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いまさら魔法少女と言われても  作者: 赤川
Wave-01 そもそも魔法少女である必要があったのか
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0003:少女の定義とその範囲を答えよ



 魔法少女に、相棒であるマスコットキャラクターは付き物。

 加えて、魔法のステッキも必須となるアイテムだろう。

 だが、魔法『少女(・・)』とは、そもそも高校生よりもっと下、小学校低学年くらいが対象年齢とはなるまいか。

 しかも現状、マスコットを名乗るのは恰幅(かっぷく)の良い40代の、黒いスーツが似合う見た目タフガイ。ただし、中身は小学校低学年くらいの男の子と思われる。

 魔法のステッキという恥ずかしい程ユメとキボウに溢れる代名詞のソレは、どう見ても片手で撃てば手首の骨が折れそうな、50口径ハンドキャノン。多分グリズリーとか倒せる。

 そして、雨音はこの四月に進学したばかりの初心者女子高生(JK)である。魔法少女としては、推奨年齢に外れてはいまいか。

 そもそも、魔法少女というジャンル自体が、雨音の趣味の対極であった。


「というワケで全部返品したいんですけど」

『開始10分でですか?』


 雨音は現在、見渡す限り真っ白な空間にいた。

 上も下も分からない、広いのか狭いのかも分からない、空間認識力が壊れそうになる場所だった。


                         ◇


 BDディスクをプレイヤーを兼ねるゲーム機に入れ、再生して間もなくメニュー画面が表示された。

 表示されていたのだが。


「………なにこれ?」


 読めない。

 メニューの文字が日本語ではない。かといって英語でもない。ハングルでもキリル文字でもアラビア文字でもない。

 角ばった、記号のような文字だった。

 それに、BDならメニュー画面は、ほとんどの場合が動画になっている。

 そこでは、BD作品の内容がダイジェストで流れ、大まかな作品の概要が分かるようになっている。BDの映像作品は、(おおむ)ねそのような形になっていた。


 ところが、雨音が見ていたテレビ画面はと言うと、確かにメニューボタンの後ろで何か映像が動いているようだが、まるで(くも)(きり)が対流しているだけのような感じで、形あるモノは見極められない。

 待てど暮らせど変化は無く、内容に繋がる変化は皆無。


 思えば、ここで止めておけば良かったのか。


 まぁ文字が読めなくても、BDのメニューのボタン配置など、どれも同じような物。

 と思い、雨音は一番左端の、一般的に「全編再生」や「本編再生」に該当するであろうボタンを選択した。

 途端に、画面は真っ黒になった。


「お………」


 いよいよ、この謎のBDの正体が分かるのか。

 箱を空けて中身を確認する前のような、微かな期待感。

 何か自分にとって楽しげな物が出てくればいいなぁ、という軽い希望。

 そんな物を感じていた雨音であったが。


「………あれ?」


 音も映像も、何も始まらない。

 ゲーム機の排熱ファンの音だけが、雨音の部屋の中で(ささや)き声のように鳴っていた。


「あー……なるほどね。読めないディスクなのね、コレ」


 読み取り機や再生ソフトの規格に外れているとすれば、メニューの文字化け(・・・・)や画像がおかしかった(・・・・・・)のも納得できる。

 考えてみれば、何もかもが変なディスクだった。読めなくても、不思議でもなんでもない。

 ひとりでそう納得してしまうと、もはや用済みとなったディスクを取り出そうと、雨音はベッドから腰を浮かせる。


 BDプレイヤーを兼ねるゲーム機は、テレビの台の下の収納スペースに入っていた。

 雨音はディスクを別の映画の物と入れ替えるべく、テレビ画面の前で屈みこむ。

 そしてゲーム機の取り出し(イジェクト)ボタンを押そうとした、その瞬間、


「ぅわッッ――――――――――――――ぷ?」


 すぐ目の前にあったテレビ画面が真っ白に輝き、雨音の視界は塗り潰された。


「おお? ………お……お……」


 ハッキリ言って目が痛い。

 閃光弾、とは大げさだろうが、ブライトネス設定99(MAX)、みたいな光を至近距離で喰らったのだ。目にも大変よろしくない。

 雨音は遅れて目を閉ざし、とりあえず、と手探りでテレビの縁を掴もうとする。

 だが、


「……え? なんで??」


 手先には、テレビどころか何も触れなかった。

 それどころか、テレビの横にある筈の本棚も、反対側の机も、後退(あとずさ)りしてもベッドにすら触れられない。

 しゃがみ込んで手を着こうとしても、フローリングの床の感覚さえ曖昧だ。

 この不可思議な現象について、一般女子高生の雨音に思い当たるモノは無く、とりあえず視力が戻るのを大人しく待つ。

 しかし、目の痛みが無くなり(まぶた)を開いたにも(かかわ)らず、相変わらず目の前は真っ白なままだった。

 一瞬、自分の目が(マズ)い事になったと思った雨音だったが、その考えはすぐに撤回される。

 なにしろ自分の腕も足もハッキリと見えるのだから、目が見えなくなったワケでないのは、すぐに分かった。


「と………なる、と―――――――――――――――――――」



 つまり、自分が今居る場所が真っ白なのだ、と。



『ようこそ、ニルヴァーナ・イントレランスへ』

「――――――――――――――――――――――――――――――お?」


 その仮定から次の疑問を(つむ)ぐ前に、雨音の耳が謎の声を聞き取る。


 雨音の予想通り、借りて来た映画に紛れ込んでいたのは、確かに通常のBD規格からは大きく外れたディスクだった。



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