0017:表層メッキ加工は見てくれ以外にも地金の保護という目的もある
魔法少女近況:ここがあのJ○J○苑……!?
.
先日の秋葉原では、買い物どころかとんでもない掘り出しモノと遭遇してしまった。
真昼の電気街に突如現れた、怪生物と巨大生物の中間とも言える存在、準巨大生物級。
それら3体と、旋崎雨音と魔法少女、異世界の王族、それにSP警官隊はなし崩しに交戦状態に。
偶然その場にいた犬のアバター系能力者の協力もあって、死傷者を出さずに制圧する事ができた。
そして撤収間際にアバター犬をモフれたので、雨音はご満悦だった。身内の犬系少女たちの嫉妬が大変だったが。
昨年6月から7月にかけて世界を襲った、巨大生物と怪生物の大量発生。
大半を駆除した現在も、都市や人里離れた場所に怪生物は多く潜んでいる。一部では、繁殖しているのではないか、との予測もあった。
秋葉原に出現した準巨大生物級も、万世橋地下駅跡や神田川の排水施設に潜んでいたモノが、行政の捜索により燻り出されたというのが事の顛末らしい。
怪生物が都市の地下に棲み付いているというのは以前から予想されているが、凶暴な生物である為に実態調査が進んでいないというのが実情だ。
行政は民間の能力者と協力し駆除を進めようとしているが、そちらも上手くはいっていない。
◇
そして現在。
四月第1週の金曜日。
午後5時40分。
東京都千代田区幸福町、ホテルインペリアル10階。
懇親会会場。
奇しくも先日の秋葉原と同じ千代田区内、皇居を挟んで反対側にある日本国内有数のホテル。
以前、イレイヴェンとローアンダーによる外交使節団が宿泊した場所でもある。
この日は世界各国や日本国内からも、政府の要人や名士が同ホテルへ集まってきていた。
異世界の王族を招いての懇親会、という事になっているが、元は女子高生どもの遅れてきたホワイトデーと打ち上げである。
そんな元ネタだとは露知らず、各国政府からは大使級や大臣級、ところによっては大統領級の方々まで訪れていた。
「――――もっとも、我がザピロスに敵対の意志など無いのだがな。北の帝国としては、領土以外にも我らの存在を認められない理由があるらしい。
こちらの世界の方々はどうかな? 同胞を見出し、己らと異なる異質な者を廃するのはヒトの常であるが…………」
「ははは……地球でも確かに文化や民族の差が摩擦を生んでいますが、少なくともどの国もそういった差別や違いを乗り越える為の努力を続けておりますよ」
「閣下のお国とも交流が進んでいけば、相互理解が深まっていく事でしょう」
そんな百戦錬磨の外交畑を相手に、初手からいきなりブッ込んでくる笑顔の魔王ラ・フィン閣下。
人種差別問題を当たり前に抱える地球人としては、返答も玉虫色にならざるを得ない。
今日の魔王さまは、真っ赤なドレス姿だった。
見た目年齢こそ女子高生くらいに見えるが、胸元と背中と肩を大きく露出させたドレスを堂々着こなし、貫禄ある美貌を見せ付ける様はまさに『魔王』といった様子である。
なお、通訳に付く冷淡な女子高生は、その陰に隠れて小さくなっていた。
華やかなパーティー会場の各所で、同じような会話が行われている。
山男王子、ナイザルはオーストラリアの駐日大使と自国の環境について話しているらしい。ネメラスは国土の大半が山岳地域だ。古くから自力で鉄を掘り出し剣を打って来た歴史がある。
資源開発のお勧めなどをされているが、王子はオーストラリアのクロコダイルの話に興味津々のようだ。天然は手強い。
銀髪姫のエアリーは、意外と知り合いが多かった。外交使節団として世界一周した際に山ほど各国政府の人間と会っているので、それも当然の事だ。
スイスの運輸大臣と話をしながら、エアリーは事前に出席者のファイルを見せられ助かったと心底思う。
その人数に内心うんざりしたものだが、使節団として訪れた国の人物を忘れていたら失礼に当たるところであった。
名前を間違えやしないかと、自分の記憶力にヒヤヒヤしていたが。
華奢な巨乳女王、レアーナは古米国の政治家と会話している。
