0043:功罪併せ持つ異世界デリバリー業とカスタマー
魔法少女近況:クレジットカードとか絶対教えられない……
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六月第1週の金曜日。
午後5時05分。
日本、東京都千代田区。
異世界、西方大陸の雄、魔導大国ジアフォージによるナラキア地方侵攻。
その戦火を真っ先に被った国、プラスイムにて占領された交易都市を、動きの鈍い地球側に代わり魔法少女たちが偵察に赴いていた。
そこで目にしたのが、事前の想定を圧倒的に上回る、ジアフォージの装備や戦力の規模である。
地球側の政府には、異世界には魔法こそあれ文明や軍事技術的には遅れている、という認識があったはずだ。
しかし、今までのナラキアや南の砂漠の国ダソトとの争いでは見せなかった魔道器の大量投入や、中国軍から鹵獲したと思われる近代兵器を実戦配備しており、地球の軍とも戦えるだけの戦力を整えている。
というのが、実際にジアフォージの軍に尻を追い回された魔法少女、黒アリスたちの見立てだった。
「中国軍が大きく損害を受けたというのも、その辺が理由かな?」
「外交筋から入ってきた話と合いますね。新兵器の投入だけではなく、他勢力らしきどこからかの応援を受けた、と思しき情報もありましたが」
「たとえ東西の米軍であっても、派遣されれば人的被害は免れないということかね」
報告を受け、総理をはじめとした内閣と与野党議員、自衛隊の統合幕僚長以下幹部、各省庁の事務方トップ、それに東西米軍のオブザーバーである高級軍人といった面子が、首相官邸に集まっていた。
ナラキア地方との国交窓口としての日本と、これに乗っかる東西両米国による緊急の対ジアフォージ協議である。
そして、報告者である黒ミニスカ、旋崎雨音と仲間たちは、部屋の隅で大人しくしていた。
「既に有望な資源や新種の資源のサンプルも見つかっている。株価を見てもマテリアルやエネルギーだけではない、関連他業種の株も高騰しているのだよ。ここでナラキア開発に水を差したくはないねぇ」
「イレイヴェンは戦闘地域に該当を?」
「イレイヴェンは南部になりますから戦闘の起こっている北部とは距離があります。ですが、10年ほど以前の記録にジアフォージがイレイヴェン、ネメラス、バルディアに接する内海に進出してきたというモノがありました。ジアフォージが海路を選択しないと楽観する根拠はありません」
「そこは当事国の防衛の責任だろう! どうなっているのかね!?」
「イレイヴェンはナラキアの安全保障条約に基づきプラスイムへ派兵を決めています。領海の防衛についても当然考えがあると思われますが……」
「『思う』じゃダメだろ。確実にコンセンサス取っていかないと」
「は……直ちに担当から先方へ確認を……」
「で、ナラキア共同体は領土を防衛できるのかね。国力差は大きいと聞くが?」
「防衛できるにしても、我々が何もしないワケにはいかないでしょう。対外的にも態度を明確にしなければ、内外から国交の正当性を問われかねません。ポータル共同管理の話を蒸し返されることも……」
「イーストとウェストは、派兵についてはどうなのでしょうか?」
会議参加者の関心事は、ナラキア地方の平和や独立性というよりは、地球との交易にあるのが実際のところだ。
一方で、派兵や援軍などの直接的な行動の意見は出ない。
地球における国際関係、国内法、または世論的に軍事力の行使が難しいという背景はあるが、女子高生から見ても面倒ごとを厭う内心が透けて見える気がした。
その後、議論は経済優先という方針を各人が確認し合い、事態が鮮明になるまで政府としての公的な発表も控える、という話に纏まって来た。
それはいつの事になるんですか? と聞きたいJKだ。
そして、異世界情勢について積極的に発信しているNGO『アルバトロス』に対しても、あまり過激な情報を流すのも控えてほしい旨お願いされた。
知ったことか、と死んだ目をした雨音は言いたかったが、事が戦争に直結している以上、迂闊な返事も出来なかった。
◇
六月第1週の土曜日。
午前10時11分。
ナラキア地方、ネメラス国。
