0022:圧倒的不利な状況にあって基本となるゲリラ戦法のノウハウ
魔法少女近況:風紀委員会の実行部隊とか漫画みたいな事をあたしがやるとは思わなかった(唖
.
四月第2週の金曜日。
午前8時43分。
神奈川県室守市、某市立高等学校、体育館。
当校では職員室と生徒会から、学校生活と校内活動における連絡や注意事項を、月に一度集会という場を設けて全校生徒に周知する事になっていた。
今回は、年度の初めの全校集会となる。
「――――する仲間でもあります。一年生レクリエーションでは、これからの3年間を一緒に過ごす顔ぶれを、よく覚えておけるようにしてください」
1000人近い生徒を前に壇上で話をするのは、優しそうな面立ちの3年生女子、生徒会長だ。
任期を半年残すが、受験の年という事もあって仕事は生徒会の役員たちに順次引き継がれている。
生徒会長は毎年のように代わるが、この生徒会長は現2年生3年生に特に慕われてきた人気の会長だった。
「それでは次に……ふ、風紀委員会より新入生への挨拶と、本年度の活動についての抱負を述べていただきます」
そんなパーフェクト生徒会長が、司会進行の次の段取りでセリフを詰まらせる。
全校集会の大まかな流れは、生徒会長の前にある演台上の紙に書いてあった。
その進行表によると、残念ながら次は間違いなく風紀委員会からの連絡という事になっている。
品行方正な生徒会長をして、ただ一点の汚点に関わる苦手な存在だった。
自由過ぎるきらいのある、本校の綱紀粛正を担う風紀委員会。のはずが、その長たる委員長の存在からして密かに異常を孕んでいるという。
風紀を引き締めなければならない本人が、実は一番風紀を乱していたりするのだ。これで仕事はするのだから性質が悪い。
そこにきて、昨年の夏休み明けに新加入したワケあり副委員長の存在と、本年度の状況に合わせた斬新に過ぎる新体制。
問題の副委員長にはマズイ場面を目撃された事もあり、生徒会長としては顔も合わせ辛い相手だった。
コレに関しては、副委員長の旋崎雨音は何も悪くないのだが。
しかし、生徒会長の気分に関係なく、全校集会の流れは進んでいく。
壇上の舞台袖から女子生徒が出て来ると、その姿に体育館の中で俄かにざわめきが上がった。
重くならない程度に梳いた長い黒髪。スカート丈もそれなりな短さの、今時の女子高生といった風体。
今はちょっと緊張気味だが、整った容姿に涼しげな表情が、多くの人間の目を惹き付ける。
その生徒は、今や世界的に有名になった特殊能力者、魔法少女でもあった。
本人としては、いたく不本意であったが。
「……え、おはようございます。風紀委員会の旋崎です。新一年生の皆様、ご入学おめでとうございます。風紀委員会一同を代表しまして、歓迎の挨拶をさせていただきます」
演台に立つ黒髪の冷淡少女のセリフに、全校生徒が注目していた。
視線の集中砲火を浴びる雨音は、今だけは不真面目に雑談でも余所見でもしていてくれないかなぁ、などと思わんでもない。
風紀委員会からの連絡も、キチンと心に留めておいてもらわないと困るのだが。
「風紀委員会というのは、学校での生活において問題が起こるのを未然に防ぐが基本的な活動となります。風紀を取り締まる、という役割から生徒に対して罰則を課すようなイメージを持たれるかもしれませんが、特に問題が起こらない限り風紀委員会が生徒の皆さんに注意や指導を行う事はありません」
まずは努めて平坦に、風紀委員会の年の初めの挨拶を忠実になぞる冷淡副委員長。
ちょっと今年は事情につき面子が特殊な事になるが、それにしたって風紀委員会としての役柄を逸脱するつもりなどないのだ。
故に、そこの基本部分をテンプレとして周知しておいて貰わねばならない。
「本年度からは、自分の新しい可能性に特に沸き立っている生徒の方も多くいると思います。
当校は高度な自治と生徒の自主性を尊重し、大きな自由や裁量を認められているのが特色の学校です。また生徒個人の個性も認め、これを排除しません。
ですがそれも、生徒自身が共同生活を営む上で、校則を尊守し他の生徒と協調していくという前提に立っての事であります。
風紀委員会はその学生自治の象徴となる組織であり、また生徒の自主性という点において積極的に参加していただく事が理想的でもあります。
