0034:正直擬装能力が有難かった
街には警官が溢れていた。
それも仕方のない事。ごく短い間に室盛市では、中小企業の集まる地区に、ホビーイベントの行われていた市の産業振興会館、この二か所で前代未聞の銃の大乱射事件が発生していたのだから。
それも、産業振興会館の方は、軍用ヘリを用いて上空から無差別に一般市民へ発砲するという、日本始まって以来の凶悪極まりない大事件。警察はもちろん、公安や自衛隊、米軍までもが捜査の為に動いている。
そして、犯行グループは未だに追及の手から逃れ続けていた。
◇
その、室盛市産業振興会館無差別乱射事件があった日の、夜の事である。
時刻は深夜25時。
普段は静かな高級住宅街だが、この日は暗闇の空を引っ切り無しにヘリコプターが飛び回っていた。
おまけに、地上からは見えなかったが、最寄りの自衛隊基地からは戦闘機までがこの空域に出撃して来ていた。
高級住宅街の中にあって、最も広大な敷地面積を持つ豪邸。古米国総領事の私邸――――――公邸が別にあるので別邸――――――だ。
その裏口に、コソコソと近づく怪しい二つの人影があった。
小さい方の人影が扉にとり付くと、何やら自分の衣服を弄りだす。
「あ、アレ? 確かサイフに付けてた筈デスが……ないデス」
「ホントに? たしか前にカギ無くしたとか言ってうちに来た時は、結局カバンの中ポケットに入ってたじゃん……!」
「あー、うー……アレはー……」
実はその時も無くしたワケではなかったのだが、そんな事を今更言えず、また言うべき状況でもない。
「アッ!? あったデス!!」
「よしッ! 早く早く、早く入ろ!」
鍵はサイフの内側に入り込んでおり、少し探せばすぐに見つかった。
裏の勝手口が開くと、大きな人影が小さい方を抱えるようにしてその中に滑り込む。
直後に、大きな方は頭だけ出し周囲を窺うと、誰も見ていないのを確認して頭を引っ込め扉を閉めた。
警察のヘリが豪邸周辺をサーチライトで照らし出すが、そこには既に何者の影もありはしなかった。
更に、時間はテロ直後にまで遡る。首謀者は「テロじゃねぇ」と力強く否定するだろうが。
それはさて置き。
誰一人殺す事なく、産業振興会館で破壊の暴風を巻き起こした軍用ヘリのブラックホークは、超ミニスカエプロンドレス姿の金髪女の哄笑を残し、その場から飛び去って行った。
しかし、ブラックホークはそれほど長い距離を飛ばず、墜落するかのような勢いで近くの寺社がある保全林のど真ん中に着地。
警察が通報をもとに寺社の敷地を包囲するも、どれほど探してもヘリは影も形も存在しなかった。
「あ! ちょっとすいません君たち、学生さん!?」
「えー……あ、はい……」
「なんデスかー?」
「そちらは外国の方? 留学生とか?」
「えーと……」
「去年日本に越してきマシたー」
「そうですか。あのですね、聞きたいんだけどこの辺にヘリが飛んで来なかった? 多分この辺りに着陸したと思うんだけど」
「え、えー? こ、この辺に降りたのアレ?」
「飛んでたのは知ってマスけど、ここに降りたのなんて全然知らないデース。森の中に降りたのなら木が倒れたりゥ――――――――――――!?」
「き、興味も無かったんでどこ行ったとかはあたし達知らないです」
「あー、そうですか。すいませんありがとうございました」
警官によって周辺で聞き込みも行われたが成果は無く、若干挙動が不審な女子高生の二人組も、事件に関係があるとはまるで思われなかった。
警察が追うのは、目撃情報にあった「金髪に丈の短いスカートとエプロン姿の女性」と「黒髪に和服のような物を来た女性」だ。女子高生ではない。
なので、雨音とカティもあっさり警察の非常線を抜け、適当なカラオケボックスへと退避するのに成功した。
「フー………」
「…………」
とりあえずノーマルサロンを2時間コースで。
まるで数日ぶりに腰を下ろしたかのように、雨音は合成皮のひび割れたソファに沈み込む。
カティはと言えば、入口の扉の前で立ったまま、そんな雨音をマジマジと見つめていた。
「……アマネ、デスね……」
「……そうね……ゴメンね黒アリスのテロメイドで。なんだっけ? 秋山門左衛門さんだっけ?」
「ふ……!? フォオ……間違い無くアマネの切れ味デース……」
窮地を脱した筈のカティではあったが、何故かここに来て、等身大フィギュアに囲まれた時より追い詰められていた。




