0026:ウェットワークと痛感する大人の責任[※イラストあり]
亜錬様より、魔法少女一味のお姉さんにして最も魔法少女らしいのが本人をして痛恨というトリア・パーティクルちゃんのイラストをいただいております。
尊い。何もかもが。
魔法少女近況:むかしそういうホラー映画があってさぁ…………(怯
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四月第3週の水曜日。
午後4時26分。
東京都千代田区神田、三つ葉大学付属病院。
大学通りの反対側、病院裏手に駆けつけた旋崎雨音と武倉士織、現職警視の三条京とSP警官の4人。
しかし時既に遅く、夜間救急外来の受付を兼ねる出入り口は、割れたガラスの散乱など荒れた形跡は見られるものの、肝心な人物の姿は影も形もなかった。
「えーと……あれウチの先生だったと思うんですけど……今さっき転げ回るようにして出て行っちゃったんですが……」
「どっちに行きました!?」
「え? いや、多分表通りの方じゃないかな?」
砕け散った壁や自動ドアのガラスを前に、呆然と立ち尽くしていた警備員のお爺ちゃん。
どうにか落ち付かせてSP警官のヒトが話を聞くと、白衣の女性が黒いペンキのようなモノと一緒に通りの方へ出て行ったという。
雨音の目当ての人物、世界的にも貴重な医療系能力者のひとり、徳田葉澄医師で間違いないと思われた。
問題は、誰が拉致って、どこへ行ったかだが、
「ええいこんな目立つところで使いたくないけど是非もない!」
「旋崎さん!?」
「無茶はしないでくださいよ旋崎さん!?」
「雨音さんいま緊急配備要請したから!!」
かなり派手な逃走の仕方をしているのは、目撃証言からも分かる。
故に、今すぐ追いかければ見つかる可能性は高かった。
そのように考え速攻で動こうとする魔法少女に、慌てて自重を求める大人の方々。この手の事で雨音に信頼は全くないのだ。
しかし、鉄火場にて御免、と。
「銃砲形成術式! 境界突破!!」
雨音は白銀の回転拳銃をメッセンジャーバッグから取り出し、ドパンッ! と発砲。
黒髪の少女の姿が渦巻く炎の中に消え、現れたのはガンメタル金髪と黒いミニスカエプロンドレスの魔法少女、『黒アリス』だった。
そこから更に、上に着る黒いジャケットが、硬質な形状に変化。細長い山高帽のように背中側へ伸びると、その上に4枚翅のローターブレードが広がる。
ミニスカートのお尻側からは、先端にテールローターを備えるテールブームが突き出ていた。
両腕の下には、4発装填の箱型ロケットランチャーがくっ付いている。
銃砲兵器の魔法少女が纏うのは、無人機ゆえにヒトの乗る要素をそぎ落とした命無き空の尖兵。
SMQ-8『ファイアリーコン』空域侵攻装甲である。
「あたしは上から探します! 大平さんたちは出来れば下からよろしく! 士織は大平さん達と一緒にいなさいよ腕折れてるんだから!!」
「拙者は道路の方から参る! 克天号! 一威戦塵!」
「話を聞けや!!」
翼長8メートルのローターが高速回転をはじめ、黒アリスの華奢な体躯が浮かび上がった。小型ヘリがベースなので、狭いビルの間でも離陸できる。
下向き気流にミニスカが暴れるが、手で押さえてもあまり意味がなかった。魔法の構造的欠陥である。
骨折で病院に来たはずのポニテ武者は、黒ミニスカの言う事など知ったこっちゃなく、マスコットアシスタントの軍馬を召喚。
自らは顔を覆う面具を着けると、どこからともなく現れる紅葉色の振り袖の下に姿を隠した。
かと思った次の瞬間には、振り袖を内側から一太刀で切り裂き、赤備えの鎧武者が出陣。
絶対不壊の戦国武者系魔法少女、『島津四五郎』である。
何か言ってやりたい黒ミニスカヘリコプターだったが、のんびり説教できる状況でもないので、とにかく急ぎ高度を上げた。
病院の建物の横を通り抜けると、御茶ノ水方面から緩やかな下りとなっている大学通りの上空へ。
メインローターの回転数を上げ、テールローターを操り自在に宙を移動する。
バラララララ! と派手な音を立てる飛行物体に、通りの人々が目を丸くして空を見上げていた。黒ミニスカは脚を閉じて無駄な抵抗を試みる。
地上を手元のロケット弾で爆撃したい衝動に駆られたが、それどころではないので断念。
運が良かったな、と雨音は心の中で負け犬の遠吠えをしていた。
それから、100メートルほどの高さで目を皿にして周囲を観察すると、分かりやすく暴走しているコンビニ配送車らしき小型トラックが、坂を下り南へ向かっているのを確認。
