0038:あえて受けた上で反撃するという情報公開ルチャリブレスタイル
魔法少女近況:それを地面に置け話はそれからだ。
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五月第4週の火曜日。
午後1時00分。
神奈川県室盛市、某市立高校。
地球のゲームが面白過ぎておかしくなったエルフ的種族、エルダーのヒト達のことは、一旦保留するとして。
旋崎雨音と仲間の魔法少女が立ち上げた『アルバトロス』は、地球と異世界の国交推進及びその支援をする非政府系組織である。
その活動として地球側の異世界進出を助けてはいるが、逆に地球側に異世界の情報を発信するのも目的のひとつだ。
現在、ほぼ何の制限もなくインターネットやテレビ、雑誌といったメディアで、最新の状況を公開中。開かれた異世界情勢という基本方針である。
そして情報だけではなく、実際に手に取れる異世界を提供できないか。と、密かに進められてきたのが、アンテナショップの開店という計画であった。
こちらに関して特に仰々しい計画名とかは無い。女子高生がお店を開くノリである。
「だからあの薬草は絶対ヤバイって。アンテナショップで出すどころかどうやって地球から隠そうかってレベルだと思うわ」
「ディトさまの国って結構爆弾あるよねー」
「ウヌヌ……どうにかあのハーブをアマネに――――」
「ムムム……なんとかあの薬草をクローに――――」
昼休みの教室の一画、何やら相談している魔法少女たちであったが、声量の方は控え目だった。
うっかりこれが地球の社会に広まると、夫婦や男女関係といったモノをブッ壊しかねない危険物についての話題なので。
そんなヤバいブツ販売できるか、と冷淡少女は断言するのだが、どうにも根強い話題性を持つが故に、沈んでは再浮上を繰り返すネタだった。
同時に、三つ編み娘や金髪小娘や銀髪姫は、どうにかそれを雨音に喰らわせてやれないか、と密かに企んでいる。水面下での陰謀が進行中だ。
「アイテムショップねぇ……。なんスかね、ナイザルの兄貴やレアーナさまのお国には、よそに出しても問題無いお勧めの特産品とかあるんですかね」
と、気楽に言うのは東米国の軽めなナイスガイ、ワープシックスことジャスパー・チェインフッドだ。
昼食には、ビーフカツカレーを堪能中。カレーはスパイシー、カツは衣サクサク中はレアといった最高の塩梅である。
「『とくさんひん』…………イレイヴェンと行き来する商人などは、野菜やタマゴをその辺の蒸気穴に放り込んで行くがなぁ。アレは売れるとか言ってたか。岩窟ヤギを捌いたのを晒しても、肉が美味くなる」
「あ、そういえばネメラスは温泉があるって言ってましたね」
「わたくしの国は……些細な物ですが白墨の木から採れる黄金の糖蜜と、あとダソト程ではありませんが川で魔石が採れる事がありますね」
「へー……上流に鉱山みたいなモンでもあるんですかねー」
山男の王子、ナイザル殿下はステーキ丼を豪快にかき込んでいた。バターとコショウを効かせた香ばしい肉が堪らないという話で、勢いはともかく味わってもいる。
爆乳女王レアーナをはじめとする女性陣は、フランスパンにチーズと生ハムのサンドイッチだ。表面パリパリ中はふんわりのパン、チーズは濃厚、塩気控え目だが肉の旨味が強いハムがギュウギュウに詰め込まれている逸品である。
ちなみに、魔王ラ・フィンは未だに選手村でエルダー達に付いていた。付き合いも長いだけに、目が離せない心境になっているとか。
雨音も、早くゲーム狂どもを落ち付かせねば、とは思っている。何百年単位で暇を持て余していた連中に、そんな日が来るのか想像もできない15歳であるが。
女子高生どものアンテナショップ、とは言え、何せ事が異世界絡みなので、当然ながらこれにも政府が一枚噛んでいた。
本件では、主に厚生労働省がである。