皆さんの今後の学生生活がより良いモノとなるかは皆さん自身にかかっていると言って過言ではなく、その為にも全校生徒から協力をいただきたく、改めてお願い申し上げます」
あえて、「何が」または「誰が」とは言わないが、特に要注意すべき事として特別の事情を語る副委員長。
それに、風紀委員会は学生の自由を奪う敵ではなく、その自由を守る為のアリバイ機関であるという実も蓋も無い事も強調しておいた。
「それではー……最後に、風紀委員会の執行役員を紹介させていただきますッ!」
そこまで前置きをしなければ、とてもこの先の発表は出来ない思いの雨音さんである。
そしてここからおかしなテンションに。
先日までのノリをそのまま引き摺っているのだろう。
「1年D組、『機甲歩兵』狭間秋人」
壇上の袖から床板を軋ませて歩み出るのは、全長3メートルのヒト型ロボットだ。脚が短くゴツゴツとして角ばり、金属質のパーツが目立つヒト型機械という物を体現したような存在だった。
それが、何かに堪える面持ちな副委員長の後ろに立つと、頭部ごと胸部の前装甲を上げ、中の男子生徒を露わにする。
パイロット能力者の狭間秋人は、少しクマが目立つ目付きの悪い小柄な男子生徒だ。
全校生徒の目が丸くなっているが、副委員長はがんばってそれを見ないフリをして委員の紹介を続ける。コレだけで終わりじゃないし、あたしだって辛いんやで。
「1年F組、『エクスキューター』中禅寺兵子」
ズダンッ! と、雨音の紹介と同時に真上から降ってくる、ひとりの男子生徒。
学校指定の制服の上に、裾のスリ切れたダメージ加工の黒いコート。片方の前髪が左目にかかっており、そこに赤いメッシュが入っている。
中肉中背か、少し痩せ型。それほど逞しくはなく、背負った刺々しい大剣を振り回せるようには見えなかった。実際には自身の能力なので、振れて当然なのだが。
なお、上から降ってきたのは、事前に天井の足場に上っていた本人による仕込である。
「1年G組、『ガーディアン』大吾尊治」
前ふたりと違い普通に舞台袖から出て来たが、その男子生徒はとにかく大きかった。
高校1年生にして、身長190センチ越え。金髪を両側頭部から後頭部へリーゼントに纏めており、無表情に見下ろす様子は既に貫禄がありふてぶてしい。
普通の高校ならば問題になりそうな見た目だが、この学校の場合は髪型も服装も自由だ。学校指定の制服も、やや着崩していた。
ちなみに、入試では上位3番目という高成績。去年の副委員長などはかなり苦労してこの学校に入っており、レベルは非常に高かった。
「1年B組、『キルデスゼロ』永福香里」
次の出てきたのは、前の190センチ越えの巨人に比べると、非常に小柄に見える女子生徒だ。
栗毛の髪をサイドテールにしてある、小動物めいた愛らしさを持つ少女。だが今は、緊張と困惑の表情で足取りも頼りなかった。
4日前に雨音を襲撃してしまった時点で、既にこの娘の運命など決まったようなものなのだ。
「1年C組、『セーフワーカー』蜂夜静」
前の挙動不審娘に対して、次に出てくるメガネの女子は至って冷静だった。
集まる視線にも我関せずな態度で、冷淡さという意味では雨音と似たタイプだが、こちらは拒絶の色の方が強い。
黒髪はザックリと短く、顔立ちは可愛いというより凛々しく綺麗目。
それほど背は低くないのだが、体格が良い為か相対的に少し低く見えた。
「1年G組、扇売姫新」
前5人は名前の前に『特別な呼称』がコールされていたが、これは別に雨音から厨二心を満たす為のサービスではない。そんなのはダークパラディン改めエクスキューターの闇属性少年だけで十分だ。
ところが、この女子生徒だけは、そんな名前が無い。
手足は細く華奢、一方で胸や腰周りは魅力的な肉付き。容姿はアイドルのように愛らしく、浮かべた笑みは人懐っこかった。
最初のロボの時点で、開いた口が塞がらない状態の生徒一同である。
壁際の教師たちも、似たような顔だ。でも先生方もこの事態を必要悪で止むを得ないと認めたんですよ。
雨音も実は、コレでよかったのかとまだ迷いがある。昨日まではちょっといい考えかもと思ったのだ。耳元で三つ編みの悪魔も囁いていたが。
壇上からの圧倒的な威圧感に、当初の狙い通り恐れ戦く一般生徒。
その首謀者のような立ち位置にいる雨音は、風邪で休んだ風紀委員長を恨みに思うものである。
間違いなく自分が仕組んだ事ではあるし、月曜からの事を思えば是非も無い流れだったとも思うのだが。
