0050:上がり3ハロンを待たず先頭集団を蹴散らしに行く大穴
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三月第2週の土曜日。
午後03時03分。
ナラキア地方北部、ヒディライ国。
山の地形を利用した王都『マムス』。
その前に広がる広大な草原地帯では、かつて国を象徴する動物であるウマ達が自由に走り回っていた。
しかし今は、群れの仲間が屍となり倒れる地面の上を、死に物狂いで駆けている。
「ハッハッ! がんばれ! 振り切るんだ!!」
騎手である若い兵士が、相棒を気遣いながらも鞭を入れていた。
ウマも大変だが駆る方も必死だ。
何せ、後方からは巨大生物のG21、『牙持つ荒馬』が地響きを上げ迫っているのだから。
「散開! 散開! 逃げろぉ!!」
「足を緩めるな! 走れ走れ!!」
随一の機動力を誇る勇猛果敢なヒディライ騎兵であっても、桁違いの歩幅の差による絶望的な速力の違いはどうにもならない。
だとしても、乗馬に関しては誰がなんと言おうとナラキア地方で彼らに並ぶ者は無く、鋭い乗りこなしと小回りの良さで巨大生物の突進を回避していた。それでもギリギリの綱渡りなやり方だったが。
十数騎が左右バラバラに動くと、狙いに迷った巨大生物が頭から地面に突っ込む。
その勢いに頭部の全てが土の下となるが、そこで動きを止めるどころか、巨大ウマは地面を掘り返して更に突き進んでいた。
這いずって進む姿勢は、既にウマのモノではなかったが。
G21『牙持つ荒馬』はウマを襲う際に、脚部間接を上向きに折り曲げ胴体を地面に密着させるような姿勢となっていた。
所詮は形状だけがウマに近いというだけで、ウマとは全く違う生き物。目の無い頭部、下顎から天に向かって出鱈目に突き出る無数の牙、生気の無い灰色の体表に、攻撃時の姿勢と。
似ても似つかない。
「投げろ! 留め金を忘れるな!!」
「すぐに放せよ!」
巨大生物をやり過ごした騎兵は、手にした丸い物体からピンを抜くと馬上から放り投げる。
その数秒後に、ボキュンッ! と巨大生物の脇腹付近で破裂する丸い物体。
東西米軍からヒディライへ供与された、MB67フラググレネードだ。
馬上からの投擲や弓矢の射撃はヒディライ騎兵の得意とするところだが、巨大生物を相手に火力不足なのは火を見るより明らか。
そこで、巨大生物や怪生物に少しでも有効かつ使用が簡単な兵器という事で、騎兵たちに大量に持たされていた。
残念な事に微々たる違いではあったが。
「クソッ! まったく止まらないぞ!!」
「おい尻尾来てるぞ! 油断するなぁあ!!」
「あ!? うぎゃぁあああああ!!」
全長約370メートルの巨大生物に対し、殺傷範囲15メートルの爆発はたいしたダメージにならなかった。
乱杭歯の巨大ウマは、似たような棘の生えた尻尾を振り回し通りすがりの騎兵を痛打。
動きを止めないまま直立状態に戻り、疲れも見せず騎兵隊を踏み潰しにかかっていた。
そこで側面から集中砲火を喰らわせる、能力者の特殊戦車隊。
魔改造した二次大戦時の旧式や実在しない架空の戦車、実在しながら仕様外の改造をされた戦車が、横一列になり平原を突っ走る。
その車体や砲塔の上には、奇抜あるいは個性的な格好の能力者たちが戦車跨乗状態で乗っていた。
蹄河原大丘陵の中央部から応援に駆け付けた、魔法少女混成連隊の戦車部隊である。
「ヤー! いったれー!!」
「ゴーゴーゴー!!」
「ミサイルランチャーの前に立つなよ! 吹っ飛ぶぞ!!」
「ここのマシンガン撃っていい!?」