煮え切らない地球側と異なり、ナラキア共同体側の国々は、ジアフォージとの戦いに全速力で備えていた。
地球側の国家はこれに介入すると決めていないが、ナラキア各国から前線となるプラスイムへの兵士の移動は、整備途中である航空網が用いられている。
大型旅客機の座席に、兜や鎧を身に着けたお客様がズラリ座っているワケだ。
なお剣や槍は手荷物として預ける事になっている。
当然ながら旅客運賃は必要となるのだが、国民からは分かり辛く地球側政府からの援助が入っていたりするので、現時点で既にナラキア共同体へ加担していると言えなくもない。
「ワシなんかもう100回は乗っちゃったかもしれん! 1000回だったかもなぁ、どう思うナレージ!?」
「そんなに乗ってはいませんが、今の座席が貴重な状況でオヤジ殿が席を独占しているのは非常に無駄でした。ジアフォージとの戦争が落ち着くまでは控えてください」
と、豪快に笑って言うのは、少し背が低めな初老の男性だった。
ただし、陽気な笑みを浮かべる顔は刀傷だらけ。アゴヒゲは剃り残しが目立ち、焦げ茶の髪は鬣のようにワイルドに広がっている。
その体躯は、筋肉の固まりだ。筋トレなどではない、戦闘の繰り返しだけで削り出された肉体である。
そんな覇気漲る漢の隣に立っているのは、一転して背が高く理性的な二枚目だった。
後ろに撫で付けた髪は癖の無い白銀。瞳は赤茶。どことなく某銀髪姫の姉妹を思わせる美しい容貌。
ネメラス国の王、ドーガル・ネス・マクドラドと、息子のナレージだ。
日本留学中な山男風の王子、ナイザルの父と兄になる。
国王陛下の最近のブームは空の旅らしい。
兵の輸送に混じってプラスイムやバルディア、選手村を行き来しているとか。
常に満席状態の旅客機にあっては、たった一席でも遊びに使う余裕は無く、軍務担当の長男が冷たい目をしていた。
なお親子仲は問題ない。
「異界の力恐るべし! だが今までの理屈が通じないのは面白い! 多くを学べよナイザル!!」
「分かってるよオヤジ殿。だが俺はこっちで戦わなくていいのか? あの魔道貴族どもをエルリアリの同盟を挙げて叩き潰そうっていうんだ。俺も轡を並べたいが」
「異世界と我が国の繋がりは、今後それ以上に重要になるというだけの話だ。実際、異世界への対応で今の共同体はそれほど互いを警戒しなくてもいい。空路で兵を移動させる負担も少ない。お前ひとりいなくても、どれほどのものでもない」
異世界留学中のナイザルは、自分も対ジアフォージ戦線に加わらなくていいのか、と言うが、父と兄は今の役割こそが重要だという。
勇猛にして命知らずの戦士の父。同じくらい優れた戦士でありながら、ネメラス人らしくない知性派の兄。そして王子の身分でありながら最前線で戦うナイザル。
ネメラスは血と絆によって強固に結ばれた国であった。
王族一家を傍で見ている雨音としては、最近のネメラスの財政が気になって仕方がなかったのだが。
魔法少女の黒ミニスカ一行がネメラスに来たのは、ジアフォージとの戦闘を前にナラキア各国の様子を視る為だ。
日本は無論のこと東西の米国も、派兵には積極的ではない。
雨音は政府の人間ではないが、日本の一般人でイレイヴェンの爵位持ちで、と立場がちょっと微妙な為に自分の動きを決めかねている。
そしてジアフォージはというと、SFかというような軍事力を整え既に侵略を開始しているのだ。
ナラキア共同体がどの程度本気でどれだけ対抗できるかが、雨音は不安で仕方がなかった。
そんなワケで各国にお邪魔する前に最近の資料など目を通してきたのだが、そこでちょっと看過できないデータが。
「それでですね、ドーガル様。ご利用いただいている通信販売の購入額がですね、ビックリするような額になっているんですけどそれは大丈夫ですか?」
黒ミニスカが恐る恐る尋ねるのは、NGO『アルバトロス』と政府が共同で運営している、言うなれば地球物産店のインターネット通信販売の利用状況についてだ。
ナラキア地方の通貨取得や、王族を中心とした地球文化の周知と浸透、裏の目的としては王族の国内における意思統一の支援や親地球派を増やす事など。
そういった主旨で、ナラキア共同体の一部の人間が、地球の品を簡単に購入できるようなシステムを提供している。
これが、大変ご好評いただき過ぎているという話だ。
