0051:上げてから落とす容赦ない展開
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三月第2週の土曜日。
午後03時38分。
ナラキア地方北部、ヒディライ国王都マムス。
『死の濁流』怪生物群300万体と、巨大生物40体の殲滅作戦。
オペレーション『テラーブラスト』も、遂にここマムスで最終局面に入った。
王都に被害が出た時点で、応援を出した地球側としては面子的にかなりマズい状況なのだが、最早そんな事も言っていられない。
一応、ナラキア共同体的には、マムス壊滅も許容範囲内の被害という事になっている。
重要なのは、『死の濁流』がナラキア地方を覆い尽くす前に、一匹残らず駆逐する事だ。
巨大生物ならともかく、怪生物を一匹残らずというのは無理があるが。
巨大生物は、残り7体。
そして、魔法少女の黒アリスと行く先々で雪だるま式に人数が増えた魔法少女混成連隊は、この旅の終着地点で逃れようの無い総当たり戦に臨む事となった。
◇
名付けて、多段ロケットブースター作戦。
つまり、ピョンピョン跳ぶ上に殻がヤケクソみたいに頑丈で攻撃が徹りやしないジャンピング巨大生物、G33『装甲跳躍虫』約230メートルを、そんなに跳びたいなら手伝ってやろうじゃないかという作戦である。
具体的には、跳ね上がったノミ型巨大生物を、その最高到達点より更に上へと飛行型能力者達が押し上げてやるというモノ。
立案者は、黒アリスの身内の三つ編み娘だ。
能力者の中には、飛行能力を持つ者が少なくない。日常での実用性に疑問はあるが、人類古来よりの夢を実現させたいと願った者も多かったのだろう。『黒アリス』こと旋崎雨音の能力なんて平時での実用性ゼロだ。
テラーブラストに参加し、かつここまで逃げずに戦いへ参加した能力者には、特に強力な飛行能力を持つ者が揃っていた。
それがこんな作戦に乗っかるのは、臆病を乗り越えた勇気によるモノか、あるいは考えが足りない蛮勇によるモノか。
前者であって欲しいと雨音は願うが、どうであれ作戦も人材も選り好みしている時間は無かった。
正直な感想として、後者じゃないとこんな無謀で勢いだけの作戦には賛同しないと思う。
「上がれぇ!!」
「パワー最大ぃい!!」
何本もの強靭な節足を跳ねさせ、巨大生物が自らを高空へ打ち上げる。それだけで足場が木っ端微塵に爆発するほどの反作用だ。
直後に、待ち構えていた飛行機械やジェットバイク、空飛ぶクルマ、未確認飛行物体、サイボーグ、ロボット、パワードスーツ、ヒーロースーツ、飛行型アバターが一気に上昇。
巨大生物の速度が落ちると、早い者順に胴体に取り付き、ロケットブースターのように押し上げ始めた。
G33『装甲跳躍虫』の平均到達高度は、約3000メートル。
飛行能力者たちはこれを倍以上に引き伸ばし、王都マムスとは逆の方向へと突き放す。
結果、ノミ型巨大生物は地震を起こすほどの落下エネルギーで以って地面に激突。
外骨格か中身かの耐久度を超えていたようで、割れるわ漏れるわ半分埋まるわの有様のところを、魔法少女連隊の一斉砲撃にて爆砕した。
「ったくヒヤヒヤさせるわ……。今の急上昇で消耗したヒトは後方に退がってよ! サポートのヒトも降りて来て次の攻撃準備!!」
「能力者は集結しろ! 今までどおり重装甲の者は前! それ以外は後ろに付け!!」
「怪我人も後方だ! 衛生兵と能力者の治療を受けろ!!」
「装弾が必要な者は補給を済ませろ! すぐ次に行くぞ!!」
巨大生物は残り6体となったが、それを喜んでいられる場合でもない。
魔法少女混成連隊の連隊長、黒アリスが軽機関銃を抱えて走り回りながら大声で指示を出す。本人は群がる怪生物の撃退に参加中だ。
多段ロケット作戦では、アクシデントなどで落ちてくる能力者に備えレスキュー用の能力者も用意していたが、幸いな事に無用に終わった。
アイドル魔法少女の対人レーダーで落とす先も吟味したので、怪生物以外に巻き込まれた者もいない。
気圧差で失神する者が出るかと予想したが、上昇速度に付いて行けずに途中何人も脱落した程度だった。
こんな出鱈目な作戦でよくも怪我人も無しに、と雨音は思う。果たして、作戦実行前に上空の空気の薄さを考慮した者が何人いただろうか。
15メートルほどのロボットが、足音をドスドス言わせながら歩いて行く。
