0024:時と場合に合わせた装いに付く付加価値的効果[※イラストあり]
亜錬様より東の狂犬、国粋主義のお嬢様、コレット・エグザベリー嬢のイラストをいただきました!
この娘を選ぶセンス!!
今回の出番はチョットなのですが、ここに入れさせていただきました。
4/24にイラストの方を修正版に差し替えさせていただきました。国旗がイーストのナショナリズムを表すゴールデンに!
魔法少女近況:ムリムリムリそれはムリだってそれ逆バn――――!?
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四月第2週の土曜日。
現地時間の午後12時33分。
古米国、ロサンゼルス、ダウンタウン。
100年前、まだひとつであった旧アメリカ合衆国において、カリフォルニアの州都はサクラメントであった。
しかし、核攻撃により北米大陸が物理的に分断された後、カリフォルニアは西海岸最大の州として西米国政府の直轄地となり、ロサンゼルスを首都に定める。
政治中枢である『リバティ・ヒル』は、ロサンゼルスのダウンタウン地区に置かれた、木材を多用した大型建築物だ。
リバティ・ヒルの敷地内では、大勢の人間が集まる行事の最中だった。
先の異世界における災害援助派遣、という名目の軍事作戦、『テラーブラスト』。
これの終戦を記念し、参加した軍人の論功行賞を行う式典である。
出席しているのは、軍属だけではない。政治家や役人、一般人、報道関係者、参戦していた能力者グループや参加者の親族など。
それに、旋崎雨音ら日本の魔法少女たちだ。
◇
ワープシックスの瞬間移動能力で古米国に入ったのが、前日の午後8時のこと。平気で集合時間の後に来やがった霞ヶ関の人間のせいで、予定より2時間遅れであった。
翌日の午前7時にはホテルを出なければならなかったので、この日は観光無しでさっさとご飯食べて休む事とする。
ホテル『リッチ・チャールストン』。
ダウンタウンの中でもトップクラスの高層建築物であり、例によって国賓の宿泊に堪えるランクのホテルだ。
実は会員専用の高級ホテルなのだが、もうひとつのホテル候補が諸事情にて使えなかったので、特別にこちらを利用する事となった。
ホテル『マリオネット』と聞いて、トラウマが開いて泣きそうになった魔法少女に急遽配慮された為である。
古米国政府の担当であった外交官は、配慮が足りないとかなり上から怒られたのだとか。
そして雨音の方はみんなでくっ付きモフモフして落ち着かせた。
とはいえ、トラウマで半泣きな黒アリスには、今日の寝床はあまり関係なかったりもする。
どうせ時差ボケで眠れない上に、お仕事が入っていた為だ。
西米国メディアネットワーク、そのニュース番組の名物キャスターからのインタビューである。
緊張で吐きそう。
他に、新聞や雑誌の取材申し込みが複数社。こちらは、ひとりあたり10分程度の時間を取っていた。
何ゆえここに来て黒アリス自身のメディア対応がはじまるのかというと、先のレアーナ女王を連れた各国政府行脚が関係している。
芸能事務所『ウェアハウス』の社長があちこちで記者会見を開くのにコネを使いまくり、回ってきたツケの一部を魔法少女自身が肉体労働で返そうと、こういう話だ。
一応、やり手社長は行儀の良い相手にのみ取材を許可しているし、相手との折衝役として同事務所のマネージャー、古部舞を派遣している。
全部任せてよい、という心強いお言葉が地獄に仏といった感じだが、どちらにせよ自分が話をしなければならないという現実は、なるべく考えないようにした。
◇
表紙の写真撮影なんて聞いてません古部さん。
黒アリスがそんな悲鳴を上げている間、留守番組の魔法少女と王族の方々は、屋上のプールやレストランなどをそれなりに楽しんだらしい。
お仕事で大分早くホテルを出た雨音は、終わった後にリバティ・ヒルの方で仲間たちと合流。
式典では特に役割など振られてないものの、真面目な式であるからして、戦死者への黙祷、戦功への表彰、偉い人の訓示など、眠気に耐え頑張って傾注していた。
実は、『黒アリス』にも多大な作戦への貢献を認めて何かしら表彰するべきだ、という意見はあったらしい。
