村の中央通りに出て間もなく、
バーベキュー屋の放つ香ばしい肉のニオイに引き付けられるケモミミ種族。
かと思えば、バーの酒のニオイに引き寄せられる赤茶毛のケモ長。
格納庫を改装した映画館から漏れる重低音に興味津々な黒毛のマッチョケモ長。
頭上を飛んでいく戦闘機を迷わずダッシュで追いかける元気なケモミミ子供たちである。
「ぬぁあああ者ども追えぇ!」
「らじゃデース!!」
「おっしゃー!」
「縄使っていいかしらー?」
「テイルズの者たちはなぁ……。目が正面についておるから」
好奇心に任せて勝手に動き出すケモどもが手にあまり、黒ミニスカの魔法少女ボスは配下を追っ手に差し向けた。
ケモミミを追う猟犬と化す巫女侍、飛び上がりマントの羽を広げる三つ編み吸血鬼、ケモミミ人類に魔法のロープをかけていいものか悩むカウガール、旧知の癖に残念そうなつぶやきの魔王嬢だ。
この後、大人の方は比較的簡単に捕獲できたものの、子供の方を捕まえるのに選手村内を駆けずり回る羽目となる。
他の魔法少女と違いフィジカル的には普通の女子高生と大差ない雨音は、早々に脱落して銀髪姫様や海兵とファーストフード店の屋外席でコーラ飲んでいた。
そんな騒ぎの最中、
「あらん……? この呪いのニオイは…………」
同じくコーラ飲んでた金色の毛並みのグラマラスケモ姉さんが、風に乗り流れてきた魔法のニオイに気付く。
最前線の気配は遠く離れた海の方ではなく、姿を隠し選手村と魔法少女たちの方へ、自ら近付きつつあった。
感想、評価、レビュー、いいね、今回の本筋までいけなかったので
次回ですね……