携帯のワイヤレスイヤホンで連絡すると、黒アリスは市街地の上を最短距離で駆け抜ける。
◇
トラックのコンテナ内は、ある種の地獄のようになっていた。
詰め込まれる組織の構成員に、浚ってきた目的の人物。そして、大して広くもない空間の上下左右に溢れるほどこびり付く黒い物体。
誘拐という後ろ暗い使命を果たしてきた者たちは、事後の興奮もあり気分もささくれ立っている。
「なぁ! なぁ!? これで俺も能力者だよな!? 能力者になれるんだよな!? おいなんとか言えよ!!」
「っせーな運転だけしてろボケ! テメーが能力者になれるかどうかなんて知ったこったねーんだよ!!」
「ああ!? なんだよそれ話し違うじゃねーか!!」
「そんな事帰ってから幹部にでも言えばいいじゃん! ちゃんと運転してよスピード違反で捕まるとかやめてよ!?」
髪がボサボサな痩せ型の運転手と、後部のコンテナ内にいる男が言い争っていた。
大学生ほどの女性が不安を満面に出し注意を促すが、どちらもそれを聞き入れはしない。
医療系能力者の入手は、幹部たちから強く命令された重要度の高い仕事だ。
それほどの貢献を見せれば高く評価される、という話にはなっているが、かと言って幹部達が何か報酬を約束したという事もない。
だとしても、一部の信者が望む力を得るには、自身が有用な人材である事を証明し続けるほか道も無かった。
コンビニ配送車を装うトラックは、大学通りから交差する靖国通りを西へ。その際にまた信号無視。
目的を達した以上、後は目立たずこっそり本部へ帰還するのが最上である。
既に能力を得ている女子大生だが、無事に帰って手柄を上げたいという切実な思いは、能力を持たない運転手と同じだ。
だからこそ、死ぬほどの怖気を震う閉所の中で、ひたすら耐えながら安全運転をして欲しいと願っていたのだが、
上空から飛来する魔法少女の存在により、その願いは無残に打ち砕かれることとなった。
「なんだこのうるさいの!? ヘリコプター!!?」
「おい警察のヘリに追われてるんじゃないのか!? 撒け撒け撒け!!」
「だから言ったじゃん目立つなってぇ!!」
誰でも聞いた事のある、断続的に激しく空気を叩く音。
それをあり得ないほど近くに感じ、トラックの中はパニック状態になった。
髪が荒れた運転手と、助手席にいた男が身を乗り出し窓ガラスを覗き込む。
逆に、トラックの正面に降下していた黒ミニスカヘリ少女も、眉間にしわを寄せた半眼で運転席の中を覗き込んでいた。
「なんだアレ!? 能力者!!?」
「チクショウ……なんで『黒アリス』が出張って来るんだ!? 聞いてないぞ!!」
小型ヘリのローターにぶら下がるミニスカエプロンドレスの金髪少女、というワケの分からない存在を目撃し、更なる混乱へと突き落とされる車内。
その正体を知っていた者も、日本屈指の武闘派能力者の襲来とあって、より一層追い詰められる思いである。
(さて怪しいからクルマ止めちゃったけど……んー外からじゃよく分からん。威嚇発砲とかするワケにもいかんし、荷台見せてもらうとか言ってもそんな権限ないから強制もできないしなぁ、こちとらただの魔法少女だから。
とりあえず大平さん達来るまで足止めしとくか。しまったクルマくらい置いて来ればよかったわ)
一方、勢いでここまで来てしまったホバリング魔法少女も、当該車両を前に実際どうして良いか思案中。
これ全く無関係なクルマだったらえらい迷惑だな。などと思いながら、色々後手に回った事を後悔しつつ、一刻も早い友軍の到着を心底願っていたところ、
「捕まえたぞ! 捕まえた捕まえた!!」
「ッ……!? わぁッ!? え? なに誰!!!?」
唐突に、宙でブラブラさせていた黒アリスの脚が、その下から掴まれた。
物凄くビックリした雨音は、思わず背中のエンジンパワーをアップ。ローターの回転数を上げ、クルクル回りながら上昇する。
交差点前で停車を余儀なくされていた、その他一般車両や通行人。それらが、ヘリ魔法少女がフラフラ飛ぶ姿を唖然として見上げていた。
そんな黒アリスのブーツを掴んでいた中年の男は、空中で振り回され耐え切れずに振り落とされてしまう。
咄嗟に、相手が生きているか確認しようと地上を見下ろす黒アリス。
だがそこは、今まさにアスファルトの下から他の人間たちが生えてきている場面だった。
「はッ!? 能力者!?」(ああやって真下から出てきたんだ!)