戦車能力者は軍用トラックから砲弾やらミサイルを取り出し、大急ぎで自分の戦車に積み込んでいた。
能力者やナラキア軍のフォローに走る海兵も、アサルトライフルやグレネードランチャーに弾を込め直している。
ヒーローコスや変身系能力者は携帯食料などを口にし、多少なりとも活動エネルギーを補給していた。
次の戦闘も、間もなくである。
魔法少女混成連隊は急ぎ戦闘体勢を整え、今も被害を出し続けている巨大生物を叩きに向かうつもりだった。
しかしである。
「一等軍曹! 北側のG25がダウン! レンジャーの連中とR.O.Aのチームがジャイアントを撃破!!」
「軍曹! マムス南西エリアでネメラス第一とサンサリタン第一第二、他の軍もG2群を総攻撃中! CPは撃破の見込みと連絡してきました!!」
突撃予定先の巨大生物が、他の戦闘集団により撃破されたとの情報が前線指揮所より下りて来た。なお、CPの現在地は山頂の城の一画である。
魔法少女連隊がロケット打ち上げをやってるのとは別方面で騒がしいと思ったら、そちらもがんばっていたらしい。
戦っているのは黒アリス達だけではないのだ。
北側の城壁付近では、古米国軍の陸軍レンジャー部隊と比較的真面目な国際能力者団体『レジスト・オブ・アーマゲドン』を中核とする集団が、G25『高層節足芋虫』と正面切った殴り合いの末に競り勝っていた。
南西の厩舎群近くでは、ネメラス第一軍、山男ナイザル王子率いる軍勢と他の国の軍が合流し、約55000人という数の暴力で以って寄生虫と宿主のG2『有口症巨人』を総攻撃。史上最大規模のタコ殴りでこれを押し潰している。
他の巨大生物が倒された事で、ナラキア連合軍約100万と東西米国軍10万、それに能力者も続々とマムスへ集結している。
巨大生物は、残り4体。
完全勝利まで、あと一歩といったところか。
そんなのは雨音の儚い希望に過ぎなかったと、直後に思い知らされる事となったが。
「残りは何だったかしら? 一体は、なんだか懐かしいのが見えちゃってるけど…………」
「やっぱアレ残っちゃったかー……。どーするせんちゃん? またスカイツリーぶつける??」
「いやそんな物無いしね、ここ……。まぁあの時と違って能力者は売るほどいるから、最悪ゴリ押しで何とか――――――――」
半裸カウガールと三つ編み吸血鬼が、乾いた目で王都の南側斜面を眺めていた。
稜線の上に建物を吹き飛ばしているミイラのような4本の巨腕が見える。何でか知らないが既に体色も赤黒い状態。
他の戦闘集団も全力で、G12『悪魔の巣穴』を追い詰めたのだろう。
かつて東京を半壊させた巨大生物の同種。一回り小型らしいが、人間からすれば手に負えないほど巨大な事に違いもない。
以前と違いブチ込めそうな全高634メートルの鉄塔も存在していない以上、黒ミニスカも総力戦の構えであった。
「一等軍曹! クロー! G40が北から接近!!」
そんなところに、更に厄介な巨大生物が近付いているとの報告が入ってしまう。
作戦序盤で黒アリスがぶつかった人面付きの歩く枯れキノコ、G40『古木の魔法使い』だ。
東米国の能力者グループ、『ヒーローズ・ユニオン』のリーダーであるコマンダー・アコードと数名の能力者が、黒アリスに代わりその巨大生物を抑えていたはずだが。
「時間稼いでくれてた能力者のヒトどうなった!?」
「ユニオンのリーダーは離脱している! 今は空軍と砲兵連隊が迎撃中だ!!」
戦闘開始から9時間近く。つい先ほどまで巨大生物を足止めしてたというのだから、コマンダー・アコード、大した能力者であった。死なないでくれてありがとうと言いたい。
現在は北側に展開している自走砲と戦闘機が火力を集中しているが、エネルギーバリア持ちの巨大生物の進攻は止められないらしい。
「リターンマッチってとこかしらー?」
「今度こそ真っ二つに裂いて見せマスよ! マツタケ的ニ!!」
「あんまり美味しそうじゃないねー」
何も言わずとも、魔法少女連中は既にやる気になっていた。カウガールが古式拳銃をクルクル回して弄び、一度殺り損なった巫女侍が表情を凶悪に歪めている。美人だと補正効果付きで怖い。
そして、今後キノコが不味くなりそうな事を宣う三つ編み。萎びて乾いて黒ずんだ人面マツタケなんて、雨音は頼まれても食べたくないが。
生憎と魔法少女にお残しは許されないようで。
