0049:仕事終わりで事後処理に追われ次の予定が入り下着返すの忘れる
魔法少女近況:ヒトの命がかかっているからパンツ見えるとか言っていられないんですよだが三つ編みテメーはダメだ。
.
山口県で発生した豪雨被害に対し、県と政府はNGO『アルバトロス』へ正式に出動を要請した。
これが日本では史上初の、能力者集団による公式な災害対応ということになる。
同時にそれは、能力者が社会の異物ではなく、社会のシステムとして組み込まれる事も意味していた。
能力者のひとりとして、社会的に能力者が居場所を得るのは旋崎雨音としても望むところ。
能力者が世界に現れて、まだ一年。
犯罪行為に走る能力者は未だに多く、世論の評価はまだどちらに振れるか分からない段階だ、と心配性の女子高生は考えている。
そして、今となっては遺憾ながら、自分も能力者の代表格のひとりだ。
そう考えれば、あたしが一番ミス出来ない! と、いまさらながらに怯えはじめる安定の魔法少女であった。
◇
二基一対の回転翼が暴風雨を蹴散らし飛行している。
しかし、雨天を飛ぶのはヘリコプターではない。
ジャケットの変化した翼と、両端のエンジンナセル、後方に伸びる水平尾翼と垂直尾翼、そして中央に収まっているのはヘリの機体ではなく、黒いミニスカエプロンドレスの魔法少女だった。
銃砲兵器の魔法少女、黒アリスが第5の魔法で高速輸送ヘリを纏い、変身した姿。
SV-22『オプスデイ』戦略機動装甲である。
そして、手からぶら下げているスチールワイヤーが、全長8メートル全幅2メートル重量8トンのトラックに繋がっていた。
普段は華奢な少女でしかない黒アリスだが、レベル5状態となると身体強度も装備する兵器類と同等になるようだ。
高速輸送ヘリSV-22の積載重量は約9トンとなっている。
その一方で、魔法少女の表面積が小さいので風の影響も受け難い。
双発ローターの魔法少女は、地区の運動場にトラックを降ろし、自分も地上に足を付け変身を解除した。
途中で落したりせずに済み、ホッ……と一安心だ。
「ふぁー! もフンドシまでびしょ濡れデスよー! はよ中に入るネー」
「だから待っててもいいって言ったじゃないのよ。助かったけどさ」
ぶら下げていた荷物の上には、同乗者がいた。
露出改造の巫女装束を着たグラマラス美少女、巫女侍の秋山勝左衛門である。
飼い主の仕事のお手伝いだとか。
中身は、フンドシを愛用する古米国の、エセ日本フリーク娘だ。
雨に打たれ放題の魔法少女ふたりは、何台もの事故車両が仮置きされる運動場から地区の集会場へと入っていく。
コンクリート作りの大きな三階建ての建物で、現在は周辺住民も大勢避難していた。
三階には、県と警察と消防、それに自衛隊の人間が詰めている。
「いやー、暖かかったから良かったけど寒かったら地獄だね」
「んでも、ほったっとくとカゼ引くマスよ。はよ着替えた方がヨかデスねー」
逐一報告を入れているので、黒アリスと勝左衛門は地区対策本部のある三階には上がらず、救助活動も一回休みだ。
そもそも雨音は、アルバトロスの代表として県の災害対策本部で待機する予定だった。自身の能力特性的にも、災害対応などで役に立てるとは思っていなかったので。
ところが、人手の足らなさと重機が入れない場所にも入って行けるJKコンパクトサイズ、という諸々の理由により、先のような輸送を多く請け負うことになったワケだ。
濡れた路面でのスリップ事故、崖崩れで寸断される山道、重機無しでは撤去できないような倒木。
これらにも徒歩と人力で対応しなければならない状況だったが、ミリタリー限定魔法少女も、思いのほか活躍の場があった。
他の魔法少女、乗馬組のカウガールと鎧武者も、医者を連れて孤立した集落へと走っている。
未舗装の路面で馬は強い。言い換えると通常車両がアスファルトの路面以外で弱過ぎるのを、雨音は異世界でも度々見ている。
「あ、旋崎先輩。お疲れ様です」
「お、おつかれさまですー!」
集会場の中央通路に出ると、ちょうどそこに黒ミニスカの顔見知りが通りがかるところだった。
地味なショートの黒髪に、黒縁メガネ。比較的しっかりした体格の、素っ気無い性格の女子。
その隣には、栗毛をサイドテールにした小柄な女子。
雨音と同じ高校の風紀委員、蜂夜静と永福香里の2名である。
他の委員ともども、ボランディア出動してきたのだ。
ボランティアと言っても無給ではないので、バイト系女子の蜂夜静は割と喜んでいる。被災地域であり本人の性格もあって、それを表に出さないが。
