0047:ダークからライトへの切り替え激しい異世界ファンタジー
.
三月第2週の土曜日。
午後01時01分。
蹄河原大丘陵、戦闘エリア中央。
戦艦ミズーリ要塞のひとつとショルカー軍を襲っていた巨大生物、G8『天蓋始祖鳥』をアクシデント混じりに撃破した、その後。
魔法少女混成中隊は戦車能力者の51両を加え、次の応援要請が出ている戦場へと向かう。
なお、諸事情により合流して間も無く暴走した巫女侍の魔法少女、秋山勝左衛門は、燃料が尽きたところで飼い主の黒アリスが首根っこ捕まえ回収。
その巫女侍に滅多打ちにされ、外骨格が半分砕けていたG16『圧殺球体』も、黒アリスや戦車能力者たちの高火力によりバラバラに粉砕されていた。
これで巨大生物の残りは、14体となる。
◇
「無理に攻めるな! 盾列は戦列を堅守しろー!!」
「槍兵押し出せー! 押し出せー!!」
「前列入れ替え! 入れ替えだー!!」
蹄河原大丘陵の中央西寄りに落ちた戦艦ミズーリ要塞周辺では、バルディア第二軍と応援に駆け付けたイレイヴェン第一軍が、怪生物群と交戦していた。
しかしその戦いは、他の戦場のモノとは少し様子が異なる。
多くの戦場では数にモノを言わせてデタラメに突っ込んで来る怪生物が、この場ではまるで人間の軍のように統制を以って人類を襲っていた。
それは、眷族を強固に指揮するG6『異形アリ』とG24『水棲巨人』による集団戦闘である。
波状攻撃、包囲攻撃、挟撃、とその一糸乱れぬ戦闘行動は、鍛えられた人類軍顔負けだ。
バルディア第二軍は数千という怪生物の圧力に押され、穴を開けた戦艦の底から中に逃げ込み篭城する、という事態になっていた。
現在はエアリー王女が直に率いるイレイヴェン第一軍が、怪生物群の背面を突く事でバルディア軍を援護している。
全長270メートルの戦艦を取り囲む、ヒトのような上半身を持つアリと、潰れたヒト型の怪生物群。
銃砲装備の兵をフル活用するイレイヴェン軍は、更にその外周から注意を引くべく叩きまくっていた。
だがそれでも、怪生物一体は人間ひとりより遥かに強靭な生命体である。
「ぐあぁああああ!?」
「フラー隊長!? 隊長がやられた!!」
「盾で押さえ込めぇ! 魔道兵は頭を狙い撃て!!」
「ギシィイイ――――――――!!」
ヒトアリの顎に腕を噛まれた騎士のひとりが、怪力に振り回されて地面に叩き付けられた。巻き込まれて、盾持ちの歩兵も薙ぎ倒される。
他の兵士が槍を突き出し怪生物を退かせようとするも、鋼のような外皮は並みの槍先など徹さない。
その後方からアサルトライフルを持ちの民兵が射撃しているが、いかんせん7.62ミリ弾を以ってしても一撃必殺とはいかなかった。
怪生物の軍勢に背面という概念は無いのか、逆に押され始めるイレイヴェン第一軍だが、
「ぃいけーデイブー! ぶっ潰せー!!」
「イエァアアアアア!!」
その怪生物軍を問答無用で踏み潰して行く、デカいタイヤのピックアップトラック。怪生物がモンスターなら、こちらはモンスタートラックである。
荷台に乗る革ジャンパーにモヒカンの能力者は、自在に動く鎖を振り回し怪生物を吹っ飛ばしていた。
「いいぞー行けー!!」
「うぉおおおおお!!」
「車輪の魔道士よー!!」
剣やアサルトライフルを振り上げ歓声を上げるイレイヴェン軍。その頭上を、タイヤの無いバイクのような乗り物が猛スピードで駆け抜けていく。
ある場所では樹脂製の板で出来た手の平が、兵士に襲い掛かる怪生物を逆に掴み上げて空中へ放り投げていた。
液体金属のような能力者は、怪生物の群の中で全身から針を突き出し数体を串刺しにする。
怪生物と人間の性能差は、応援に加わった能力者たちが埋めていた。個人の能力にも因るが、少なくとも一体や二体の怪生物に苦戦する能力者は存在しない。
「魔道剣は足下に集中しなさい! 今は倒そうと思わなくていい! 雷神が来るまで持たせよ!!」
「燃え尽きよ!」
「凍て付け!!」
「その血から力を奪え!!」