中国軍の侵攻を警戒して海兵隊が駐留するサンサリタンは、当然ながら東西の米国と関係が深くなった。
基本的にナラキア地方諸国とは日本を通した国交になるとはいえ、自国が異世界との繋がりを強めるのは国民にとって良いニュースとなっている。
「いよいよ民間人が異世界に入る事になるからね。後援者とかに良い返事が出来るよう、異世界での足場を組んでおきたい政治家も必死なのさ」
「あ、ラッシュ大佐」
魔王さまの通訳を他の魔法少女に交代してもらったところで、雨音に接触して来たのは既知の軍人であった。
古米国海軍参謀の、アレックス=ラッシュ大佐。
一見して軍人らしからぬ、スポーツマンのようにさわやかな顔立ちの金髪男性だ。真っ白な海軍の制服姿なので、軍属なのは一目瞭然ではあるのだが。
雨音は今まで、怪生物群殲滅作戦とナラキア共同体の会議の折に顔を合わせている。
「ヒディライの時はどうも……。軍人の方もいらしてるんですね。いやいいんですけど」
「僕はほら、海軍のシール9もサンサリタンに行ってたし。レアーナ陛下にあいさつをね……。キミに言うのもアレだけど、政府としても古米軍には好印象を持って欲しいのさ。異世界の方には」
異世界ナラキア地方における活動は、全て日本を通して当事国に了解を取る事になるだろう。その時に相手国の信頼を得ているかどうかは、当然最も重要になる点だ。
スポーツマンのような海軍参謀殿も、本国の政府にその辺をせっつかれていたらしい。
軍の活動を警戒している雨音には、確かに微妙な話だった。
「それにキミも注目されてる。異世界との国交は日本が取り纏める事になるけど、向こうでの活動を支えるのはキミとアルバトロスだろう? 今度は何をやってくれるのかなって」
今日の雨音の役どころは単なる通訳、と言いたかったが、世界的にはそれを許してくれないらしい。複数方向から視線を感じていたので、冷淡JKも薄々そんな気はしていた。
実際、NGOアルバトロスにも官民問わず、企画提案やら何やらの話が頻繁に来ている。
娯楽性の強い要請も来るが、そんな件も頭から却下はせず、前向きに検討していくという姿勢になっていた。
ナラキア地方の益になれば、という前提は付くが。
「まぁ……とりあえず前の作戦の犠牲者のお葬式もありますし、なるべく早くフィンさまの国にも行かなきゃならないんですけどね。
後はー……これ言っても良かったかな……? 放送局幾つか合同で、ナラキア地方の風景とか街の番組取ろうとかって話が水面下で進んでるとか……。そうなると多分私たちも行く事になると思います」
何かやらかすみたいに言われるのは心外だと思う雨音だが、かといって何もしないとも言い切れないので、甘んじてその評価を受け入れる他なく。
ここ最近のとっ散らかる情報の中から、それほど問題無さそうな話を脳内から引き出し、スポーツマン大佐に話しておいた。
「それってエアリー殿下やレアーナ陛下も乗り気なのかな? そうなったら護衛とかで米軍にも関係ある話?」
「いや水面下でまだ正式にこっちに来てない話ですってば。でもなんかスゴイ数の放送局が集まりそうですし、ウェストの会社もあるそうですから。話が来るとしたら、お国の中からじゃないですか?」
ふたり揃って首を傾げる、スポーツマン大佐と魔法少女JK。
本当に噂話のレベルで雨音には何も言えないので、エアリーやレアーナが受ける気になっているという話も今は省略しておいた。
そうでなくとも次から次へと予定が詰まっているのだから、自分から仕事を作って積み重ねる気も無い。ひとつずつ片付けていきたいところである。
そんな事を話していると、日本の大物政治家先生から雨音にお声がかかった。
ラッシュ大佐の前を辞し、小走りで呼ばれた方へ向かう多忙女子高生。自分も主賓である事実に気付いていない。
懇親会の間は終始そのような感じで、魔法少女も異世界からの王族方も、豪勢な料理に手を付ける余裕などなく、招待客の対応に追われていた。
この会は日本政府主催で、雨音も一応客なのだが。
