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いまさら魔法少女と言われても  作者: 赤川
Wave-02 ヒロインはもうひとりの方で良かったのでは
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0024:実際人間の所有欲と言うのもどうしようもない

 打算に満ちた友情に終わりが見えてきた。

 小デブのケンヂは完全にお雪さんを『俺の女』扱い。ひょろ長男『やづ』は、そんなの我慢できない。

 確かに、ケンヂの言葉は事実の一面を突いていた。『やづっちはフィギュアの方がいいんでしょ?』、三次元の、生身の女よりも。

 『やづ』はわざわざここまで連れてきた、最高の恋人(・・・・・)に目を向ける。

『マオ姉』。

 アニメ化、コミカライズもされているライトノベル、『恐怖の大王が俺の姉とは一体どういう了見だ』のヒロイン。その等身大フィギュアだ。

 左右に角付きのヘルムをかぶり、マントを身に着け、刺々しい手甲(ガントレット)を装着している。だがその中には、露出の多いピッタリと張り付いた服を着た、グラマラスな身体の、美人で優しそうなアニメ顔の少女が入っていた。

 時代に日和らないキャラクターデザイン、架空の存在を真に現実以上のものとする神造形師、アタリどころの製造メーカーと完璧(パーフェクト)な可動設計。

 まさに等身大可動フィギュアの史上最高傑作。現実の、三次元の女など遥かに超越した存在、な筈だったが。


「…………なんか……色が……ちょっと……」


 何故か、今日に限ってマオ姉の肌の色がおかしく見える。

 いや、実際には『やづ』も分かっているのだ。

 マオ姉は完璧だ。間違いなく美少女フィギュアの最高傑作だ。贔屓目ではない、マニアとしての矜持にかけて、そう断言できる。

 そして、所詮作り物(フィギュア)でしかなかった。

 やづは無意識に、その事実に気が付かないようにしている。

 一方のケンヂは、そんな事は初めから分かっていた。二人のフィギュアに対する考え(マインド)は根本的に異なる。

 ケンヂにはフィギュアに払うべき敬意が無く、現実の女にも興味を持ち、やづが吐き気を催すAVを嗜好し、人形も人間も女は物扱い。

 女性(アニマ)へではなく、物への所有欲(コレクション)としての執着であり、貪欲で独占欲が強い。そして、飽きも早い。

 やづは思う。渡したくない。何と言うか、渡したくない。

 かと言って、気分屋で態度がでかくて威圧的な小デブと、明確な対決姿勢を打ちだす勇気も持てず。

 どうして良いかも思い付かないまま、その視線を懸想(けそう)懊悩(おうのう)の元へと向けると。


「………?」(おや、あのロリッ娘は――――――――――――)


 次の瞬間には、謎の暴風に座っていたパイプ椅子ごと吹き飛ばされていた。


                        ◇


 この時、会場敷地内には約2,500人、メイン会場となる大会場は1000人近い来場者とサークル参加者らでごった返していた。

 そのど真ん中で起こった、爆発らしき何か。

 世界のどこかで毎日テロが起こっている昨今、ついに先日も、この日本で銃の乱射騒ぎがあったばかり。

 会場内は、ハチの巣を突いた騒ぎとなっていた。

 誰かと間違えてフィギュアの手を取り逃げだす者。逆に、間違えて人間を持って逃げだそうとする者。順番待ちの列が崩れ、混乱した人々は右往左往し、身近にあった出口に殺到する。


「ゥオラァアァア! お雪サンで素敵なひと時を過ごした〇〇野郎はどこデスか!! それをこの世の名残にカタナのサビにしてくれるデース!!!」


 その中に在って、悪鬼羅刹の如き形相で刀を振り回している、それこそフィギュアかコスプレかと言う格好の女。

 やづが、見間違えるワケもなかった。


「ヒィィイ!!? あ、あの三次女!! 一昨日倉庫で拙者の邪魔をした通り魔オンナの片割れでち!!」

「はぁ!? それじゃ、あの女の元の持ち主か!!? まさか取り返しに来たんじゃねーだろうな!!」


 そんな事は断じて許せない。

 お雪さんが元々誰の物であろうと、既にケンヂの中では自分だけ(・・)の所有物だ。返してやる意思など毛頭ない。

 また、今のケンヂとやづには、その意思を押し通すだけの力もあった。


「あ、勝左衛門様、あちらに………」

見敵必殺サーチアンドデストロイデース!!」

「ほら、やづっちやづっち! 協力してやるぞ!!」

「う……うぅ~~~兄者ぁ!」


 お雪さんが言うが早いか、刀を振り上げた巫女侍が突っ込んでくる。

 同時に、ケンヂとやづの周囲に無数に転がるフィギュアやガレージキットが、不気味な振動を始めていた。


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