なお、小動物系のサイドテール少女は、射撃した相手を起床ポイントに戻すという能力特性を意外な形で役立てていた。一種の瞬間移動である。見た目は良くないが。
「わ! 先輩ビショビショじゃないですか! 風邪引いちゃいますよ!?」
「着替えはあるんですか? 先輩方の場合は、変身し直せば元通りなのかもしれませんが」
「どうだろう……。まぁ一休みするからその間に乾かすよ。それでこっちは大丈夫だった?」
ズブ濡れで滴を落とす先輩ふたりを見て、地味ショートとポニテ小動物が眉を顰めている。
長い時間雨に打たれていたので本人は気にしていなかったが、言われてみれば少し寒くなってきた気がせんでもなかった。
それでも、休む前に連れて来た後輩の様子を確かめておきたいのだが。
風紀委員会の聖魔騎士とロボット兵器は、外で救助活動のお手伝い。多少心配だが、現場責任者の命令に絶対服従と言ってあるので大丈夫と思いたい。
肉体労働系少女とFPS少女、それに風紀委員会のビッグガーディアンは避難所で働いてる。
こちらも今まで問題が起こったという報告は受けていない。
「やることは普段のバイトと変わりませんけど、物の出入りの激しさが全然違うんで、なんか戦場みたいですね。ヒトもどんどん増えるんで、臨機応変の連続ですよ」
「家に帰りたいのでリスポンさせて欲しいってお願いされることがあるんですけど……わたしの能力銃に撃たれるのも結構痛いはずなんですよねぇ。
でもわたしの能力だと他にリスポンさせる方法なんてないし……」
とはいえ、やはり今年4月に高校生になったばかりの若人達。特別な能力があっても、被災現場での仕事は苦労しているようである。
昨年の5月6月を思い出すと、自分も結構な修羅場にいたとは雨音は思うが。
とりあえず、無理はせず疲れたら三階の休憩室に引っ込むよう後輩たちには言っておいた。アルバトロス用に一室確保しておいてもらったのだ。
一年生組の女子は大丈夫そうなので、他の仲間の様子も見ておく事とする。
通路の突き当りから体育館へ入ると、プラスチックの枠に張られた布製のパーテーションと、そこに入る避難した人々の姿があった。
近年の異常気象と災害の増加により、被災者の為の技術も大分進歩している。
だがそれでも、壁や天井、パーテーションの布に映像を投影するほどのテクノロジーは、まだ無いはずだった。
「スゲー……こう言っちゃなんだけど、ヒトは見かけによらんね。大吾くんを見るたびにそう思うわ」
「ムゥ……あのデカいの、ちょっとよく分からんトコがあるデスが……」
天井には積乱雲と青い夏空が、壁面には砂浜と海が見える。個人スペースを隔てる布には海中と泳ぐ魚が映し出されていた。
風紀委員会の『守護神』、大吾尊治の『触れ得ざる楽園』。
幻覚を見せるのではなく、任意の場所に投影する能力である。
それだけなら単純な能力だが、投影する範囲、場所、映像のリアルさとその汎用性は圧倒的だ。能力者の精神に触れるモノではないので、拒絶反応も出ない。
これが、息苦しい避難場所のストレス緩和に絶大な力を発揮していた。
本人は威圧感の凄い長身仏頂面男子なのに、この平和な能力は何なんだろう、と雨音は思わないでもない。偏見だという自覚はある。
「あたしも普段から使える能力にすればよかった、って良く思うけど、大吾くんのは特にだわ。お疲れ様」
「っス……お疲れ様っス、旋崎先輩、プレメシス先輩」
そんな嵐夜の篝火と化しているリーゼントの長身男子は、子供たちと遊んでいた。床板に模様を描いて足踏みゲームに興じている。
実際には遊んであげているのだろうが、懐かれている様子を見る限り、子供には無害な者が分かるということだろうか。
どちらかというと黒ミニスカ娘の方が子供に警戒されており、雨音は若干傷付いた。
「あー……どうでしょう大吾くん、こっちで問題とか起こってません? 避難してきたヒト達からは、気が休まってすごく助かるって好評みたいですけど」
「っス、そうっスね。気が紛れるって言われるのはいいっスけど、野球とかアダルトものを映せとか言われても困るっスね」
「んなもん自分のスマホで見ろって感じ……」
被災しても割りと余裕のあるヒトもいるようで、能天気なリクエストに黒ミニスカの目も半眼になる。
そもそもそういう映像を避難所という比較的風通しの良い場所で見たがるという神経がよく分からない雨音であった。
ウチの風紀委員を動画配信サービスに使わないでほしいとも思う。
「エッチなのは本物をこっそり隠れて見るのがいいんじゃんねー。ってせんちゃん雨のせいでパンツがエグいことになっとるー」
