0020:ケイオス極めるニュージェネレーションズ
魔法少女近況:さー第二ラウンドのゴングが鳴ったーアタック!バトルー!!(ヤケ!!
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四月第2週の月曜日。
神奈川県室盛市、某市立高等学校。
偽装冷淡少女、旋崎雨音は高校2年生となり、教室も位置が変わっていた。
一方、クラス内で見る顔ぶれは、以前とそれほど変っていない。
古米国産金髪美少女のカティーナ・プレメシス、眠そうな顔のハイスペック三つ編み北原桜花は今年も雨音と同じクラスだが、実はこの辺に関しては少々裏があったりする。
何せワケあり魔法少女三人娘なので、学校側としても別々のクラスにはしなかったのだ。
そして、1年時には別のクラスだった能力者の生徒の姿も見られる。
異世界からの留学生を含め、何となく面倒な生徒をひとクラスに押し込んだという感がしなくもない冷淡女子だった。
「雨音っちー! 今年も一緒になれてよかったー!!」
「せいッ!」
「んニャー!? 今年もこんな感じデス!!?」
年初のホームルームの自己紹介を終えた後の、休み時間。
長身に長い黒髪の女子生徒が、両腕を広げ雨音の方に突っ込んできた。
それに対し、無慈悲な冷淡娘は傍らにいた金髪少女をカタパルト遠心射出。
長身少女はカティに抱きつく事となったが、そのままお構い無しに腕の中で揉みくちゃにしていた。
「ギニャァアア!? キクノおめッどこに手ぇ入れてマスか!? 今度こそそのユーレーみたいな髪ベリショーにしてやるデスねー!!」
「あー! カティーまいだーりん! また一年この抱き心地を堪能出来る~~♪」
「フギャァアア!? アマネヘループ!!」
踏まれた猫のような鳴き声を上げて暴れるカティ。素の状態でもかなりの馬力があるのだが、それを長身少女は余裕で押さえ込んでいる。
こりゃ今年も勝てそうにないな。
自分でこの惨事を引き起こしておきながら、他人事のようにそんな事を思う雨音さんだった。
「エディアさーん! わたしの肩に乗ってもらっていい?」
「いいですよー」
「キャー!!」
他方、妖精留学生の身長17センチ少女エディアは、乙女という花の間を飛び回っていた。あるいは営業に回っているが如し。
人形のようで人形より遥かに愛らしいメルヘン存在は、年度の頭からアクセルベタ踏みで大人気だ。かわいいモノ大好きなギャル系女子は、もはや泣きそうになっている。
恐らくこの後、インターネット上のSNS上ではリアル妖精とのツーショット写真が大きな話題になると思われた。
「外国語は選択式と言ったか。部活とやらも選ぶのだな。面白くなりそうではないか」
「フィンさまはその前に日本語覚えないと大変じゃないですかね?」
「基本5音と8種の起音の組み合わせであろ? 後は文法と単語の使い分け。4~5日もあれば操れると思うぞ?」
「マジっスか」
初っ端から制服を着崩している魔王さまは、机の上に座り大胆に脚を組み、単位の履修要綱プリントを閲覧中だ。
つまりある程度はもう読めているのである。
分からない漢字や単語を雨音に聞くと、もうそれを使いこなしているという。
あれ? このヒトもしかして物凄く頭いい? と、雨音は少々失礼な驚きを覚えていた。
「ふんふんふん……なるほど。箱の中に知識が詰まってるのではなく、これは単なる窓口か。おお!? あの邪神との大戦の時の絵だな! おいこれはなんと書いてある!?」
「ええ!? 俺!? えーと……『昨年から続く危険生物の危機、終息へ? 問われる新時代の安全保障。能力者と異世界人、新たなるプレイヤー達』、って書いてありますね…………」
大きな身体を丸めてタブレットPCを覗き込んでいたのは、ネメラス国の山男、ナイザル王子である。
少し前に遠視である事が発覚したので、メガネなどかけていた。
そして、学校支給のPCでインターネットに夢中な王子は、その辺の話ができる能力者の男子生徒を捕まえてネットの記事を翻訳させている。
こちらもマウス操作だけとはいえ、タブレットPCを使いこなしつつあった。
やっぱり王族ともなると基本スペックから違うのだろうか。と、貴人と平民の能力格差のようなモノを、雨音は漠然と感じていた。
「はうぅぅ……こちらの言葉に授業にパソコンに……覚えなきゃいけない事がたくさんですね」
「大丈夫です陛下……! わたくしが覚えて……覚えて…………」
「だいじょーぶー大丈夫、HRも授業内容も鯖……サーバーに残るから、後でいくらでも見られるし。とりあえず日本語おぼえよー」
