0046:業務用魔法少女お得パック詰め替え用
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空を覆うクジラのような怪鳥が、その巨体を大きく逸らすと勢いを付け地面へ嘴を叩き込む。
隕石並みの一撃に地面が大きく弾け飛び、そこにいたヒーロースーツやモンスタータイプの能力者が必死になって逃げていた。
G8の巨大生物、『天蓋始祖鳥』翼長800メートルは翼の周辺で重力異常を起こす事が確認され、地面を走るしかない人間の機動力を著しく低下させる。
その為、浮かび上がってろくに動けない人類軍はクジラ鳥に大苦戦していたが、ここで更に巨大生物のG16『圧殺球体』直径約400メートルまでが想定外の急接近。
意図したかのような連携により、交戦中だった魔法少女混成中隊の約100名は危険な状態に陥ったが、それをひっくり返したのが巫女侍の魔法少女である。
◇
三月第2週の土曜日。
午後00時28分。
蹄河原大丘陵、戦闘エリア中央。
「うわーん! アマネようやく見つけマシたヨ!? もうエライ目に遭ったもんデスよ! アレ? なんかここフワフワせんデスか!?」
「こっちの科白だバカ! 勝手に飛び出して行って心配するじゃないのよカティの大バカ!!」
涙目で親友に飛び付こうとした巫女侍だが、緩い重力に力加減を誤り相手の頭上を飛び越えそうになってしまった。
それを黒ミニスカ少女はギリギリでキャッチ。吊られて一緒に浮き上がる。
雨音も涙目だった。今まで忙しい上に必死だったので探しに行けなかったが、心配してなかったワケがないのだ。
なので思いっきりほっぺた引っ張る。
「みヤァー!!?」
「アンタ今までどこ行ってたの!?」
心配をかけてくれた分をお見舞いする雨音に、空中でバタバタしながら泣き喚くカティ。なお周囲は戦闘中で、頭上には重力異常を引き起こす巨鳥怪生物。
そんな巫女侍が簡単に説明したところによると、鉄砲玉的にG40 『古木の魔法使い』を殺りに行き失敗した後、四方八方が乱戦と化し無線も壊れて黒アリスと連絡も取れず、仕方ないので脚力にモノを言わせてそこら中走り回っていたとか。
とりあえず砲声が激しい所を目指せば黒アリスがいる、と思ったが、辿り付いた先は戦車大隊の戦闘エリアと全く見当外れな場所。大砲違いだ。
しかしそこも大変な事になっていたので、少し手伝ってからまた黒アリスを探しに動き回っていたと。
こういう事らしい。
誰でもいいから無線持ちを捉まえて連絡を取るという発想は出なかったのか。
なお、戦車大隊を襲っていたG17『地獄行きの穴』は、巫女侍が戦車大隊と協力し、バッサリとダルマ落としして来たという話である。
「戦車見捨てたらアマネ怒りそうだったんでジャイアント斬ってきマシたヨ」
「マジか」
これには雨音もビックリした。どこで道に迷ったかと思えばそんな事をしていたとは。
地中から飛び出してくる甲殻ワームを巫女侍が叩き斬っては、戦車が総出で体当たり射撃する。
という本作戦屈指のカオスな戦場となった為に、前線指揮所は今もって巨大生物G17の撃退判定を出せずにいるという。連絡が無かったのはそういう事だ。
そして、がんばったが戦車大隊の2800両は、結局壊滅状態だそうな。
では、巫女侍が引き連れて来た戦車の集団は一体何なのか、というと。
『戦車能力者同好会、多分50両ほど推参! 黒アリス中隊長の指揮下に入ります!!』
「あいつらか!?」
戦車列の中央、二次大戦時のドイツ軍の物に似た戦車の上から顔を出す、ツナギに戦車帽を被る少女らしき姿の能力者。
ただし中身は擬態偽装の能力で変身した男性との事。
本作戦、『テラーブラスト』に参加した戦車系能力者のひとりであり、つまり戦車も自らの能力で作り出した物だった。
他の戦車も、実在の物とは大なり小なり異なっている。ゲームやアニメの存在を元ネタとした代物だ。
仮にも銃と兵器の魔法少女なので、戦車能力者たちの車種と構成は雨音にも大凡分かる。
分かるが、二次大戦時の日本の重戦車に規格外の主砲が乗っていたり、同じく旧式のイギリス戦車が側面にミサイルを搭載していたり、旧アメリカ戦車の砲塔が対空機関砲にすげ替っていたり、真っ赤なイスラエル製戦車が山のように武装を積んでいたり、核戦争を想定した旧ソビエト製の試作重戦車だったり、と内容はメチャクチャだった。
おまけに後方からは、そのあまりの大きさと重量の為に付いて来れない幻の超大型戦車も合流を急いでいるという話で、他の車両より数倍大きな鉄の箱が戦場の向こうに見え隠れしている。
「…………もうこの際何でもイイかー! 戦車部隊は上の巨大生物を攻撃! 重力圏に入るから近付き過ぎないように! 弾道特性も変わるから身体のド真ん中を狙って!!」