物体透過能力。
これも能力者の中では割と見られる種類だ。
複数人が同じ系統、というのは珍しい気がするが。
地上から焦りの表情で見上げてくる4人の男女へ、黒ミニスカはアサルトライフルを向ける。しかし、透過能力ならそれ以上の脅威にはならないだろうと考え射撃中止。
直後に甲高くタイヤを鳴らし走り出すコンビニトラックの方へ、照準を付けた。
ところが、そのアサルトライフルが突然何かに絡め取られる。
「わッ!? ちょッ――――!?」
標準的な7.62ミリ口径アサルトライフル、HG417は変身した時に作り出しておいたものだ。第5の魔法使用中は、魔法の弾丸を銃器に変形させる事ができなくなるので。
だから持っていかれるのは困る、と。
アサルトライフルにしがみ付く黒ミニスカは、ローターの回転数を更にアップ。
すると、『にょわぁ~!?』という裏返った悲鳴を上げ、地上にいた大学生くらいの女性が、腕を上げた姿勢で浮かび上がっていた。
見ると、女性とアサルトライフルの間には、鈍く光る鉛色の細長い物が。
「なにこれ!? 糸!? いや針金か!!?」
ローターを唸らせ飛び回る黒ミニスカと、振り回される女子大生(仮)能力者。
それも長くは持たず、無人ヘリのパワーに負けた女の能力者は、針金から手を離して遠心力により吹っ飛んでしまった。
靖国通りと白山通りの交差点。
そこの家電量販店前にいたクルマの屋根に、相手は派手に墜落してしまう。
止むを得ないとはいえ女のヒトの安否が気になる雨音だが、自分が攻撃の射程内にいるという事実に少々慌てていた。
空を飛んでいるという油断もあったが、あの女性も路面を透過していたので、てっきりそっちの能力だと思ったのだが。
とはいえそこは、今は重要ではない、と考える。
コンビニの配送トラック内に問題の医師がいるのだとしたら、逃がすワケにはいかないのだ。
ひとまず地上の能力者を無視し、高度を上げてトラックを追おうとする黒ミニスカ追跡ヘリ。
しかし、テールブームを振り方向を変えたところで、視界の端に妙なモノが映り込む。
すぐ横の百貨店の壁面、黒アリスと同じくらいの高さの位置に張り付いている、スウェットを着た人相の悪い男だ。
「行かせねーよ! 『ハリガネクラフター』!!」
「ぅえ!?」
手を伸ばした男の袖口から飛び出す、鉛色の細長い物体。
それは、先ほどの女性が伸ばしていた物と同じ、針金だった。
こちらも同系統の能力者か。
黒アリスはローター角度を傾け、右に水平機動しながらアサルトライフルの引き金に指をかける。
だが、発砲すれば相手が10メートル以上高さのある路面に落下しかねない、と判断して中断。
向かってくる針金の方をバースト射で撃ち落し、高度と距離を取ろうとした。
「捕まえた!」
「よし引っ張れ引っ張れ!!」
と思った直後、脚に絡みつく別方向からの能力者攻撃。
ガクンッ! と動きを止められ黒アリスが下を見ると、同じように針金らしき物を伸ばす、肥満体、予想屋風、ボディビルダー風という3人の男がいた。
「ちょ!? 同じのが何人いるの!!?」
面喰らう雨音だが、1.4トンを持ち上げるターボシャフトエンジンの力を以ってすれば、男3人であってもどうってことない。
とはいえ引きずったまま飛ぶのも邪魔なので、アサルトライフルで地上を攻撃。こちらは墜落死する心配もないので、容赦なく撃ち倒す。
「ヒィッ!? ゲヘェ!!」
「ちょ!? 銃とかそんなのどうブッ!!」
ドドドンッ! と非殺傷7.62ミリ弾を頭に喰らい、奇抜な悲鳴を上げて吹っ飛ぶボディービルダーと肥満体。
それを見た壁に張り付く男は、大きく息を吸い込むと、黒ミニスカに向けて声を張り上げる。
「喰らえや『サウンドブラスタぁ』あああ!!」
「ッ――――ひゃー!?」
それは、大声なんてレベルではない、もはや兵器と言っていい音波攻撃だった。