異世界の女王という立場でも、心が折れかかって涙目な巨乳さまもいたが。
そんな姿に親近感を覚えている生徒もいる模様である。
そりゃそうだ、日本語はおろか電源スイッチ入れるような常識すら、異世界のヒトは持ち合わせていないのだから。それらを身に着けながら、高等学校レベルの教育を受けるのは大変だろう。
これが普通だよね。と思いながら、雨音はレアーナ女王と長身の侍女頭、それに三つ編み魔法少女のやりようを見て、少し安心していた。
銀髪姫のエアリーは、去年からのクラスメイトと何やら談笑している。日本語も大分できるようになった。
それを微笑ましげに見ている麗人騎士のジェラノアは、本年度も女子の熱い眼差しを強力に集めている。
『ワープシックス』ことジャスパー・チェインフッドは、ナイザル王子に巻き込まれるように他の男子生徒と交流を持っていた。スマホアプリを活用して、片言で日本語も操っている。
新顔達の様子に、学校生活の初日、走り出しは上々か、とこっそり嘆息する世話焼き冷淡女子。
冗談のように始まってしまった異世界王族組の高校生活だが、何せ王女やら魔王やらと異世界ではガッツリ権力を持っているので、今後の国交の事を考えてもあまり残念な結果にはしたくない思いがあった。
こうなるとむしろ、本年度の校内風景の方が不安要素として大きくなる。
昨年4月から5月にかけて世界中で大量に発生した、特殊能力者。
そして本校は成り行きで、能力者の生徒への理解と協調ある学校生活というような方針を掲げ、教育界で大きな存在感を放っていた。
その為か、この高校は本年度、他校に比べて能力者の生徒が多く入学している。元は風紀委員会からはじまった動きだが、学校の方もそれに乗り独自の校風として新入学生へアピールしていた。
実際問題、正気か!? と雨音は素直に思う。
結果が、仮装行列もかくやという新入生達の姿であろう。
雨音は今朝からの光景を思い出し、底知れない胸騒ぎをぶり返していた。
黒コートにシルクハットを被った女子。大きな着ぐるみかヌイグルミを伴ってくる生徒。巨大ネコを背負ってくる者。バイクからヒトに変身して校庭に飛び込む男子生徒。巨鳥にぶら下がって来る者。それに『テラーブラスト』でも見たような、羽根付きの生徒やロボットに乗ってくる生徒。
カオスの極みである。
分かりやすい者だけでコレだけいるという事は、一見して分からない能力者は更に多いと思われた。
元々この学校への入学の偏差値は、中学生当時の雨音の学力からすると、少し高めだったりする。
それでも、他校に比べて自由な校風と聞いたので、がんばって受験に励み合格したのだ。
でもこれはちょっと自由過ぎやせんかな、と。
思い起こすのは、昨年度の最初。
そうでなくても小心者な雨音は、新たに始まる高校生活に不安と期待を抱いていたものだ。
しかしそれは、飽くまでも普通の生活の範疇での話である。
まさかその後一ヶ月くらいで、魔法少女になったり怪獣が湧いて出たり異世界と繋がったりと、自分の世界がここまで変るなんて想像もできなかった。
一年生の春の平穏さが遥か昔のようだ。泣けるぜ。
だが、そんな激動の一年をどうにか生き残り、もう巨大怪獣や怪物の群れや大国と戦争をする予定も無い。思い返すとちょっと吐きそうになるが。
今年は、異世界の留学生のお世話や世界間国交が主となるだろうし、そうそう大戦争なんて起こるはずもないだろう。
そんな平和な一年への展望を抱き、穏やかな春の日差しに雨音は目を細めていた。
スドムッ――――! という爆音と激震が起こると、その目が完全に死んだが。
「なに今の!?」
「中庭じゃね!? 何か爆発した!!?」
「なんか誰かケンカしてなかった?」
「能力者のヤツだってさ!!」
一時的に悲鳴が上がっていたが、すぐに好奇心の強い生徒が爆心地を観察しようと廊下を走っていた。
騒ぎの元は、中庭らしい。詳細は不明だが、生徒間のトラブル。しかも、能力者の疑いあり。
まとめると、能力者の生徒が早速何かやらかしたとか。
窓辺から外を見ていた雨音は、朗らかな表情で固まったまま、今年一年の平穏を諦めていた。
◇
東京都某所、雅沢女子学園。
日本で最も格式ある、とされるこの学校にも、今年も良家の、あるいは娘に箔を付けたい一般家庭の親御さんの希望で、多くの子女が入学してきていた。
その実態が外聞とはかけ離れ、お嬢様育成校としての本質はやや形骸化しているのを知る者は少ないが。
男子禁制乙女の園。
だからではないが、女子生徒たちの関心も、おのずと同じ女子生徒に向きやすい。
特にそれが、同性から見ても凛々しくカッコいい女子生徒となれば、なおさらである。
