0001:だからと言って狙ったワケではない
分裂以前より、旧北米には「吸血鬼を出しとけば映画は売れる」という風潮があったという。
ブラム=ストーカー著作『ドラキュラ』、1897年。それから約2世紀に渡り、この題材は人々に飽きられる事なく、それどころか強く心を捕らえ続け、時代の推移とともにテイストを変えながらも、その本質の余韻を残しつつ、今日までに継承されている。
だが無論、吸血鬼という存在は架空の物に過ぎない。これが、当たり前の常識だった。
その常識は、今にも壊れそうになっていたが。
「と言うワケで、若い処女が吸血鬼に襲われているそうですよ、アマネ!」
「…………」
とある公立共学高校内の、教室の一つ。
長い金髪で小柄な体躯の女子生徒が、机の上に身を乗り出して、何やら興奮気味に語りかけている。
その机に着いているのは、金髪でも何でもない典型的日本人の黒髪で、どことなく冷淡に見える女子生徒だ。
「吸血鬼はこれと狙いを定めた自分好みのオンナノコを密かに家までつけてって、夜中に部屋に忍び込むデス。そして、寝ているオンナノコの首筋に噛み付き…………今まで何人犠牲になったか分かりゃしないデスよ?」
「………」
「アマネ?」
「中間」
ポツリ、と零す冷淡少女の科白に、小柄な金髪少女の目が丸くなった。
冷淡に見える女子生徒は、金髪の少女が鼻息荒く語っている間にも、自分の授業ノートに穴が無いかを、テキストと見比べ真剣に考えていたのだ。
彼女の放った『中間』と言う言葉は、来週に迫る高校の中間考査――――――中間テスト――――――を意味していた。
「高校最初のテスト……カティ、あんた、勉強してた?」
「あ……アハハ、勉強全然してないデース」
「知ってるわよ」
乾いた笑いで残念な回答をする金髪少女に、黒髪の方は更に視線の温度を下げていた。
勉強してないのは黒髪の方も同じだ。と言うより、出来なかった。
何故ならば、黒髪の方、旋崎雨音はこの半月、小柄な金髪娘、カティーナ=プレメシスに振り回されて、勉強どころではなかったのだから。