◇
自走砲や野戦砲のド派手な音が響いていたのである程度は想像していたが、マムスの城壁北側は大変な事になっていた。
正確には城壁が無かった。
青紫の光弾が千本ノックの勢いで飛来し、放物線を描いて着弾しては周囲を建物ごと吹っ飛ばしていたのだから。
そんな猛攻の中、東西米軍、意地の応戦。
滅多に用いられない直接射撃機能を用い、数十基の自走榴弾砲が砲弾を連発していた。
巨大生物の光弾が至近距離に落ち、爆風でひっくり返る自走砲の車両。対して、155ミリ榴弾は巨大生物の直前で爆発してしまう。
戦闘機と無人機が総出で爆弾を落とし、ミサイルを叩き込み、機銃掃射まで叩き込むが、バリアの前に効果無し。
かと思えば、巨大生物の頭上に直径200メートルほどの赤い光の環が広がると、次の瞬間には天高く聳える円柱となり、更に広範囲に拡散。
巻き込まれた戦闘機が、一瞬でボロボロになり火を噴いて地面に落ちた。
「……………なにアレ?」
「わーお盛り上がってんじゃーん!」
「うわー、こりゃ無茶苦茶だー」
突入したマムス東側から再出撃し、東回りで巨大生物の側面を突く事になった魔法少女混成連隊であるが、その有様には皆が言葉を失った。いつも通りな魔法少女もいたが。
特に雨音はビックリしていた。あのG40番の巨大生物、ファーストコンタクトの時と攻撃の激しさが全く違うではないか。
代わってくれた能力者のアコードさん、悪いけどアンタなにやったの。
「どうするクロー……? このままだと連中、全滅する」
軍用車両を運転しているブライ軍曹が、言いたい事を飲み込みそこで科白を切った。
東米国軍の海兵としては、当然応援に行きたいだろう。
だが、あの巨大生物はどう考えてもヤバ過ぎる。いざ交戦となればどうなるかは、既に東西米国軍の砲兵たちが身を以って教えていた。
撤退も出来ず味方をやられながら愚直に砲撃を繰り返し、大破した野戦榴弾砲の間を兵士たちが逃げ惑い、また爆風で吹き飛ばされている。
もう泥沼の地獄だ。
「何たる事だ……! アレは『碧玉の邪神』か!? いやまさか『海魂』にまで届いているか!!?」
「知っているのか雷――――――じゃない魔王さまー!?」
モンスタートラックが気に入った魔王ラ・フィン様だが、その荷台では大きく目を見開いていた。
すかさず妙な言い回しで理由を問う三つ編み。やはり通常営業。
「お主らにももう分かっておろうが、一口に邪神と言っても格の違いというモノがある。
かつての中央大陸での戦争では邪神と五分に戦う戦士もおったがな、『水晶』、『銀』、『水銀』、『翠玉』の邪神とこの辺ならともかく、その上の『金』、『紅玉』、『碧玉』の邪神相手ではいずれも無残に蹴散らされておったわ。ここらの格となると、我ら魔族であっても束でかかって命がけとなる。
ましてや『海魂』、『天蓋片』、『極光石』の邪神ともなれば、あらゆる理解を超える存在だ。お主らと同様にエレメンタムに因らず、理を無視した魔象を引き起こすのだからな。
アレが『海魂』の位に至る邪神ならば、真に神の領域に踏み込んでいるやも知れんぞ?」
その魔王様に曰く、G40番の巨大生物は、他の個体とは少々格が違うらしい。
単純な攻撃能力による格付けだが、確かに体当たりや身体の一部を用いた攻撃手段しか持ち合わせない他の巨大生物とは凶悪さが異なる。
もっとも、それが分かったところで、戦略的撤退という選択肢すら取れないので意味も無いのだが。
「ちなみに弱点とかあります?」
「そんな都合の良いモノがあるなら我が知りたいモノだ。碧玉の邪神格ともなれば、我が国でも総出で迎え撃つ事になるだろうな。あんなモノまで這い出て来るようでは、こちらの大陸も向こうと変わらんわ」
何やら面白くなさそうに憮然として言う魔王様。黒ミニスカ魔法少女も似たような顔色だった。
魔族のヒトの総出というのがどの程度のレベルかは知らないが、あちらの大陸も大変そうだ。
「そうですか……。二等軍曹、どうしよう?」
連隊は速やかに攻撃態勢に入っていたが、一般人の能力者には動揺が見られる。勢いに乗っている時は良いが、それを冷静にさせてしまうくらい強力な敵という事だろう。
こういう時はとにかく、何かしらの方針があればスタートは切れる。短い時間だが、雨音は経験でそれを理解していた。もうノリだけである。
