0045:浮き足立っても止まる事を知らない烏合ファイター
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三月第2週の土曜日。
午後00時00分。
蹄河原大丘陵、戦闘エリア中央。
当初の予定と全く異なる形ではじまった対『死の濁流』殲滅作戦、『テラーブラスト』。
しかし、魔法少女の黒アリスはバラバラになった戦力を取り込みつつ、戦場を南回りに半周し行く先々で巨大生物を撃破してきた。
そして現在、巨大生物の残りは18体。
約200名まで増員した魔法少女混成中隊は、最激戦区と化した中央での戦いに臨む事となる。
「うおー!? 艦長防御スクリーンが10%まで出力低下ー! このままでは持ちません!!」
「よしまだ余裕あるな!」
「ふざけんなギリギリだっつってんだろーが!!!!」
「あの脚が多分エネルギーとか吸い取ってるんだよ! コイツが安全地帯作ってる間に斬れるヤツは斬ってくれ!!」
「さっきから俺の魔法が吸収されてる!? 遠距離ダメなんじゃないのかこれ!!?」
『ミサイルならイケるが数が足りない! 脚の数が多すぎる!!』
落とされた5隻のミズーリのうち1隻、最も北の戦艦の甲板上でも能力者が戦闘の真っ最中だった。
熱量ゼロのエネルギー障壁を作り出す能力者、某SFドラマフリークでコスチュームも自作の大学生、『キープアウト』。
自らを液体としながら金属のようにも硬質化できる全裸メタリックヒーロー、『リキッドダイバー』。なお艦長ではない。
多数いるゲームのロールプレイ系能力者のひとり、魔法剣士スタイルで接近戦も遠距離攻撃も割りとこなす『フォーマン』。それに、作戦開始から何となく一緒に行動している、同じくゲーム系の魔法使いと弓使い。
サイボーグではなく完全にロボットとなったアンドロイド系能力者、『ディップスイッチ』。
これらを含む能力者15名。
対するは、長く大量に垂らした触手をミズーリの艦体に絡め、その上空に浮いている巨大生物G19『クラゲ浮遊要塞』である。
バリア系能力者を守りの要に攻撃を展開する能力者だが、優位に戦いを展開しているとは言い難い状況だ。
当初、レーザー攻撃こそ凶悪な巨大生物だが動きはそれほど早くもなく、能力者たちは容易に火力を集中できると考えていた。
ところが、交戦開始後数時間して、その想定が誤りだったのを痛感させられる事になる。
巨大生物に対する攻撃のダメージが、いつまで経っても確認できないのだ。
「これダメだもういっぺん退却しよう! ホントに防御スクリーン限界だし!!」
「触手だって触手! アレがなければ多分攻撃通るし近づける!!」
『急がないと船体の方が持たないぞ!』
「上から本体を直接叩いちゃダメか!?」
「レーザーのマトになるって!!」
「頼むぞミスタースポット!」
「だからもう防御スクリーン持たないっての!!」
半透明の巨大クラゲの内部でイナヅマが閃き、表面から幾筋もの光線が乱舞する。
バリア能力者が障壁で防ぐものの、足元の戦艦まで守りきれず艦体が徐々に切り刻まれていた。
能力者も反撃するが、クラゲの下から伸びる無数の触手に火炎やビームといったエネルギー系の攻撃は無効、ないし吸収されているらしい事が判明。
レーザーが飛んで来るので接近して攻撃するのもままならず、手詰まりで時間だけが経過していたが、
「だったら防御容量を超える飽和攻撃をブチ込むだけよ! 全力攻撃!!」
「実弾に限定しろ! ビームやレーザーの類は撃つな!!」
そこに通信聞いて駆け付けた魔法少女混成中隊が、地上に対空兵器と対空能力者をズラリと並べて砲撃開始。
遠距離攻撃手段を持たない能力者も、銃砲兵器の黒ミニスカ魔法少女が出したロケットランチャーを撃っては投げ捨てを繰り返した。
無数に放たれるロケット弾や誘導ミサイル、砲弾や銃弾、能力者の伸縮式ロッドやロケットパンチ、金属ディスクといった物理攻撃に対し、クラゲ要塞はレーザーを幾筋も放ち撃ち落す。
しかし、巨人能力者が投げ付けた戦艦の錨は迎撃しきれず、半透明な本体に直撃。
次いで、黒ミニスカの30ミリ口径7連装砲身回転機関砲がクラゲレーザーの防御容量を上回り、更にヒト型護衛戦艦ムサシが46センチ砲を集中して叩き込み、内側から吹っ飛ばした。
ゴリ押しとしか言い様がない一連の乱れ撃ちに、それまでクラゲ相手に必死になっていた能力者たちも開いた口が塞がらない。横槍を入れられたと思う余地すら無い。
その能力者たちも魔法少女や海兵から中隊に加わるよう促され、追い討ちをかけられフルボッコ状態な空飛ぶ巨大クラゲを背景に、急ぎ戦艦から降りていった。
◇
「これで! 残り17!!」