◇
四月第2週の火曜日。
旋崎雨音の高校2年目、その2日目である。
先日に引き続き、この日も順当に能力者の生徒は暴走した。
世の中に能力者が溢れ、異世界での戦争で能力の伸び代も示されてしまい、非常に活性化しているこの時期。
そんな時勢に、能力者の存在が比較的認められているという学校に入る、能力者の若者たち。
これを、能力行使の免罪符のように勘違いし暴走する者が出るのも分からなくはないが、法律も校則もそんな事を認めてはいないのである。
ちょっと考えればそれが分からんものかな、と思いながら、雨音は昼食を切り上げ騒動の元に急行した。
走らず早足で廊下を抜け、階段を一段抜かしで上がっていく有名人の姿を、大勢の生徒が視線で追いかける。
2日目もこんな感じという事は、もしや今年は年中こんな感じになるのか。
そんな暗澹たる思いを抱えながら、表面だけ冷淡な風紀委員は現場に到着。
そこで、手足をバタつかせるチャラい格好の男子と、その男子の首根っこを掴まえ釣り上げる、身長190越えの巨人を目撃した。
「うわデカッ!? あ、ゴメンなさい!!」
思わず口をついて出たセリフに、何か悪い気がしてすぐに謝る雨音さん。生来気が小さい娘である。
その後に、これは一体どういう状況なのかと困惑顔に。
「うッ……!? ッつォおおお!? ふック……!!?」
吊り下げられている2年生の男子は、この状況を差し引いてもなにやら尋常な様子ではない。何も無い空中で腕を振り回し、完全に我を失っているように見える。
顔に何かが張り付いているようだが、何かはよく分からない。
何にしても、何かしらの能力の攻撃に晒されているというのは間違いないようだ。
通報内容によると、吊り下げられている金髪にピアスの方は低レベルの慣性制御系能力者らしいが。
「あ、あのー、風紀委員会の者なんですけど……とりあえずその人下ろしてくれません? 喧嘩があったと聞いたんで、その辺の経緯も聞きたいんですけどー…………」
恐る恐るビッグマンに話しかける、腰が引けている冷淡女子。
そんな雨音に向き直ると、巨漢生徒は吊り下げていたチャラ男子生徒を放り出した。
無言で見下ろされる圧力に、雨音は普通にビビる。全長600メートルだろうが190センチだろうが怖いものは怖い。
「なにアマネにガン付けてやがりマスか……? オマエが今生かされてるのはアマネの単なる気紛れネー! アマネがその気になれば0.01秒でドタマ撃ち抜かれてるデスよ!!」
「おいやめろ挑発するな!? てかカティいたんかい!!?」
だがここで、心強いんだかかえって不安になるんだか分からない増援が。
目の前の巨漢に比べると首が痛くなるレベルで背丈が違いすぎる、魔法少女仲間の金髪美少女、カティーナ・プレメシスであった。
そして、ガンを付けているのはどちらかというと金髪娘の方であり、まるっきりライオンに吼えるチワワ状態である。
飼い主を守る為に吠えているのだろうが、飼い主の方が寿命が縮む絵面だ。
「ほうほう、カティと同じブースト系統ニャー? せんちゃん能力者バトルはまず相手の能力を把握するのじゃ」
「いやバトルにならんならそれが一番いいでしょうよ。そして何故来た」
同じクラスの魔法少女、三つ編み娘の北原桜花も、背後から湧いて出ると雨音の腕に抱き付いて来た。
教室で異世界組と一緒に留守番していてくれ、と言って雨音は出て来たのだが、好奇心や興味の方が勝った模様。
ちなみに異世界組を放り出して来たのではなく、当人達も屋上入口から顔をのぞかせていた。何故か警備の警官までいたが。
みんなご飯は食べたのだろうか、と雨音は思う。
そんな纏まりのない先輩どものワチャワチャと姦しい様子を、ただ沈黙して見下ろしていた巨人であったが、不意に一言。
「…………尊い」
「ん? なんて??」
「ほー?」
低く落ち着きのある声色だったが、冷淡副委員長はそれを聞き逃し、三つ編みの目はなにやらキラッと光っていた。
話してみると、おっかないのは見た目だけで、非常に素直な男子生徒であった。
というのは、話をした風紀委員会、副委員長のセリフ。
新入生の大吾尊治も、騒がせて申し訳なかったと。
なんでも、友人同士の女子ふたりに下心丸出しで絡んでいた男子を、排除しようとしたのが揉める原因となったのだとか。
なるほど動機は人助けだし、怪我人も出ていないので風紀委員としては注意だけで済ませたかったが、翌日に金髪ピアスのチャラい方が仕返しに喧嘩を売って、また騒ぎに。
