0002:海外ドラマ的に前回までの「いまさら魔法少女と言われても」は
旋崎雨音が特殊な能力を得て『魔法少女』などという恥ずかしくて人様には言えないモノにされたのが、今から約半月前の事。
ほぼ同時期に、雨音の友人で古米国からやって来た小型金髪娘、カティーナ=プレメシスや、その他多くの人間が『ニルヴァーナ・イントレランス』なる存在により、雨音同様の特殊能力者にされていた。
法に縛られない特殊な能力を持つ人間が、犯罪に走る可能性があるのは容易に想像出来た。
そして雨音の危惧した通りに、その後に奇妙な事件が続発する。
千葉県にある国内最大のテーマパークは犬の大群に占領され、山手線ではSLが暴走し、首都高では夜な夜な高速機動隊とスーパーカーがカーチェイスを行い、国会では謎のレスラーが疑惑の議員にラリアットを決め、立ち入り禁止の防波堤は戦国武将が陣を敷き、東京湾内では海保と海賊船が海戦を行い、渋谷をカウボーイが馬で走り回り、フィギュアイベントで武装ヘリが戦争を起こす。
最後のは半分雨音の仕業だったが。
雨音は銃や兵器が好きなだけの普通の(?)女子高生だ。犯罪行為に手を染めるつもりは無かったし、多少特殊な能力を用いた所で、科学捜査を駆使する現代の警察機構が犯人を特定できない筈は無い。
そう思っていたのだが、今のところこれら特殊な事件で犯人が捕まったという報道は無い。もはやスネに傷持つ身となってしまった雨音には、有難い事だった。
カティーナ=プレメシスことカティは犯罪行為にこそ走らなかったが、趣味が祟って悪を求めて彷徨い歩き、何の偶然が別の能力者と遭遇してしまう。
今となっては事の詳細は雨音の想像でしかないが、相手は人型人形を思い通りに、それも一度に大量に動かす能力者であり、その能力を使って更に多くのフィギュアを盗み出そうとしていたらしい。
雨音やカティもそうだが、この特殊な能力というのは、個人の趣味や嗜好による部分が大きい。
悪を成敗しようとするカティと、現場を見られたフィギュア遣いのひょろ長い背の男。
両者は交戦状態となるが、雨音や警察の介入により、その場での決着はつかなかった。
他の能力者の事情は知らないが、雨音とカティにはその能力行使の補佐として、マスコット・アシスタントなる人物(?)が能力の一部として付属していた。
魔法少女には欠かせない存在らしいが、その外見はアウトローなタフガイと、大胆に着物を着崩した妖艶な和風美人。
所謂魔法少女のマスコットと言われて連想する、デフォルメされた架空の小動物、といった風体とはほど遠かった。
後日の当人達の説明によると、マスコット・アシスタントはあくまでも雨音やカティといった能力者の一部であり、出すも引っ込めるも能力者の自由。
ところが先の事件にて、その仕様に一部バグが発見される。それは、マスコット・アシスタントの本来の持ち主以外が、そのマスコット・アシスタントを管理権限内に取り込んでしまうというものであった。
つまり、カティのマスコット・アシスタント『お雪さん』が、フィギュア遣いの能力者に拉致されてしまったのだ。
カティはお雪さんとの繋がりを頼りに、その時市内の施設で行われていたフィギュア・ガレージキットのイベントに潜入。程なくしてカティはお雪さんを発見するが、その直後、偶発的(?)にフィギュア遣いの能力者とその仲間がカティと交戦状態に。カティが心配で後を付けていた雨音も、カティを支援して戦闘状況に介入した。
その顛末が、軍用武装ヘリによるイベント無差別発砲事件だった。
仕方なかったのだ、何せ美少女フィギュア達がいきなり一般来場者まで襲い出したのだから。
雨音は自分を含め、能力者たちが捕まったという報道がまるでない理由に心当たりがあった。
ニルヴァーナ・イントレランスによって能力をコーディネートされる際、能力者達の多くが見た目の姿を完全に変えてしまう擬態偽装という能力を得ていると聞かされた。
確かに、雨音も擬態偽装で全く違う姿に変貌できる。背丈と手足が伸び、スタイルも起伏が激しくなり、髪の色も顔立ちも変わる。
着ている物もその瞬間に、黒を基調にした超ミニスカートのエプロンドレスに変わってしまうが、どこを切り取っても「魔法少女」ではないと思った。
ちなみにカティは、肩や背中やお腹や腰を露出した、改造巫女服姿の黒いロングヘアーの美女に化ける。本人は巫女侍を名乗っていたが、故郷で読んだ、偏った日本観で描かれたアメコミの影響らしい。
雨音には、フィギュアを遣っていた能力者二人の姿が変身したものだったのか、それとも素だったのか分からない。あるいは、自分が前に出る必要の無い能力故に、擬態偽装を持っていなかったのかもしれない。
それでも以前は、警察なら外見や特殊性に惑わされず、犯人を特定できると思っていた。捜査力以前の問題なのかもしれない。
事件後、雨音は努めて大人しくしていようと決めていた。
能力を得た直後は、部屋の中でモノホンの銃器を愛でる程度に使用を控えようと思っていたが、今となってはそんな気も起きやしない。
何もかもを忘れ、ニルヴァーナ・イントレランスも魔法少女も忘れて後の人生大人しくつまらなく健やかに生きてゆこうと。
「――――――――――思っていたのに何をしているかこの娘は……」
「アマネさんッッ!?」
「まぁ、雨音さま」
「出すよ!」
カティの方は自重する気は欠片も無いらしく、今日も今日とて警察やらマスコミが注視しているバスの立て篭もり現場へ突撃し、バスを真っ二つにした上で犯人をド突き倒していた。
慌てたのはテレビを見ていた雨音で、無人攻撃機――――――今回は超音速爆撃機ではなく対人小型ヘリタイプ――――――を何機も飛ばしてカティの居場所を見つけ、物騒な武装を付けた車両で駆けつけると、後を追ってきた警察にスモークグレネードを撃ちまくって、カティとお雪さんを拾って逃げた。
「おんどりゃぁぁあぁああああああお前逮捕されたり撃たれたり刺されたりしたらどうすんだってあの後散々言ったでしょうがぁぁアアああアア!!!」
「ヒーン!! だだだだって……カティには魔法少女の力があるのに……放っておけないデース!!」
「警察に任せとけ!!」
「あ……鼻は!? 鼻のアップはもうイヤです!! ヒロがっちゃう! 穴が広がってしまうデース!!」
後部座席でメチャクチャにされ、断末魔の悲鳴を上げる変身後のカティ、巫女侍の秋山勝左衛門。
その後、再びカティの家に夜を待って逃げ込んだ雨音は、暴走金髪娘さんにガチのお説教。
ところが珍しく、カティもこの件については譲ろうとはしなかった。
それから2週間。何か事件が起こるたび、雨音はカティの所在を確かめ、是非も無く変身して魔法を使い、カティをとっ捕まえに行っているのだ。勉強する暇などある筈がない。
しかたなく、日々の授業と直前直後の予習復習でカバーしようと没頭していた所に、カティが言い出した「吸血鬼が~」という話。
そんな物がいるにしてもいないしにても、もう二度と関わらないし関わらせない。
無言のままに固く決意する雨音ではあったが、心のどこかでは、恐らく無駄であろう事に気付いていた。