だがそうすると、同時に作戦が派手に破綻したこともクローズアップされるので、内々に大統領と防衛長官と統合参謀本部議長の連盟で感謝状を送るに留めたとか。
雨音としても表彰とかされるのは困るので、その辺はむしろありがたい、という事にしておいた。
式の後の会食では、例によって何か食べている余裕など無く、挨拶に次ぐ挨拶である。
大統領をはじめとする政治家の方々や、『テラーブラスト』で顔見知りになり再会した能力者など。
会話はしなかったが、サンサリタンでの『ソーンリーパー』で一緒になった特殊部隊員の姿も見かけた。
こちらは極秘作戦だった為、顔見せだけだったと思われる。
◇
四月第3週の日曜日。
東米国、ワシントンD.C。
こちらの式典も、基本的な流れは古米国の式と変らなかった。
しかし、端々に国家と秩序を強調するのは、やはり体制の維持を重んじる東側らしい、と式を見ながら雨音は思う。
あと、気に入らないのは分かるから脚を組んでふんぞり返るな、と黒アリスはこっそり巫女侍の尻をつねった。
珍しく効果がなかった。この娘は意外とこういう部分がある。
◇
そんな式典の前に、雨音には東米国でもいくつか仕事の予定があった。
取材もそうなのだが、少し変ったところで衣装のモデルなんてモノがあったりする。
当然ながら、雨音が進んでこんな仕事請けるはずがない。板場社長にお願いされたって泣いて断る。命でもかかってない限り御免被りたい。
残念ながら命に関わる件だったので請けたのだが。
「やあ! また会えて嬉しいよレッドクイーン! お友達も変りなさそうだ」
「どうも、一ヶ月ぶりくらいですか、アコードさん。お元気そうで」
式典がはじまる前、黒いミニスカエプロンドレスの姿は、D.Cから南西約360キロのニューヨークにある赤レンガのビル内にあった。
東米国に来るなら是非お願いしたい事がある、と少し前にアルバトロスへ連絡を受けていたのだ。
連絡してきたのは、能力者集団『ヒーローズ・ユニオン』のリーダー、『コマンダー・アコード』そのヒトである。
もっとも、依頼内容は本職の服飾デザイナー、スタンリー・ホーナーからのモノだったが。
黒縁メガネに黒髪を短くした背の高い白人男性。真面目そうな人物だ。
一見して普通の社会人だが、なるほど顔を隠してヒーローに変身しそうなタイプでもある。
なんでも、『メイド=サン』という日本独自の発展を見せた文化と、黒アリスの格好やキャラクター性が、甚くデザイナーとしての意欲をかき立てたのだとか。
それ別に秋葉原あたりで適当なの捕まえて来れば別にあたしじゃなくてもいいんじゃないですかね? と言いたい雨音だったが、なにせ『テラーブラスト』では大分重要なところを引き受けてもらっているので、頼まれてしまえば是非もなし。
一般流通させるのではない資料用と商材用の写真だというので、引き受ける事とした。
そして、巫女侍が弾け飛ぶ。
「なんッ――――――――てモンをアマネに着せるのよこの4つ目ギーグ!!? てかこんなッ……こんなッッ……アマネッ! ちょっとカティを踏んでみまセンか?」
「おまえ初対面のヒト達の前くらい自重しやがれ」
コマンダー・アコードことデザイナーのスタンリーが用意したのは、黒アリスの標準装備、エプロンドレスであった。
だがそれは所謂メイドさんのお仕着せとは、かなり趣の異なる代物。
まず、エナメル質のハードパンク的デザインのエプロンドレスを着た黒アリスを見て、勝左衛門は鼻血吹いた。
それを見て更に冷たい呆れ顔になる嫁が美しクール過ぎて辛い。
恐るべきは幾多のヒーローコスデザインを手がけてきたプロ、スタンリー・ホーナー。
硬質な光沢のある生地に、要所要所を拘束するかの如き締め付ける意匠、手袋とブーツといった末端も同様のデザインで固めており、凄まじく攻撃的な見た目である。
そうでなくても攻撃性の固まりのような魔法少女なのに。
次が、光沢の一切無いマットブラックの生地と、同様に光沢無しな陶器かプラスチックのように白い生地のエプロンドレス。
