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いまさら魔法少女と言われても  作者: 赤川
wave-11 休息無き魔法少女のホームグラウンドゼロ
509/592

0001:ユーザビリティーをガン無視する大型アップデート

魔法少女近況:オイオイオイ死ぬわあたし

.


 四月第2週の月曜日。

 日本、神奈川県室盛市、某市立高等学校。


旋崎雨音(せんざきあまね)です、よろしくお願いします」


 黒髪を肩まで伸ばす冷めた感じの女子生徒が、極めてシンプルに自己紹介を終わらせた。

 口調も淡白で、周囲と距離を置くような空気を纏っている。


 そして、直後に教室内で巻き起こるブーイング。

 お前もっと他に言うべき事がいくらでもあるだろうが、というクラス一丸となった異議申し立てである。

 少女の冷淡さは10秒持たなかった。


「な……なんだなんだ文句あるのかこの野郎ども!? こちとら学校の中じゃ議論の余地無く普通の高校生じゃぁああああ!!」


 そんな数の暴力に圧倒されていた黒髪女子だが、涙目になりながらもコブシを振り上げ反撃に出る。

 いったいどんな自己紹介を期待したというのかこの連中は。

 ここで一般生徒の肩書きまで手放したら、もはや自分に安住の地は存在しなくなるのだ。

 そりゃ冷淡じゃいられないってもんである。

 女子生徒は年度の初めから、総力戦に挑むのも(やぶさ)かではない気合の入れようだった。

 こちとら戦場帰りだぞ。


「はいはい、あと旋崎さんは風紀委員会の副会長も継続でしたね。

 皆さん知ってるヒトも多いと思いますけど、旋崎さんは校外で大変な仕事に従事する事の多い生活を送っています。

 特別扱いしろとは言いませんが、出来るだけ学生生活を助けてあげて下さい」


 そんな情緒不安定ガールを、興奮した牛でも(なだ)めるように背中をさすり落ち着かせるのは、クラス担任のメガネ美人教師である。

 なお、教師というのは仮の姿。

 その実態は黒髪少女の仲間であり、身の回りの支援をする為に組織の垣根を越えて学校に送り込まれた人物だった。

 ここ最近は教師の大変さを思い知る毎日だと言うが。


 しかし、本当に大変なのは、これから。

 メガネの女教師エージェントは、今日から始まる生活がどれほど大変になるか、想像もできないでいた。

 日本どころか東西米国からの支援も十分に期待できるとはいえ、責任重大だ。

 そして、その責任を恐らく自分以上に感じているであろう問題の冷淡少女には、多少の同情を禁じ得なかった。



 そんな問題の原因たる人物たち(・・)も、生徒として順に自己紹介である。



「エアリー=イヴ・デトリウス、デス。皆サマ、また一緒に、学んデいきまショウ」


 長い銀髪に、紅色が混じる瞳。気品ある美しい容貌の中に、微かなあどけなさを残す少女。

 異世界、イレイヴェン国の第2王女、エアリー=イヴ・デトリウスである。日本語も勉強中だ。


「サンサリタンの……いえ、サンサリタン女王、レアーナ=サリサ・ヴェーネルネであります。このような場で皆様と出会えた事を、とてもうれしく思います」


 淡い金髪のストレートで、やわらかな面立ちの美女。制服の上からでも線の細さが目立つが、一方でお胸がはち切れそうになっているアンバランスなスタイル。

 異世界ナラキア地方北部の国、サンサリタンの女王陛下、レアーナ=サリサ・ヴェーネルネ。

 ちなみにエアリーより少し年上だ。


「俺はエルリアリを懐に抱く国、ネメラスを治める王ドーガルの息子、ナイザル=ネス・マクドラドだ。

 雷神クローの下でこの世界を学ばせていただく。よろしく頼む」


 特に大声を出しているワケでもないのだが、その挨拶で黒板やガラス窓は震え、半分現実逃避していた生徒も現実に引き戻された。

 高校生としては規格外に巨大な体躯、仁王像のように厳しい顔付きだが、黒い髪をオールバックにするワイルド系ナイスガイ。

 ネメラス国の山男、ナイザル=ネス・マクドラド王子である。


「あー……どうも、ジャスパー=チェインフッド。よろしく」


 見た目のインパクトが強いヒトの次で、どうにもやり(にく)さを感じる短い金髪の青年。

 体格も比較的しっかりしているのだが、前の山男王子が熊のようにデカかったので普通に見えてしまう。

 東米国(モダンアメリカ)出身、世界に5人認定されている、戦略級能力者のひとり。

 その名はジャスパー=チェインフッド、またの名を『ワープシックス』といった。

 