実際に見た事はないが、暴徒鎮圧用の長距離音響発生装置がこんな感じか。
いったいどういう能力なのか、路面を透過し壁に張り付き針金を操り爆音波まで放ってくるとは、ワケが分からない。
思考の隅でそんな疑問を覚えながら、目が眩むほどの大音響に曝された黒アリスは、思わず耳を押さえて空中を迷走する。
地上の予想屋はその機を逃さず、黒ミニスカヘリに絡み付いた針金を全力で引っ張り、
「検挙ー! アーンド魔法の手錠それにウェストロープ!!」
「ふぉッ!? ぐッ! うごほぉおお!!」
上空から急降下してきた魔法少女が幾つもの手錠を投擲し、壁に張り付いていた能力者をロープで宙吊りにして拘束した。
それは、プラチナブロンドを豊富な縦ロールにしている、チビッ子魔法少女刑事。
中身はアラサーの頼れるお姉さん、トリア・パーティクルである。
腹の腰紐に全体重がかかる男は、声が出せる状態ではない模様。これでは爆音攻撃も不可能だ。
「ちぇいッ!」
「ひぃー! た、たすけてぇ!!」
地上の予想屋能力者は、突撃する鎧武者とその騎馬に一瞬で吹っ飛ばされていた。黒アリスに巻き付く針金は、刀で一薙ぎだったようだ。
右手の骨が折れていようが、左手でも剣は振れるという話である。
でも雨音は大平警部補達と一緒にいろと言ったのだ許さん。
しかしそれはまた後に始末を付けるとして、
「ここお願い!」
と短く告げると、解き放たれた黒ミニスカヘリは、交差点から靖国通り上空を西へ。武道館方面へと速力を上げた。
問題のコンビニトラックは首都高池袋線の高架下を潜っており、黒アリスもそれを追って道路の下へと突っ込む。
上りと下り両車線で大型トラックが通り肝を冷やしたが、黒ミニスカヘリは高架下の中央を抜けたと同時に、高度を上げてトラックの直上へ。
運転席の部分を狙い、両腕のロケットランチャーに搭載された70ミリロケット弾、MR255フレシェット弾を叩き込んだ。
ある程度の距離を取って放たれたロケット弾は、発射後間もなく空中で破裂し、一発1.8グラム程度の金属矢を2500発もバラ撒く形に。
超高速で飛来するそれらに飲み込まれ、コンビニトラックの運転席は無数の穴が空いていた。
中にいた運転手と助手席の男も、トラックと同じ気分を味わっている事だろう。
エンジンや電装部品も完全に破壊された事で、コンビニトラックはそのまま中央分離帯の植え込みへ突っ込んでいた。
他のクルマにぶつかりそうならヘリのパワーで押さえ付けるか、と思った雨音だが、幸運な事にその心配もなさそうで。
フレシェット弾は、爆薬ではなく散弾を用いるので被害が広がる恐れもない、小心者魔法少女も安心な弾頭だ。
非殺傷仕様でなければ、中の人間は挽肉だろうが。
道路に降りてレベル5の装甲状態を解く黒ミニスカは、改めてアサルトライフルの弾倉を交換し、正面に構え照準を付けながら小走りでトラックに接近。
そうして近くで見ると、何かおかしい。よく見るコンビニのトラックとは違う気がする。どうやら色だけをそれらしく塗り替えた物のようだ。
素早く側面に回って運転席を確認すると、そこでは予想通り白眼を向いて悲惨な事になっている、運転手と助手席の男がいた。あまりの金属子の密度故か、服も粗方吹っ飛んでいる。
ハンドルまで木っ端微塵になっているのを確認した黒ミニスカは、本命となるトラックのコンテナ後方へ回り込んだ。
トラック後部には矢弾を流していないので、ほぼ無傷なはず。
お医者さんに弾が当たっていたら、ケガはしていないにしても後で謝るとして。
「黒衣殿!」
「もうまたこんな派手にして……! 黒アリスさんは大丈夫なの!? ケガはない!!?」
ちょうどそこへ、栗毛の馬に乗った鎧武者と、空飛ぶ警視のお姉さんも駆けつけて来た。
拘束した能力者達は、後続のSP警官と所轄の警察に任せて来たそうだ。
他にも、いま黒アリスがいる現場の封鎖の為にも急行しているらしい。