霞ヶ関とかその辺の誰かこういう事態になると思わなかったのか、と要らん心配せねばならなくなった雨音は言いたかった。
あるいは、これも狙い通りかと邪推したくなるが。
「おおそれよ雷神殿! こないだアレよ、そっちの世界中から酒を取り寄せてなぁ、これがまた美味くて美味くて樽をあるだけ買い占めちゃった!」
「だからそれがヤバイって言ってんですよドーガル様」
商品カタログ片手に豪快に笑うクマのような王様に、思わず半眼で物申してしまう黒ミニスカ。
税金の補助だ免税だで大分お買い得になっているとはいえ、ひと樽100万円以上するウィスキーを百も二百もご購入いただいている(国)ネメラス様。
そんなに酒ばっかり買ってどうするんだ飲むのか飲むんだろうなぁこの国のヒト達。
その結果として購入総額が目ん玉飛び出そうな事になっており、何故か雨音がネメラスの懐と肝臓を心配する下りとなっているのだ。
実はこの傾向、ナラキアのどこの国でもある。
現在戦争最前線のプライスイムは、食王紳士の丸いおじさんがハムやらカニやら肉やら三大珍味やらの高級食材を買い漁っている。国があんななのに緊張感無しだ。
バルディアも、高級菓子やブランドの衣類、宝飾品、家具といった物を多く購入している。
ショルカーでは医薬品、化粧品、健康食品といった物への強い関心が見られた。
アンボローでは保存食品携帯食品の他、防寒グッズが鬼のように購入されている。
そのいずれもが貿易額というほどの規模ではないが、それでも王家の財政圧迫を懸念しなければならない出費となっていた。
問題は、それをどこのお家もそれほど深刻に捉えてないという部分であろうが。
やっぱり本質的にやんごとないヒト達なんだなぁ、と再認識せざるを得ない魔法少女どもである。
「ホントに気に入って買っていただく分にはよろしいと思いますし、販売元も嬉しいとは思いますけど。買い過ぎてお金が無くなるなどという事にはならないようにお願いしますね?」
「なーに大丈夫大丈夫金はまた稼げばいいが! なんならちょっとばかし上納金の値を上げりゃいいがなぁナレージ!!」
「なに言ってんだバカ親父」
「ダメですよ」
自分の贅沢のために税金上げるとか日本人が聞くと発狂しかねない事を仰るザ・キング。
上品そうな長男と雷神クローから同時にツッコミが入った。
これで本人に悪気が一切無いのが恐ろしい。下々への認識が地球と違い過ぎる。地球も大概だが。
こうして雨音は、ナラキア各国で王様たちに無駄遣いしないようご注進申し上げるハメになったのだ。
また、地球の物を氾濫させると、地元産業を圧迫しかねない。
文化の理解を深めるとか業界の要請とか地球側の意図も分かるのだが、そちらはそちらで政府補助が税金を使った一部企業の恣意的な利益誘導だとか不当廉売だとか他の企業から非難が上がっているし。
戦争前に何でこんな事で気を揉まねばならんのだ、と思う黒ミニスカ。
そして間もなく、自分がそんなレベルではない事に手を染めるとは、この時点で想像も出来ないのである
◇
六月第2週の日曜日。
午前8時30分。
ナラキア地方イレイヴェン。
太平洋ポータルを通り異世界に来た地球人の多くが、選手村に続いて訪れるのがここ王都トライシアである。
同都市はナラキア南部では最大の都市であり、言うまでもなくイレイヴェンの中心地だ。
エルリアリ大湾を西に接する古都トライシアは、その風情を以って地球から見て異世界を代表する都市にもなっていた。
その王城の一室で、もう日も高いというのに爆睡している魔法少女である。
基本的に夜明けと共に活動をはじめる異世界の人々。
そんな中にあって、この時間まで寝ているというのはナマケモノの誹りを免れない行為だ。「よくお休みになれましたか?」とかいう挨拶の1割はだいたい嫌味である。
とはいえ、救国の英雄にしてナラキアの為に多忙を極める魔法少女の黒ミニスカに、そんな心無い言葉を叩き付ける者などいやしない。
ジエン国王からの配慮もあり、メイドさんたちも優しく見守るのみであった。
「ぐむ~…………」
ベッド上でシーツに包まり謎の鳴き声を垂れ流しているのは、金髪黒ミニスカではなく日本原産の黒髪JKであったが。
起きたくないでござる。