そんな事を考えていたならば、三つ編み吸血鬼の北原桜花雨音の背後にしゃがみ込んで黒ミニスカをまくっていた。
避難所担当で風紀委員の1年生を見ていてもらう事になっていたが、誰がそんなもの見ろと言った。
「北原さん……誰もトラブルには遭わなかったみたいですね。ありがとうお疲れ様」
「おおっとぉ好感度下がって呼び方が苗字に後退ー!? そんなせっかく一年かけてせんちゃんの親密度上げたのにー!!」
「オーカが自分でしたチョイス、としか言いようがないデスね」
冷え冷えとした目の黒アリスから見下ろされ、絶望的なビックリ顔になる三つ編み。スカートはめくりっぱなし。
これはマジなトーンだと経験上理解している巫女侍も、今回は怒りよりも呆れが先に立った。
レアキャラほど育成経験値が多く必要となるのだ。
泣いて(擬態)縋りつく三つ編みを冷酷に引っ剥がす顔真っ赤な黒ミニスカ。どうにか三つ編みを囮に自分も嫁の濡れパンを見られないかと素知らぬ顔で知恵を絞る巫女侍。
そして、風紀委員の百合の守護者は、子供たちを連れ能力を使った完全ステルスでその場を離脱した。
尊い百合空間において、いない事になっている異物は速やかに去らなければならないのである。
大吾尊治の能力はレベル2になった。
◇
六月第3週の日曜日。
午後6時33分。
山口県野月市、市民会館前。
土曜、日曜とアルバトロスの能力者総出で災害対応にあたった結果、山口県における豪雨災害はかつてない早さで終息の見通しとなった。
水没地域の水は近くの阿武隈川に投棄され、孤立した住民は全て救助、寸断された交通路も仮復旧し、流通が戻り生活援助物資も入るようになっている。
壊れたままの生活インフラもあるが、生きるか死ぬかの急場は脱したと言って良い。
「というワケで撤収です。後は県の方で引き継ぐということですが、個別に協力を求められてるヒト以外はひとまずお疲れ様でしたー」
黒ミニスカ魔法少女も、NGO代表として能力者や職員にシメの挨拶をした。
アルバトロスに求められた仕事は、最も緊急性の高い初期の対処だ。
強力な能力を使う能力者たちではあるが、人間である以上疲労は溜まる。三日連続で働いていたのだから、疲労もそれなりだ。
現状維持が必要な能力者以外は、ここでお役御免となっていた。
「あー疲れたー。歌舞伎町あたりでパーッとやるかぁ?」
「いやー適当な鳥民でいいわ」
「滝本さん一緒に飲みに行きませんか!?」
「ごめんなさい今日の最終便に乗りたいのでー」
「ラーメン食べたい。それと冷酒。そういう気分」
「黒アリスさんも景気付けにどうです!?」
「いや黒アリスさん高校生なんだから誘っちゃダメだろ」
瞬間移動能力の東京直通ゲートポータルへ、アルバトロスの関係者が次々入っていく。
この能力者であるワープシックスも、疲れからか普段の軽さが見られない。三日間フルで働いているひとりであった。
災害対応で大活躍した能力者たちは、一度品川のアルバトロス本部に戻ってから解散。その後に、食事やお酒を楽しむようだ。
疲れはあるが充実感もあり、良い席になりそうである。
雨音は未成年な上に責任者なので夜まで居残りするが。
「大変お疲れ様でした、旋崎さん。他に残っていただく方もいるので、大変お疲れでしょうがもう少しお願いします」
「はい大丈夫です。何かあったら出ますので呼んでください」
「いやいやもう旋崎さんを働かせ過ぎてますから。釘山三佐からも酷使しないように念を押されてますので」
災害派遣されてきた自衛隊員のサラリーマン風なおじさん、茂木田三佐が黒ミニスカのお嬢さんを気遣ってくれる。
本来は災害対策本部で大人しく座っているのが雨音の仕事なはずだったが、終わってみればほぼ現場一本であった。
転がってきそうな大岩へ戦車砲ブッ放す事態になるとは思わなかった。
緊急に対処しなければならないことは無くなったが、現在も被災者の治療に当たる医師や医療関係者、あるいはまだ外で動いている能力者を待たねばならないので、黒ミニスカも暫く待機だ。
帰りは夜中になると思われる。
地区集会場のエントランスを通りがかると、そこに置かれた大型テレビで山口県の被災地域における能力者の活動が放送されていた。
個人の能力に依存する安全保障の危険性、災害対応の責任を能力者個人に負わせる事への危惧、などという想定された論調はあったが、概ね迅速かつ強力な対応に肯定的な意見が多く見られる。
雨音としては一安心だが、政府の方も今回の結果を受けて今後の防災政策を大きく転換させると思われた。
