0033:ブラックホークからダウン
「で、この前からアンタなんネ? カティに何か用デス? それだけの銃どこから持ち出してるデス?」
「ッ~~~~~……え? なに??」
スカートを直しつつ痛打した部分を抑え、疲れきった様子でカティに向き直る雨音さん。双眸には若干の恨みつらみが籠っていたりする。
「あんたね……」
一体誰の為にこんな思いをしていると。
お節介と言われてしまえば、それまでではあるが。
「……カティ」
「む? そういえば……そもそもどうしてカティの名前知ってマス?」
「いやだから……それは自分で言ってるじゃないのよ。何度天丼させるのよ?」
「カティは牛丼の方が大好きデース!」
「いやどうでも良い……」
「……?」
と、それまであからさまに不審者を見る目を向けていたカティが、雨音の科白に何か引っ掛かりをおぼえる。
だが、次の雨音の科白では更に目を剥く事に。
「それよりあんた、『ニルヴァーナ・イントレランス』を知っているわね?」
「な――――――――――なしてその事を……!!?」
正直、カティはその名称を忘れかけていた。特別な能力の方に夢中で、その背景を気にしたりはしなかったのだ。まさに猪武者。
しかし、それが黒アリスでテロメイドで自分を散々な目にあわせてくれた相手の口から出たとあっては捨て置けない。
「き、貴様はホントに何者ネ!? まさか、カティの力を狙ってきた刺客か何かデスか!?」
「どうしてそこでそういう結論になってしまうのか。同じような境遇の実は自分の知っている誰か、とかいい加減考えても良さそうなものだけどね」
「ぅ……な、なして……なんか……?」
半眼で呆れた様子の雨音の言い様に、カティはまたしても眉を八の字に寄せていた。
何故だろうか、さっきからこの黒アリスと話していると、よく知る知人や友人と話をしている気分にさせられるのは。
だが、どれだけ記憶を掘り起こしても、カティの知り合いに重火器を振り回す潜在的テロリストなどいない。
相手の見てくれから古米にいた頃の交友関係も思い返してみたが、こっそり友達が少なかったのを思い出して、少しへこんだ。
戸惑いと思い出した黒歴史に、しどろもどろで意気消沈する巫女侍。
その様子に、ようやくまともに話が出来そうだ、と雨音が溜息をつく。
しかし、との時。
「きゃぁぁあぁあぁァアア!!!」
「うわッ……なんだぁ!!?」
「………!?」
「ッ!? 何デス!!?」
未だごった返す大会場出口の4方向から、ほぼ同時に悲鳴と叫び声が上がった。
見れば、人混みの中で妙な動きが起こっているようだ。
雨音は目を凝らし、その異様な光景が何なのかを見極めようとするが。
「なんデス!? またあのマネキン人形が――――――――――ワッツ!!?」
それは、異様な光景だった。
アニメ顔で奇抜な格好をした等身大フィギュアが勝手に動きまわれば、それだけで十分異様だとは言えた。
それでも先ほどまでは、まだ人型である事に則った動きをしていた。混乱する人々に紛れ込めるほどの、注視さえされなければ等身大フィギュアだとはバレないほどの自然な動きを見せていたのに、
「クッ! 本性を現したネ妖怪メ!!」
まさにカティの悪態が、事の正鵠を得ていた。
「な、なに!? 壊れたの!!?」
膝関節を逆に曲げて四つん這いで走ってくる物。ブリッジで悪霊でも乗り移ったかのような動きで駆け回る物。軟体動物のように誰かに絡み付く物。腕で走り、脚で誰かを殴りとばす物。
あらゆる意味で、無茶苦茶な動きを始める大量の等身大フィギュア達。それが、雨音とカティではなく手近な一般人までを襲い始めていた。
「シット! 見境無しデース!!」
「ヤバい外に……!?」
怪物と化したアニメ顔のフィギュア達は、逃げ出す人々を追って多くが会場から出て行く。まるで獲物を追う獣だ。
これが街に散らばったらどうなるか。雨音としても、自分には関係ないとは言えなかった。
「行くわよカティ!!」
「え!? あ、あの……アリスさんはどうするつもりなんデス?」
何となくミニスカエプロンドレスのトリガーハッピーの正体に気付き始めたカティ。
恐る恐るといった様子で言葉を選んでいるが、それに突っ込みを入れている様な暇は無い。
「お願い! ガンスミス・アーセナル!!」
雨音は一瞬だけ考えた後、ガンスミス・リボルバーを会場出口から外へ向けて照準。
精密射撃能力が正確な弾道を雨音に教え、人々の間を縫って魔法の弾丸を発射する。
後から、横着せずに会場の外に出てから撃てば良かった、と調子に乗った自分を少し反省したが。
とにかく、爆音とともに弾丸は放たれた。
