0004:しかしカティはMに目覚め気味だった
ベッドの上では、可憐な金髪少女がカラダを震わせ、悶えていた。
枕に顔を埋めて荒い息を殺し、涙を浮かべて背後からの親友の責めに耐えている。
「ヒャァア……ン!? あー……アマネ……そんなに、強くされたらカティ……壊れちゃうデース……!」
しかしカティには耐えられる。
自分の肢体を責めているのが、他ならぬ親友の雨音だからだ。
まだまだ幼さの残るカラダに突き込まれる激しい律動。カティは汗だくになってそれを受け入れながら、雨音へ気丈に微笑みを見せ、
「まだ余裕ありそうね。脚だけじゃなくてお腹にも張っとくか」
「ミギャァァアァアアアアア!? ほ、ホントにおかしくなるデスよー!!」
慈悲の欠片も無い雨音の『高周波治療器の刑』に、情けない悲鳴を上げていた。
◇
調子に乗ってとんでもない所にまで手を伸ばして来た小娘へどぎついお仕置きをし、雨音は乱れた服を整える。
カティは無邪気に一線を超えそうな勢いで来るから恐ろしい。恐らく本人はじゃれているだけだろうが。
じゃれているだけだと思いたい。
「あーもー勉強にならんわ」
仄かに赤い顔で下着を着け直す雨音は、ベッドで痙攣しているバカ娘を複雑な想いで見下ろす。
友達との距離の取り方、難しい高校での勉強、普通の高校生として当然その辺りは考えて行かなければならない事柄だ。
しかしカティ同様に、最近世間を騒がせている事件の数々は、勿論雨音も気にはなっている。
通常では考えられない事件、または事件なのかもよく分からない事件の予備的事象の多さに、警察機能はその容量を大きく超えてマヒ状態になり、ここ一週間ほどは犯罪発生率もウナギ登りなのだとか。
非公式な自衛隊の活動も、もはや公然の秘密となっている今日この頃。
そんな中で多くの事件の中に埋もれ、そして現在の室盛市で真しやかに囁かれてはじめているのが、吸血鬼の実在とその被害に関する噂だった。
吸血鬼の噂に関しては、他の事件ほど派手なニュースにはなっていない。全国区の報道番組でも、一度か二度、被害者の容体と目撃証言から「まさか現代に本物の吸血鬼が!?」といった緊張感の欠片も無いバラエティー的な放送がなされただけだ。
だが問題は、その事象が雨音やカティの生活圏に近すぎる事。
雨音の席の隣にいるクラスの友人は、何を思ったのか「ドラキュラ」の原作小説なんぞを読みだし、「自分もイケメン吸血鬼に咬まれたい」とかワケの分からない事を言っていた。
だが現実問題として、首にそれらしい外傷のある重傷者が出ているのは、歴然たる事実である。
『咬まれたい』とか能天気な事を言っている状況でもなかった。
「んー……」
「ア゛~~~~オシリとオナカがピクピクしてるデース………ってアマネ?」
難しそうに唸る雨音に、高周波治療器から解放されたカティが首を傾げる。
二度と能力者絡み――――――の事象――――――には関わるまいと心に決めていたが、既に一度――――――もしくは二度――――――関わってしまったが故か、それとも生来の心根故か、雨音としても知らんぷりを極め込み難いものがあった。
つまり、カティの時と同じパターン。
「ハァー………………………………ジャック」
「なにアマネちゃん!?」
「オウッ!?」
諦観混じりの深いため息とともに、雨音がその名を呟く。
それに応え、呼ばれて飛び出て乙女の園にスーツ姿の中年オヤジが現れた。それも、何故かクローゼットの中から。
しかし、恰幅の良い中年オヤジは世を忍ぶ仮の姿。その実態は、魔法少女を補佐するニルヴァーナ・イントレランスの使者。
雨音のアーカイブを参照し、軽装甲機動車の運転、兵員輸送ヘリの操縦、無人攻撃機のオペレーションまでこなす、少年の心を持った――――――比喩表現無しで――――――悲劇のマスコット・アシスタントである。
「お雪サーン!」
「はい、勝左衛門様」
次に窓から入って来たのが、肩や胸元を大胆に出した着物姿のお姉さん。カティのマスコット・アシスタントのお雪さんだ。
どうしてこんなエロい見た目なのかと雨音は思わずにいられないが、実は大人になった雨音をイメージしてデザインされている。
性格はおっとりとして、何かにつけて考え込む雨音とは正反対と言えたが。
「カティ、何もお雪さんまで呼ばなくて良いわよ。ちょっとニルヴァーナの事で聞きたい事があっただけなんだから」
「そうなんデスか? カティはてっきり変身するのかと思いマシた」
ちなみに、擬態偽装にしても銃器形成にしても、魔法の杖たるリボルバー――――――カティの場合は大刀――――――がなければ使用できない。
その杖も、持ち歩いていない時には、マスコット・アシスタントを呼んで持って来てもらわねばならなかった。
だが今回は、変身する為に呼んだワケではない。
「もー、そうでなくてもカティの部屋みたいにカオスに広いワケじゃないのに――――――――――」
「どういう事なんデス?」
「――――――――――4人もいたら手狭じゃん。お雪さんいるならジャックは帰っていいかな」
「そんな!!?」
親友が死んでも涙を見せないようなタフガイが、雨音の科白に心を抉られ、サングラスの奥に涙を溜めていた。