出鱈目にレーザーを放ちながら地に落ちるG19『クラゲ浮遊要塞』を睨み、黒ミニスカ魔法少女が疲れを押して吼える。
周囲の能力者と兵士たちも歓声を上げるが、勝利を喜んでいる暇は無い。
ここは戦場ド真ん中の最激戦区なのだから。
「二等軍曹、次! 優先度の高いのは!?」
「ここから南西のミズーリが限界だ! CPを通して応援を要請している!!」
「一等軍曹! 一等軍曹! 西のビッグエムにモンスターが侵入! バルディア二軍とテンプル11が救援要請!!」
「一等軍曹! 空軍の連中がワニのジャイアントを叩き落した! ここの南!!」
「偵察機から警告が来た! 自由の女神みたいなヘビ女が北東から接近中!!」
戦場の情勢は変わりやすいなんてもんじゃなく、案の定マズい事態が幾つも同時に勃発していた。
どこもかしこも緊急事態だ。余裕がある現場など無い。
それに魔法少女混成中隊も、リアルタイムで襲ってくる怪生物を迎撃している最中だ。
長考している時間も無い。
「どこが何に襲われてるか教えて! あと分かる範囲で相手のスペック!!」
「CP! CP! こちらミスト17! 付近のジャイアントの情報をくれ!!」
『CPよりミスト17、南西ビッグエムはG8「天蓋始祖鳥」の攻撃により傾斜。遮蔽物を失ったショルカー第一軍が被害多数、応援要請。G8周辺では重力に異常が確認されています。射線や飛行に影響あり』
『西に500メートル地点のビッグエムにG6「異形アリ」とG24「水棲巨人」を確認。数千の下位種を引き連れておりバルディア第二軍が包囲されています。G6、G24共に統制を取り集団戦闘を行いますが、特異なエネルギーによる攻撃などは確認されていません』
『航空戦力の集中によりG10「有翼鰐竜」が墜落。ただし活動停止は確認されず。背部の翼手が何らかの力場を発していると考えられます』
『G30「蛇の女王」が進路を反転、詳細は不明です。戦闘地域中央へ移動中。交戦した部隊に錯乱者が出ています。化学物質の拡散に注意してください』
前線指揮所から情報を貰って最初の感想が「めんどくさい!」という雨音だったが、まさかこの場でそんな事を叫ぶ事もできず。しかしどう控えめに言っても面倒くさい状況だった。
どう動くべきか、二等軍曹――――――ブライ一等軍曹――――――に指揮とか丸投げしたいが、成り行きとはいえこの集団を引っ張って来た責任があると思う。
具体的な作戦行動のアドバイスやサポートをしてもらう事はあっても、決断は魔法少女の黒アリス隊長がしなければならないのだ。死ぬほどテンパッた状況だが、それくらいの空気は読める。
「う~……! とりあえず集中攻撃で各個撃破の戦術は変えない! 高火力のヒトはあたしと一緒にバカでかい鳥を全力攻撃!
集団戦闘が得意なヒトとエアリーの軍は西の戦艦の方に先行して応援に行って、あたし達が行くまで時間稼ぎ! 無理はしない!!
他のは後回しに! ヘビ女の巨大生物が来る前に片付けるつもりだけど、ダメなら砲撃で牽制して他を片付けてから戦力を集中して一気に叩く感じで! 以上!!」
「遠距離攻撃が出来ないヤツは西側へ先行する! ビーツ、ストークは海兵を半分連れて指揮と連絡役だ! イレイヴェン軍をフォローしろ!!」
「イエッサー一等軍曹! スパルタン! フォーマン! サーベル! メイ! スケアー! メリー! ロンググラブ! クラッシュ! 付いて来い!!」
「チェイン! ダイス! イア! ガンズ! トゥース! お前たちも来い!!」
ヤケクソ気味に黒アリスが方針を叫ぶと、ブライ軍曹がそれを元に人員分けをアレンジ。
もっと細かくチーム分けするべきかと雨音は悩んだが、巨大生物の強さを考え、飽くまでも戦力の集中と各個撃破にこだわる。
インテリ系兄ちゃんと欧州系の海兵ふたりが、なんだかんだで50人ほどに数を増やした海兵の半数と、使い勝手の良い能力者を引き連れ駆けて行く。
火力や遠距離攻撃手段に乏しい能力者も一緒に、軍用車両に飛び乗りバルディア軍を援護すべく発進。
これに、イレイヴェンを含むナラキア連合軍の軍団が地響きを立てて追従した。
「南西450メートルだがもう見えているな!? 行けるかクロー!?」
「アレ見ると心が折れそうですけどまだ行けますサー!」
「よし全員行くぞ! 遅れるな!!」
そして黒アリスたち本隊も、近いようで遠い遠近感がおかしくなる宙に浮く巨大生物、G8『天蓋始祖鳥』との戦闘エリアへ向かう。
巨大生物中最大のサイズ、翼長で約800メートル。
空を覆い、制空権をその巨体で鷲掴みにした支配者に、後がつかえている黒アリスと魔法少女混成中隊は短期決戦を挑む事になった。
◇