駆け付けて見れば前日と似たような光景になっており、結局ふたりとも停学処分することとなった。
◇
四月第2週の水曜日。
午後3時44分。
新年度3日目である。
この日は、バイク能力者が友人を乗せて体育館の扉をブチ破った以外、これといった騒ぎはなかった。
異世界組が起こした細々としたトラブルを除けば、であるが。
これ果たして落ち着く日は来るのだろうか、と。
そんな感じでグッタリと煤けた雨音が下校しようとした、ちょうどその時である。
裏門方面で、大騒ぎが起こってしまったのは。
はいはい今度は風紀委員案件ですか能力者案件ですかそれともその両方ですか、と諦観の面持ちで雨音が現場へ向かったなら、そこはこれまでで最大の修羅場だった。
変な姿勢で転がる男子生徒が複数、ガラスを突き破って校舎内に突っ込んでいる生徒の姿も。
そして制服警官に取り押さえられているメガネの女子に、怒声を上げて裏門から外に飛び出したところの他の警官たち。
例によって、見ただけでは何が起こったのか全く察する事ができず。
話を聞くと、メガネの一年女子、蜂夜静が他の男子生徒に強引に連れ去らせそうになった末の事だったらしい。
それに対し、メガネ女子は実力で抵抗。
返り討ちにしているところで警備の警官が駆け付け、まだ自力で動けた男子生徒は逃走したという事だ。
「なんか……バイトするならもっと稼げるところがあるとか言って……。そんなの怪し過ぎるから興味無いって言ったんです。そしたら、一度来れば絶対気に入るからとか言って、腕掴まえて無理やり…………」
「なんだそりゃ、拉致誘拐未遂じゃん」
「あー、去年からそういう話結構あったよねー」
とりあえず当事者から証言を取るに、その内容に表情を一層冷たくする冷淡女子。三つ編み娘ののんびりしたセリフも、心なし吐き捨てるようだ。
女子側の事情しか聞けてないが、男子側が逃げるわしらばっくれるわなので、どちらの話を信じるかなど選択のしようもなく。
完全に正当防衛となればメガネ女子を処分する謂れもないのだが、校舎に物的被害が出ているので、全くの無罪放免にも出来ず。
処分は後日検討という話になったのだが、どちらかと言うとメガネ女子の保護が目的になると、本人には伝えておいた。
そして、警官が追っていった男子生徒は、残念ながら捕まえ損なったとのことである。
◇
午後4時35分。
室盛市内、フォレストフレンズモール2階、マクドネルバーガー。
「ホームルームで校則の説明をもう一回やって欲しいわ……」
「ルールがあっても守らせる力が無いでは意味ないんじゃないかのぅ」
「真理やね」
チリチーズバーガーを頬張りながら、遠い目で呻く冷淡女子。
雨音としては、今一度校則の周知を全校生徒に徹底させていただきたいところ。
しかし、ダブルチーズトマトバーガーを上品に大口開けて食べるという魔王嬢さまの言葉に、もっともだと納得して沈黙せざるを得なかった。
許される自由が大きな校風と言っても、基本的な校則は他の学校と変らない。
明確に書かれてはいなくとも、ロボットで暴れるのも魔剣を振り回すのもバイクに変身してハングオンするのもNGだ。
それを改めて注意したところで、魔王さまや三つ編みの言う通り歯止めとなるモノが無ければ、同じ事の繰り返しとなるだろう。
銃と兵器の魔法少女が、全校殲滅の誘惑にいつまで耐えられるかが問題となる。
学校とトラブルが終業した後、雨音はフと高校生らしい放課後を送りたくなった。過酷な現実に対する逃避かもしれない
そこで、ワガママとは思いながらもSP警官の大平警部補にお願いし、帰る前に寄り道を許してもらったというワケだ。
パパだってがんばってる娘の為に骨を折るくらいどうって事はないんですよ、と笑いながら言うのは同じSP警官のお姉さん、泉美巡査長である
そのセリフは後で上司と部下の関係的に大丈夫ですか? とは聞けない雨音だった。
「うーむ……美味いが肉喰ってるって感じじゃないな。何だコレ? 」
「てりフィッシュバーガー、正味なとこびみょー……。せんちゃんひとくちー!」
「ぬあッ!? 桜花キサマッ!!?」
「ニャンと!? んじゃカティもアマネのもらうマース!」
「自分の食え!? てかあたしのチーズチリが!? このヤロウ器用にピクルスだけ回避しやがって!!?」
