0031:放送打ち切り
職場では能力のある人間に媚びへつらい、立場の弱い物には横柄でヤクザな態度をとる。
専門技術職である為、業務態度に問題があっても、管理職である上司も強く言えない。
中堅企業のニッチな部門でお山の大将を気取る、それが「ケンヂ」と言う男だ。
しかし、横柄な態度は小胆さの裏返しであり、自分より強面だったり暴力に秀でてそうな相手には、決して表立った態度を示さず、出来る事と言えば、陰口を叩いて相手の見えない所から上目使いに睨むのみ。率直に言って根性が腐っていた。
とにかく、口ばかりで実際に暴力的な行動を取れる様な度胸は無い小男だった。
つい先ほどまでは。
「オラ死ねオラ死ねよ!!」
「――――――――――――ッ!?」
大刀と爪を噛み合わせて、カティが白赤青と3色のロボットフィギュアと正面から組み合っていた。その背後に、ハサミやカッターといった危険物が飛んで来る。
当たった所で、変身後のカティが怪我を負うような事は無いが、全く意識しないのも不可能だ。
そして、カティの気が逸れる一瞬で、トリココールのロボットフィギュアが攻め込んでくる。
狙ってやっているワケではない、ただあらん限りの暴力を叩き付けるケンヂの性格そのままの攻撃だが、忌々しい事に有効な攻め手だった。
「しょーし(笑止)! 纏めてブッ倒せば手間もはぶけるネ!!」
「はぁ!? マジウザいわブッ飛ばしていい? てかブッ飛ばすわ!」
飽くまでも反抗的なカティへ、癇癪を起した子供のように、目に付く物を片っ端から投げ付ける小デブ。
それに対し、カティは大刀とロボットフィギュアの爪を絡ませたまま、
「オモチャは――――――――――!!」
足を踏ん張り、
「―――――――おうちで――――――!!」
引っこ抜くかの如く豪快に相手を振り回し、
「――――――遊ぶがイイデース!!」
真後ろのケンヂへ向かって叩き返した。
ケンヂには、自分の操るロボットフィギュアを通した視界を得る事が出来る。その視界に、鏡でよく見る誰かの姿が大写しとなり、
「は――――――――アガッッ!!?」
正面から、自分自身と激突するハメとなった。
先ほど跳ね飛ばした少女の、因果応報である。
「壊れちゃったロボット、返すデスよ!!」
「ガッ……!? こ、この……クソバカがぁ!!!」
ケンヂは倒れたまま、歯を軋らせ何度も拳で床を叩く。ハラワタが煮えくりかえり、頭の血管がキレんばかり。
もはやこの女を一方的に殴り付けてやらなければ収まらない。
「んぎぃぃいぃいぃいぃ!! ガンドライトニング! 超ハイパーモード!!!」
「――――――ワッツ!?」
ケンヂが叫ぶと、白赤青と3色のロボットが雄々しく立ち上がった。
ガンドライトニングがリミッターを解放し、機体に負荷をかける代わりに性能を10倍以上に高める『超ハイパーモード』。
内蔵されるジェネレーターが発する膨大な熱を逃がす為、胸部や腕部の装甲が展開され、その隙間から赤外線が赤く漏れていた。
只ならぬロボットフィギュアの様子に、カティが目を見張る。
「ちょーぜつ! ガンドライトニング!!」
とは言え実際のところ、ただのオモチャであるロボットフィギュアにそんな大層な機能は無いのだが、ノリと思い込みというのは恐ろしいもの。
事実、能力の全てを注がれたガンドライトニングの力は上がっていた。
「スパイラルライトニングナッコォオォォオ!!!」
ロボットフィギュアが全身のLEDをピカピカ光らせ、片足を軸に回転を始める。
「何デス!?」
回転は速度を上げ、ロボットフィギュアは徐々にカティの方へと迫る。
馬鹿げた攻撃方法だが、カティには斬り込む隙が見つけられず、後退を余儀なくされ。
丁度その時、カティの後方で一際大きな爆音が鳴り響いた。
「ッ――――――――――――!?」
「……あ?」
思わず振り返ってしまい、カティは致命的過ぎる隙を作っていたが、そちらへ目が行ってしまったのはケンヂも同じだった。
人混みの中から、会場の真上に向かって高速で何かが伸びて行く。
先端が鋭く尖っている何かは、床から20メートルの高さがある天井へ突き刺さると、真下へ金属製のワイヤーが垂れているのが見える。
ワイヤーの先端には、基部であるランチャーと巻き上げ用のウィンチが付いていた。
天井に先端部分が刺さると同時に、ウィンチは巻き上げを開始。
ウィンチ付きランチャー自体を、それにつかまる雨音ごと天井へと押し上げる。
(こんな物まで作れるとはね……)
工兵が渡河や障害物の踏破に用いるワイヤーランチャー。
サイズは雨音の身長の半分ほどもあり、ストック部分に足がかけられるようになっている。
銃と同じで、火薬の燃焼ガスで先端部分を100メートル以上も飛ばす仕組みだ。
雨音の思い付き、その一。これが銃のカテゴリーであるのが、やや釈然としない。
しかし、性能としては申し分なく、雨音を会場を見渡せる狙撃位置まで連れて来てくれた。
(カティは……)「……いた!!」
狙い通り、雨音はカティの姿と、そのカティに迫る派手な色のロボットフィギュアを確認。
「フッ!」
雨音は片足をストックに引っかけて手を放す。ひっくり返る雨音の視界。
ワイヤーにぶら下がった雨音は、逆さまになったまま初期装備であるS&W M500の照準を目標に重ね、4発全弾を発射。
狙いは正確、威力も凄まじく、何かスゴイ技を出そうとしていたらしいロボットフィギュアを、50口径弾が今度こそバラバラに粉砕した。
「あ゛……あ゛ぁぁぁぁぁああああああああああぁああぁあぁぁあああああああああああああぁぁぁあぁああああああああああああ!!!」
そして当然、ケンヂの発狂ぶりは並大抵ではなかった。頭を掻き毟り、足も砕けよというほど地団駄を踏み、言葉にならない叫びで辺り構わず吼えたてる。
かと思えば、唐突に走り出した。
「……あ、逃げるデスか!?」
ケンヂのあまりの異様さに、さしものカティも大分引いている。
その為、いきなり明後日の方向に突っ走るケンヂへのリアクションが、数テンポ遅れてしまった。




