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いまさら魔法少女と言われても  作者: 赤川
wave-10 もはや無差別級総当たり戦バーリトゥード
495/592

0044:魔法少女バッドカンパニー

.


 排水量58000トンの鉄の塊が大きく揺れる。

 戦艦ミズーリは長大な城壁として機能し、これを背にする人類軍を艦体(からだ)を張って守っていた。

 しかし、能力者やナラキア軍側も攻勢に転じられるほどの余裕は無い。

 今現在、防御陣形を取り、守りを固め怪生物を返り討ちにするのが精一杯であった。


 戦闘開始から間もなく5時間が経過し、それも限界に近づきつつあったが。


「ビッグエム2番のアラブリス第3軍より救援要請! 負傷者多数、防衛も限界! 周囲を囲まれ撤退不能!!」

「CPはなんと言ってる!?」

S級能力者スーパーヒーロークラスレッドクイーンの混成部隊が東800メートルの地点に集結中! ビッグエム4番へ最接近するジャイアントを背面から強襲するとの通信が!」

「応援は要請出来る状態じゃないか!?」

「ビッグエム1番のキシルディア本隊も撤退支援を求めてます!」


 海兵の伝令と部隊指揮官が、慌ただしく前線指揮所(CP)と通信を繰り返していた。

 即席の防壁、『ビッグエム』と呼称される事となった戦艦ミズーリの付近には、主にナラキア共同体の各国軍が布陣している。

 その状況は(かんば)しくなく、絶えず押し寄せる怪生物と巨大生物の重圧に、集団を維持する限界に来ているという話だ。

 通訳を介してそれを聞いていたイレイヴェン軍と第一軍の総大将、第二王女のエアリー=イヴ・デトリウスは、自軍の様子を配下に確認する。


「エドライ将軍、我らの消耗は?」


「は……雷神より浴びるほど矢弾を供給されましたが、今のところ残り半分といったところかと。負傷者は一割程度出ておりますが、全軍においても攻撃の要となる我らは士気高く意気軒昂にございます」


 クマのような体格の将軍から報告を受け、連戦に次ぐ連戦の疲れも見せない銀髪姫がしっかりと頷いた。

 イレイヴェンの第一軍は、銃器の扱いに慣れた王都トライシアの志願兵約一万人を擁する、現在のナラキア地方で最大の戦力だ。

 それに、イレイヴェンの軍も王都攻防戦の時とは違い、全土からこの作戦(テラーブラスト)の為に兵力を集めて来ている。

 既に『死の濁流』との戦争を経験している(つわもの)ども。

 友軍が力尽きようとしている今、これを助けに入れるのは自分たちだけである、と銀髪の姫は考えていた。


「…………東側からクローの軍が来てくれるのね。ならば我らは北の要塞に陣取るアラブリスの軍と合流する! 濁流の怪物を徹底して掃討し、魔道剣を集めて足下から邪神を切り崩すわ!!」

「はッ! 歩兵は先行して道を開け! 魔道兵は盾の隙間から怪物を撃つのだ! アラブリスの軍と合流する!!」

「この中を何千人も一度に移動するのか……!? CP! 応援要請!!」


 総大将(エアリー)の一声で、クマ(エドライ)将軍を通しイレイヴェン第一軍の全てが動き出そうとする。当然、襲って来る怪生物と戦いながらだ。

 泡を食って前線指揮所(CP)へ通信を送る海兵だが、生憎と先方も鉄火場となっているので話がうまく伝わらない。

 基本的に危険は冒さない犠牲を前提にしない博打をしないのが地球の軍隊である。

 命を(かえり)みず戦いに(のぞ)むナラキア地方とは常識が違った。


「オオッ!」

「オオッ!」

「オオッ!」

「オオッ!!」


 声を上げて密集し、槍を突き出し盾を押し出し怪生物を跳ね飛ばして突き進む、イレイヴェン第一軍。

 目指すのは、最も北側に落ちた戦艦ミズーリと、その下で戦うアラブリスの軍だ。

 自軍は戦艦の傘から出て危険に晒される事になるが、それでも友軍を見捨てるなど誇り高い銀髪姫が許すはずもなかった。

 故に、将軍共々軍団の最前列である。


「蹴散らせぇ! 足を止めるな! 前に進め!」

「魔道兵は正面を切り開きなさい! 一気に北の城塞に向かう!!」

「姫様に近づくクソはミンチにしてやるんじゃんぜー!」

皆殺しじゃー(キルゼモー)!!」


 魔法を放つ剣、魔道剣を自ら振るい、怪生物をズタズタに切り裂く銀髪姫。砦が買えるような価値があるので今度こそ無くさないようにしよう、と心に決めている。過去に3振り以上無くしているので。

 そんな某女王並みの浪費家と化しているエアリーの周囲を固める、ある寒村のご老体集団、超銃砲撃滅老兵分隊(G-Squad)