先日まで大変だった。金銭概念の無い貴人の方々に浪費の危険性とその後の弊害を理解してもらうのが本当に大変だった。
所詮雨音は普通の家の子。偉いヒトと話していると、時々こういう常識の壁が立ちはだかるのを実感している。
これに関して、購入した高級品のことで楽しそうに王様方とお喋りしていやがった魔法少女お嬢様どもも共犯である。許すまじ。
買い物が過ぎて知人が破産、とかいう事態になったら目も当てられないだろう。
財布気にせず買いまくって身代潰した貴族やらなにやらが実在した過去に学びやがれ、と言いたい雨音だった。
大らかで高貴な身分のヒト達の悪癖だと思う。
そして、どうして自分はこんな戦争関係ないことで疲れているんだろう。
そんなことを思い返しているうちに目も覚めてしまい、ついでに妙な感覚にも気付いたので、雨音は床を引き払う事とした。
ついでに、自分を前後から抱き枕にしている金色のと銀色のも叩き起こさねばなるまい。
特にお尻に抱き付いているこの国のお姫さま。エアリーには王女としての品性や矜持というモノを問いたかった。
「起きるよー朝だよーほらカティもエアリーも起きなさいよ。あとアンタらいつの間にあたしのベッドに潜り込んだ?」
ふたりがかりの拘束から抜け出そうとしつつ、覚醒を促そうと身体を揺する寝ぼけ眼少女。
すると、金銀どちらも振り落とされないようにいっそう強くしがみついて来やがった。
「んやぁー……ぬくぬくでアマネのニオイがほわほわなんデスー……」
「クローの香りぃ……」
「いやニオイとかやめろエアリーは特に位置がマズイ」
顔を埋めてこすり付けてくるバカふたりに、致命的な予感を覚えてグリグリ身を捩り逃げようとする雨音さん。ニオイがどうとか洒落にならない銀色のとか。
朝っぱらから割りと必死な大脱出に挑む冷淡JK。表情はいつも通り素っ気無いが、全力感が滲み出ている。
ひと塊になった少女3人は、真ん中のがクロコダイル張りのデスロールをしてベッドから落ちたところで、外で待機していた女騎士とメイドさんに救助された。
なお、三つ編みが珍しく大人しくしていたと思ったら、前夜に雨音が涎垂らして寝ている顔をスマホに納めていたとかで、その後追撃を受けていた。
◇
トライシアは王都でありながら、港町でもある。エルリアリ大湾を海路に用いた交易は、イレイヴェンの財政に少なからず貢献していた。
ナラキア地方の中心といえるバルディアとのアクセスの良さもあり、当事者の気持ちはどうであれ、両国の繋がりは弱くないと言える。
一度は婚姻による関係強化の話が持ち上がったのも、その辺が理由であろう。
そして現在、トライシアの港には地球側からも観光資源として注目が集まっている。
「だからって……これは、なんか違わなくない? これ発案したの誰??」
「ギャップが酷いわねぇ草生えそうだわ」
「『草』?」
「面白いって意味やねー」
港と都市部を隔てるレンガ造りの通路、その壁面に沿って作られたお洒落なカフェ風の飲食店。
そんなテラス席の目の前は、殺気立って行き来する海の男達が大迫力である。
明らかな設計ミスだ。
日に焼けた上半身裸のマッチョな海の男がテーブルにぶつかってるし。
あたりに充満する潮と魚の臭いも強烈である。
一体誰がどんなコンセプトでこの店を作ろうと思ったのか。地球側の意匠が垣間見えられるところから、現地責任者とアルバトロスの現地分室があかん化学反応でも起こしたのであろう。
黒ミニスカの子爵はテーブルを手で押さえて防御壁を維持し、ワイルドカウガールはお行儀悪くテーブルに脚を乗せて面白そうにし、三つ編みは朗らかに笑って距離を取っていた。
せっかく来たので久しぶりに街中を見て、昼食もそこで摂ろう。
そんな感じではじまったトライシア行であったが、店選びはいささか失敗した感が否めず。
と思いきや、注文した赤い海鮮スープとソフトな味わいのサクサクパンは、出汁味も魚の美味しさも結構なモノであった。
この店構えでこんな美味しい料理が出てくるとか、もはや一周回って面白く思える。
観光ガイドに載せたいレベルだ。
「上品な味ですね。シェフは入る厨房を間違えているのではないでしょうか」
「このパン、スープをすんごい吸うね。食べるスープって感じ……美味しい」