他方、
「これから更に、世界中の目が異世界の方へ向く事になるでしょうね。でも誰も彼もが異世界に纏わる全てを有意義なモノだと考えるのは、ここだけの話私は危険だとも感じるのですよ」
懇親会の招待客全てが、魔法少女や異世界の王族と話をしていたワケではない。
当然ながら、招待客同士でも今後のコネクションや親交を深める為に会話が持たれている。
その中で、妙に見え辛い位置に固まっている人々がいた。
「こことは異なる世界に……いいですか? 全く違う星に我々人類と同じ生物がいたのですよ? そんな偶然ありえるでしょうか。事実今回は、ザピロスという国の、明らかに我々ホモサピエンスとは異なる知的生命体も姿を見せています。
ならば、同じ世界の人間らしき生物も、やはり我々とは中身の違う生き物、と考える方が自然ではないでしょうか」
抑え目な声で話を続ける招待客のひとり。
語り口調が周囲の注目を集める中、何気なく会場を見ている風を装って、見張りをしている者もいる。
その目は異世界の女王の方へ向けられていたが、警備にあたっているSP警官が自分の方を向くと、何食わぬ顔で別の客の方へ目線を移していた。
「――――もっと言えば……! 昨年こちらで大勢の犠牲者を出したモンスターも、そもそもは向こうから来たのです。それがどういう経緯でこちらの世界に渡ってきたのか、そこに人為的な力は働いてなかったのか。その検証もされないままに、ただ大衆の興味を優先して異世界側と手を結ぶのは拙速というモノではありませんか」
現実に世界各国政府は、異世界交流の扉を開こうと大急ぎだった。脇目も振らず、と言って良い。
世論を無視できない政府が国民に尻を叩かれている故の事だが、確かに色々となおざりにしているだろう。
国益、知的好奇心を優先するあまり、安全保障が大分甘く見積もられ、それを指摘する者は「空気が読めていない」扱いされ無視されるのだ。
そんな事実と根拠無き想像を織り交ぜ、微妙に危機感を煽りながら、その招待客は続けた。
「常に備えを、ですよ。我々だって異世界という新天地に対する憧れを理解できないではありません。ですが、それらが人類にとって致命的に悪性だった場合、軸足を移し過ぎていると派手に転んで大怪我をする事になるでしょう。
そうならないように……誰かが、警戒しておく必要があるのです。そうは思いませんか?」
世界が新たな発展と展望に希望を抱いている一方、それに背を向ける動きがある。
あるいは本当に世界を憂いる者、あるいは建前として使っているに過ぎない者。
そして、それらの中に紛れ込む、全人類の異物。
魔法少女たちが世界の流れに忙殺されている陰で、それは蠢き続けていた。
◇
結局、疲れ切ってお腹を空かせた雨音たちは、懇親会後に焼き肉屋へ雪崩れ込んで、肉とサイドメニューを貪り食っていた。
閉店時間を過ぎていたが、お腹が空き過ぎて権力を振りかざした。
雨音としても心の底からすまないと思っている。
「こっちの世界の肉ウメーな!? いや肉なのかこれ!!?」
「ダメだこれ海産物と肉とその他でテーブル分けよう」
「ごめんなさいもうビール行って良いですか!?」
「ライスお代わりお願いします! 大で!!」
「ギャー!? よくもカティの漬けステーキを!!」
半焼けで肉を口に放り込む王子、人数と品数の多さに合理的な振り分けを始める冷淡女子、激務と肉の旨みに耐え切れず欲望に走るアラサー警視、ひたすら肉と米をかき込むポニテ少女、自分が焼いていたサイコロステーキを奪われ絶叫する金髪娘、なお犯人はワープ男。
「美味い……のう。単に薄い焼いた肉ではないのか?」
「レナさまにこの焼肉強食の世界はムリじゃね? すんませーん、テーブルもういっこ借りていいっスかー?」
「あの、でも……こういう皆さんと一緒ににぎやかに食べるのも、とても楽しいですよ?」
「でもレアーナさま、肉取る速度でまるで追い付けてございません事よ…………」
「陛下のお肉は私が死守いたしますので……!」