魔法少女が異世界から持ち込む特に食品や生物に関して、その安全性を確認するのだ。
なおこれは単に魔法少女を優遇しているのではなく、今後の輸入品選定の試験運用の意味合いもあった。
なお、実際の出店は品川のアルバトロス本部一階となる予定だ。
ちょっと珍しい品やカワイイ異世界の小物を、ささやかで小さなお店のあちこちに並べて、お客さんに手に取って見てもらうのだ。
元々は海賊のギャル先輩のアイディアだったが、今は雨音もちょっと楽しみになっている。
そんなところに、間違っても発情確率100%なショルカー産媚薬草なんて陳列できないのであった。
「アレよ……いっそ内装から商品からオール異世界風なんか面白いかもね。イレイヴェンにあった雑貨のお店とか、あんな感じで」
「それってこちらの人間が興味を持つような物かしら?」
「ちょっとしたアミューズメントやねー。そこのカウンターの上には薬草とかいっぱいぶら下げてあってー、中にはショルカーに生えるエッチな気分になってしまう物があったりするんですね」
「やめろや」
あえて遠回りした話題をわざわざ引きずってくる三つ編み。雨音は殺し屋の目になった。
異世界調査団ははじまった直後だが、既にこの薬草の他、いくつかヤバい物の存在が確認されている。
入管で持ち出しに制限を掛けるよう手配済みだが、地球側に知れ渡るような事態になれば、それを求めるヒトの動きは確実に出てくるだろう。
情報の管理、そして現地国と連携して資源保護の方策を立てる必要があるのは明らかである。
また、密輸入対策として希釈などで効果を落とした物を販売するなどの対応も検討されていた。
結局のところ、単にカワイイお店屋さんの運営ではすまないという現実。
乙女心をそっと頭の隅に押しやる冷淡少女は、サンドイッチの残りを口に押し込み紅茶と一緒に流し込んだ。
◇
五月第4週の水曜日。
午後5時34分。
東京都品川区駅前、品川宿レジデント、20階。
NGOアルバトロス本部。
高校2年生の小娘に過ぎない雨音であるが、故あってアルバトロスの代表であり、太平洋ポータルから異世界に入った先にある土地、クローディース領の領主と言う立場である。
そんなワケで、学校終わりに決済書類の署名などでデスクワークが割りと多い。
中には政府から回ってきた億単位の予算が付いた実行指示書類などもあり、雨音は自分の名前を書くだけで、背負う責任の重さに精神が磨り減るような思いをするのだった。
とはいえ、15の少女ひとりに責任おっ被せるような脆弱なシステムではないので、必ず雨音の前に総理なり各省庁の大臣なり誰か立場ある人間がサインしている書類ばかりなのだが。
「増派、ですか?」
そんな重労働もひと段落したところで、雨音はお世話になっている大物議員と休憩がてらお茶など飲んでいた。
三つ編み娘、北原桜花の祖父だ。
そこで聞いた話に、雨音は小首を傾げている。
「うむ……中国の政府筋から流れてきた情報だと、異世界側の……ジアフォージか、そこに駐留していた部隊が非常に大きな損害を受けたらしい。
紅旗党指導部は即日軍の増援を決め、青海省に戦力を集めているという話だよ」
緑茶を啜り、ざらめセンベイをボリボリとやる、恰幅の良いご老体。何故か肘掛に座っている。
落ち着いた語り口だが、少々釈然としないモノを覚える内容であるのは雨音にも分かった。
「ここんとろこジアフォージの軍と中国は睨み合いだったじゃんねー? サンサリタンの方で面子潰れたからそっちで挽回するかなーって思ってたけど、なんか逆に負けてじゃん」
祖父の横で同じくセンベイをカリカリしていた、三つ編みの孫娘。
ナラキア地方と日本及び東西米国の国交に楔を打つべく、中国はサンサリタンのクーデターに加担したが、これに失敗した上に国際世論から総スカンを食らっている。
そうしていつもの一方的な強弁で開き直っていたが、今後は失地回復の為にジアフォージ方面への侵略に全力を注ぐだろう、というのが大方の予想であった。
