0002:魔法少女ブラックオプス
魔法少女近況:わたし達が手を汚し、国家は体面を保つ、それが使命よ(ウソです
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三月第4週の水曜日。
異世界西方大陸東部、ナラキア地方。
月の無い静かな夜。北方にあるこの地の夏は短く、早くも冷たい風が木々の間を吹き抜けている。
木の葉が擦れる音以外、聞こえるのはフクロウの鳴き声のみ。アスファルトを走るクルマの音や上空を飛ぶ飛行機の音も、この世界には存在しない。
真っ暗闇の中浮かび上がるのは、開け放しの窓から光を漏らす、大きな城のみだ。
そんな闇に紛れて、城の裏手から接近する一団があった。
城の裏口の前には篝火が焚かれ、歩哨として槍を持った鎧姿の兵士が置かれている。
城壁の上にも弓を背負った見張りが。
小さな出入り口とはいえ重要な地点である事に違いはなく、兵士の数は多く警備は厳重だ。
しかし、
『確実に頭を撃ち抜けよ……やれ』
無線通信で合図が飛ぶと、ライフルから弾丸が放たれた。
まず城壁の上で巡回していた兵士が倒れ、微かな物音に気付いた他の兵士も順々に倒れていく。
銃口の先に着けられた制音機により、発砲音は大幅に抑えられていた。離れた場所では、篝火の爆ぜる音に混ざり識別は困難だろう。
その射撃精度も非常に高く、全ての兵士が倒されるまで僅かな時間しかかからない。射撃ミスも無かった。
『ホイール10よりCP、エネミーオールダウン、エントリーポイントクリア』
『CP了解、エリート10はエリアへ侵入。エントランスを確保してください』
『エリート10よりCP、エリート10前進する』
『了解、ホイール10はエリート10をカバー』
『エリート20、監視継続中、問題無し。気付かれた様子は無い』
裏口の正面にある上り階段の陰から、闇が這い出るかのように次々と人影が現れた。
それは、全身真っ黒な装備の兵士達だ。
身に着ける全てが光を返さない艶消し処理を施され、目出し帽を被り暗視スコープを装着している為に人相も分からない。
個である事を放棄し、隠密裏に任務を果たすだけの戦闘兵器たち。
その場にいるのは、そういう存在だ。
城壁の扉は、金属で補強されていたとはいえ基本的に木製だった。観音開きのそれは、中心の閂がある場所へ発砲するだけで容易に破る事ができる。
木の板が破断する音を聞き中の兵士が様子を見に来たが、頭を出した瞬間に弾丸を喰らい倒れていた。
『ワンダウン……クリア。裏口エントランスクリア。エリート10よりCP、中に見張りはいない。このまま行くぞ』
『CPよりエリート10了解。パッケージはエリア南西の塔最上階。そこから西の通路を移動し、裏庭から南へ移動。城内に潜入し屋内から塔へ入ってください』
『エリート10了解。敵の配置がハッキリしない。近距離での遭遇戦になる。全員集中しろ』
『ホイール20はプランBスタンバイ』
『ホイール20よりCP、了解』
城壁の内側に入った時点で、突入部隊は武装をアサルトライフルから接近戦用の短機関銃に持ち替えていた。
古めかしい城は狭い通路が多く、ライフルのように長い銃器は取り回しに不安がある為だ。
その短機関銃は短銃身だが機関部の面積が大きく、45口径という大口径ながら反動吸収機構を備えた、高威力かつ高精度な近距離対応銃器だった。
無論、これにも先端に制音機が取り付けられている。
一方で、城壁や城の外からの支援部隊は、長距離射撃を見越した武装をしていたが。
見張りを排除した以上、城の兵士がそれに気付き大騒ぎになるのは時間の問題と見られた。
突入した分隊の12人は、ナビゲートされるまま銃を構えた姿勢で進攻。遭遇する城の兵士には、出会い頭に問答無用で発砲していく。
しかし、裏庭から城の本体に入った際に、見張りへ発砲したのを他の兵士に見られ想定通りの騒ぎになった。
当直はもちろん非番の兵士も、押っ取り刀で武装し侵入者へ押し寄せようとする。
これを密かに排除するのが、城壁など高所を制圧した突入部隊の『ホイール第一分隊』だ。