何か具体的な作戦があったワケではない。そもそもこの作戦、『テラーブラスト』は開始からして想定外であった。
当初の作戦の不発、撤退の失敗、予想を上回る巨大生物の性能、制御し切れなかった能力者、と。
故に、そこからはもうノリと勢いと気合とアドリブだけで駆け抜けて来たこの戦場であるが、やはり巨大生物は人類の対応力など易々と上回って来る。
結局のところ、戦場で物事が都合良く進む事など無いのだ。
「う!? うわぁああああ――――――――!!?」
「ワッツァ!? 踏ん張りが効かない!!」
「ウオッ? クソ! ヤベェ!!」
クジラと鳥類を合わせたような巨大生物の真下へ入る前に、魔法少女混成中隊は攻撃態勢を取っていた。
真下が重力異常を起こす効果範囲だと、事前情報で分かっていたからだ。
ところが、いざ首の無い肥満体のような頭部を集中砲火したところ、重力異常を起こす範囲が混成中隊の距離まで広がってしまった。
今までは本気を出していなかったという事か。
おかげで中隊は大混乱だ。
一時的に重力が消失し、海兵もナラキアの兵士も能力者も浮かび上がったかと思うと、身動きが取れないところへクジラ鳥がクチバシ突き込んで来るという。
自前のロケット噴射で回避するロボット能力者だが、巨大なクチバシが猛スピードでカスった為に、錐揉みして地面に激突してしまった。
「ぐぅ……!? 飛行できるヒトは出来るだけ他の能力者と海兵をフォローして! 遠距離攻撃できるヒトは反動に注意!!」
「にゃにゃー!」
落下するような浮遊感と、勝手に浮き上がろうとする身体。雨音も取り乱しそうになるが、どうにか周囲に指示を出す為に我慢する。ここで混乱が広がれば即全滅だ。
タイミング良く、三つ編み吸血鬼の分裂したネコウモリが服を引っ張り姿勢を保ってくれた。スカートも引っ張られていたが。
「うぉら喰らえやぁあああ!!」
「全端子発射ぁ!」
「くおッ!? 照準が!!?」
ロボットやパワードスーツ、サイボーグといった高火力能力者が、半分浮きながら巨大生物へ攻撃開始。
しかし文字通り足下が定まらない為、火力が集中できていない。
それでも何かしらの痛痒は感じたのか、巨大生物は翼を大きく羽ばたかせた。
「わッ!?」
「おい!!?」
「ちょ!? まッ! ぐえッ!!?」
途端に戻る正常な重力と、致命的な翼面積による突風で地面に叩き付けられる魔法少女中隊。
それほど高く浮き上がらずダメージは小さかったが、100名近くが成す術無く大きな隙を晒す事となる。
特に、全高200メートルあるヒト型護衛戦艦ムサシは、ぶん殴る直前にバランスを崩して腰から転倒していた。
そこから体勢を立て直す暇もなく、
「おいなんだアレ!?」
「おいおいおい!? まさか――――――!!」
何かがズズンッ! と地響きを立て落下してきたと思えば、それは再度バウンドして猛烈な勢いで転がってきた。
G16『圧殺球体』直径約400メートルの乱入である。
「今度はなに!?」
能力者たちが面食らい、黒ミニスカが半ギレ気味に目を剥く先から、歪に丸まった外骨格の球体が迫っていた。
すぐさま進路上から逃げ出そうとするナラキア軍と能力者集団、当然魔法少女も。
全く想定外過ぎる事態で、同時に対処するなど不可能だ。こういう時は退いて体勢を立て直せと三佐も言っている。状況的に無理っぽいが。
だというのに、嫌がらせのようなタイミングで上空のクジラ鳥も羽ばたいた。
「おいまたか!? あのクソッたれジャイアントがー!!」
「ヤバいぞボーリングのジャイアントが来る! 逃げろ逃げろ!!」
再び狂い出す周囲の重力。自重を支える必要が無くなってしまい、人類は足を使った移動がままならなくなる。
進路上の怪生物を挽肉に変え、地面の凹凸を拾い跳ねながら突っ込んで来る巨大生物と魔法少女中隊の距離は、僅かに200メートル。
「チィッ!? 臨界突破!!」
激突まで2秒という一瞬の瀬戸際、反動で吹っ飛ぶ覚悟の雨音が46センチ換装砲を展開し、
「邪魔ネッ!!」
苦労して空中で砲口を向けた相手が、三尺三寸の大刀でホームランされてしまった。
ゴバギッ――――――!! という重い破断音を響かせ、放物線を描いて行くボール型巨大生物。
その圧倒的な重量をものともせず、横合いからG16『圧殺球体』をブッ飛ばしたのは、巫女装束の肩や腰を露出改造した超怪力の魔法少女だった。
作戦序盤でひとり巨大生物に突っ込み迷子になっていた、『秋山勝左衛門』ことカティーナ=プレメシスの帰還である。
0046:業務用魔法少女お得パック詰め替え用 04/27 20時に更新します。
感想(アカウント制限ありません)、評価、レビューで連休を乗り切りたく。




