0023:羞恥心が未実装だった
カティは特に深くも考えず、天からの贈り物だと、特別な能力を手にして無邪気に喜んでいた。
夢に見たのは、古の日本にいた侍の如き力。権力だろうが数の暴力だろうが陰謀だろうが一刀両断に薙ぎ払える。そんな力だった。
いかんせん、古米にいた頃のアメコミなど、元となったカティの知識が著しく偏っていた為、擬態偽装の姿や刀の形状――――――打刀で三尺三寸は長過ぎる――――――で、こんなの侍じゃねぇ、と言われそうな有様となっていたが、本人は概ね満足していた。
嬉しい誤算となったのは、ガイダンスプログラムから変じたマスコット・アシスタントの存在だ。
その姿は、カティが憧れて止まなかった大和撫子。親友に似た部分があるのも、カティ的には高ポイントだった。
やはり偏った知識のせいで、こちらもエロいお姉さんと化していたが。
だがそんな事も、カティにとっては重要ではない。
呼べば現れ話し相手になってくれる、カティ理想の大和撫子。いつも一人で家にいるカティにとっては、新しい家族が出来たに等しかった。
こう言っては、マスコット・アシスタントであるお雪さんは眉を顰めてしまうかもしれないが、カティには魔法少女としての能力より、大切な存在になっていたかもしれない。
そのお雪さんがいなくなった。
等身大フィギュアを生き物の如く操るひょろ長男と戦闘の末、強引にトリガーハッピーテロメイドに拉致されそうになり、その拍子にお雪さんと逸れてしまったのだ。
呼べども何故か現れず、現場に行ってみようとしても、テロメイドが無茶苦茶やったせいで警察に押さえられて入れない。
彷徨い歩いて見つけられず、肩を落として家に帰って一晩経ち、そこでようやく正体不明の感覚に気が付く。
本当に微かに感じる、お雪さんの気配。
矢も楯もなく普段着で外に飛び出し、感覚を研ぎ澄ませて気配の方向に歩いて行く度、お雪さんの気配は強くなっていった。
そうして辿り着いたのが、カティには馴染みの無いガレージキットとフィギュアの祭典。そういったイベントがあるという事だけは知っていたが、重要なのはそこではない。
フィギュアと言えば、一昨日の晩のアレ。何かしら関連があるのかと思い、確信をもって会場内に突撃し、
「な……なしてお雪サンが店員さんやってマスか?」
どういうワケか、この異空間の中でも埋もれない個性を発揮しまくっている、売り子をしているお雪さんを発見した。
問題は、その後である。
◇
「ぶ、無事なら無事と連絡欲しかったデスよ! 一体今までナニしてましたか!?」
「はぁ……申し訳ございません勝左衛門様、他の能力者の方の管理下に入ると戻れなくなるようでして、わたくしも初めて知りましたわ」
頬に手を当て、他人事のように「困りました」とため息をつく着物美人。
おっとりとしたこのキャラは元からのものであって、カティが特にリクエストしたものではない。
自分の心配とは裏腹に、まるで危機感の無いお雪さんにカティも脱力する思いだったが、何より、無事だったのが嬉しかった。
と、この時は思った。
「とにかく、お雪さんが無事でよかったデース……。で、さっきも聞きましたが、こげな所で何してますカ? と言うか今までどこに……?」
「はい、一昨日の夜に知り合いました、ユーザーの方のおうちに留め置かれる事となりまして――――――――――」
そしてお雪さんから語られる、一昨日の戦闘の、その後の経緯。
ひょろ長男の生き人形に捕まったお雪さんは、そのままひょろ長男の家に連れて行かれた。
そこで、何をするでもされるでもなく一日が過ぎ、今日になってこの場所に連れて来られると、ひょろ長男の知り合いらしき男性の要請により、売り子のマネなどさせられていた、と。
「ら、乱暴な事なんてされなかったデスか!? ま、まさか――――――――――――!!?」
野郎の家に、こんな美女が囚われる。
その後に何が起こるかと、最悪の想像に到りカティの顔面が真っ青に染まる。
しかし、お雪さんはといえば、何ら悲壮感無く首を傾げて笑みを見せ、カティの危惧を払拭した。
「いえいえ、特に危害を加えられたりなどはありませんでしたわ。それに、仮に攻撃されたとしても、わたくしの実体は勝左衛門様の一部である支援プログラムに過ぎませんので」
今ある身体を傷つけられても、カティによってリロードされれば元に戻ってしまうらしい。なので、何をされても大した問題ではない。
お雪さんはそう言うが、カティは同じ女性として心配しないワケには行かないのだ。
「……ホントに? ホントに何もされなかったデスか?」
「ええ、ご心配おかけして申し訳ございませんでした、勝左衛門様」
「そうデスかー……」
花のような笑みで言われてしまうと、それ以上カティも言葉を選べない。
とにかく、ホッとしていた。
「もー、全くホントに心配したデース! でもお雪サンに何もないならもう良いデス。さっさと帰りまショウ」
「あ……でも、それでしたら一言御挨拶してから………」
「そんなのいらないデース! そもそもカティのお雪サンを勝手に連れていくなんて、本来なら警察沙汰にしたいところデス! これでお雪サンになにか乱暴狼藉を働いていようものナラ……」
気の強い小型犬の面相で、牙を剥き出し唸るカティ。
主の心遣いにうっすらと微笑むお雪さんは、楽しそうに口元を押さえ。
「本当に何もされませんでしたから。ただ、あの方たちもマスコット・アシスタントに興味を持たれた様子でしたので。この身体の全体をご覧になったくらいでしたわ」
「……………………ハイ?」
もう帰ろうと、お雪さんの手を取っていたカティの表情筋が凍りついていた。
今のお雪さんの言葉を、カティが頭の中で吟味する。
カティの思考の中で、最悪の結果とそれを否定する、否定したい意見が二色となってせめぎ合い。
「み、見られた……て、それは、どんな、デス?」
「ええ、見る以上の事はあの方々も致しませんでしたけど。でも本当に、とても興味がお有りだったご様子で」
「え? つ、つまり、その……着物の下、とか――――――――――――――」
「はい、着物を脱いで見せて欲しいと仰いましたので。勝左衛門様のアーカイブを元に、ごく普通の人間の女性を再現しただけなのですが」
「つ、つまり、全部……………」
「それはもう、上から下まで、隅から隅まで、奥の奥まで、残らず全て、あらゆる角度で」
カティは失神しそうになっていた。
この大和撫子が、着物から肩やら胸やら色気やらが溢れ出してしょうがない美人さんが、カティの大事なお雪さんが、マネキン人形使いの男に拉致された挙句、その視線で汚される。
「勝左衛門様、どうされました?」
お雪さんのおっとりたした声が遠い。
カティの頭の中は真っ白に染まっていたが、やがれそれが徐々に色を帯び、やがては血のように赤く、マグマの如く灼熱に滾り始め。
噴火まで至るのに、ほとんど時間は必要なかった。