エリート分隊と異なり、支援に徹するホイール分隊は徹底して身を隠しながら、激しく動く兵士たちを静かに排除していく。
更に、ドカンッ! と。
「なんだぁ!? 魔法か!!」
「正面が破られたのか!?」
「敵はどこだぁ!!?」
城の正門付近で大爆発が起こり、侵入者の姿を見失った兵士たちが右往左往を始めていた。
爆発は支援部隊、ホイール第2分隊の仕業だ。いざと言う時に陽動を行い城の兵士を混乱させるのも作戦の内だった。ちなみに、隠密行動に向かない者が配置されている。
騒ぎになると、城全体で明かりが焚かれはじめた。暗闇はかき消され、周囲を覆っていた静寂も破られる。
離れたところに止まっているフクロウは、その騒ぎをジッと眺めているようだ。
いよいよ姿を隠さなくなった突入部隊は、城の中を南西方面へ敵を蹴散らし強行突破。抑え切れない発砲音が城内に反響し、弾丸を叩き込まれた兵士が鎧を穴だらけにして吹き飛ぶ。
立ち塞がる盾持ちの重装歩兵を集中砲火で倒し、待ち構えていた弓兵隊をスタングレネードの閃光と爆音で無力化。
短銃身の短機関銃は想定通りの活躍をし、急に飛び出して来た兵士を至近距離から制動していた。
塔の入り口を守っていた100人隊を弾幕で押し潰すと、突入部隊は狭い螺旋階段を駆け上がりながら途中途中で騎士と交戦。
特別頑丈な鎧に魔法の剣まで持つ騎士は脅威でしかなかったが、目出し帽のひとりが車両据え付け用の重機関砲をライフルのようにブッ放し、ゴリ押しでこれを撃破。
一切足を止めないまま、最上階の扉の蝶番を破壊すると、蹴破って室内にまで突入する。
「お疲れさまー兵士諸君! どうせならあたしも外から見たかったなー」
塔の最上階にいたのは、パッと見で儚げな文学少女風の三つ編み娘だった。
品の良い顔立ちの良家のご息女だが、眠そうな表情で色々台無しである。
運動苦手そうな中肉中背の少女だが、その少女に倒され、周囲には屈強な男たちが転がっていた。
「桜花なら先行して忍び込めるし、レナ様を保護するにも面識があるから好都合、って自分が言ったじゃんよ…………ってコレどなた?」
「例の公爵様だってー」
「おおっとそれはまた…………」
目出し帽を脱いで三つ編み少女とハイタッチするのは、黒いミニスカエプロンドレスの金髪少女だった。
身長170センチほど。スレンダーなカラダ付きだが、出るところは出て引っ込むところは引っ込む起伏の激しさも併せ持っている。
胸元が大きく開いたエプロンドレスでたわわな胸と谷間が強調され、ギリギリ丈のミニスカートは発育の良いお尻が見えそうになっており、そこからオーバーニーソックスに包まれる長い脚が伸びていた。
本人的には、マントのようなジャケットを上から着ているのが、せめてもの救いだ。
冷たい美貌の金髪娘が首を傾げると、頭の上のウサギ耳のようなガンメタルシルバーのリボンも揺れる。
元の年齢からも2~3歳プラスし大人っぽくなった、旋崎雨音の魔法少女としての姿。
『黒アリス』であった。
そして、この場には三つ編み娘の北原桜花と魔法少女の黒アリス以外にも、大勢の人間がいた。
黒アリスと共に突入してきた黒尽くめの兵士は、東米国と古米国の軍人たちだ。
雨音の既知である海兵隊員の他、陸軍の特殊作戦分遣隊や海軍特殊部隊、空軍特殊作戦コマンドから隊員が参加している。なお使用銃器は全て魔法少女製の非殺傷仕様となっております。
突入前から室内で倒れていたのは、この国の公爵とその護衛らしい。
布地の厚い仕立ての良い貴族の服に、口髭をたくわえた我の強そうな顔付きの男。
ガルベィラ=フィレモント。クーデターを起こし、女王を幽閉して国の実権を握っていた公爵である。
最後に、もうひとり。
「まぁ…………クロー様まで来てくださったのですか? このような北の果まで。ありがとうぞんじます」
「は、はい。あー……いや! レアーナ陛下、遅くなりましたがイレイヴェン国子爵クロー、参上いたしました」
のんびりした女王様の様子で調子が狂ったが、すぐに気を引き締める黒ミニスカ魔法少女。
塔の上に閉じ込められていたのは、ナラキア地方北部の国、サンサリタンの女王、
レアーナ=サリサ・ヴェーネルネ陛下であった。
