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いまさら魔法少女と言われても  作者: 赤川
Wave-02 ヒロインはもうひとりの方で良かったのでは
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0021:個人制作の少量生産は超高価

 ザックリと言ってしまうと、理想の女性(アニマ)というのは現実の女性を知らない、男性の幻想の中にしか存在しない、理想像である。

 要約すると、アニミズムとはこの世のあらゆるものに霊魂、精霊が存在するという考え方である。最古の信仰の形であると同時に、幼少期に無生物であるオモチャ等に、命や意思があるように考えるのもアニミズムの一形態であると考えられる。

 補足すると、アニマは理想の女性像を指し示すと同時にアニミズムのアニマ、つまり生命を指し示す言葉でもあり、女性が生命的、あるいは生命を生み出す者として最も根源的な意味を持つ存在であった事を(うかが)い知る事が出来る。

 ならばフィギュア、特に等身大美少女フィギュアという存在、ないし文化は、無生物であるフィギュアに人間同様の霊魂の存在を見出し、理想の女性像の投影として結実した、現代のアニミズムの集大成と言えるのではないだろうか。

 ならば多くの人間がそこに信仰にも似た執着を持つのも道理で、同好の士が集うここ室盛市産業振興会館イベント会場は一大宗教の巡礼地にも等しく、多くの偶像が祀られ、偶像と同じ装いをする巫女が衆目を集めるのもまた自明の理であった。

 変身した雨音がコスプレイヤーと間違われて注目されまくるのも、また自明なのだ。

 自業自得とも言う。


                         ◇


 同じ金髪で目立つにせよ、カティの淡い色遣いのジャケットにロングワンピースといった装いは、ごく一般的なお嬢さんのそれである。とはいえカティも素が美少女な為に、確実に目を引いていはいたが。

 しかしカティは、自分に向けられる視線など一切気にせず、ひたすら会場内を突き進む。先日とは違い、その足取りに迷いは無い。

 雨音の見立て通り、カティは探しもの(・・)をしていた。

 とても、大切なもの(・・)だ。

 手に入れてから僅かな時間しか経っていないが、もはや手放す事など考えられない。

 外見の明るさや華やかさに反して薄暗い内面を抱えているカティには、三番か四番目くらいに大切なものだ。



 雨音は知らない事だが、ジャックなどのマスコット・アシスタントは魔法少女系コンポーネントに付属する機能の為、基本的にコンポーネントのユーザーと一心同体になっている。その為に、離れていてもマスコット・アシスタントの大まかな居場所が分かる。

 しかし、カティもその事に完全に気が付いているワケではない。

 そもそも、ユーザーが必要としない限りは、マスコット・アシスタントは上位領域で待機状態(スタンバイ)となる。実体化した後、サポートすべきユーザーと離れ離れになるのは、本来はあり得ない(・・・・・)事態だ。

 離れているマスコット・アシスタントの大体の位置が分かる、言い変えて、大体の位置しか(・・)分からないというのは、想定された仕様に無いイレギュラーな能力だからだ。

 そして、ユーザーが必要としなければ上位領域に戻ってしまうマスコット・アシスタントが、他のアドバンスド・コンポーネントユーザーなら捕獲出来てしまうというのも、仕様外の機能だった。



 自分の理想とする相棒。特別な能力と同じくらい、あるいはそれ以上に大切な存在。

 あの夜、不本意ながら置いて来てしまったマスコット・アシスタントを、カティは探し回っていた。

 初めは気のせいかと思っていた感覚が、今はハッキリと確信へと変わる。

 会場に入った時には非日常的な光景に戸惑いもしたが、今は脇目も振らずにひたすら前へ。

 大量の紙袋を持った集団に轢かれそうになり、探し人とそっくりな格好の人形に驚き、行列に阻まれ大周りを余儀なくされ、熱気にちょっと気分が悪くなり、そしてついに、辿り着いた。


 着いたのだが。


「…………お雪サン?」

「はい、こちらは原型師の『あきばむまーくⅡ』氏の新作で、限定2体、価格は……まぁ勝左衛門(しょうざえもん)様、一日半ぶりでございますね」


 ようやく探し当てたカティのマスコット・アシスタントの和服美人、お雪さんは、何故か個人サークルの一角で、売り子さんなどしていた。


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