「……わたしも自分で肉を焼くのやってみたいのですけれども」
魔王さまなどは持ち前の反応速度で、焼き肉の初陣を容易に生き抜いていた。
テーブル中央、焼き網の上に置かれた肉は、早い者勝ちではあるが焼けた瞬間を見極めなければならない。さもなくば、生焼けで食べる事になる。山男王子は気にしてないが。
焼き肉とは、他人はおろか自分との戦いでもある激戦区である。
少なくとものんびりした女王様には過酷過ぎる地だった。
背の高い侍女に任せろと言われて、哀しそうな顔をしていたが。
そして三つ編み娘は、速やかな戦略的撤退を決めた。
「エディアさん、肉食べられるんですよね? なんかイメージが…………」
「何でも食べられますよー。翼手族の方や他の魔族の方ほどじゃないですけど、ヒト族の方たちよりはお腹強いんじゃないでしょうか?」
丸いお盆の上に自分の領域を確保した妖精少女に、世話焼き冷淡女子は焼いたハラミを細かく切って寄こす。
なんとなく果物などばかり食べてそうな印象のあるミニマム娘だが、実際には好き嫌いがないようで、雨音は自分の勝手な想像を飲み込んでいた。
そうしてエディアに肉を供給しながら、腹ペコ冷淡少女も石焼ビビンバに箸を付ける。
携帯電話を手にして、SP警官の大平警部補が店内に戻って来たのが、その時だ。
浮かれた雰囲気の焼き肉屋の店内、ロマンスグレーの警部補は同僚達のテーブルの後ろ側から回り込み、ビールを諦めた警視の後ろから小声で話しかける。
何を聞いたのか、軽くしょぼくれていたアラサー姉さんは生真面目な大人の顔を取り戻し、二言三言何か言葉を交わしていた。
雨音も、大平警部補が近くに来たタイミングで、こっそり尋ねてみる。
「あの、大平さん? 何かありました??」
「いえ、ホテルの警備から連絡がありまして…………。つい今しがた分かったのですが、何人か身元の分からない人間が招待客に紛れこんでいたそうでして」
「え? えーと…………え? でも身元って…………」
「ええ、基本的に事前に出欠の確認を行い、顔と名前の一致した身元の確かな人間しか会場に入れません。成り代わりは不可能です。
仮に警備を潜り抜けて会場に入れても、警備員や警官の誰かが見覚えの無い人物を確認した時点ですぐに拘束される手順になっていますし。
ですが、監視カメラの映像を見た限り、いたようなんです」
懇親会に先立ち招待客の管理で泡を吹いていた外務官僚の有様を思い出し、眉を顰める冷淡女子高生。
言うまでもなく、今回の懇親会は世界各国からVIPが集まる為、警備は非常に厳重だった。ホテルどころかその外にまで、警察官が無数に配置されていたのだ。
しかも、会場内も常時警戒されていたという。
潜り込もうとする人間が出るのは予想されていたが、実際に潜り込まれた上に、誰にも気付かれないで逃げおおせるとは。
招待客の『なんだかよく分からない連中がいた』という話から今回の事態が発覚したワケだが、警備にあたっていた警察は面子丸潰れで、今は相手の素性と足取りを追っている最中との事だった。
「差し当たってこちらには警官を増員するそうです。我々も警戒していますのでご安心を。もっとも、会場に入られておいて、あまり偉そうにも言えませんが」
「でも……多分能力者、ですもんね。結局何もしなかったあたり、狙いも良く分かりませんけど」
警護してくれるのは有り難いが、雨音としても身の安全を他のヒトに丸投げするつもりはない。能力者の所業である可能性が高いのなら、同じ能力者としてなおさらである。
それに、魔法少女として異世界国交などという全世界の政治レベルの案件に両足突っ込んでいるのだ。身の回りの事で、不安を完全に払拭するのはもう諦めた。
常在戦場である。
深く考えると人生と未来に絶望しそうなので考えないでおこうと思う。
それにしても、アリ一匹出入りできないパーティー会場に容易に潜入、と聞いて、何やら既視感も覚える雨音であった。
感想(アカウント制限ありません)、評価、レビュー、無慈悲な誤字突っ込みも喜んでお受けいたしております。