◇
三月第3週の月曜日。
雨音が痛む身体を引き摺りやっとの思いで学校に行き、そして帰宅した後の話になる。
珍しく母とふたりだけの食卓で、テレビのニュース速報を見て娘の方は味噌汁吹いた。
その内容が、『中国が異世界サンサリタンとの国交樹立か。政府公式発表』という仰天するモノだった為だ。
サンサリタン。ナラキア地方北部の、ナラキア共同体に属する国。つい先日の『死の濁流』怪生物群殲滅作戦においても、連合軍参加国として多くの兵を出していた。
その国が、どうしていきなり中国との国交を始めるという話になってしまうのか。
ナラキア地方の各国がひとつに纏まり、日本を窓口に地球世界との国交を始めるのは『アイランドプラン』の基本方針だ。
東西米国と日本はその為に犠牲を払って戦ったのだから、報道が事実だとすれば大変な事態である。
ナラキア地方の西隣の国、『ジアフォージ』への侵略戦争を続けている、中国こと中華社会主義共和国。
これは、単にサンサリタンがいち抜けたという単純な話ではない。
中国がナラキア地方に足場を確保すれば、東西米国と日本の利益どころか異世界側国家の存続の危機だ。
すぐに雨音が連絡を取ろうとすると、その前に携帯電話が振動して着信を伝えた。
かけてきたのは、いつも大変お世話になっている自衛隊の三佐殿だ。
同時にメッセンジャーアプリの『ワイヤー』にも、仲間たちからのメッセージが。
雨音は全員と品川のNGO『アルバトロス』で会う約束を取り付け、すぐさまSP警官にお願いしてクルマを走らせてもらった。
「こっちは事務次官から大臣から与党の幹事長総務会長政調会長挙句の果に総理にまで呼ばれて事情を聞かれる始末ですよ! そんなのこっちが知りたいくらいなんですがねぇ、ええ! なので担当者に話を聞いてくるって事でどうにか抜け出してきた次第ですよそれでどうなってるんですかね旋崎さん!?」
東京都品川区、品川宿レジデント19、20階。
NGOアルバトロス本部。
到着して間も無く、少々やつれた姿で捲くし立てるのは、外務省アジア大洋州局北太洋州課の仁田氏である。若くして課長代行まで出世したのに、今度は降格の危機だとか。
だがそんな事言われたって、何が起こっているか知りたいのは雨音の方なのだ。
そんな仁田氏は自衛隊の釘山三佐が黙らせてくれた。
「わたし達にとっても寝耳に水ですものね。向うでお会いしたサンサリタンの貴族の方も、中国の『ち』の字も口にしてませんでしたし」
と、お嬢様口調で言うのは、亜麻色の長い髪に穏やかな表情の大人っぽい美少女。お嬢様学校で生徒会長を務めている荒堂美由だ。
雨音の魔法少女仲間のひとりである。そしてお嬢様としての振る舞いは擬態である。
「外務省の方なら、外交ルートでもっと詳細な事を聞いていないんですか? 私達の中で正確な情報を持っているのは、多分誰もいませんよ?」
落ち着いた様子で外務官僚に問うのは、綺麗に切り揃えたミディアムボブの黒髪に、地味なビジネススーツを着こなすメガネのお姉さん、三条京だ。
警視庁の警視という立場ながら、魔法少女でもあり現在は雨音の高校に非常勤講師として潜入中である。来年度は正式にクラスを受け持つ事になりそうだとか。
応接間の大画面テレビをつけると、ちょうどニュースを放送している時間であり、中国の発表の件で特別番組が組まれていた。
とはいえ、政府は記者会見で『事実の確認中』としかコメントできず、情報は全く持っていない。
ニュースの方も、これまでの異世界における中国の動きや、先日までの東西米国と日本政府の取り組みをお浚いする程度の内容となっていた。
「それじゃ、行くしかないか。どうせ合同葬儀とかの話もしなきゃいけなかったしさ。もしかしたら何か情報が入ってくるかも」
ならば、やる事はひとつ。直接聞きに行くしかない。
元々雨音は異世界に行く予定があり、問題のサンサリタンに行くのも決まっていた。
先の『テラーブラスト』作戦において、100万人の兵士を投入したナラキア連合軍は相応の戦死者を出している。
その為、ナラキア共同体として合同葬儀を行うという事になっており、雨音も雷神の魔道士『クロー』として参列するのだ。