「防御スクリィイイイイイン!!」
「後方に立つな! 発射するぞ後方に注意!!」
そして総大将の銀髪姫、エアリー王女は能力者、海兵、魔法を放つ剣を持つ騎士を中心に、巨大生物へ戦いを挑んでいた。
灰色のヤスリに似た皮膚に、頭身の低いヒト型の体躯。潰れたような凹凸の無い顔面に、開けっ放しの口内は無数の細かい牙に埋め尽くされている巨大生物。
G24『水棲巨人』、全長420メートル。
小型の同種を引き連れている怪生物の主は、これまた有り得ないほど巨大な丸太を振り回し、人類軍を蹴散らしていた。
「エアリー殿下! 南からクローの部隊が接近中! 東側に回って攻撃を仕掛けると言っています!!」
「来たわね! いいか!? こちらは邪神と死の濁流を引き付けていれば良いわ! 絶対堅守よ!!」
「守りだ! 徹底して守れ! 濁流に出血を強いるのだ!!」
「ォオオオオー!!」
「オオオオオオー!!」
しかしここで連絡役の海兵より、魔法少女混成中隊本隊が東側からミズーリ城塞の戦闘エリアに突入、との連絡が。
エアリーとイレイヴェンの軍は『雷神』が状況を逆転させると信じ、士気を上げ全力の迎撃態勢に入っていた。
◇
集団の端に接触した途端、怪生物が一斉に魔法少女混成中隊の方へ襲いかかって来る。その密度はここまでの戦闘で最も分厚い。
それでも魔法少女を筆頭とした戦闘部隊は、真っ向からこれを殲滅にかかった。
「数を優先して削って! ここの巨大生物は集団戦を力にした指揮官タイプ! まず兵隊になる同種を排除して親玉を丸裸にする!!」
「突出するな! 射撃の邪魔になる! 横一列を作りローラー作戦でモンスターを潰せ!!」
「戦車の前を開けろ! 戦車は味方の背中を撃つなよ!!」
黒ミニスカ魔法少女は白銀の回転拳銃を、携行型の6連装回転砲身機関銃、MG134『ペインキラー』に変形させる。
7.62ミリ弾を秒間100発という発射速度でバラ撒く重火器は、押し寄せる灰色の亜人型怪生物を一帯丸ごと薙ぎ払っていた。
弾倉含め総重量100キロを超える機関銃は、重量と反動を軽減できる魔法少女でなければ振り回せたもんじゃなかったが。
率先してアサルトライフルを撃つブライ軍曹が、戦車の上から手を振り能力者達に指示を飛ばす。アフリカ系海兵は戦車能力者が誤射しないよう声を張り上げていた。
特殊能力により具象化された戦車、51両は横並びになって進撃を開始。
大きく、分厚い、走る鉄の塊が怪生物を跳ね飛ばし、搭載した機関銃や大砲で木っ端微塵に吹き飛ばす。
並走する能力者の火力も劣りはしない。
狂ったように四方八方から襲って来る亜人型怪生物をレーザービームが焼き尽くし、プラズマが爆散させ、自らを武器に突撃するロボットやサイボーグ、あるいはアバターが物理的に叩き潰した。
爆炎、爆光、粉塵が噴き上がり、怪生物の一部が宙を舞う。
その一斉攻撃で排除された怪生物は、実に二万体以上。
怪生物以上の個としての強さを見せ付ける事となり、このまま一気に群れを駆逐する、かと思われた。
「カァアアアアアアアアア――――――――!!」
怒りに吼えるG6『異形アリ』が飛び込んで来た事で、アッと言う間に乱戦となったが。
血管の通る白く濁った翅を震わせ、ヒトの上半身にアリの下半身を持つ、赤黒い体表の巨大生物。
その全長は、約300メートル。
群れに囲まれ動かなかった女王アリの奇襲攻撃で、魔法少女混成中隊の攻撃に乱れが出た。敵と味方が入り混じった中で、迂闊に高威力の攻撃を放っては同士討ちの危険もある。
しかし、ドイツの旧式大型戦車を片足で蹴っ飛ばす相手を前に、迷っているような時間も無い。
「戦車のバケモノはジャイアントを照準して合図を待て! タイタン、ムサシ、こいつを戦艦側へ押し出せ!!」
その点、流石にブライ軍曹の判断は早かった。
決戦兵器的な扱いで軍用車両の中に待機させられていた巨大化能力者の少年、『タイタン』が一等軍曹の指示によりその能力を解放。