ところが、いつの間にか中国軍はジアフォージ方面戦線でも負けているという、まさかの二連敗。
東西米国のニュースメディアなどは、いよいよ核を持ち出すのではないか、という予測まで立てていた。
なにせ、現地の部隊は壊滅に近い状態だという。
中国軍は、東西米国が分裂した今世界最大規模の兵力を保持していた。侵攻軍の増派自体は、難なく行うと思われる。
だが、ここに来て急な巻き返しを見せるジアフォージの方は、元々の国内事情の不透明さもあり、今後の動きも今一読めなかった。
「ジアフォージの方針は分かりやすいと思うわよ? プライドの塊のような国だから。外面を保つ為なら手段を選ばないところが一貫しているわね」
異世界組の銀髪姫、エアリーは雨音のデスクに腰掛け鼻を鳴らして言う。
無作法だが、何かの映画に影響されたらしい。出来る女ムーブ。
「つまり、なにか中国軍を圧倒するような奥の手をどっからか持ってきた?」
何がしたいのかよく分からない銀髪娘には特に触れず、雨音も自分なりに考えてみる。エアリーしょぼん。
以前、ナラキア共同体全体会議に乗り込んできたジアフォージの魔道貴族は、ナラキア各国の戦力取り込みを目的にしていたのは想像に難くない。
その時点で既に余裕がなかったという事だろうが、ならば今になって中国軍を叩けるほどの戦力をどこから引っ張り出してきたというのか。
「やっぱりダソト……でしょうか?」
「中央大陸遠征以前からジアフォージに抗い続けた砂漠の戦士たちだぞ。ジアフォージもこちらの軍との戦いで疲弊しているはず。今になってダソトが崩れるとは思えんが」
「となると、西……まさかアークティラが乗り出してきた?」
ジアフォージに因縁深い国と言えば、サンサリタンの女王陛下は南の国ダソトを挙げる。
魔石社会、魔道器文化の国家であるジアフォージは、その力の源たる魔石を手に入れる為に南方への侵略を繰り返していた。
手っ取り早く軍事力を拡充するなら魔石を得ればいい、という話になるのだが、山男の王子はダソトの戦士がそれを断固阻止すると見る。
ならば、イケメン騎士が言うように、ジアフォージが頼れるのはもう西の国しかない。
もっとも、独立独歩唯我独尊のジアフォージ貴族と、神の名の下に己らを至上とするアークティラの教会が共同歩調を取るのは考え辛い、というのがナラキアの王族の方々の共通見解。
とはいえ、西方大陸中央の情勢が大きく動く可能性は高く、それがどのような形でナラキアや地球との国交に波及するか、警戒する必要があった。
◇
五月第4週の木曜日。
午後4時05分。
ナラキア地方南部イレイヴェン、クローディース領。
選手村。
「キャー! わー! キャわーいー!!」
「なんか混ざってんぞウラ」
この日は久しぶりに、芸能界のアイドル魔法少女、遠山キララが黒ミニスカたちに合流した。
休日が取れたら絶対に妖精さん達に会いに来るんだ、といってお仕事がんばっていたらしい。
ここ最近は仕事の量を絞っているという、国民の妹的ツインテアイドル。
それでも不動の人気を誇る愛されキャラ故に、多忙な日々を送っているとのことだ。
それだけに、たくさんの愛らしい妖精たちの姿に、テンションキラキラマーックス(合いの手)といった様子である。
呆れた様子な海賊ギャル先輩も、口調の方は優しさが滲んでいた。
「おはようございます地下アイドルやってる遠山キララです! お友達になっていただけますか!?」
「友達になってくれって本当にいうヒトはじめて見たわ」
「キャラクターだよねー、キラ☆リン」
「多分記憶が地下アイドル時代に逆行してないかしら?」
「はいはーいボクはビーピルだよ! はじめまして!!」
「ノーナンですよー♪ 大きなお友達うれしいですー」
「フィレスだ! 今日からオマエもオレのキョウダイだー!!」
「OKが出たでござるな」