現実の存在でありながらモノクロームの鉛筆画のような色合いに、アホ面で固まった巫女侍はもとより、室内にいた社員達も溜息を漏らしていた。
ただひとり、デザイナーのスタンリーだけが冷静な玄人の目で黒アリスを見ている。
それから、強烈な赤と黒のエプロンドレスに、白と水色の癒し系エプロンドレスと、数点を試着。
その度に、会社専属のカメラマンが専用のブースで黒アリスを撮影していく。
ポーズからキメ顔まで取らされて雨音はかなり恥ずかしい思いなのだが、そんな事が言えないくらいピリピリとした緊迫感溢れる撮影現場だった。
あまり時間が取れなかった為、という事もあるだろうが。
最初のエナメルエプロンドレスで面食らったものの、それも含めて思いのほか実用的な服ばかりだったのは、雨音としても少し意外であった。
かなり派手ではあるが、着ようと思えば着られるのだ。
デザイン優先で服として破綻している、などという事はなく、着心地も悪くない。作り手の性格が感じられる。
結果として、コマンダー・アコードは満足行く仕事が出来た、との事だ。多少でも借りを返せたのなら、黒アリスも身を切った甲斐があったというものであろう。
でも律儀に写真データを送ってこなくてもいいんですよ、とも思った。
黒アリスが見てないところで、巫女侍が『画像を送ってこないと殺す』と殺気丸出しで脅迫したのだとか。
「なにこれエロすぎるー! せんちゃん次からは――――――――」
「あたしは今のが気に入ってるんだッ!!」
「そうなのですか?」
「あーんわたしもそっちに付いていけばよかったー!」
「こ、これは…………女神!?」
「ふえぇええ返すネー! 返してくだサーイ!!」
間もなく式典がはじまろうという時に、魔法少女の小娘どもはホワイトハウスの一画で大騒ぎだった。
カティの携帯を奪い取ろうとする黒ミニスカベーシックと、断固阻止する魔法少女の留守番組。
三つ編みがろくでもない企みをしていると気付き、即座に予防線を張る黒アリスだが、その回答を引き出された時点で負けだった。
過剰露出カウガールは、こんな愉快なイベントを逃したと心底悔いているようだ。
銀髪のは掲げられたスマホの液晶を仰ぎ、魂が抜けたようになっている。変な絵画のような絵面だ。
周囲では、チビッ子魔法少女刑事やSP警官といった大人のヒト達が、どう止めたものか途方に暮れている。
今の雨音は、迷惑をかけてはならないという最低限の配慮すらできない状態だった。
◇
式典はつつがなく終了し、こちらでもホワイトハウス内で立食パーティーのようなモノが行われる。
とはいえ、東米国は古米国側とは事情が違った。
なにせ、黒アリスは一度この国に核戦争ふっかけそうになっているのだ。
時折物凄い視線を感じるのは、臆病ゆえの雨音の気のせいではあるまい。国連本部ビルを訪れた時は、急いでいたのでそんな事を考えている余裕も無かったのだが。
正直、もう雨音は帰りたかった。『テラーブラスト』の参加者として、式典に出るという筋は通したつもりなので。
そんな薄氷を踏む思いの飼い主の気も知らず、いつの間にか東米国在住の金髪の狂犬と睨み合っていた、ウチの巫女侍である。
それは、一見して上品な良いところのお嬢様だが、中身はガチガチの国粋主義者。
現在は戦闘用ではないフォーマルなレディースーツを着ている、コレット・エグザベリーであった。
「……あんたなんでこんな所にいるの?」
「こっちのセリフよ、西の未開人が……。ここで暴れるなら大歓迎ね。大腕振って国家の敵を殲滅できるというものよ」
「あらま……よく見たらチラホラと。こっちの表彰式じゃ能力者はいなかったわよね?」
「で、ござるな……。配置からして用心棒のつもりではござらんか?」
古米国と違い、東米国の式典には能力者が公式には招かれていない。あれだけ活躍したコマンダー・アコードでさえもだ。
これは、能力者を作戦に参加させた事での政府に対する風当たりが、国内で強くなっている為である。
一部能力者の独断専行で、『テラーブラスト』は当初の作戦から大きく逸脱する事となった。
その件で政府内に責任論が渦巻いているが、現在までに落としどころは定まっていない模様。