ゴリゴリマッチョな全長300メートルの巨人と化し、醜悪に縦に割れた顎を剥き出すヒトアリの女王へと掴みかかる。
更に、これを支援すべく全長200メートルのヒト型護衛戦艦ムサシも大地を揺らし突撃。140門を超える全身の火器をブッ放し、同時に剛腕を叩き付けていた。
これら超重量級の三者がぶつかり、地面を踏み砕き、砂塵を巻き上げ揉み合った末に、
「ぬぅああああああああああああああ!!」
と、中のヒトの大人しさからは想像も出来ない荒々しさで、ヒトアリ女王の側頭部を巨人能力者のフックが直撃。
大きく後退させたタイミングをブライ一等軍曹は見逃さず、
「今だ撃て! 撃て!!」
全長35メートル、全高11メートル、全幅14メートルという地上戦車艦『ラーテ』の24センチ2連装砲が、合図の直後に火を吹いた。
構想と計画のみに存在する、実在しない超大型戦車。
言うまでもなく能力者のひとりに作られた代物だが、その性能は定説に忠実となっており、他の戦車に速度などで遅れ気味だった。
僅か数十メートルの距離から撃ち込まれた砲弾は、中心を僅かに逸れ片腕と片翅を中程から粉砕。
それ自体は致命傷とはならなかったが、この隙にヒト型護衛戦艦の46センチ砲や他の戦車の砲撃が集中し、胴体の真ん中から完膚なきまでに爆散させられていた。
これで、G6『異形アリ』を撃破し、巨大生物の残りは13体。
しかしその際、
「……んわ!?」
弾け飛んだヒトアリの頭部、直径50メートルはありそうなその物体が、黒ミニスカの方に飛んで来るという緊急非常事態が発生。
雨音はいざとなったら自分が一発かましてやろう、と構えていたので、いきなり回避の必要に迫られても頭の切り替えが間に合わない。
そんな思考停止に追い込まれていた間にも、ほぼ直射弾道の頭部が直撃コースで視界いっぱいに迫り、
ゴギンッ――――――――!! と。
次の瞬間には、ヒトアリの生首が黒アリスから大分離れた地面に激突していた。
「はッ!? なに!? なんなの!!?」
次から次へと突発的な事態が続き、付いていけない小心者JKは混乱の極み。
そこへ拍車をかける様に、唐突にすぐ後ろから黒アリスを呼ぶ声が。
「レッドクイーン大丈夫か!? ゴメン強く引っ張りすぎた!?」
場面が飛んだかのような奇妙な感覚に眩暈を起こし、しかも後ろへ強引に引っ張り込まれたようで、バランスを崩した黒ミニスカが尻餅をつきそうになる。
そこを腋に手を入れ支えたのが、声をかけてきた人物のようだ。
色々な意味で雨音はビックリしていた。
「え!? 誰!!?」
「あーそうだな…………俺はどこにでもいて、どこにもいない」
振り返ると、黒ミニスカを吊り下げていたのは二十歳前後の米国人の男性だった。
短い金髪の、中肉中背よりややガッシリした体格の二枚目半、といった感じの人物だ。
能力者のひとりだとは思うが、やはり雨音に見覚えは無い。しかも、この砂塵吹き荒れる戦場にあって、妙にこざっぱりしたカジュアルな格好をしている。戦場用の装備などを着けている様子も無い。
「アマネ!? おんどりゃヒトのヨメに何してけつかるんジャー!!?」
「うわヤベ……!? じ、じゃレッドクイーン、また今度!!」
「どぉッ――――――!?」
他方、突如消えた黒アリスを半泣きで探していた巫女侍だが、見付けたと思ったら肝心な嫁が知らない野郎と一緒にいるのを目撃。
順当に自動的にブチ切れると、大刀を振り上げ突撃してきた。
その剣幕に引き攣った笑みとなる正体不明の男は、半端に腰を浮かした状態の黒ミニスカを容赦なくパージ。
数歩退がったかと思うと、空間ごと一点へ絞り込むようにして姿を消した。
「…………なんだと?」
「なんデス今の!? アマネあいつに何かされマシた!!?」
尻を強打した痛みも忘れ、たった今起こった現象に目を丸くしてしまう黒ミニスカ。
ダッシュで駆け付けた巫女侍が、それを助け起こしていた。
そこで受けた説明によると、黒アリスは弾け飛んだ巨大生物の頭部に直撃されかけたが、その直前に姿を消していたのだとか。
