0025:国民的ロボットアニメ、その名は
親の仇、と言うかお雪さんの仇を取る勢いで、無防備に見える、小太りとひょろ長い男二人へ突撃するカティ。
頭に血が昇っているカティは、一昨日の夜にどんな事があったかを完全に失念していた。
ここ、室盛市産業会館で主催されていたのは、立体物マニアの祭典、『ショー・ガレージ 201X』。
約100メートル四方の大会場に、ジャンルを問わずフィギュア等が所狭しと並べられ、その7割以上が美少女キャラクターの物だ。
それらが二日前の夜と同じに、しかも比べ物にならない規模で、一斉に動き出したとあっては、猪武者の秋山勝左衛門といえども――――――――――――
「斬り捨てッッゴメーン!!」
全くお構いなしに、立ち塞がった等身大フィギュア3体を纏めて叩き斬った。
先の交戦時とは比べ物にならない迫力に、ひょろ長男のやづが漏らしそうになる。美人が怒ると、非常におっかない。
「ヤベェガチだ!!」
「ヒィッ! ヒィイッッ!? け、ケンさんもアレ出してくだち!」
「えー!? いいじゃん、やづっちがやれば………なんかあの女に傷つけられそうだし」
「さっき一緒にやろうって言ったじゃん兄者ぁアアああ!!!」
猪武者から狂戦士へとクラスチェンジした、カティの勢いは獅子奮迅。
「オンどりゃァァアアァアァアア!!!」
「ギャッハァァァアアア!!?」
「うぉぉぉぉぉぉおおおぉぉぉぃ!!?」
床を割る縦一文字の一撃を、左右に別れて危うい所で逃げるケンヂとやづ。
流石にケンヂも、命よりも出し惜しみする物は無いと考え直す。
「もー超ウゼェ…………」
「ぎゃはぁぁあああ!! ケンさん早く早く!!」
今度は、動くフィギュアが何体いても、カティには関係なかった。
二刀流。
前回からの反省か、それとも単なるノリか、お雪さんから同じサイズの大刀をもうひと振り受け取っていたカティは、左右出鱈目に振り回して暴れまわる。
片手でも勝左衛門の腕力は凄まじく、向かって行くフィギュアが片っ端から弾き飛ばされていた。
「仏さまに懺悔は済んだデスか!?」
「い……いぎゃぁぁああぁああ助けてマオ姉ぇぇえぇえええ!!!」
腰を抜かしたひょろ長男の眼前で、二振りの大刀を振り上げるカティ。
しかし、その前に割って入るのは、やづが最も大切にするフィギュアの一体、『マオ姉』だ。
「クッ……キサマあの時の!?」
その特徴的な姿と立ち位置は、カティにも見覚がある。
フィギュアの力や早さは、どの個体もほとんど差が無かったが、このマオ姉だけは大分違った。
カティには及ばなくとも、並の人間とは比較にならない力と速度を持っている。
パイプ椅子でカティの大刀を受け止めたマオ姉は、密着状態からカティに蹴りを入れる。
しかし、能力使用中のカティは頑丈さも並ではない。
「お返しッデース!!」
逆にカティのひざ蹴りが、マオ姉を大きく突き飛ばした。
「今度こそ天チュウゥゥゥウウ!!」
マオ姉を排除したカティが、今度こそお雪さんの見てはならないアレやらコレやらを見てしまった愚者の脳天を割ろうとする。
しかしマオ姉は、まるで行かせないとでも言わんばかりにカティの細腰にしがみ付き、これを阻止しようとした。
「ぅ……うぅ……ぅえ………」
やづはもう、涙が止まらなかった。
自分が心変わりしようとも、マオ姉はどこまでも献身的に自分の身を守ろうとしてくれる。
それがやづの能力による単なるプログラムだとしても、やづはマオ姉との間に『愛』を感じずにはいられなかった。
やっぱりモンスターのようなキモい三次元よりも、可愛らしい理想の二次元。いや、そんな次元を超越して、やづはフィギュアとしてではない、マオ姉個人(?)への愛を生涯貫きと通すと心に誓い、
「ったぁぁあああああ! 打首獄門デース!!!」
マオ姉は、カティの横一文字で首を撥ねられていた。
「ギャアアアアアアアアアアアアアす!! マオ姉ぇええええええええ!!!」
もう何と言うか、やづが驚愕や絶望や怒りや悲しみやらが綯い交ぜになった叫びを上げる。
だが、フィギュアであるマオ姉は、そもそも人間同様に頭に脳が入っているワケでもない。
宙を飛んだ頭部は、マオ姉本人――――――胴体――――――が自らキャッチしていた。
「おのれぇぇええぇええこの露出狂の勘違い三次ビッチがぁぁアアああ!! よくも漏れの嫁をキズ物にぃぃぃぃぃいいぃぃぃ!!!」
「こっちのセリフでーす!! お雪サンを辱めた償いはこんなもんじゃ済まさんデスよ!!」
「勝左衛門様、ですからわたくしは見られただけで何もされては………」
マオ姉の死――――――んではいないし生きてもいない――――――に、気押されていたやづが一転して猛り狂う。
しかし、怒り心頭なのはカティも相変わらずだ。
更にそこに、
「よし! 出ろぉ、ガンドラァ!!!」
サークルスペース(跡地)で何かを組み立てていたケンヂが、芝居がかった口調で叫ぶ。
小太りのロボットフィギュアおたくの前には、持ち主の背丈を超える威容の存在があった。