肉パティ4段重ねバーガーを味わいながら、故郷の世界にはない食感に遠い目をする山男王子。地球の食い物はどれも美味いが、自分が育った土と水に勝る物はないのだ。
そんな郷愁をブチ壊す、騒がしい事この上ない女子高生どもである。
雨音は自分のバーガーを金髪と三つ編みに半分にされ悲鳴を上げた。お前ら自分の照り焼きフィッシュとタルタルシュリンプバーガーどうした。
だが無慈悲にも、残った分もモノ欲しそうに指を咥えていた銀髪姫様に喰われる。
更にここで、そんな真似をしてはいけないJK作法にワンチャン見出すのが、サンサリタンの巨乳女王、レアーナさまだ。
この勢いを逃してはならない、という為政者としてすら一度も発揮した事のない勝負勘を働かせ、思い切って三つ編み娘の「微妙」と評されたバーガーに喰い付こうとした。
だが直前、全く同じ事を考えていた魔王嬢と、超至近距離で額を突き合わせる状態に。
甘酸っぱい青春イベントが、一瞬で一触即発の国家間緊張状態となってしまった。
国力差ではサンサリタンが圧倒的に不利なのだが、女王である以前に恋する乙女であるレアーナさまに退く道無し。ガン付けたまま目を逸らさず、真っ赤な顔でプルプルしている。
一方、物凄い年上なのにラ・フィン閣下も大人気の欠片も無く、魔王の嘲笑でマウントを取ろうとしていた。
地球には良い言葉がある。
争いは同じレベルの者同士でしか発生しない。
そして女王様の侍女、小さいのと中くらいのは、妖精少女とバタポテトかっ喰らいながら観戦中である。
百貨店のテナント内、ファーストフード店の中で騒がしくオヤツ食べる小娘どもと、席を埋める物々しい黒スーツ警察官集団。軽く営業妨害。
そんな中、残るシソポテトまでも次々強奪されながら、雨音は漠然と月曜からの事を思い返していた。
能力者の生徒が何かやらかすのは前年度も何度かあったし、その点は魔法少女の自分が偉そうに文句言える立場ではない。やらかし具合ではワールドクラスである事だし。
さりとて、この有様では学校生活を送るどころの話ではなく。
もはやトラブルが日常風景になりつつあるのを、心底から恐れ戦く雨音さんである。
それに、この状態が常態化すれば、早晩大きな問題となりかねない。
今のところ奇跡的に重傷者は出ていないが、ただでさえ注目度の高い学校、死者でも出ようものなら大事だ。
社会問題にでも波及すれば目も当てられない。
とはいえ、『黒アリス』の力に任せた実行制圧や、拘束による厳罰化も避けたいところ。
ただでさえ無駄にグローバルに目立つ魔法少女が出しゃばるのも、反感を買いそうだ。
対処を厳しくしたところで、反発されるか徹底抗戦されそうな恐ろしさが今の能力者の生徒にはあった。
退学させたところで、根本的な問題解決にはならないし。
つまるところ、能力者の生徒たちは自信過剰というか、力を持て余しているのであろう。
実力行使は可能な限り回避したいし、実効力の怪しい校則の厳罰化とかもやめてほしい。
となると、抑止力というか生徒が自主的に自重するような方法が理想になる。
(ていうか、そんな都合のいいもんがあったら苦労せんわな。あたしが問題起こす奴を片っぱしからブッ倒したところで、あたしがいないところで暴れられたら意味ないし。人手の問題か? 風紀委員会に治安活動的な事までやらせるにしても、3年の先輩は委員長以外引退したって話だし、2年生はあたし以外おらんしな。
だいたい人数ばかり揃えたところで、攻撃能力のある能力者相手じゃ抑止にも…………ん?)
そこまで考え、何となく視界に入っていた巨乳女王とJK魔王のふたりに焦点を合わせる副委員長の雨音さん。
争いは同じレベルの者同士でしか発生しない。そしてまだやっている。
そんな乙女バトルの片割れ、魔王ラ・フィン閣下は、つい先ほど真理を語った。ルールは守らせる力とワンセットが基本。
だが、いやいやいや待て待てあたし、その考えはちょっと短絡的過ぎやしないか? と。
そんなアイディアが頭から離れず、翌日に各方面に相談してみたら、三つ編みには絶賛され職員室からは苦渋の決断をされ上役からは尊敬とアホの子を見る入り混じった視線を向けられるという。
後に我が身を省みるに、多分自分も疲れていたんだろう、と。
雨音は自身にいいわけをするものである。
感想(アカウント制限ありません)、評価、レビュー、来年度の入学願書も受付中(ウソです