針の穴を通す精度で、弾丸は予定の軌道を通る。が、ここで何とも運の悪い事に、人々の流れから逆行してきた警官の顔面を直撃してしまう。
精密狙撃能力も絶対ではなかった。
「ぎゃあ!? しまった!!」
「け、警官をやっちまったデスか!?」
「だ、大丈夫よあたしの弾丸じゃヒトは死なないから!!」
しかしダメージは、実際に撃たれるのとそんなに変わらない。
一昨日の晩を思い出し、見た目に合わない幼い表情で泣きそうになるカティを勢いで無視し、雨音は出口へとダッシュ。
「那珂多さん!? 那珂多――――――――――うぉあ!? え? 履いてない!!?」
白目を剥いて倒れている壮年の警官と、それに縋りついて必死に声をかける若い警官の上を飛び越え、
「き、記憶を失えショット!!」
「は――――――――ガハァ!!?」
見てはならないモノを見た若い警官を撃ち殺し――――――てはいないが――――――、雨音は最初の弾丸――――――那珂多巡査部長の頭を撃ち抜いた――――――で作り出した乗り物へとカティ諸共に飛び込む。
「飛んで!!」
「わかった!」
「こ、こんなものどうしたのデスかー!?」
その操縦席には、既に黒スーツにサングラスの巨漢、ジャックが乗り込んでいた。
ジャックは乗り物の補助動力装置を起動させ、ローターを回転させる。そして、ある程度の回転を得られた所で双発エンジンをスタート。
エンジン内で燃料の連鎖爆発する音が、徐々に早く、大きくなっていく。
4枚翅のローターが機体周囲の空気をかき回し、
「ア、アマネッ!! 右、来るデス!!」
「シッ!!」
カティの警告に、雨音は反射的にS&W M500を発砲。
機体に向かい突っ込んで来ていた、頭の無い等身大フィギュアの胸に大穴を空けて吹き飛ばした。
「ジャック、まだなの!!?」
「飛ぶよアマネちゃん!!」
雨音とカティが乗り、そしてジャックの操縦する機体がフワリと地面を離れた。
機体はゆっくりと上昇を続け、15メートルほどの高度を取ってホバリングする。
雨音が作り出した機体の名はUH-60「ブラックホーク」。米軍を初めとして広く採用されている、軍用輸送ヘリコプターだった。
そして、雨音が作り出せるのは飽くまでも『銃』だ。軍用ヘリコプターも、ドアガンとしてヘリ側面に付いているM134機関銃「ミニガン」のおまけに過ぎない。
「ジャック! 右90度! 回して!!」
「わかった!」
操縦席のジャックが足元にあるラダーペダルの右側を踏み込むと、機体は雨音の指示通りに右側面を会場側へ向ける。
雨音の前には、室盛市産業会館の広大な建物と、その正面広場に逃げてきた多数の一般人、そして、一般人を追いかけてきた大量の等身大フィギュアが。
雨音は既に、ドアガンの前に着いていた。
一般人も警官達も、等身大フィギュアまでがヘリと雨音を見上げる。
逆に、全てを見下ろす雨音は、一切の感情の無い貌のままミニガンのトリガースイッチを押し込んだ。
もはや、誰一人逃げる事など出来なかった。一般人もフィギュアも、例外なくその場に釘付けにされる。
途切れる事無き炸薬音と、文字通りの弾丸の雨。これほどの圧倒的な破壊力を前にしては、誰もが足を竦ませ、その場で頭を抱える事しか出来はしない。
無論、雨音は人間は避けた。一方で人間以外は全て薙ぎ払う。
「あ……! あそこ!」
「………?」
その中に、飛び出さんばかりに目を剥いている男二人がいた。そもそもの混乱の原因を作り出した、ひょろ長男「やづ」と小デブの「ケンヂ」だ。
彼らもまた、暴走フィギュアのもたらす混乱が移動すると共に、会場の外に出て来ていたのだが。
雨音は躊躇なく、容赦なく、足元で棒立ちになっていた元凶二人を魔法の弾丸でタコ殴りにした。それも念入りな集中砲火。
後に残ったのは、いっそ死んだ方がマシと言う感じでボロボロになったやづとケンヂの姿だった。
「あはは…………」
可笑しかった。まるで巨人になって踏みつけているかのような錯覚。
「……あ、あの、アマネ、さん?」
「ああ……アマネちゃん、また――――――――――」
「はは……あははは…………あははははははははははははははははははは!!」
悠々と宙を舞う鋼の固まり、ブラックホーク。
そのドアガンから無数に放たれる爆音と無限の弾丸。
そして、全てを圧殺するかのような魔法少女の哄笑。
機内にてガタガタと震えるカティとジャック。
完全にトリガーハッピーモードへスイッチの入った雨音を止める者も無く、等身大フィギュアどころか全てを破壊せんばかりのその姿が、後日のニュースで放送される羽目になった。