 老い先短いので姫の為に死ぬ、と付いて来てしまった年寄りたちだが、楽しんで怪生物を殲滅しているようにしか見えなかった。それなりに戦果は上げているが。


 重鎧を着けた重装歩兵を先頭に、老兵や民兵が重火器をブッ放し進路上の怪生物を駆逐していく。

 戦意十分に地獄の戦場を恐れもせず、駆け足で突破しているイレイヴェンの軍勢。

 しかしここで、G26『剛腕大亀(タラスクフィスト)』全長600メートルが戦艦の上から顔を出してきた。

 大岩の下から這い出た虫を見つけたように、脚の長い巨大亀に似た生物が頭をイレイヴェン軍へと向ける。

 その頭が先端から()くれ上がり四つへ割れると、内部から数千もの舌が地上へと飛び出し、



 まず155ミリ榴弾が側頭部にズドンっ! と直撃し、渦巻きレーザー、各種ビーム、火炎弾、ディスクカッター、ロケットパンチ、マジックハンド、伸縮式ロッド、リモート攻撃端子、対隕石ミサイル、投げ付けられた大岩、46センチ砲弾が次々に着弾し、最後にパワードスーツやヒト型ロボット、巨人達が直接ぶん殴った事で、脚長亀の巨大生物は脚から地面に崩れ落ちていた。



「ぉおおおおおおおお!?」

「邪神が!?」

「なんだ今のは!? いやホントなんだ今のは!!?」

「能力者!? レッドクイーンの部隊はまだ東側だろう!!?」


 ド派手な上に統一感の欠片も無い各種能力による総攻撃に、思わず足を止めてしまうイレイヴェン第一軍、及び海兵。

 破壊力や巨大生物への効果以前に、その内容が意味不明で理解がし辛かった。

 などと思っていたならば、東側から派手なエンジン音を響かせ何かが近づいて来る。


「イィイイエアアアアアアアア!!」


 雄叫びを上げるのは、先頭を爆走する超大型タイヤのモンスタートラック、のドライバー能力者だ。不運にも前にいた怪生物が踏み潰され、あるいは跳ね飛ばされていく。

 両脇を固めて自走するのは、白く丸い外装のパワードスーツや戦車をヒト型にしたようなパワードスーツ、スポーツカーがヒト型に変形したロボットやライオン型ロボット、スマートな純ヒト型ロボット、その他多数。


 すぐ後ろに続くのは、白馬のカウガールに軍馬の鎧武者。サメヒーロー、身体の線丸出しのセクシー系、太いライン入りのツートン、シースルーのドレス等、といったヒーロースーツ。

 筋肉を肥大化させ獣の顔を持つ巨漢、瞬く電飾アーマーのサイボーグや、スマートな女性型サイボーグ、チェーンソーに乗ったレインコート、脚代わりに地面を駆けるマジックハンド。

 軍用車両(ハンマー)の車列にも、自力で付いて行けない能力者が多数搭乗。


 飛行武装バイク、白い翼の機械天使、チビッ子魔法少女刑事(デカ)、金色鎧のパワードスーツ、全身ロケットブースター、ミサイルに吊るされる採掘作業者、など頭上を飛ぶ飛行能力者たち。

 

 そして背景と化している超巨大ヒト型護衛戦艦ムサシに、怪生物群のお株を奪う勢いで雪崩を打ち突撃して来るナラキア連合軍の兵士たち。



 ここに至るまでに各方面で糾合した総勢約200名、魔法少女混成中隊見参。



「このまま立ち直る前にドン亀も倒すよ――――――ってエアリーいた!? デイブあっちあっち!!」

「オーケーだ振り落とされんなよクイーン!!」

「おっさん『クイーン』とか言うなし!!」


 モンスタートラックの荷台にいた黒ミニスカ中隊長が、運転席の天井をバンバン叩く。

 ビール腹のオッサンが応じると、トラックは車体を大きく振って左へカーブ。

 混成中隊もそれに続いた。


「エアリー大丈夫!? ジェラさんも! 無事だったね!!」

「エアリーさまヤッホー」

「クロー! サク――――――」

「雷神だぁああああ!!」

「雷神の魔道士さまだぁああああ!!」


 エアリーのイレイヴェン第一軍の前で、モンスタートラックはドリフトしながら急停止する。ドライバーでありトラックを作り出したデイビッドの腕は確かだ。元々の趣味が高じたらしい。