戦車の上で大騒ぎしている能力者たちも、可能な者は巨大生物に攻撃を叩き込んでいた。
それら戦車の横を駆け抜けて行く、ロボットやサイボーグといった高機動な能力者たち。
飛行能力者たちも頭の上を次々と飛び越えていく。
まるで軍神の軍勢か何かのように雄々しい魔法少女混成連隊に、併走するヒディライの騎兵たちも拳を突き上げ声を上げていた。
◇
乱杭歯を超高速振動させる事で、あらゆる物を破壊し地中すら掘り進んで見せる。
そんな特性を持つG21『牙持つ荒馬』だったが、魔法少女混成連隊の集中攻撃により力を発揮する前に撃破された。
王都マムスを囲む城壁前では、宿営地から後退してきた東西米軍が自走砲などの兵器群を並べ、防衛戦を展開している。
砲口が派手に火を吹いているが、接近する怪生物群を100%迎撃出来ているとは言い難い。
それでも地球の面子にかけて、みすみす王都を壊滅させるのはなんとしても避けたいところだった。支援に乗り出した政府的にも。
そんな政治的背景など知った事ではなく、
「我に刃を向けたのは貴様かー!!」
戦場に黒い球形の頭をした巨大生物を見つけるや、ブチギレて突っ込んで行くツノ付き少女の魔王さま。
東方大陸の雄にして大国『ザピロス』の統治者、魔王『ラ・フィン』は戦争を観戦しに来た際、G4『重低音黒猫』の攻撃圏内に入り手痛い一撃を喰らっていた。
つまり自業自得に近かったのだが、これで自尊心の高い魔王少女としては許し難い行為だったらしい。
預かっていた親友の身内を亡くしかけたのだから、その辺の恨みも籠っているようだが。
全長約500メートルの真っ黒な猫が、前足で潰した自走砲を弄んでいる。一見してシンプルなキャラクターのようだが、そこに可愛げは一切無い。
人類軍の攻撃は超重低音の壁に阻まれ、砲弾も銃弾も物理的な能力は何も届いていなかった。
そんな事はお構いなしに、魔王ラ・フォンは万物のエレメンタムを励起し巨大な力を発現させる。
『賢王育みし枝葉を広げ天地を貫く叡智のイカヅチ! その尽くを穿て!!』
ドバキンッ! と、飛翔する魔王が腕を突き出し、その掌から雷撃を放射。
真っ白な奔流は音の壁を易々と突破し、巨大生物の頭部もド真ん中から撃ち貫いて見せた。
電流が乱れ飛び、一帯の空気が帯電する。
巨大生物の表面が爆ぜ火花が飛び、焦げ臭さとオゾン臭が立ち込めていた。
「うーわ、スッゲ…………」
「本物だー」
「これは……G4番の巨大生物へは近接攻撃不可とします! 二等軍曹みんなに徹底させて!!」
個人で発する威力としてはケタ違いの攻撃に、海賊ギャルや三つ編み吸血鬼はポカンと口を開け、黒ミニスカはどうにか思考を動かし全隊へ警告を発する。
重低音ネコの足下が揺らぎ、頭から地面に倒れると同時に重低音障壁も消え失せた。
当然そこを狙い、城壁に横列を作っていた野戦砲と戦車の部隊も一斉攻撃を仕掛ける。
巨大生物は再度の重低音障壁を発生させるも、魔法少女連隊の攻撃も加わった事で、挽回出来ないまま大火力に押し潰される憂き目となった。
「フンッ! 他愛無し。大した力ではないが、見えないというのは厄介だ。……しかし、エレメンタムも大分乱したな。これ以上はいかんか」
「それって制限付きって事ー? やっぱアレだけ強い魔法は消費もすごいって事かー」
フワリ、と軽やかに軍用車両の荷台に降り立ち、G4『重低音黒猫』の慣れの果てを見下ろす魔王の少女。
その表情は微妙に優れなかったが、明け透けな三つ編み娘の問いには余裕の笑みを返した。
「なに面倒なだけだ。なりふり構わなければ邪神の一柱や二柱は容易く屠れるわい」
「なんか怪しー…………」