勢いに任せて良い子の告白をするアイドル。素直な性分じゃないと、これは言えない。どこぞの冷淡娘とか絶対言えない。
そして、素直な者同士あっさり両思いとなるアイドルとシルフィン3名であった。やはりタイプが同じだからであろう。
ボーイッシュな短い茶髪のビーピル、長いゆるフワカールのノーナン、紺のオカッパヘアなフィレス。
あたらしいお友達4人は、無邪気な笑顔で選手村を駆けて行った。みんなでオヤツ食べに行ったらしい。
そして残されるのは、魔法少女勢と地元王族組、アイドルに随伴してきた芸能事務所の社長とジャーマネ、ついでに護衛の海兵であった。
「いやー妖精の子はひとりでも大反響だったのに、数で来られるとインパクトあるねー。取材申し込みすごいでしょ、アルバトロス」
「みたいですね。基本全部お断りしているんで、あたしのところには報告が上がっているだけなんですけど」
ピチピチのライブTシャツに、処理し切れていない無精ヒゲ。お腹の肉がちょっとポヨンポヨンしているおじさんが感心したように言う。
芸能事務所『ウェアハウス』の板場社長である。
実は、雨音としても妖精さんに関しては、SNSに写真を上げるか少し悩んだ。
だが、異世界の事柄については、基本的に全てオープンにするのが『アイランド・プラン』の方針。
どうせ隠したところで、エルダーとの接触が増えれば早晩その存在も知られるのだから、今から権利保護の伏線張っておく方が良いとの考えであった。
既に、『一匹売ってくれ』とかいうクソふざけたリクエストも多数届いているので。
「まぁ……アレですよ。鳥かごに閉じ込めたって、シルフィンのヒトの魅力は億分の1も出ませんしね。それよりは早々に認知度を高めて保護する世論にもって行きたいという考えでして」
「旋崎ちゃんは相変わらずだね。んで、特番の『異世界紀行』に妖精さんたちの絵を捻じ込みたいと」
「異世界の珍しい生き物、ではなくて人間同様の人格があるヒト達、という切り口でお願いしたいんですが、社長大丈夫?」
「大丈夫でしょ。最高の素材を提供してもらう条件がそんなことなら、製作も喜んで構成変えるって。それに、旋崎ちゃん怒らせたら今後の取材が絶望的でしょ。その辺もキッチリ言っておくから」
異世界には地球で知られていたような妖精が実在し、東方大陸にほど近いオーランナトシアを主な生存圏としている。
だが、魔王あたりから聞くところによると、『園』にて集団生活をしていないシルフィンというのも、異世界の各地で時々見られるらしい。
遺憾ながら、同じ人間でさえ売買対象とする現在の人類。妖精を売買対象とする心理的ハードルは、それより遥かに低いはずだ。
価格も人間より高いと思われる。
そんな商業主義がナラキア地方に入り込む前に、雨音は打てる手を打っておくつもりだった。
「なんならアイドル化も可ッ!」
「おお!? 旋崎プロデューサー!!」
「流石せんちゃん、常に攻めの防御策」
「攻撃は最大の守りを地で行く魔法少女でござるな」
拳を突き出し気合を見せる魔法少女のビッグボス。兄弟俺達は自由だ。
面白いことになりそうだと思いながら、ノリ良く合わせる業界人の社長。次の遠山キララの企画は決まった。
仲間の魔法少女達も、困難にあえて切り込んでいく親愛なる黒ミニスカに、なんというか娯楽というか新しいオモチャ的な期待を寄せるのである。
地球人類を異世界に馴らすアンテナショップ、中国やジアフォージの動向と警戒、妖精さんという地球人の悪い琴線を刺激しそうな存在、それに今現在対馬で誉れある戦いを繰り広げているエルフっぽい人々。
先送りとなっているザピロスの訪問に、クローディース領からはじまっている調査団の支援。
毎日のように持ち上がる懸案に、魔法少女はコンクリの壁に生身で体当たりするかのように突撃していくのである。
感想(アカウント制限ありません)、評価、レビュー、可愛い上にフィギュアサイズ。




