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いまさら魔法少女と言われても  作者: 赤川
Wave-02 ヒロインはもうひとりの方で良かったのでは
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0030:人間CIWS雨音

 雨音は『ニルヴァーナ・イントレランス』に能力(コンポーネント)をコーディネートされる際、万が一の事態を考えて、精密射撃の能力もリクエストしていた。

 魔法少女と化した雨音の狙撃は、比喩表現ではなく「針の穴をも通す」精度を誇る。

 しかし、そんな事を知らない一般人にしてみれば、乱射しているようにしか見えないワケで。


「いやぁぁあぁああ助けてぇぇぇええぇ!!」

「伏せろ!! 頭を上げるなぁ!!!」


 一応、雨音としても気を使って武装を大人しめに(アサルトライフル)に変更していたのだが、間近の銃声に恐怖する人々には一切関係なかった。

 雨音としても大変申し訳なく思うが、


「ええい邪魔ッッ!!」


 いや本当に申し訳なく思っているのだ。

 思いながら、人々の間から飛び出してくる等身大フィギュアへ射撃を加え、その頭をフッ飛ばしていた。


「キャァァアアア人殺しー!!」

「止まるな! 走り抜けろー!!」


 後から見れば死者なんて出ているワケないのだから誤解も解けようが、今は完全に犯罪者以外の何者でもない我が身を(かえり)み、雨音は涙が止まらない。

 どうしてここまで派手な事になってしまったのか。雨音の能力ならどうしたって派手になるだろうが。

 そして、自分をこんな境遇に引き込んでくれたバカ3人はどうしたかと雨音は思い、


(そうか……こんな時は本体を暗殺……)


 そこからの思考の遷移(せんい)が、完全にそっち系の人間になっていた。

 実際に殺したりはしないにせよ、カティを連れて逃げる事ばかりを考えていた雨音だが、騒ぎの元凶を仕留めるという考え自体は悪くないと思える。


(で、どんな奴だったっけ。よく見てなかったけど……って!?)


 よくよく思い出してみると、一昨日の晩も先ほども、雨音はフィギュアを操っている能力者をあまりよく見ていない。

 考え込みそうになった瞬間、気付いて雨音は床を狙って発砲。

 忍び寄っていた15センチ程度の動くフィギュア数体をバラバラにフッ飛ばし、ついでに人々も跳びハネるように逃げて行った。


「ああ……また」


 極悪非道な事を。

 もはやこの恨み、全部叩きつけて晴らさで置くべきか。

 しかし問題は、それらしいのを見つけ出そうにも、それどころではないという事。

 大量の人間が入り乱れ、その隙間からフィギュアが襲いかかってくる。カティも見失ってしまい、自分は完全にテロリストだ。


(一気に攻められる事は無くなったけど、でもカティの居場所だけは確認しておきたいわね。見晴らしのいい所にでも行ければいいけど、この状態じゃ……)


 右も左も「人」「ヒト」「ひと」、時々等身大フィギュア、と。

 正直、雨音自身も自分の位置を見失っていた。周囲の状況を確認したい。


(上の階に行くには人が多過ぎる……)「……ったくこんな事ならついでに空飛ぶ能力でも貰っとけば――――――――!?」


 と考えて、そこで閃いた。


                      ◇


「うー……うー……う? ウギャァァァアアア!!?」

「邪魔ネッッ!!!」


 フィギュア遣いのひょろ長男、「やづ」の背中を、改造巫女服の侍少女が踏み付けて行く。

 その背後を猛追する白赤青と3色(トリコロール)のロボットフィギュア。

 バイクかクルマかと言う勢いの二人(?)だが、運の良い事にまだ誰も()き殺していない。

 と、思ったのだが。


「キャァアア!!?」

「な――――――――――!?」


 カティと違ってトリコロールフィギュアに他人を避けるつもりは無いらしく、カティや雨音と同じ年頃の少女が激しく突き飛ばされていた。


「あーあ! あーあ! お前が逃げるから! お前が逃げるから関係ないヤツが怪我をした! お前が俺のガンドライトニングを壊したからだ! おまえがいけないんだ! お前が悪いんだ!!」

「ユー〇□△△ッチ!!!」


 どこからか聞こえる手前勝手で傲慢な叫びに、カティも怒りを叩き返す。

 しかし、腹立たしい事だが、カティがあまり派手に立ち回ると周囲の人間に被害が出るのも事実。


「だったらこの場で粉々にブッ壊してやるデース!!」

「ふざけんなバカだろおまえ!? イラッする! 死ねッ!」


 カティは足を止めて正面からの殴り合いを選択。美麗な貌が獣のように牙を剥く。

 その態度が(いた)く気に入らないようで、トリコロールロボットは操り主の意思を反映し、ドンドンと足を踏み鳴らした。



 そして、やづとしては、もう付いて行けない気持ちでいっぱいだった。能力を使った窃盗とか、血迷って3次元の女子に手を出すとか考えずに、ただ自分の部屋でマオ姉やテテンちゃんみくるちゃんマオ姉ピナっちハーブたんヲーちゃん以下略と静かに幸せに暮らしていければ良かったのだ。

 いや今からでも遅くは無い筈。ケンヂとの付き合いを考えるのだって、決して遅くは無い筈だ。


「というワケでマオ姉、拙者達はドロンするでちよ! もうこんな事には付き合えないでゴザル!!」


 やづの科白(セリフ)にアニメ顔のマオ姉――――――頭は自力でハメ込んだ――――――は頷くと、マントを羽織った背中をやづに向けて屈んで見せた。


「や、ヤダなぁマオ姉、そんな事してくれなくても、拙者だってそんな子供じゃないでちよ!?」

「…………」


 ところが、何かを訴えかけるように、マオ姉はその姿勢のままやづへ顔を向ける。

 命を与えられた故か、元は単なる等身大フィギュアであるにもかかわらず、どこか強い意志のようなものを発していた。


「わ……分かったでちマオ姉……うぅ、魔王なのにマジで姉。素直に好意に甘えるでゴザルー」


 と、いい歳の男が等身大フィギュアの背におぶさり、やづを背負ったマオ姉がその場で立ち上がる。

 ちょうどその瞬間に、やづは妙な物を目撃する事となった。


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