三つ編み吸血鬼がジトっとした半眼を向けると、魔王さまはなおさら面白そうに笑みを深める。
そんなほのぼの風景の後ろでは、黒ミニスカの連隊長が全隊へ移動すると大声で指示していた。
王都マムスに移った前線指揮所からは、一刻も早く応援に来いと矢の催促だ。
巨大生物はマムス周辺に残るのみであり、魔法少女混成連隊だけではなく、全軍と全能力者が集まりつつあった。
水際防衛戦――――――ややアウト――――――の総仕上げである。
100里の道は90里を半ばとせよ、とは昔のヒトはよく言ったもんだと雨音は後に思った。
◇
午後03時20分。
ヒディライ国王都マムス城壁、低地街。
先月の『死の濁流』支流の襲撃以来2度目の災禍に見舞われているマムスであるが、本番となる今回の攻撃は、全く規模が違った。
『またすぐ飛ぶぞ! 砲を上に向けろ!!』
『この地形で後退機動はムリだ! 各車両衝撃に備えろ! 正確に落としてくるぞ!!』
『空軍に援護要請! 市街地上空!? それどころじゃない!!』
乱れ飛ぶ対空砲火。
箱型の車体の上に6連装回転砲身機関砲を搭載した対空自走砲、MAA163が20ミリ弾を逆さまの雨のように撃ち上げている。
それらを尽く弾き飛ばし、対空兵器が並ぶど真ん中に落着して一帯丸ごとを破壊するのは、G33『装甲跳躍虫』だ。
落下に続く間髪を入れない跳躍で、建物の破壊どころか地形すら変わっていく。
腹の下に生える無数の脚はバネ仕掛けのように巨体を跳ね上げ、軽く硬い外皮は落下の衝撃から本体を保護していた。
全長約230メートルは巨大生物にしては小型と言えるが、その速さ、高さ、跳落の際に発する衝撃により、人類軍はまともに反撃さえ出来ていない。
「3区東側から接近中の部隊はそこで止まれぇ!」
「触れるな! 飲み込まれるぞ!!」
「クソォッ! ファイファーが上がってこねぇ!!」
『グリン16こちらポーカー33、ジャイアントの姿が見えない、そちらに合流する』
「バカ野郎止まれって言ったろうが! 足下にジャイアントがいるんだよ!!」
城壁を突き破って来た巨大生物、G22『迷彩トロル』を追撃していた海兵、ナラキア軍、そして能力者だが、市街地に入った途端に全長約400メートルの巨大生物は姿を消してしまった。
地面に溶けるよう同化したと知れたのは、捜索していた兵士たちが足下から沈んでいった後の事だ。
すぐさま反撃する人類軍だったが、地面に大穴を空けるような攻撃であっても、ダメージが出ているやらいないのやら効果が見られず。
逆に、迂闊に泥地へ踏み込むと、足を取られるか巨大な腕に掴まれ引き摺り込まれるような有様だった。
「そっち行ったそっちの陰!!」
「どれだけ沸いて出るんだぁああ!?」
「CP! CP! ソアラー01より応援要請! G2からモンスターが大量に離脱! G2の内部から小型モンスター多数! 数が多過ぎて対応し切れない!!」
全身の肉が弛んで崩れたようなヒト型巨大生物、G2『有口症巨人』、全長約500メートル。
その頭部いっぱいに広がる縦割れの口からは、鋭利な爪と無数の節足の寄生虫が止め処なく出入りし、体表と地面の間を這い回っていた。
巨大生物本体への攻撃は問題なく直撃しているが、どれほどの損傷を与えても進行が止まらない。
現在はマムス下段の居住区に停止し痙攣するような動きを見せている事から、この巨大生物も主体は寄生虫の方ではないかと考えられ始めていた。
周囲に拡散する寄生生物の密度に、迎え撃つ地上の兵士たちはそれどころではないのだが。
「倒れるぞぉ! 城壁から降りろ!!」
「クソッタレなんてヤツだ!!」
「頭上に注意しろ! 喰らったら死ぬぞ!!」