『ラジャー! 全車両上空のジャイアント中心に照準! 主砲、特殊兵装撃ちまくれー!!』
カティの合流やら巨大生物の撃破やら戦車能力者やら一度に色々あり過ぎて処理し切れないので、とりあえず目の前の事態にのみ集中する雨音。
細かい事は後で考える。現実逃避とも言う。
とはいえ、見た目は趣味全振りで内容に問題があり統一感の欠片もない戦車能力者部隊であるが、火力で言えば能力者の中でも屈指。
重力場の乱れで主砲弾やロケット弾が屈折した弾道を取るが、それでもマトの大きさにより大半が巨体のどこかしらに着弾し、何十層もの頑強な羽根の下ダメージを徹していた。
クジラ鳥が逃げるように身を捩り、重力が正常に戻る。
地に足が付いた能力者たちは巨大生物に攻撃を開始。しかし周辺にいた怪生物も動きの自由を取り戻したようで、魔法少女中隊外周では個別に迎撃がはじまっていた。
たたらを踏んで地面に降りた黒アリスも、すぐに頭を切り替えなければと思う。
「えーと……戦車! 随伴歩兵! 戦車同好会の会長名前なんてったっけ!? そっちは海兵のヒトとか本職の戦車隊の指揮官とか同行してないの!!?」
『「ウォーマミー」と言います以後よろしく! 戦車大隊は被害甚大と言う事で無事なのも含め全て一度撤退しました! 我々はショーザエモンに言われるまま付いて来たので本職の指揮官とかはいません!!』
「なんてこった」
『なので名誉会長として黒アリス隊長に指揮権を一任します!!』
「おいちょっと待てなんだその『名誉会長』って!!?」
またヒドく不穏なモノに本人の意思と関係なく巻き込まれそうになってる、と砲声を背に悲鳴を上げた黒ミニスカ。
時間があれば対戦車ミサイルで意思表明をしたいところだが、生憎とそんな暇も無く。
指揮権が自分にあるのを、話が早いと思うしかなかった。
「二等軍曹あっちの戦車指揮お願い!!」
「俺は海兵だぞ!? まぁいい任せろ! 戦車隊は砲撃を続行! 海兵と能力者は戦車に付いて周辺防御だ!!」
四角いドイツ戦車モドキに飛び乗り、砲塔のハッチから身体の上半分を出すブライ軍曹。内部は普通の戦車であり、そこは戦車愛好家としてのこだわりだとか。
能力者に周囲を守られた特殊戦車部隊は、後退しつつ巨大生物への砲撃を継続。
ガラスを磨り潰すような叫びを上げるクジラ鳥は、空中で暴れながら戦車と魔法少女混成中隊を追い重力異常を仕掛ける。
「火力を頭部に集中! 発砲の反動で接地をキープして! ストーン姉さん!!」
「なにー!?」
「クチバシ狙って! 引き摺り下ろしてやって!!」
「おっけー!」
「全員に連絡! どうにかあの空飛ぶクジラを地面に叩き落すから集中攻撃の準備してて!!」
『全員聞いたな!? 戦車隊は牽制射を続けろ! 後退機動を続け射界を維持! 能力者は戦車を護衛しつつ総攻撃に備えろ!!』
魔法少女中隊を襲う怪生物が重力異常に巻き込まれ、浮き上がったまま四肢をバタつかせていた。
特殊戦車の火力は悪くないが、相手の巨大さと重力異常による弾道の歪曲でどうしても一点集中が効かない。
そこで雨音は、クジラ鳥の唯一の直接攻撃と思しき嘴を、半裸カウガールのレディ・ストーンに魔法の投げ縄で捕獲するように要請。
要するに相手の攻撃に合わせてカウンターを仕掛ける、というかなり危険な事を頼んだのだが、カウガール魔法少女は多くを語らなくても分かってくれた。
流石はこういうのが大好きな、お嬢様学園の生徒会長さまである。
ところがだ、
「カティ、大きいのいくからあたしを支えといて! ストーン姉さんがあの巨大生物を捕まえたら真っ先にブチ込むよ!!」
「ンー……わかりまシタ」
高いテンションを維持する黒アリスに対し、再会からベッタリ背中に張り付いている巫女侍の返事は、消え入りそうなくらいに弱々しかった。
周囲の状況も忘れて思わず振り返る黒ミニスカ。見ると、黒髪長身美女の巫女侍から、普段の無駄な元気の良さが全く無くなっている。
「ど、どうしたのカティ? 怪我とかしてないよね?」
「ちょい疲れただけデスよ……まだガンバレまス。アマネ見付けてホッとしたら気ぃ抜けマシたかネ…………」
しんなりしている巫女侍に、黒アリスもここ5時間の事を改めて思い返した。
自業自得に近いとはいえ、カティはたったひとりで戦場を駆け回り、巨大生物の一体を落として戦車能力者たちの引率までしてきたのだ。
その間も休み無しに戦い通しだった事を思えば、安心した拍子に疲れが出ても仕方のない事だった。ちょっと泣きそうだ。
カティがこれ以上戦闘を継続するのは、致命的な事態を招きかねない、と雨音は判断する。
巫女侍の魔法少女は大きな戦力のひとりだが、巨大生物を一体倒しただけで戦果としては十分だろう。探しに行く手間も省け、これ以上どこに行ったかと心配する必要も無い。
