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いまさら魔法少女と言われても  作者: 赤川
Wave-02 ヒロインはもうひとりの方で良かったのでは
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0035:215番の部屋の客が、いつの間にか別人に

 猪武者がデフォルトの金髪娘(カティ)とは言え、相手の語り口調に、ある種の予感を芽生えさせていたのも事実。

 何故か行く先々で現れる、黒いアリスのような格好をしたテロメイド。だが二度と、そんな呼び方は出来まい。

 産業振興会館内の混乱の中、言葉を交わしていくうちに強くなっていく既視感。おまけに、よく見れば顔立ちの中に他人の空似とも思えない面影がある。

 明確に言葉に出来ない想像図に、猛烈な焦りにも似たものが、カティの胸の中で台風のように吹き荒れる。


 そんな所で、雨音の正体が御解禁となった。


 その時の暴走金髪娘、カティーナ=プレメシス嬢の胸中は、とても一言では表せなかった。



「カティはアマネがおんなじ魔法少女になってて、飛び上がるくらい嬉しかったデスよ」

「ほう」

「なんか魔法少女が二人だと、アマネとカティ、コンビみたいでカッコイイデース」

「うん」

「もーこうなったら前衛のカティに後衛のアマネで仲良くこの世の悪をデストロイゼムオー! デスよー!」

「そうよねー」

「でー………………………………なしてカティがお仕置きされなきゃならんとデスかー!!?」

「いやもうそれこそ一言ではとても言えんわ。後これ以上魔法がどうとか言うな」

「失礼します御注文お届け――――――――――――うぉ!!?」


 注文にあった飲み物とスナック類を運んできた店員は、個室に入った瞬間に、異様なその光景に引いていた。


「あ、すいません。置いといてくれます?」

「は……はい。ご、ごゆっくり失礼しまーす」


 カティへ超至近距離から――――――と言うかほぼ密着状態で――――――スマホを向けている雨音は、顔だけ振り返って店員に応える。

 店員としても、個室で客が何をしていたとしても、(とが)め立てたりは出来ない。客商売の辛い所だ。

 もっとも、店員も高校生らしき少女二人がいったい何をしているのか、到底理解出来ないままで出て行ったが。


「ヒーン!! ヒドいれすヒドいれす! アマネとカティはもう運命共同体ではありまセンかー! パートナーれはないレスかー! なのにこんなのあんまりレフー!!」

「やかましいあんな胡散臭い送りつけ詐欺みたいなのにあっさり引っ掛かった挙句趣味丸出しな分かり易い変身なんかしているかいないかも分からない悪党なんかを探して学校で寝てる癖に深夜徘徊なんかして案の定学校で寝てるし挙句ホントに変質者見つけてしかも多分あたし達と同じような能力持ちのキモオタに突っかかってレイプされそうになったのに性懲りも無くノコノコあんな化け物だらけのヘンなお祭りに迷い込んで乱暴されて殺されそうになって心配だから追いかけてきたのにテロメイドだとか黒いアリスだとかエロテロリストとか散々な言われかたしてホントにテロリストみたいになっちゃうしカティだけでも無事に持って帰れて良かったわよ心配したんだから心配したんだから心配したんだから」


 カティの鼻の穴の中を激撮するという、乙女へやるにはあまりに無残な残虐行為をしつつ、雨音は平坦な声で一息に言いきった。

 カティのやんちゃが過ぎると入る、雨音の処刑執行モード。保護者と言われる所以(ゆえん)である。

 しかも、今日のお仕置きは一際効く。

 いつもの呆れ顔ならまだ良いが、半泣きの雨音にしばかれているという初体験に、カティにはどうしていいか分からない。


「あ、ああアマネさん?」

「う゛~~~~~……!! こんなバカな事で死んだらどうすんのよあんた!! 泣くのはあたし一人じゃ済まないんだからね!!」

「うわあぁぁあぁん申し訳ないデース!!」


 雨音の心が、カティには物凄く痛い。ついでにスマホを押し付けられている鼻も痛かった。



 2時間コースで部屋を取ったが、その後雨音とカティは何か歌うワケでもなく、既に3杯目のドリンクお代わり。

 散々泣きじゃくった乙女二人、とても呑気に歌う気になどなれる筈も無く。

 と、雨音は思っていたのだが。


「………」

「……カティ?」


 スックと、ソファから立つカティは、(おもむろ)にマイクを取り上げスイッチを入れる。

 指先でトントンとマイクが音を拾っているのを確認すると、大きく胸を逸らし、


「お雪サァァアアアアアアアアアアン!!」

「はい、勝左衛門様」


 叫んだと思ったら、初めからそこにいたかのように、扉を空けて部屋に入ってくる女性。

 流石に、カティの奇行含め驚かされる雨音だが、その着物を着崩したエロい女性には見覚えがあった。

 視界の端々で見かけた女性が、カティのマスコット・アシスタントだと思い至るのは難しくない。

 それにしても、うちの(ジャック)といいカティのといい、どうしてこんな事に、と雨音は思わなくもなかった。

 そんな雨音の思いをよそに、カティはマスコットアシスタントの着物美人から魔法の杖を受け取る。

 カティの魔法の杖、と言う名の三尺三寸に及ぶ打刀。


「斬り捨てゴメーン!!!」


 雨音が止める暇もない。

 カティが大刀を鞘から抜き放つと、一瞬の閃光の後、そこに立っていたのは長身黒髪の改造巫女服の女。

 魔法少女なんだか巫女侍なんだか分からない、秋山勝左衛門あきやましょうざえもんと言う名の、カティの変身後の姿だった。


「歌うデスよアマネ!」

「はぁ!!? てかあんたいきなり何よ!? 何の為に変身解いてこんな所に来たと思って――――――――――――」

「だからアマネも変身するデス!! 変身したアマネ、クールでカワイかったデース! もっぺん見たいデース!!」

「あんた散々あたしをテロメイドだ黒アリスだと……」

「この前誘ってくれた分も歌うデース!」


 何故かヤケッパチなカティの勢いに、出遅れた雨音は抗し切れず、仕舞にはジャックを呼んで変身するハメになっていた。


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