「ラ・フィンである! 皆の者より大分歳が上であるし、我はザピロスの魔王などと呼ばれているが、この場においては新参者よ。そのように遇して構わぬ故、よしなに頼むぞ」


「し、シルフィンの園の主、メレフ女王様のお付き、エディアです! 今は魔王さまのお付きを命じられてますけど……あの――――――」


「我ともどもよしなに頼むぞ!」


 一見して高校生ほどの年齢だが、ヒトの上に立つのを当然とした威厳を放つ美少女。

 幼さを残しながらどこか挑発的な容貌に、血が通うような赤みがかった長い黒髪。そして明らかな異彩を放つのは、頭の左右から延びる捻じ曲がった鋭いツノ。加えて、背中には外套(マント)のように畳まれた翼手を生やしている。


 そのツノ付き少女の手の平の上に乗るのは、身長17センチ程度と華奢で壊れてしまいそうなミニ少女だ。

 紅葉色の柔らかなミドルボブカットで、王女や女王や魔王に負けない愛らしい顔立ちだが、今はやや不安げな表情である。

 自己紹介の言葉に詰まる妖精少女のエディアだったが、そこは魔王ラ・フィンが勢いで締めていた。


 特殊過ぎる面々の自己紹介に、2-Dクラスの40人弱は呆気にとられている。

 前年度は魔法少女がクラスメイトにいて精神的に鍛えられた生徒もいたが、それにしてもこの転入生達は特殊過ぎた。

 以前から留学していた異世界の王女一名(プラス護衛の騎士)に加え新たに、女王一名、王子一名、魔王一名、妖精一名、戦略級能力者一名。なお全員制服着用。

 この先の学校生活を想像すると、今から気が遠くなり軽く失神しそうな冷淡女子である。


 だが、立場上そうもいかない。

 戦略級能力者の受け入れを決めたのはこの少女であるし、女王陛下の保護にも同意した。ただでさえクーデターから国元を離れての、女王様のひとり暮らし。これをしっかり支えなければならないという責任も感じている。

 山男の王子と魔王に関しては、事故のようなものだったが。


 不安要素は、まだある。

 先の異世界における怪生物群殲滅作戦『テラーブラスト』の情報が一般公開され、現在は地球側で少し不穏なブームが起こっていた。

 そのブームが、今年の本学校での新入学生へモロに影響を与えているのだ。

 テラーブラストに参加した能力者たちの見せた、特殊能力の新たなる段階、レベル2。

 そして、本年度は能力者への理解があるとされた本校へ、大勢の能力者が新入生として入学している。

 異世界から留学してきた要人と、能力成長ブームに乗って半分爆弾の様になっている新入生。

 そんな学校の風紀を守るハメになった、風紀委員会の副会長である冷淡娘。



 旋崎雨音、波乱の2年目スタートである。



                        ◇


 旋崎雨音(せんざきあまね)はこの4月に2年生となった高校生であり、前年から引き続いての風紀委員の副会長であり、そして魔法少女だ。

 髪は透明感のある黒のストレート。染めるなど派手な事はしないが、()いて軽くする程度には見た目にも気をつかっている。

 身長は160センチを少し越えるほど。スリーサイズは国家機密(本当)。第二次性徴に乗り激しい運動の絶えない日々の中、女性として魅力的に成長中だ。脚の太さが気になる乙女心だが、友人の評判は大変良かった。解せぬ。