先端が分厚い鎚なった脚による砲撃で、厚く頑丈な城壁が一撃で崩落する。
それも一発や二発ではない。蛇腹の胴体の両側面には何十本と長大な脚が折り畳まれ並んでおり、それらを跳ねさせる事で凄まじい威力の大砲と成すのだ。
それだけではなく、G25『高層節足芋虫』は人類側の攻撃が激しくなると、その脚力を高速での移動と回避にも応用しはじめる。
全長約360メートル、脚を伸ばした場合は720メートルにもなる巨虫が無差別に砲撃を行うと、周囲の兵士たちは逃げ回るほかなかった。
「爆破しろ! 進路上にC4!!」
「喰らいたいだけ喰らわせてやれ! 腹の中から吹っ飛ばせ!!」
「足を止めればいい! 能力者が集まるまで時間を稼ぐんだ!!」
4腕4脚に支えられた巨体に大口を開けた巨大生物が、マムス内の穀物庫を鷲掴みにしては口内に放り込んでいる。
斜面を腹這いになって進むG12『悪魔の巣穴』は、かつて東京を襲った個体の同種だった。
地球の各地を襲った多様な巨大生物において、一際しぶとく生き汚いと評された怪生物の集合体。
海兵も当然事前に資料は読み込んでおり、今は建物の間を駆けずり回りながら侵攻阻止に徹していた。
「どうだそっち狙えるか!?」
「ダメだセンサーが追わない! あいつ目に見えてるだけで実際にはいないんじゃないか!? 幻覚とか!!」
「空軍の野郎どもは!?」
『ウィロー2よりCP! G39とのレーダーコンタクトネガティブ! レーダーで補足できない!!』
上空では黒く切り抜いたコウモリに似た巨大生物が、王都のある山を旋回するかのように飛翔している。
G39『未知のコウモリ』は、地上から対空ミサイルで撃ち落そうとする試みや戦闘機による追撃をまるで意に介さず、かといって攻撃の素振りも見せずただその空域を飛び続けていた。
「正面に立つな! 全員建物に隠れろ!!」
「背中に放り込むぞ! フラグアウッ!!」
「掴まれるぞ! 伏せろ伏せろ!!」
「ウマは放せ! 食われるよりはマシだ!!」
「応援はまだ来ないのかぁああ!!」
そしてマムス全域で戦いが進行している中、東正面の城門でも巨大生物と人類軍が攻防を繰り広げていた。
腹這いのヒト型巨大生物は間接の向きなど関係なく、その長い腕を自在に操りあらゆるモノを掴み上げている。
G28『背面大顎獣』は、背骨に沿って開く牙の生えた口の中へ、掴んだモノを投げ捨てるように放り込んでいた。
対象はヒトや動物、家の資材や車両や兵器まで。
天に開け広げた顎門であらゆるモノを噛み砕くと、事もあろうに地面にこすり付けた頭部の口よりそれらを射出する。
もはやどこが頭部で、どこが胴体なのか。
巨大生物を常識で測れないのは誰もが分かっていた事だが、あまりの異様さと邪悪さに、いつしか兵士たちも戦うより生き残る事しか考えられなくなっていた。
「若はお下がりを! 山頂の王と共にウィタレへお移りください!!」
「バカを言うな! 我らヒディライの為に連盟の軍勢が助けに来たというのに先に逃げるなど――――――!!」
「王都を失っても王と若がご無事なら再建できます! ですがこれでは……!!」
穂先の折れた槍を投げ捨て、中年の古参兵が王太孫のイムカン王子に訴える。
今回の『死の濁流』殲滅作戦は、ナラキア地方と西方大陸全体の為とはいえ、実際に戦場となっているのはヒディライだ。
いわばヒディライが共同体各国と地球の軍を招いた形であり、故にヒディライの軍はどこの国よりも先頭に立ち戦わねば面目が立たない立場だった。
我先に逃げ出すなど問題外であり、国王も山頂の城に残ったままだ。