「マイアミにこんな所ありますよね、曹長」
「どっちかというとワンダーランドじゃないか? 見ろよアレまんまパイレーツオブキーウェストで笑えるぜ」
戦場の本陣にでも腰を据えているような鎧武者は、すぐ横の雪崩のような喧騒を意に介さず食事を続けている。雰囲気ありすぎて大雑把な海の男達でさえ避けていた。
海兵たちも一緒に食事をしているので、荒っぽさでは実際良い勝負であろう。
そしてエアリーは地元料理の好評ぶりに、地球側に負けてないぞ! とひっそり優越感を得ていたりする。
「おわぁ!? カティこらお行儀悪い! 指まで喰う気か!?」
「チッ……チョットあさかったネ」
「なんだとこ――――ラー!!?」
「もにゅもにゅウマウマ」
「キサマ三つ編み!? あとエアリーは狙うんじゃありません!!」
黒ミニスカがバゲットをスープに浸して食べようとすると、無駄に素早い動きでバクっと喰い付く巫女侍。腕ごと喰われそうな勢いが地味に怖い。
それにお小言いいながら黒アリスが次を取ると、下から忍び寄った三つ編みに釣りで餌取られるが如く奪われる。
真剣な顔してタイミングを計る銀髪娘は、流石に阻止した。
エアリーは悲しそうな顔をしていた。
◇
この国の姫様(妹)が捨てられた子犬のようになっていらしたので、雨音は罪悪感に負けて餌付けした。飼いきれない動物に餌を与えてはいけないのである。
そうして昼食を終えてから、さてこの後どうしよう、という話になった。
今回はナラキア各国の様子を見に来たが、最前線となるプラスイム以外はそれほどの混乱も起こっていない模様。
東西米軍は最終的に派兵はするだろうが、今はまだ議会に諮る前の調整の段階である、と。本格的な戦闘となる前に、間に合えば良いが。
そして雨音は、迂闊に戦争に首突っ込めない。相手は怪物ではなく人間なのだ。
国家相手の殴り合いとか一生に一度で十分なのである。
結論としては、戦争関連で今のところ出来ることもない。
これはもしかして今のうちに魔王さま案件を片付けるところなのか、と三つ編みの隣に座る羽付きお嬢様を窺う黒ミニスカ。視線で気付かれたらしく、艶然とした支配者スマイルを向けられて小心者がビビった。
さりとて、移動の足である瞬間移動能力者には、夜にでも迎えに来てくれと言ってある。一日中拘束するとかわいそうなので。
よって、移動手段的に東方大陸に行くのはちょっと厳しい。
しかし選手村まで戻るのなら黒アリスのヘリでも十分なので、エルダーの地球行きの相談でもしておこうか。
などと、甘いお茶を飲みながら、至近距離の港の活況を見てぼんやり考えていた雨音であるが、そこで周囲のざわめきが少し変ってきたのに気が付いた。
「ん? 事故かなんかかな? エアリー??」
「どうかしら……? ジェラ??」
「確認させます、お待ちを」
海の男や港の労働者の上げる戸惑い混じりの音に、嫌な予感を覚える魔法少女。過去何度か触れた空気である。主にここ一年以内に。
イケメン麗人騎士が目配せすると、目立たず近くに控えていた兵士数人が走っていった。当然ながら、イレイヴェンからも護衛は付けられている。
海兵は浮ついた雰囲気を消し、装備を確認していた。アサルトライフルの装弾を見ていつでも発砲できる態勢だ。
「あたしもちょっと見て来ようかなー」
「桜花、通信機持ってるよね?」
「はいはーい行って来るー」
三つ編み吸血鬼が大量のネコ顔コウモリに分裂して空に飛んでいった。周囲はカフェの立地間違えてるだろうと言うほどの人混みなので、普通に歩いて状況確認しに行くのは一苦労だ。
自分もドローンを出して様子見してみるかな。
その場から動けない黒ミニスカが、落ち着かない空気の中でそんなことを考えていると、
「おいアレアレ! 飛んでるぞ!!」
「また異世界の船か!?」
「アレは……艦隊じゃないのか!?」
港の誰かが海上の空を指して叫び、大勢の目がそちらに向けられた。
黒アリスもテラス席から人混みの境にまで行き、背伸びして人々の頭越しに空を凝視する。
そこには、どこかで見たバスタブみたいな飛行物体が無数に浮いていた。
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