 化粧などを好まないので比較的地味にしているが、顔立ちは整っており素材は良い。

 臆病な性格故、何事も過度に期待しないよう自分を戒めており、周囲から距離を取りがちだった。普段の冷淡な態度と表情が、それを物語っている。

 友人たちは慣れたものなので、お構いなしに近付いて行くのだが。早々にメッキが剥がれて、もはや味になっていた。


 そんな雨音が魔法少女となって、もうすぐ1年が経とうとしている。

 昨年の4月から5月にかけての、地球における特殊能力者――――及び魔法少女――――の大量発生。

 6月の全世界規模での巨大生物と怪生物の災害。

 12月の異世界との初の接触、そして地球を一周した使節団の来訪。

 翌年2月の地球から異世界への視察団派遣。

 3月には、東西米国軍及び日本の自衛隊による異世界災害援助派遣。

 このような世界的な一大事の表に裏に、雨音は仲間の魔法少女と共に関わる事となった。


 ゴールデンウィーク前に魔法少女なんぞにされたと思ったら他の能力者と衝突するハメとなり、能力者由来の吸血鬼どもと夜の街でケンカになり、海から出てきた怪生物や巨大生物と東京全域で殴り合い、異世界へ迷い込んでひとつの国と王都で無数の怪物相手に防戦する事になり、異世界からの使者や地球からの使節団を護衛してふたつの世界を右往左往し、地球一周の最中に随一の大国と核戦争寸前まで行ったり、と。

 16歳の女子高生にはいささか激し過ぎる難易度の人生ではないかと思う。


 その挙句と言うべきか、異世界を覆う怪生物の(むれ)、『死の濁流』殲滅作戦に、雨音は魔法少女として参加。

 初っ端から作戦が破綻した中、300万体超の異形と40体もの巨大生物を相手を、勢いと力任せでどうにか排除するのに成功した。

 作戦が予定通り運べば魔法少女はお手伝い程度で済んだのに、結局はいつもと同じ最前線である。


 そうして異世界のナラキア地方は壊滅を免れたが、現在に至るまでまだ後始末は続いていた。

 多くの被害を出した当事国のヒディライと、王都マムスの復興。作戦に参加した兵士や能力者の中に出た戦死者の葬儀。駆除した怪生物や巨大生物の残骸の片付け。


 それに『死の濁流』殲滅それ自体は通過点に過ぎず、重要なのはその後の地球とナラキア地方の国交にある。

 今後は地球側から多くの人間が調査に入り、また双方の世界から大量に資源や物資が出入りするだろう。

 雨音がそれに関わるのも確定事項であり、地獄の戦場を生き延びても安息の日々は当面訪れないと思われた。


 だというのに、この忙しい時に余計な仕事を増やしてくれる連中が現れたりするのである。


                        ◇


 三月第3週の月曜日。

 異世界における『死の濁流』殲滅作戦『テラーブラスト』がひと段落し、地球に戻った翌日の事となる。


 前日の夜遅くに自宅へ帰ったお疲れJKの雨音だが、次の日にはもう学生の身分へ立ち返らねばならなかった。

 戦争後に間髪入れず日常復帰とか本職の兵士もビックリなハードスケジュールだが、今週いっぱいで年度が終わり学校が春休みに入ってしまうのだから仕方ない。

 その前に期末テストなどもあり、休んでいる暇など無かった。

 もう若さだけが頼りだ。


「…………旋崎さん大丈夫ですか? 流石に今日くらいは学校もお休みした方が……」


「そうしたいんですけどねー、出席日数……はともかく授業内容がですね」


 迎えに来た白髪交じりのベテランSP警官、大平警部補も痛ましい表情をしている。

 雨音は見た目にも消耗し切っていた。筋肉痛の極みで、油が切れたような動きになっているのだ。

 今朝は、居候の金髪娘も異世界の銀髪姫もいない。他の娘も全員限界だったので、家で休ませている。

 領事の娘や良家のお嬢様たちやアイドルに対し、どうせ成績が切実な問題になる一般家庭の子は雨音だけなのだから。


 学校に到着すると、クルマを降りる前から冷淡少女は注目の的だった。

 理由は見当が付く。今朝の朝食時に少し見たが、テレビやニュースの番組がひとつの話題に独占されている事と無関係ではなかろう。

 そこに来て、自分のこの有様は少しマズイか? と雨音は思った。

 外見上の負傷は綺麗に治してもらったので問題ないが、脚が痛くて上手く動かせないので、他の生徒に悪い印象を与えそうな気がする。

 なるべく普通に歩こうとする雨音だったが、痛みを我慢しようとすると(かえ)って上体が振れ、頼りなくユラユラと揺れていた。

 そんなくたびれた女子高生を、大平警部補以下SP警官の面々が心配そうに見送っていた。


                        ◇


「うわー雨音っちー! 来たー!!」

「雨音さん来たの!?」

「旋崎生きてっかー!!?」


 やっとの思いで教室に辿り付いた疲労困憊少女を待っていたのは、衝突事故かと思うほど激しい出迎えだった。

 雨音より大分背の高い女子が、体当たりする勢いで抱き付いて来る。完全に機動力が死んでいるので避けようもない。

 強烈な抱擁に、女の子のカラダ柔らかい暖かい、とか感じ入ってる余裕は無かった。ダウナー女子のくせに何というパワー。これが普段なら一緒にいる子犬系女子を囮としてぶつけるのだが。