「やれやれこっちは問題なく片付きそうか……。能力者の社会参加の二歩目ね。次はナラキアだなぁ……」
「せんちゃーん……そろそろパンツ穿かせて欲しいんだなぁー」
「ふぇえ……もうおヨメに行かれんごなりマシたヨゥ……」
スカートや緋袴を手で抑え、元気のない草花のように萎れている三つ編みと巫女侍の馬鹿二匹。
二日前から腰部装甲値に大幅なデバフがかけられており、機動力も大幅に制限されていた。
例によって自業自得なので、雨音は一顧だにしない。怒りに任せてエラい事させているとは思うが、大人しくさせられたので良しとした。
用意された控室で湯呑を傾けながら、テーブル上のお茶菓子に手を伸ばす黒ミニスカ。
県庁職員の方の話だと、ミカンを丸ごと砂糖に漬けて中に羊羹を流し込んだお菓子や、デフォルメされたフグの見た目が可愛いカステラなど、山口県の銘菓を用意してくれたらしい。
気を使わせているようで恐縮だが、帰ったらネットで探して買おうと思う。
6月の日没は遅く、窓の外は雨模様ながらまだ明るかった。雨足も大分弱くなっているようだ。
へにゃっ、となっている桜花とカティも大人しくお茶すすっている。下半身が頼りない事この上ないので、動きたくないようだった。
「あ! 旋崎先輩見っけ! お疲れさまでーす!!」
「あれ!? 扇売さん、他のヒトと帰らなかったの??」
さて待機がお仕事になるが暇なので領主様のお仕事でもしましょうかね。
そんなことを思い携帯を取り出したところで、控え室の入り口にヒョコッと顔を出したのは風紀委員会のアイドル系女子、扇売姫新であった。
風紀委員のボランディア学生は東京に全員帰したと思ったが、このアイドル系は残っていた医療能力者の先生を手伝っていた、という話だ。
帰還したヒトの名簿は確認したのになぁ、と首を傾げる黒ミニスカであるが。
「今回も先輩たち大活躍でしたねー! テレビでも日本の奇跡だってニュースになってるみたいですよ! さすが日本一の能力者!!」
「日本一かどうかは知らんけど想定された被害の100分の1に抑えられた、って言うのは、まぁまぁじゃないかな、とは思う」
「おや、せんちゃん的には今回のお仕事は100点満点って感じじゃござらんと?」
「んー……そりゃこれだけスゴイ能力者が集まって被害にあたったんだから、これくらい出来て当然っていうか。
初めてのケースだから仕方がないんだろうけど、消防や自衛隊のヒトとの協力がスムーズに行かなかったり、やり方に無駄が出たり、ってのが結構目立ったし。
でも何度かやれば、そういうのも減ってくるかな?」
手放しに褒めてくる可愛い後輩に、素直じゃない返事をしてしまう黒ミニスカ先輩。すました顔も半分は照れ隠しである。
だが、もっと上手くやれた場面が多かった、というのも正直な感想だった。
公的に能力者を災害現場に派遣するのも、派遣される現場も、これが最初の事例という意味では上手くやれたとは思うが。
能力者の社会参加も、それによって生じる問題も、これからの話だろう。
雨音はとりあえず出来る事を全力でやる、という当たり障りのない方針で思考を停止させた。もう疲れたんです。
「これで帰ったら打ち上げですねー! 楽しみでーす!!」
「うん…………うん? なんて??」
バッテリーが限界魔法少女なので集中力も切れていたが、話題の変更に意識が引き戻されていた。
アイドル系風紀委員の言う『打ち上げ』というのは、以前から委員会の新入生歓迎に絡み実行を求められていたイベントだ。
特にこの後輩、扇売姫新が強く希望している。
結局その辺は委員長に丸投げしたと思ったが、まだ決まっていないようだった。
「なんだっけ? シーパライゾのレストランだっけ? ……いっそ今回の打ち上げを兼ねるならアルバトロス総出でやるのもいいかもなぁ」
「おおー、マジですかせんちゃん。そんな盛大にやっちゃう?」
「ま、案のひとつとして……。後で三佐に相談してみる」
忙しいので先延ばしにしていた風紀委員の新一年生歓迎会だが、やるなら一仕事終えたこのタイミングかと。
ならば、アルバトロスもボランティア参加した風紀委員も災害対応をがんばったのは同じなので、全員でお疲れ様会をやろうかと雨音は考えた。
それを三佐に電話して意見を聞くと、特に問題はなさそうだから良いのではないか、とのお言葉。
この連絡の際に、ついでに今回の救援活動の報告書を求められ、雨音はグダッとテーブルの上にノビた。
ノーマーシー。
感想、評価、レビュー、寒暖差の激しい日が続きますが体調にはどうぞお気を付けご自愛ください、