そんな雅沢女子において、今最も注目を浴びているのは魔法少女としての活躍も著しいふたり、生徒会長の荒堂美由と、剣道部員の武倉士織だった。
どちらも魔法少女バレする前から少女たちの羨望を集めていたが、その華々しい活躍と評判から、評価も人気も爆上げとなっている。
もはやアイドル並みの熱狂だ。
「キャァアアア! しおり様ぁあああああ!!」
「今日も汗を流す姿がお美しいですわぁああ! ニワカの小娘は引っ込んでいらっしゃいまし!!」
「前列はクラブ会員限定ですのよ!!」
「なによそれ誰がそんな事決めたのよオバさん!?」
「いまなんつった!?」
学園裏手の静かな剣道場、というロケーションではあるのだが、今は黄色い悲鳴や怒りの咆哮で溢れ返っている。
出入り口や明り取りの窓には、女子生徒たちがひしめき合い内部を見物していた。
目当ては、年度の初日から部活動中の、剣道部員達だ。
長身にショートカットの凛々しい3年生、線の細い淑女でありながら立会いの迫力がスゴイ新部長、何より大半の生徒が見に来ているのがポニーテールの魔法少女だった。
引き締まった表情の横顔に汗が浮き、そんな姿に見物の生徒達が無制限に昂ぶっている。
肝心な剣道部員達は、年の最初からコレで少々うんざりしていたりするが。
「今年は特にすごいですわねぇ。まだ帰らないで、熱心ですこと」
「なんといっても、巨大怪獣災害とあっちの世界の怪物退治で大活躍した魔法少女さんがいるからね。春休み前からファンクラブとその他で抗争みたいになってたよ」
「なんと言うか……お騒がせしてます」
部長と先輩のセリフに、申し訳無さそうに言う渋面のポニテ。
外野の騒がしさは激しくなる一方で、部活の皆に申し訳ないと思っていた。
士織は人気やファンクラブなどというモノに、全く興味を持てないのだ。名が売れても良い事などひとつも無い。
この死合に狂った時代錯誤少女が求めるのは、ヒリ付くような空気に満ちた本物の戦場と強敵のみ。
そんな素っ気無い表情がまた、女子学園の生徒達を狂わせるのだが。
また仲間たちとそんな修羅場に廻り合えるのは、いったいいつになる事やら。
それを心待ちにしながら、退屈な日常を鍛錬に充てるべく、せめてウェイトの付いた竹刀などを無心に振るうのだ。
そんなところに近付いて来る、この学校とは違う他校の制服の女子生徒たち。それも複数種類。
「おー、それっぽくね?」
「ホンマにー? お花畑じゃん。こんなところにいんの?」
当然、毛色の異なる者たちの出現に、周囲の女子達はざわめきはじめる。
外部の人間の出入りに対し、雅沢女子学園は厳重な警備態勢を敷いていた。大事なお嬢様方を預かるのだ。その辺は日本随一の女子高として抜かりない。
だというのに、その女子生徒達は、ある点において不審過ぎた。
ところどころ色の抜けた髪を、左右のツーテールにしている女子。シャツの前ボタンを開け、スカートは目を疑うほど短く、蛍光色の小さな下着がチラチラと見えてしまっている。同じミニスカでも、ある魔法少女と違って全く品がない。
だが、そんなのは些細な事だろう。
腰に差している、ふた振りの太刀に比べれば。
別の女子は、超ミニのギャルに比べれば全く普通の格好だった。
艶やかで綺麗に切り揃えられた長い黒髪の、セーラー服の少女。
ただし、浮かべている酷薄な冷笑と、侍のような刀の大小二本差しが何故か違和感無く、空恐ろしい印象を与える。
別のひとりは制服ですらなく、どこかの学校指定らしきオレンジのジャージだった。
茶髪のミドルヘアは纏まりもなく、やや下がり気味の目付きで剣道部の方を睨みつけている。
肩に担いでいるのは、白木の鞘の長ドスらしい。
背の低くスクールコートを着たクセっ毛のメガネ女子に至っては、柄の長さが自身を超えるハルバードを抱えていた。
扇状の刃の部分がネジやボルトで留められている、パンクなデザインだ。
「ちわー、道場破りみたいなもんなんですけどー。遊びに来ましたー」
「しまづ……! しまづなんたらってのはどいつじゃぁ!?」
そんな不穏当な4人組が、周囲の視線もお構い無しに魔法少女をご指名に。
剣道場の内部は緊張感に張り詰めるが、ただひとりポニテ娘だけは、こみ上げる笑みを抑えるのが大変だった。
なにやらまた素敵なことになったぞ、と。
こんなに早くチャンスが向こうから来てくれるなら、有名になるのも悪くない。
そうして士織は、変身用の面具を持ち出し、早々に前言を撤回するのである。
感想(アカウント制限ありません)、評価、レビュー、収拾が付かなくなっても今にはじまった事ではないのでがんばります。