 そんな隣が寂しい思いをしつつ、自業自得を過去の反省と共に文字通り全身で痛感していた冷淡少女である。


「ぐあぁあああああ!? お、大神さん()たたたたたた!!」

「雨音っちどこかケガしてる!?」

「そりゃそうだよテレビのニュースとか滅茶苦茶になってたじゃん!!」

「い……いや単に動き過ぎただけだから」


 澄ました表情を微妙に痙攣させる雨音は、全身の鈍痛を堪えてどうにかイスに座り込む。

 怪我は無いものの、散々打ち付けた部分は徐々に痛みが酷くなっているのだ。そんな事言ったら大騒ぎになりそうな空気なので黙っているが。

 一応ポータル基地の選手村で診察を受け、大事無いとは言われている。


 前に異世界の長期出張から戻った際も盛大に迎えられたが、今回は性質が違った。

 つい先日の異世界戦争、『テラーブラスト』には大勢の報道員(プレス)も同行しており、その一部始終が撮影されていたのだ。


 作戦が早々に破綻し、大混戦となった、その全てが。


 政府も一応情報規制や隠蔽は考えたものと思われるが、東西米国の軍人に日本の自衛官、政府職員から民間人から能力者が異世界ではごった返していたのだ、情報を完全に統制するなど不可能だったのだろう。

 戦場の映像は、割と早い段階からテレビの速報で流されていたらしい。

 魔法少女がジェットコースターのような戦場を右往左往していたその時には、地球側も事態を把握してたという事だ。

 魔法少女混成連隊の中にもジャーナリストを自称するような者がいたようで、黒ミニスカ娘の姿もしっかり撮られてる。


「カティは!? どうして来ないの……?」

「やだウソまさか…………」


「いや大丈夫だってば、疲れてたから休ませただけ。桜花もね」


 常に雨音の隣にいる金髪の美少女がいないとあって、青くなるクラスメイトもいた。

 放送内容が相当に過激だったようで、本気で心配させたようだ。


 しかし(くだん)の金髪娘、カティは無事だ。普段の無駄に多い運動量の為か、雨音などより元気なくらいである。

 カティに限らず、事が事の後なので魔法少女は全員親元に帰しただけだ。自衛隊の三佐など大人のヒトがそう提案したのだが。


「う~……よかったよーみんな無事でー」


「てかなんで旋崎たちがあんなところで戦争みたいな事してたの? 軍隊の仕事じゃん」


「まーそのー……アレは完全にアクシデントのせいでイレギュラーな事態だったし。もう二度とあんなヤバい現場には行かないわよ」


 本気で涙目になっているおデコメガネに、やや憤っているギャル系女子。

 怪物相手に大立ち回りしていたのは以前からだが、先日の報道でようやく事実を認識したクラスメイトも多いようだ。

 雨音だって本来の予定では後方支援だけの参戦だったのである。

 最前線で何百メートルもある巨大生物と正面切って殴り合う事など、二度と無いのを心から願うのみだった。


「それで、カティと北原さんがお休みで、どうして雨音さんは学校来たの?」


「テスト前だから……あとノートコピらせてください…………」


 高校生な身分にあっては、テストも即ち戦争である。

 故に雨音は友軍へ応援を求めるものだったが、クラスメイトに足元を見られて厳しい要求を突きつけられていた。同情していたのはなんだったのか。

 結果、再び黒ミニスカ魔法少女が制服姿で授業を受ける有様となったが、事情を知る潜入教師の三条京(さんじょうみやこ)がうっかり自然に点呼を取ってしまい、少し危ないところだった。


 そんな満身創痍な魔法少女に追い討ちがかかったのが、帰宅してから間も無くの事である。





0002:魔法少女ブラックオプス 07/20 20時に更新します。


感想(アカウント制限ありません)、評価、レビュー、新章となりました今後ともよろしくお願いします。

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