そして、どうやら一瞬で200メートルも離れた地点に移動していたらしい。
現場の中隊は、どこかに黒アリスが倒れていやしないかと、戦闘中にもかかわらず大騒ぎになっているという。
とりあえず即行でブライ軍曹に無事の連絡を入れる雨音であった。
「さっきのさ、もしかして有名な能力者かも……ッ!」
「そいつ何しに来たデス? とリャッ!!」
「それは分からないけど借りが出来たわ。あたしに用があったのかなぁ……?」
石を持って飛びかかってくる潰れたヒト型怪生物を、黒アリスは標準的なアサルトライフル、HG417を発砲して返り討ちに。ダンダンダンッ! と次々に射撃目標を変更し、進路を確保する。
巫女侍も近づくヒトアリ眷属を力任せに叩き潰し、黒アリスに付いて走っていた。
魔法少女中隊との合流を急ぎながら、雨音がカティと話していたのは、今しがた消えた能力者の事だ。
確証は無いが、雨音は自分を助けた能力と能力者の正体に心当たりがあった。
世界各国より、国際情勢に影響を与えかねない戦略級能力者、と認定される5人の内のひとり。
遺憾ながら『黒アリス』もその中のひとりとされているので、雨音は少し調べた事があったのだ。
だが、当然ながら面識は無い。
しかも確か、当人は東米国政府から追われる身のはずである。
なんでまたそんな能力者がこんな戦場にいるのか疑問だったが、今は全ての優先順位が戦闘より下とされていた。
「まぁ『また今度』とか言っていた気がするし……用があれば向こうから来るかなッと」
その『今度』も、とにかくこの戦場を生き残らなければ永遠に来はしない。
どこを見ても怪生物がいる荒れ果てた地を、雨音は自衛隊仕込の走行射撃で突破していく。
既にブライ軍曹は救出チームを迎えに寄こしているはずであり、黒アリスと巫女侍はひたすら戦艦ミズーリを目指して進んでいたが、
突然、黒アリスの顔面に何かがペチャっと。
「ふわッ!?」
「ひゃぁあ!?」
黒アリスがアサルトライフルの再装填をした、ちょうどその時だった。
顔を上げた途端に柔らかくて軽い何かが張り付き、雨音が素っ頓狂な悲鳴を上げる。
そして、それに被る他の何者かの悲鳴。
黒ミニスカは反射的に顔にくっ付いたモノを掴み取り、
見ると、それは透き通った翅を背中から生やした、全長17センチほどのヒト型の何かだった。
「……はい!?」
「ひ……ひうぅ…………」
雨音、今日はもう驚く事しか起きないという感想である。
一瞬怪生物の類かとも思ったが、それにしてはやたら愛らしい。
髪は紅葉色のミドルボブ、手足は白く細長く、身体全体が華奢な印象。
その綺麗とも可愛らしいとも言える容貌の主は、今は黒アリスを見て涙目で怯えている。
ビジュアルを平たく一言で表現するならば、どう見ても――――――――。
「どしましたアマネ!? またなんか出マシたカ!?」
足を止めた黒アリスを心配して、すぐさま巫女侍の勝左衛門が戻ってきた。
雨音はまん丸な目で、自分の手元とカティに視線を往復させ、言葉に迷いながら応える。
「い、いやね……今あたしの顔に妖精さんがぶつかってきて…………」
それを聞いた巫女侍は、別の意味で酷く取り乱していた。
「あ、アマネ!? やっぱどこか頭とかぶつけたんじゃないデス!? めめメディーック! えまーじぇんしーデース!!」
「だっているんだもん! ほら見なさいよココ! ココ!!」
「ひゃぁあああ!? ゆ、揺らさないでくださーい!!」
折り悪く、海兵の軍用車両と護衛の能力者が黒アリスと合流し、取り乱した巫女侍はそっちの方へと助けを求めて駆け出していった。
そんな酷く失礼な心配をされた黒ミニスカは、半切れの涙目で巫女侍を追い全力ダッシュ。
掴まれたままの妖精的少女の悲鳴は、小さ過ぎて雨音の耳に届いていなかった。
0048:魔王といっても責任ある役職に違いもなし 04/29 20時に更新します。
感想(アカウント制限ありません)、評価、レビューで何かが見える……!?