でも出来れば有効な作戦が欲しいなぁと、結局その道の玄人に縋るのであった。
「どの道高度な連携など取れはしない、今まで通り基本的な攻撃でいいだろう。あのレーザーだかビームだかは迎撃可能だ。見た目は派手だがロケットと変わらないのはクローが証明して見せた。バリアも突破できる。こっちもショウザエモンが証明した。
こちらにもバリアを張れるヤツがいる。他に、空中に見えない足場を作ったり大量の小型ミサイルをばら撒いたりな。クローも対空砲装備の無人機を出せるだろう。そいつらを前衛の守りに置き、精度は無くても高火力を出せる能力者にジャイアントを集中攻撃させる。
分かってると思うが接近戦は基本的に想定しない。あの戦闘機を落とした攻撃を砲兵に使わなかったところを見ると近接防御が主な目的だろう。
だが言い換えれば100メートルから150メートル以内に入った時点でこちらも射程距離に入る。その前に足を止めるか、仕留められなければ即後退する」
ブライ一等軍曹の戦術は逃げる場合も考えていてくれるので、ビビりの雨音としてもあり難い。
その戦術通り、連隊はすぐに陣形を作り個々人が配置に付く。慣れたものだ。短時間でここまで戦い通しなので、いまさら疑問に思う者もいない。何度か独走して痛い目を見ている者もいる。
黒ミニスカが回転拳銃を高速連射し、防壁兼移動銃座である鋼鉄の箱車、無人装甲車を出現させる。ブライ軍曹が言うような迎撃機能は無いがマスコットのジャック頑張れ。
重々しい足音と動作で連隊の最前列に付くのは、中央に痩せ形のSF的全身スーツの能力者、左右には3~5メートル台の大型パワードスーツに15メートル台のロボット、変形クルマ型ロボット、その他にも小型サイボーグや動物型ロボットと多数だ。
前衛から距離を置き後ろに付く、海兵たちが搭乗する軍用車両の列。陣形の中心に位置し、即席の司令部となる。
反対に大急ぎで後方に移動するのは、衛生兵や治療系能力者、救護要員など。交戦による負傷者に備え、自身は絶対に怪我をしないように地形を遮蔽物に使える箇所を確保していた。
大盾を持ち隊列を組み防御を固めるイレイヴェン第一軍と、銃器を装備したトライシア民兵団。銀髪姫は馬を駆り、自軍の中で兵達を鼓舞していた。
なお、その他のナラキア連合軍は人数にものを言わせて、マムス内で怪生物の掃討中。その友軍の為にも、巨大生物がマムスに入る前に阻止しなければならない。
そして、隙間隙間を埋める様に、あるいは危ないと言っているにもかかわらず戦車やロボットの上に陣取るヒーロースーツ、または変身系能力者たち。ポーズを取っている者も、遊びではなく気合を入れた結果だという。
最後に、派手な地響きを立て地面を揺らしながら最後方に付く、超巨大ヒト型護衛戦艦ムサシ。
いまや5000人を超える規模となった魔法少女混成連隊が、攻撃態勢に入った。
「防御と攻撃! 全員自分の担当にだけ専念しろ!!」
「死にたくなければ海兵のヒト達の指示には絶対従うように! 攻撃開始! 攻撃開始ッ!!」
「前列から防御を展開しろ! 攻撃側とカチ合わせるな!!」
黒アリス隊長の合図で、連隊は巨大生物へ一斉攻撃を開始。マムス北に陣取る砲兵隊の砲撃と併せて十字砲火の形となる。
乱れ飛ぶ銃砲弾に混じり飛んで来る機械パンチや怪物アバターに、G40『古木の魔法使い』は魔法少女連隊の方へと向きを変えた。
どちらが危険かを考えれば、当然の判断だろう。
そんな巨大生物の知能の高さを再確認すると共に、正面切っての殴り合いが決定した瞬間である。
「来るぞぉ撃ちまくれぇ!」
「ヤバそうなら装甲車を盾に使えよ!」
枯れた人面大木のような巨大生物が方向転換を終えた直後、傘の下が発光し無数の光弾が連隊へと撃ち放たれた。
それらが500メートル以内の空中で連鎖爆発を起こす。防御スクリーンや空飛ぶ防弾盾、その他の能力で迎撃された為だ。
「ジャック! 全弾迎撃! ここからはノーリミットで行くからね!!」
黒ミニスカの銃砲兵器系魔法少女も、白銀の回転拳銃を指弾きで高速連射。
弾丸は無人兵器へと変形し、即搭載火器の全てを発射しながら巨大生物へと突撃する。
0052:ひたすら力でひっくり返す大人気無さ 05/03 20時に更新します。
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