「……桜花! カティは戦車の中で休ませて! 全体で休憩取れるまで付いてて!!」
「だいじょぶデスよーアマネ。アマネ成分がエンプティーなだけデスねー。チャージすればフルパワーでス」
なので、しばらく三つ編み吸血鬼に看ていてもらおうと思う雨音だったが、こんな時でも駄犬カティはいつも通りな発言だった。
「アホな事言っとらんで――――――――」
暫く休んでろ、と言い掛けたところで、黒ミニスカの脳裏をある考えが過る。
『アマネ成分』とやらがいかなる物質かは本人をして存じ上げないが、もしそれで本当に回復したらどうしよう。
能力者の思い込みというヤツは馬鹿にならない。女子高生は猫耳を生やし、サラリーマンが満員電車を横目に空を飛び、男が女に変じ過去の戦艦がヒト型に化けるのも言うなれば思い込みの成せる業である。
現実とは何だったのか。
「…………一応聞いておくけど、そのあたし成分ってのはどうすれば採取できるもんなワケ?」
「アマネの分泌物なら上でも下でもオッケーですヨ!」
「引っ叩くぞこのヤロウ」
聞くんじゃなかった、と真剣に後悔しかける雨音。後ろでは架空戦車がミサイルを一斉射している。
だいたいそれだと常日頃から補給してないと今になって欠乏するとか言い出すのはおかしいだろうが、と思うが、まさか日頃一緒に寝ている時とかに不埒な行為に及んでいるのではあるまいな、と新たな疑惑まで沸き上がった。
このクソ忙しい時に自分は何を悩んでいるのだろう、と泣きたくなる魔法少女JKである。
なので、
「ん…………ほら! これでいいの!?」
自分の指を咥えた後、半ギレでそれを巫女侍に突き出す顔真っ赤な黒ミニスカ。
もう悩んでいる時間も惜しいので、さっさと試すだけ試してみる事とする。ダメならダメでバカをしばき倒すだけだった。
そしてカティの方はというと、突き出される濡れた指を一時目を瞬かせて凝視していたが、すぐに餌を与えられた池の鯉の如くパクッと。
「ひゃっ――――――――!?」
他人に指を咥えられる、というのは思いのほか奇妙な感じがするもので、雨音のお尻から脳天まで電気が走った。思わず変な声も出る。
しかし、すぐにそれどころではなくなった。
僅かな間、黒アリスの指を母親のおっぱい吸う赤ん坊のようにムニュムニュしていた巫女侍だが、チュポンッと指を離したかと思うと、その目からカッ!! と光が。
「ふぉおおらっしゃァアアアアアアアア!!!!」
腰の大刀を最上段に振り上げ、一気に数百メートルもの巨大刀に変化させると、フルパワーで振り下ろす。
『大深海』の一文字斬り、そして巫女侍の怪力を思いっ切り喰らったクジラ鳥は、片翼の根元より真っ二つに折られ地面へと叩き付けられてしまった。
「こ…………こらぁッッ!!?」
少しばかり超展開に付いていけなかったが、我に返って悲鳴を上げるのは黒ミニスカである。
コイツなんて事するんだ。
いや巨大生物を倒す事自体は問題無いし作戦が潰れたのもこの際構わないが、問題はそこに至る過程である。
非常事態ゆえに出来たらいいな、とは思ったが、本当に出来てしまうと色々問題が発生するのだ。
しかも、事はこれだけに収まらない。
「次はどいつデス!? オマエかー!!」
「こらカティーどこに行く!? アンタ待ちなさい!!」
目から光を放ち、顔を真っ赤に上気させた巫女侍は、猛り狂ったまま明後日の方向へと突っ走って行った。
かと思えば、どうやらそちらにはG16『圧殺球体』が再接近していたらしく、暴走魔法少女は大刀(ノーマル)を振り上げ襲いかかっていく。
巨大生物の中でも突出した頑強さを持つ個体だが、今のカティの前ではデカイだけのボールのようであった。
「なぁ……なに? どういう事??」
「あー……せんちゃん原液はヤバいよ。ちゃんと希釈しなきゃー」
「『希釈』ってなんだ!?」
果てしなく暴れるカティを、成す術無く見送るしかない飼い主の雨音さん。
そんな黒ミニスカに呼ばれて来て、一部始終をこっそり見ていた三つ編み吸血鬼は、「処置なし」と首を振っていた。
でも後で自分も試してみよう、と。
かような事を企む三つ編みが、ソロソロと背後に回り牙をキラーンと輝かせていたが、途方に暮れる黒アリスがそれに気付く事は、ない。
ちなみに、巫女侍の巨大刀に半分斬られて落ちたG8『天蓋始祖鳥』は、ブライ一等軍曹の指揮により能力者の集中攻撃を喰らい完全に生命活動を停止した。
0047:ダークからライトへの切り替え激しい異世界ファンタジー 04/28 20時に更新します。
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