しかし、イムカンお付きの古参兵が言う通り、既に王都マムスには多数の巨大生物が取り付いた状態。
ここまでに32体の巨大生物を倒した事が脅威的な戦果ではあるが、戦況を覆す目処が立たない以上、王都を怪生物群に取り囲まれて逃げ場を失う可能性もあった。
「うわぁああああ!!」
「テミー! 味方が捕まったぞ! 助けろー!!」
「魔道剣持ちは邪神の脚を叩け! 喰われるぞ!!」
迷っている間にも時間は進み、戦闘は続き被害も増えている。
巨大生物がクレーンのような腕を振るうと、建物の上半分を薙ぎ倒し中の兵士を瓦礫ごと捕まえた。
その後の行動は何度も見ている。
巨大生物を囲む数百の兵が弓を乱れ打った。海兵の小隊もアサルトライフルを発砲し、どうにか人間を捕えた腕を叩き落としにかかる。
逃げずに同行している少数の能力者も、空飛ぶ筋肉の塊や大型操り人形、帯のヒト型集合体といったアバターを突っ込ませていた。
それでも、巨大生物の動きは全く止まらない。
「直接首を狙う! 我に続けぇ!!」
「若!? ッ……若をお守りしろ! 邪神殺しの露払いであるぞぉ!!」
「ぅおおおおおおお!!」
「ぉらぁあああああああああ!!」
ここで、憤懣遣る方無いイムカン王子が勝負に出てしまった。若さ故か、自身という大を活かす為の小を切り捨てる決断が出来なかったのだ。
自らの魔道剣、強い反りのある曲刀を引き抜くガチムチ王子は、廃墟と化した一角へ先陣を切り突っ込んで行く。
止める暇も是非も無く、お付きの古参兵も兵を纏めて王子を追い掛け走りはじめた。
崩れた住居を踏み越え、倒れた柱を飛び越えてヒディライの兵たちが突撃していく。
巨大生物は脚を使って回転するようその場で向きを変え、王太孫の一団へ頭部を向けた。
「マズい伏せろ! 援護射撃! 援護射撃だ!!」
「ウェンディゴ! 妨害しろ!!」
海兵の小隊が崩れかけた建物の上から一斉射撃を開始する。放り投げられた手榴弾が巨大生物の間近で破裂した。
同時に、アニメキャラのような筋肉魔神が巨大生物の頭部へと殴りかかる。
それらの攻勢を、G28『背面大顎獣』は口腔から放つ瓦礫の散弾で一蹴。
イムカンは間一髪で伏せたものの、広範囲に広がった攻撃によりヒディライの軍は負傷者多数。モロに喰らった能力者のアバターも消失。
射線上にあった建物は、海兵が陣取っていたのも含め穴だらけにされ倒壊した。
「んぬぅうううう! でぃぇええええええりゃぁあああああああ!!!!」
だというのに、即立ち上がりガチムチ王太孫は再突撃。
いまだ100メートル以上の距離があったが、直線上にいる巨大生物へ曲刀の魔道剣を振り下ろす。
「――――――――凍り落ちよ!!」
振り下ろされた刃の先で、一瞬にして霜が発生し、鋭く尖った雹が降り注いだ。それだけで一軍を相手取れる、ヒディライ王家に伝わる秘宝だ。
ヒトひとりの頭を砕けそうな氷の塊が数百と巨大生物を叩き、腕に捕らえてた人間を瓦礫ごと取り落とす。
しかしそれは、目先を小うるさい生き物へと変えただけの事。
「若! 逃げてください!!」
「ダメだ若! 伏せて!!」
「若ぁあああ!!」
不穏な低音を漏らす巨大生物に、その意図を感じ取ったヒディライの兵たちが大声で叫ぶ。
明らかな、噴出攻撃の前兆。
巨大生物に目を付けられた事にはイムカンも気付いており、殺られる前に殺るしかない、と絶望的な勝負に挑んでいった。
そこを、魔法少女混成連隊の能力者たちが空爆する。
空飛ぶクルマやバイク、円盤の能力者が上空を突っ切ると、巨大生物の真上で立て続けに爆発が発生。滞空するロボット能力者がビームや弾丸を撃ち下ろし、自力で飛べる能力者が光弾や光線を発射する。
