0019:ただでさえ穴だらけにした罪悪感があるのに
朝のトップニュースは、関東圏で3か所連続で起こった銀行強盗に関する続報だった。
当初、これらの犯行は同じ強盗グループによって連続的に行われたモノではないか、と見られていたが、その後の調べで犯行手法に共通点が見出せず、またそれらしい物証も見つかっていない事から、偶然近い時間に別々の銀行強盗が行われたらしい、というのが現在の警察当局の見解だ。
被害金額は3行合計で約2億。
銀行を襲ったにしては大した金額ではないようにも思えるが、昨今の銀行は金庫内に大金を置かず、にもかかわらず3行全てで金庫内の現金が残さず持ち去られたその結果、このような被害額となった。
金額以上に、深刻な事件であると言える。
しかし旋崎雨音は、不謹慎ながらホッとしていた。
未明の無差別乱射事件が、朝いちのニュースを飾らずに済んだ事を。
そして、安心するのはやや早かった事を、後日のニュースで知る事となる。
学校とは社会に出る為に整備された階段である。唯一の道ではないが、その後の社会生活におけるアリバイでもある。そんなドライな考えの下、雨音はせっせと学校に通う、ごく普通の生徒さんだ。
願わくば、どうかこれからもこの平和で平穏で退屈な人生を。どこの神様でも構わないので、そう祈らずにはいられない。
それだけに、友人が警察車両で学校に来るのを見た日には、雨音は心臓が爆発するか思うほど驚かされた。
「どうしたカティー?」
「カティーナ、一体どうしたの?」
学校は4限が過ぎ、既に昼食の時間となっていた。
そんな時分に、目立つ白黒のクルマで来たのだから、当然級友たちの興味を引く。
常日頃から明るく元気な――――――ともすれば元気過ぎるほど――――――金髪娘は、アッと言う間に知りたがりの級友に囲まれるが、
「…………何でもー、デスね」
この日のカティは、火が消えたように落ち込んでいた。
「あー……雨音、あんた飼い主でしょ? 何があったか聞きなよー」
「飼い主とか言うな……」
友人のひとりであるダウナー系少女にはこう言いつつも、カティが心配なのは雨音も同じ。実のところ、この世の誰よりも案じている人間であろう。
もっとも、飼っていると言うよりは、一方的に雨音が懐かれているのだが。
昨夜の事もあり、雨音はカティが肩を落としている理由が何となく分かっているつもりでいた。
しかし、それでどうして警察車両での登校となってしまうのかは、雨音に知る由も無いところ。
まさか、警察にバレてしまったのか。
となれば、雨音も他人ごとではない。
「カティ!」
「あ……アマネ…………」
ヒト目を避けるのに終業後を待ち、教室から廊下に出た直後のカティを捕まえる雨音。
5限の休み時間に、カティが何も言ってこなかったのが少々残念だった。存外に雨音もさみしがり屋さんである。
「どうしたの今日は? 何かあったの?」
「あーウ……あの…………」
雨音を見て、カティも何かが喉まで出かかっている様子だったが、何も言いだせないままに涙目になっていく。
そして、
「ご、ゴメンなさいアマネ! カティは大事な用事があるデース!」
「あー! ち、ちょっとお待ちなさいよお嬢さん!!」
振り切るように、踵を返して雨音の前から走り去ってしまった。
ひとり取り残された感のある雨音は、手を差し伸べた呼び止める姿勢のままで考える。
(あの反応は……流石に昨日のアレがあたしだと気が付いて…………。いやそれにしてはおかしい。あの娘なら、ああいう逃げの姿勢はとらないだろうし)
良くも悪くも物事に突撃していくのが、古米国産バッファロー娘のカティーナ=プレメシスである。
雨音が自分の同類と察すれば、カティの方からその辺をハッキリさせに来るだろう。
昨夜の無差別掃射に怯えている可能性も無くは無いが。
何にしても、警察の関与が不明。カティの、あの消沈っぷり。それらが自分に関わりがあるかもと、考えれば。
「…………むぅ、またか」
雨音も自分では大人なつもりで、物事を曖昧にはしておけない若輩者。
例によって暴走小型金髪娘、カティの事を放っておけず、再び尾行を開始するのだ。
そして、先日の反省から、今度は手段を選らばねぇ。