「あたしは大丈夫です。それより四五郎、トリア姉さん、この中…………」
「例の先生にござるか?」
「中にいるのね。…………分かったわ、わたしが開けるからふたりは退がっていてちょうだい」
コンテナの中に要救助者がいるなら有無を言わさず開けたくなるのが人情だが、生憎とそんな楽天的な魔法少女はひとりもいなかった。
自衛隊の三佐にしごかれた黒ミニスカ、時代錯誤を地で行く鎧武者、現職の警察官である。
当然、中には他の能力者などの危険要素が存在している可能性もあり、そこを警戒してチビッ子の魔法少女のお姉さんがコンテナの扉を開けに行くのだが、
案の定、両開きの扉を僅かに開いたその瞬間、中から黒い何かが溢れ出し、猛烈な勢いで魔法少女たちに襲いかかった。
「ぅわぁあああ!? 何これ!? 何これ!!?」
「これはッ!? 虫!? いや、アリか!!」
「危ない! 退がって! もっと退がって雨音さん士織さん!!」
液体のように見えたモノの正体を、サムライ少女が僅かな時間で看破する。
それはまるで黒い水のように流動する、微細な昆虫の集合だ。
アリくらいなら特に怖くない雨音でも、あまりの数と勢いに悲鳴を上げてダッシュで逃げ出す。率直に言っておぞましい。
咄嗟に効果的な兵器を脳内検索するが、生憎と爆発系や燃焼系しか思い付かず、街中で使うには向いていない。
「あッ! 鎧の間に!? 痛たたたたたた! 腕も痛い!?」
「士織ー! だから待ってろって言ったじゃんこのお馬鹿!!」
常に逃げ腰の黒ミニスカと姿勢の差が現れたか、前のめりだった鎧武者は僅かに逃げ遅れてアリにタカられていた。
武士の魂の刀を放り投げて、鎧も脱ぎ棄てようとピョンピョン跳ねながら足掻いている。
右手も振り回しているので骨折が確実に悪化している事だろう。
「引き摺り込め『アントライフ』! アリのパワーとスケールメリットを思い知れぇ!!」
コンテナの中から七三分けでメガネの男が叫んでいるが、魔法少女たちはそんなのに構っている暇はない。
とりあえずアリの塊にショットガンを連発する黒アリス、歯を喰い縛って鎧を外しにかかる涙目のポニテ侍。
そうしている間にもアリは増え続け、七三分けの高笑いと共に、魔法少女たちを追い詰めていた。
「ま、まま、マジカル制圧放水ー!!」
かと思いきや、ここでチビッ子警視殿が犠牲覚悟の奥の手を発動。
まこと魔法少女らしく光の粒子を手の平に集めると、そこに実体化したリアルな金属ノズルから、12気圧の水流をブッ放す。
「ぉおー!? トリア姉さんステキー!!」
「すいません拙者の鎧の中にも水ブッかけて下されー! キャァアア!? やめ!? そんなところに入るなー!!」
たとえ散弾や刀が効かないアリの群体であろうとも、圧倒的な水量と水圧の前では単なる小虫であった。
成す術なく洗い流されていく黒い生物に、快哉を叫ぶ黒ミニスカと、乙女としてのっぴきならないSOSを上げる鎧武者。
「ギャーやめろー! 僕のッ……! これだけの群れと能力に育てるまでどれだけ時間がかかったと―――――!!?」
「うっさい死んどけ!!」
駆逐されていくアリに能力者らしき七三が悲鳴を上げていたが、怒りの魔法少女がアサルトライフルの7.62ミリ弾をヘッドショットしておいた。
そうして倒れる男の後ろには、心底疲れた顔でヘタり込んでいる女医さんの姿が。
「ぁあ…………これでまた刑事局と警備局と安全局と官房と所轄と水道局と……始末書がー」
「ゴボゴボゴボ…………」
一方、アリの群れを押し流した魔法少女のトリア・パーティクルは、幼い容姿に合わない悲壮感溢れる表情で、無抵抗な鎧武者の中に水を流し込んでいる。
チビッ子魔法少女刑事、そのマジカル制圧放水は、お辛い代償を伴う三条京警視の奥の手であった。
感想(アカウント制限ありません)、評価、レビュー、責任覚悟で仕事をするオトナの方々にもエールをお願い申し上げます。