無人攻撃ヘリの群れがロケット弾を集中させ、戦闘機が空対地ミサイルを叩き込み、装甲車が機関砲とグレネードランチャーをぶっ放しながら巨大生物へと突撃した。
絶え間ない爆発に『背面大顎獣』の巨体が揺れ、攻撃を振り払おうとクレーンのように長く強力な腕を振り回す。
しかし魔法少女混成連隊は、そんな余裕を与えはしない。
空爆と砲撃の次は、近接攻撃に長じた能力者とナラキア連合の軍が一気に雪崩れ込んできた。
魔道剣と能力者の剣が中距離から巨大生物を斬り裂き、溶接プラズマビームやガントレットのリングレーザー、衝撃波、サメの歯ハンドソード、チェーンソー、軍団の槍兵が直接相手を叩く。
人類軍を払い除けようとした巨腕も、巨人能力者が片方を封じ、もう片方はヒト型護衛戦艦が体当たりで圧し折る。
そのまま数の暴力により、バラバラになるまで攻めまくった。
◇
更地のようになってしまったマムスの東城門に、特殊戦車や軍用車両の列、イレイヴェンをはじめとするナラキア連合軍の集団、例によって統一感も何も無い能力者たちが続々と集まっていた。
巨大生物相手に打つ手無し、という戦いを強いられていたヒディライの第一軍も、安堵しながら魔法少女連隊を迎える。
「イムカン殿下お待たせしましたー!」
「クロー殿! よく来てくれました」
暫定指揮官の黒ミニスカは急ぎ足でガチムチ王子のもとに走るが、のんびりと挨拶している暇は無かった。
マムス全域では、なおも巨大生物と友軍が戦闘中。
曳光弾が無数に空へと撃ち上げられ、無線機からは応援要請が引っ切り無し、一画では見覚えのある巨大生物が暴れている。
宴もたけなわ、といったところか。
「あと7体……! マムスから全部の巨大生物を排除して、終わりにしよう!!」
「作戦はー?」
「この状況で細かい作戦とかムリだし! 近くにいるヤツから集団でボコす!!」
王都の真っ只中、密集する建物、傾斜した地形、入り乱れる敵味方、あちこちで吸収して来て把握し切れない味方、ここまで勢いだけでやってきた黒アリスの指揮能力もいい加減限界に達した。
そのような主旨の泣き言を三つ編み吸血鬼に垂れていた黒ミニスカだが、そんな間の悪い時に近場へ落下してくるG33『装甲跳躍虫』。
全長約230メートルの質量兵器といった感じの巨大生物だが、現状としては飛んで火に入る巨大虫。
どうしてよりにもよって、銃砲兵器の魔法少女が燃え盛っているところにわざわざ落ちてくるのか。
石垣を崩し、土煙の中から身を起こす巨大生物に、雨音は害虫を見るような目を向けていた。
「次はコイツだ…………! 射撃主体のヒトは飛んだところを狙って下から街の外に叩き出して! 近距離主体のヒトは接近時にジャンプに巻き込まれないように! 後は総攻撃! 状況開始ー!!」
「能力者以外は援護だ! 小型のモンスターを近づけるな!!」
「我らも行くぞ! 我らの王都を守るのは我らヒディライの子らであるぞ! 続けぇええ!!」
「若殿下と雷神に続けー!!」
白銀の回転拳銃を振り上げ、自分に鞭入れ突進する黒ミニスカ魔法少女。
海兵の一等軍曹が声を張り上げ、後続を引っ張り黒アリスを追う。
更に、言われなくても雨音にくっ付いて行く、魔法少女仲間とイレイヴェンの銀髪姫及び第一軍。
これに王太孫のイムカンとヒディライ第一軍も加わり、数万という人間の力が一点に集中しようとしていた。
0051:上げてから落とす容赦ない展開 05/02 20時に更新します。
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