式典においても、勲章授与では軍人のみが大きく取り上げられてる。
そんなところで、渋メンの海兵隊員、ダニエル・ブライ一等軍曹が青銅星章の叙勲を受け、曹長に昇進していた。
現場で糾合した混成連隊を率い最前線に立ち続けた、名誉と戦果を讃えるモノだという。
大統領から勲章を着けられ敬礼する姿は、実に堂々としたものだった。
でも、退役が遠退いた、という心の声が聴こえるような気がする雨音である。
パーティーに『二等軍曹』がいてくれて助かった、と心底思う黒ミニスカ魔法少女。せめてもの救い。
一方で、よく見ればパーティーの列席者の中に、何度か見た能力者の顔がチラついているのだ。
いつも通りの鎧武者なポニテ娘の見立てでは、他の能力者を警戒した備えだろう、との事。
その警戒の半分くらいは自分かも、と思うと、肩身が狭くなる小心少女である。
◇
挑発の応酬の末、巫女侍とパワードスーツ娘が剣を抜きそうだったので、雨音と魔法少女勢は大急ぎでホワイトハウスから逃げ出した。
政治家に囲まれていた異世界組としても、好都合だったようだ。
「早く帰ろうぜー、ボス。俺やっぱりイーストだと落ち着かないわ。スッゲー睨まれてるし。早く日本に帰りたい」
「シックスはホームに帰れる日が来るんデスかね?」
「その気持ちはあたしもすっごく分かるけど……。北原先生とか三佐も待たないと。トリア姉さん、大平さん、一旦ホテルに帰れます?」
「そうね。シックスさんが戻ってきてくれるなら、黒アリスさん達だけ先に日本に帰ってもいいでしょうけど…………」
今回の渡航には、魔法少女と異世界組、それに警護のSP警官の他、政治家や官僚や自衛官も加わっている。
一回二回の瞬間移動は問題ない、と能力者本人は言うが、可能であれば一度に全員で移動したいところだ。
分断された際のトラブルや、ワープシックスの消耗といったリスクも皆無ではないので。
クルマに乗ってホテルに戻る魔法少女達は、そのまま疲れて寝てしまった。
たった二日間だけではあるが、やはり政府やら政治家やらに関わると、一般庶民は酷く疲労するようだ。
できればこれっきりにしたい、とベッドで大の字な黒ミニスカだが、今後の予定を鑑みるに、その辺は望み薄だった。
それから数時間が経過。
寝ぼけ眼の黒ミニスカが携帯の時計を見ると、東米国時間で、日曜日の午後7時。
日本の方が13時間進んでいるので、現在時刻は月曜の午前8時という事になる。おのれ日付変更線。
なるべく早く帰らねば学校の勉強が遅れるが、睡眠時間も取らねば身体が持たない。変な汗もかいたのでお風呂にも入りたい。パーティーではほとんど食べられなかったので、お腹空いた。
学校の方は出来立ての風紀委員会に任せてしまったが、能力者の生徒への対応がどうなっているかも気になる。
そして、今週末からはまた異世界で式典があり、あんまり学校に行けないような気がする。
「ぜったいこのツルツルのヤツだってー! これで武器持つとか完全に狂ったフェチに目覚めるヤロウども続出間違いなしー!!」
「ンンンンー…………!? ヤ、やっぱこのライトアンドダークなのが捨てがたいデスよ!?」
「こちらのマスクのある刺々しいのが戦闘向きという気がしますね。いえ今のが一番馴染みがあるのですが」
「こっちの赤と黒の、そのまま舞台衣装にでもなりそうじゃね? ウチのシャッチョーなら多分確実にそう言う。なーウラ?」
「黒アリスさんたら、既にアイドルグループセンターの貫禄が…………」
「こ、これ! クローはこの優しげな色のドレスが似合うと思うの……!」
そんな半死体JKをよそに、当人そっちのけで『黒アリス』次のコスチューム選定会議に熱を上げていた女性陣だった。
いつ起きたのかと思えば元気なことである。体力の違いを感じる。
なんかもう無性に暴れたくなった雨音は、人数差もパワーの差も一切無視し、勝機の全てを放棄して、そんな小娘どもに『うがー!』と襲い掛かった。
そして順当に返り討ちにあったが、気分はスッキリした。
感想(アカウント制限ありません)、評価、レビュー、黒アリスの新コスチューム募集は終了いたしましたありがとうございました(大嘘です