 荷台から顔を出す黒アリス(クロー)と三つ編み娘に笑顔を(こぼ)す銀髪姫だが、後の科白(セリフ)は軍団の大歓声により飲み込まれてしまった。

 イレイヴェンにおいて、『雷神クロー』は救国の英雄だ。

 この状況では、戦意高揚と心強さに沸き立つのも仕方がない事だろう。


「クローどうしてここに? 東にいる友軍を助けに行くって聞いたけど」


「『東』? ああプラスイムの軍のね。巨大生物速攻で八つ裂きにして、エアリーの軍が移動するって言うから応援に来た」


 生きての再会を喜びながらも、首を傾げる銀髪の姫。自分の軍の東側には、ミズーリ城塞のひとつと邪神の一柱が陣取っていたはずだ。

 それはどうしたのか、と聞いてみれば、なんと鎧袖一触にしてきたと親友の魔道士は言う。


 事実その通りで、蹄河原(ヒヅメがハラ)大丘陵の中央東寄りにいたG11『取り込むクチバシ(テンタクルビーク)』全長300メートルは、能力者集団の集中砲火を喰らい細切れにされた。

 能力者約100名が集中した火力は、先の地球における巨大生物戦を振り返っても、前例が無いほどである。

 触手の塊生物がそれほど強靭でなかったとはいえ、ここに来て魔法少女中隊は、巨大生物を一方的に駆逐し得る戦力となっていた。


「クロー! ドン亀がまだ動く!!」

「立つぞぉおおお!!」


 そんな事を話してる間も、ここは戦場で戦闘が継続中。

 巨大生物、G26『剛腕大亀(タラスクフィスト)』も一時的に膝を付いていたが、今は立ち上がると大口を腹の中まで見えるほど大きく開き、


「ぅラッキー好都合! 一斉攻撃! 全員口から奥を狙って!!」

「ファイヤー!!」

「撃てぇええ!!」

「ロケットナック……い、いや戻って来ないからやめとこう」

「発射ッ!!」


 黒アリスのブッ放した砲弾に続き、レーザー、ビーム、ミサイル、火炎弾、プラズマ、音波といった強力な遠距離攻撃が乱れ飛び、触舌だらけの喉奥にて大爆発を起こした。

 巨大ドン亀は頭の周辺が内側から破裂し、ドドンッ! と体内でも何かが誘暴。

 100メートルもの分厚さがある甲羅がひび割れ、今度こそミズーリ要塞の方へ崩れ落ちるように倒れた。

 超大質量の落下音、それに鋼の押し潰される騒音が響くが、それ以上にナラキア軍の歓声が大きい。


「やったぞぉおおおおお!」

「なんという凄まじい力だ!!」

「邪神が滅びた! 異世界の魔道士に栄光あれー!!」

「偉大なる雷神よぉお!!」


 剣やアサルトライフルを振り上げ、快哉(かいさい)を叫ぶイレイヴェン軍の一方、トドメを刺す必要があるかと巨大生物を睨み続ける黒ミニスカ。

 その姿は、美しく可憐な英雄そのものであった。

 荷台の上にいるので下からだとパンツが見えてしまっていたが。


「艦長、46センチ砲をドン亀の頭に撃ち込める?」


『ムサシ了解! 46センチ砲パンチ行くであります!!』


 巨大ヒト型護衛戦艦ムサシが踏み込み、主砲搭載の腕部を叩き付けると同時に、爆音が轟き砲口が火を吹いた。

 ほぼゼロ距離から叩き込まれる46センチ徹甲弾が、巨大生物の頭部を爆砕。

 頭部周辺を失った脚長亀、G26『剛腕大亀(タラスクフィスト)』は、結局最後まで動く事は無かった。


 死体蹴りというレベルではない追い討ちだったが、巨大生物の生命力を考えれば再生くらいしかねない。

 自分が指示した結果からそっと目を逸らす罪悪感JKは、次にやる事に目を向け気を取り直した。


「……残り18体! エアリーはアラブリスの軍と合流するの?」


「え、ええそう! 向こうが支えきれないと言うから助けに行くわ!!」


「わかった! このまま私たちもイレイヴェン軍と一緒に移動して、途中から巨大生物の後方に回り込むよ!!

 私たちの活躍で犠牲が減るわ! 他の能力者とナラキアの軍もがんばってる! ここで全力を尽くさないとかありえないからね!!

 みんながんばって! 集中して! 動き続けて! 勝つよ!!」


「ぅおっしゃぁあああああああ!!」

「やるぜやるぜ俺はやるぜ!!」

「ビッグファイティング! スーパービッグファイティング!!」

「ッハー! 盛り上がってきたぁああ!!」

「わぁああああああ――――――――!!」


 自分を含め全員のテンションに鞭を入れる魔法少女は、イレイヴェンの第一軍と同道し、戦場の中央を北へと進撃する。

 そして同時に、他の場所で巨大生物と戦っている能力者たちは、中央か西へ向かう者かのふたつに分かれはじめていた。

 対『死の濁流』怪生物群作戦、オペレーション『テラーブラスト』。

 戦局はいよいよ、最終版へと差し掛かる。





0045:浮き足立っても止まる事を知らない烏合ファイター 04/26 20時に更新します。


感想(アカウント制限ありません)、評価、レビューで戦意が+15されます。

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