そのような理由もあり、雨音の決断は早かった。異世界から戻ったばかりなのに、トンボ返りする勢いで明日にでも異世界入りする事が決定する。
流石に夜も遅く、また異世界の移動や入り口となるポータル基地側の準備もあるので、即日の行動は無理という話になったのだ。
雨音としては貴重なテスト勉強の時間が潰れるが、そんな事も言っていられない事態だった。
ところが、その一晩でまたしても事態は大きく変わってしまう。
翌日、朝起きてから大急ぎで旅支度をしていた雨音だが、そこへ釘山三佐からモーニングコールが。
ポータルのある島、アイアンヘッド島への移動の件かと思ったら、そもそも移動自体が中止との事。
曰く、中国側から外交ルートで、『我が国は東西の米国軍が、友好国であるサンサリタンへ土足で踏み込むのを認めない』と伝えて来たのだという。
急いでテレビをつけると、同じ内容を記者会見で喋っている報道官の姿が映し出されていた。
中国に先手を打たれた形だ。
スッキリしない気分のまま、予定を変え学校に行っている間にも、外務省の仁田氏経由で徐々に情報が入ってくる。
中国は以前からサンサリタンと接触を持っており、ここに来て女王と正式に国交を結ぶ事に合意したのだとか。
これも同じ内容が記者会見で公表されたが、直後に東米国から提供された情報の中身は、それとは大分異なるモノだった。
サンサリタンで起こったのは、クーデターらしい。中国が同国の公爵を支援し、国政を力尽くで握らせたのだ。
なお、これは東米国の情報機関が中国政府の内部から入手した情報である。
雨音たち魔法少女も東西米国と日本も、これに関しては脇が甘かったと言わざるを得ない。
中国は『ジアフォージ』への対応で手一杯、という思い込みがあったのだろう。
しかし、中国のジアフォージ攻略に見通しが立たない一方で、東西米国と日本はナラキア地方との国交の下地を整えてしまった。
その国交を妨害しようと思えば、ジアフォージのポータルに近い国に不安定化工作を仕掛けるのは十分に予測できた事だ。
ところが、『テラーブラスト』の準備も忙しかったとはいえ、雨音たち地球側もナラキア各国も、足下を固めるのを怠ってしまった。
むしろ、各国からのヒディライへの派兵で国内が手薄になったのも、クーデターを許した一因だろうというのが釘山三佐の見立てだ。
サンサリタンは先王の急逝で新女王を立てたばかりであり、国内の情勢も不安定だった。
「イヤイヤイヤやられちゃいましたねぇ、中国政府は『サンサリタンに対するあらゆる他国からの干渉には断固とした対応を取る』とか宣言してきましたよ。既にチベットやウイグル……自治区扱いですかねぇ。
中国がどこまで実効支配を進めているか分からないので、迂闊に現地の偵察にもいけません。さてさてさてどうしたものやら。
ナラキア北部を押さえられるとなると、政府も今後の異世界での戦略を見直す必要が出てきそうですよ」
情報を整理し今後の対応を練るという事で、再び集まったNGOアルバトロス本部で外務官僚が他人事のように言う。あるいは諦めて降格も受け入れたか。
実際、中国軍がサンサリタンに侵攻しているならば、ナラキア各国は警戒態勢に入らなければなるまい。サンサリタン一国で終わらない可能性もある。
傀儡だとしてもサンサリタンが公式に他国の干渉を拒絶するなら、東西米国は無論の事、ナラキア共同体の各国もサンサリタンへは入れないだろう。真意を確かめるどころか、様子を見に行く事すら出来まい。
強引にサンサリタンへ入国すれば、下手をすれば戦争だ。ナラキア共同体の国同士で、そして東西米国と日本、中国の間で国際問題にも発展しかねない。
ただ、どのような政治的問題があろうとも、雨音には間違いなく優先するべき点があった。
サンサリタンのレアーナ女王が窮地にいるのであれば、これは助けに行かなければならんだろうと。
0003:逃げ込んで迎撃するアーマード駆け込み寺 07/21 20時に更新します。
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