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いまさら魔法少女と言われても  作者: 赤川
Wave-03 吸血鬼は文学だけにしておくべきかと
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0008:どんなジャンルでも派閥間の溝は深い

 現代の創作物による吸血鬼ではなく、特に古典吸血鬼を好む愛好家(フリーク)は、そのスタイルに(こだわ)りを持つ者が多い。

 トランスやラップのBGMを背負い、ストリートファッションで統一したチンピラの様な吸血鬼(ヴァンパイア)集団。そんな物を古典吸血鬼(ヴァンパイア)愛好家は認めない。血を吸うだけの、街に寄生するダニだ、とまで言う。

 吸血鬼とは()くまでも優雅であり、孤独であり、恐ろしい力を持ちながらも哀愁に満ち、そしてBGMといえばオペラかクラッシックに決まっている。

 そして服装も、ストリートどころかカジュアルな物だって認めない。貴族が社交界に出ても恥ずかしくないような、中世の礼服と相場が決まっていた。

 まさにそんな姿をした人影が、建物の陰から影へ、屋根から屋根へと高速で移動しながら、ふたりの可憐な少女へと、徐々にその距離を詰めていた。


                        ◇


 雨音の持つ特別な能力――――――ないし魔法――――――の大きな欠点として、その派手さ(・・・)がある。

 作り出す物が派手、その効果が派手、発砲音も派手、ついでに雨音の変身後の格好も派手。正体を隠す意味がない。

 そんなド派手な魔法を、静まり返った住宅街のど真ん中でブッ放そうものならどうなるか。2度の銃乱射事件が起こったここ室盛市ならば、0.5秒で警察へ通報が行くだろう。そうでなくても移動にも派手なクルマを使うと言うのに。

 必然、魔法を使うに、雨音とカティはヒト気の無い方へ向かう事となっていた。

 カティにコンビニ周辺の土地勘があったので、土手を川側に降りた橋の下でジャックを呼び出す(・・・・)予定である。


「帰りはヘリで帰るデス?」

「なんでよ? あんなヘリで呑気に空飛んでたら騒ぎに……って前も言ったわ。そもそもどこに着地するのよ」

「リトルバードなら小型デスし目立たないデスよ?」

「住宅地にヘリってだけで目立つわい」


 軽装甲機動車(LAV)なら、武装を外せばギリギリ一般にも流通している。だがヘリは無理だ、色んな意味で。

 だと言うのにカティは、事あるごとに空を飛びたいと言ってくる。雨音はもう何度も「東京航空管制ナメんな」と言っているのだが。


「せっかく魔法少女になったのに、アマネはもっと魔法を使わないともったない(勿体ない)デース」

「あんたは無意味に変身し過ぎ。変身の瞬間を誰かに見られたら大事よ? それにあたしの能力(・・)ってカティと違って汎用性ないわ。使い所がないわよ」

「………デはこの世にはびこ(蔓延)る悪を――――――――――――」

「撃たない」


 素気無く言う雨音の腕に、「むー……」と不満を口にしつつも、カティが甘えるように抱きついてくる。


「お――――――おいコラカティ!?」

「夜間飛行は諦めるデスが、アマネのおウチまではこのままデース」


 右腕に小柄とはいえ少女一人分のほぼ全体重がかかり、歩き難い事この上なかった。

 気恥ずかしさに人目が気になってしまい、雨音は誰か自分達を見ていやしないかと周囲を見回す。

 だがこんな夜中に、このご時世に、寝静まった住宅街で、雨音とカティを見ている者がいるとは思わないだろう。事実、雨音が見渡した限りは、動く物ひとつありはしなかったのだ。


 この時は。


 手加減も遠慮もなく、全力で押し付けられる柔らかい感触に赤くなった雨音は、また妙な事になる前に引っ剥がそうとカティの方へ目を向け、


「――――――――――カハァッ!!」

「ッ………!!?」


 その瞬間、視界に飛び込んで来たのは、今まさにカティへ牙を突き立てようとする変質者の姿だった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 軽装甲機動車(LAV)なら、武装を外せばギリギリ一般にも流通している。 ↑ 廃高機動車が流出しただけで大騒ぎになる、現代現実日本からすると、恐ろしい時代・世界だ。
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