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いまさら魔法少女と言われても  作者: 赤川
Wave-07 自分の所だけでもいっぱい×2なのに
289/592

0010:自分が迷子扱いでアナウンスされる屈辱



 暴風が耳朶を叩き、ボボボボ……という激しい音を、空っぽな少女の中に送り込む。

 吹き荒れる砂嵐のせいで、空どころか10メートル先も見通す事は出来ない。

 激しく肌に叩きつける無数の砂粒。

 黒いミニスカエプロンドレスの少女は、朦朧とする意識の中で、アテも無く足を前へ動かす。

 一瞬前まで、旋崎雨音(せんざきあまね)の前には、親友のカティーナ=プレメシスがいた。

 分厚い砂塵に覆われ見えなくなったが、その方向には間違いなく、大切な相棒がいる筈だった。


「ッ…………し、勝左衛門(しょうざえもん)!?」


 華奢な身体が風に(なぶ)られ、頼りなく少女が揺れる。

 短すぎるミニスカートが(あお)られ大変な事になっていたが、今は乙女の恥じらいよりも優先すべき事があった。


 戦闘の熱狂に飲まれていた黒アリスは、何が起こったのか把握できていない。

 ただ、何か尋常ではない事が起こった、その事だけは分かる。


(つまり実質的には何も分かって無いって事じゃんか…………)


 こんな時でもツッコミは忘れなかった。

 セルフというのが泣かせる。


 あまりに風が激しく最初は分からなかったが、気が付くと、地面が振動しているのを足に感じられた。

 周囲の状況が分かる程に頭がハッキリしてきたところで、雨音は肝心な事を思い出す。

 何が起こったにせよ、巨大生物は健在だった筈だ。

 ならば、相棒の巫女侍や他の能力者も、未だ巨大生物と交戦の最中にあるという事か。


(この嵐はその影響!? とにかく状況が分からないんじゃ話にならない! どうにか見晴らしのいい所に行かないと!)


 自惚れでも何でもなく、アイアンヘッド島に集った能力者の中で、最大の火力を持つのは自分だと黒アリスは理解している。

 そして黒アリスの火力でさえ、巨大生物を倒すには不足だった。

 能力者達が交戦中なら、相当な苦戦を強いられている筈。

 だが、自分の攻撃力も加われば、まだやりようはある。


 東米国(モダンアメリカ)と日本の能力者、海兵隊、自衛隊、そして相棒で親友の魔法少女。

 一刻も早く自分も戦列に加わらねばと、黒アリスはダッシュで砂嵐を突破しようとし、



 視界が開けたその瞬間、砂塵の壁の向こうから、数えきれない程の無数の異形が突撃して来た。



「んなぁああああああああああああああああああああ――――――――――!!?」



 津波の如き勢いで押し寄せて来る、一種類だけではない多種多様な怪物群。

 ガラスを引っ掻くような神経に(さわ)る叫び声、どこかしらアンバランスに肥大化した身体、凶悪さを現すような爪や牙や顎門(アギト)といった部位。

 そのいずれもが、通常の生物ではありえない異常な特徴を有していた。


「――――――がッ!? ガガガ銃砲形成術式(ガンスミスアーセナル)限界突破(オーバーレブ)!!?」


 パッと見でも100体以上はいるであろう怪物の群れが、一斉に柔らかそうな獲物に喰らい付いて来る。

 これに目を剥いた黒アリスは、悲鳴を上げながらも、迷わず奥の手を起爆。

 振り上げた白銀の回転拳銃ガンスミス・リボルバーを、6連装回転砲身機関銃(M134ミニガン)の携行型に変形させ、無数の怪物へ真っ正面から引き金(トリガー)を引いた。

 黒いミニスカエプロンドレスの少女が両手で抱える、全長90センチ、重量18キロの大型火器。

 回転する6連砲身が火を吹くと、毎秒50発の7.62ミリ弾が、連なる炸裂音と共に盛大に撃ち出され、圧倒的な火力が怪物群を薙ぎ払う。


 が、しかし、


「多過ぎるわッ!!?」


 一瞬で100体ばかりを殲滅しても、その穴に雪崩れ込んで来る新たなバケモノの群れ。

 それどころか、獲物に抵抗されたのを憤る様に、耳障りな叫びを上げながら黒アリスに向かう数を増やす。

 高い発射速度(ファイアレート)がこの場合は仇となり、連射20秒で大型弾倉(ドラムマガジン)は残弾ゼロに。

 限界突破(オーバーレブ)なら2~3秒で再展開(リロード)出来るが、ここで黒アリスの脳裏に師匠の言葉が閃いていた。


『想定外の事態が起こったなら、一度後退して体勢を立て直せ』


 それも状況によりけり(・・・・)だが、ハッキリ言ってこの状況はワケが分からな過ぎる。

 即座に撤退を決めた黒アリスは、白銀の回転拳銃ガンスミス・リボルバーを基本形態に戻すと、直後に後ろへ向けて発砲。

 魔法の50口径弾が角ばった迷彩色の軍用車両、軽装甲機動車(LAV)――――――全長4.4メートル、全幅2.04メートル、全高1.85メートル――――――に変形すると、黒アリスは助手席に(・・・・)飛び込んだ。


「ジャック! 出し――――――――って居ない!?」


 ところが、運転席に魔法少女のマスコット・アシスタントである、ゴツい黒スーツのタフガイ、ジャックの姿は無い。


(やっぱり誰かの目が在るとダメって事!? 怪物相手でも同じか…………)


 マスコット・アシスタント達は、誰も見てない所から現れ、誰も見ていない所で消えるという性質がある。何者かに観察されている場所には、出現出来ないらしい。

 黒アリスは、怪物群の巨大な流れに飲み込まれている状態だ。

 怪物のどれかが見ているのなら、ジャックも出て来られないのも当然だと、


 この時は、黒アリスもそのように考えていた。


 出て来ないものはしょうがない。

 既に怪物は軽装甲機動車(LAV)に体当たりし、ガリガリと車体に爪を立てている。

 このまま黒ひげゲームかアイアンメイデンのように四方八方から串刺しにされ上部ハッチから飛び出すワケにもいかず。

 黒アリスは運転席に着くと、エンジンを回しアクセルを踏み込む。

 一般の車両とは違う派手なエンジンサウンドを掻き鳴らし、大移動する怪物の群れと同じ方向に突っ走る軽装甲機動車(LAV)

 怪物たちは、狂ったように一方向へ爆走している。

 時々横から軽装甲機動車(LAV)に突っ込んで来る個体もいたが、クルマほどの速度が出せる怪物でもないのか、追い付くモノは無かった。


「コイツらどこから湧いて出たの!? カティ達は生きてるんでしょうね!!?」


 デコボコと荒れた平地(・・)をアクセル全開で飛ばし、何かを踏んで跳ねる車体を立て直す。

 未だ砂嵐で視界は最悪に近く、どこに向かって良いかも分からない。

 激しく上下する車体のせいで黒アリスも尻が痛いが、そこを無視して進行方向に目を凝らした。

 すると、視界の中に目を引く何か(・・)を発見してしまう。


「ッ……ヒト!? 人間!!?」


 思わず黒アリスはアクセルを緩めていた。

 気味の悪い怪物たちが向かう先では、明らかに人間らしき姿(シルエット)のモノが倒れているのが見える。

 それも、ひとつやふたつではない。

 進むごとに、倒れた人間らしき姿は増えていった。

 生きているのか死んでいるのか、なんて考えたくもないが、倒れた方々には申し訳ない事に、黒アリスにはそれより見過ごせない注目すべき点が。


「これ……あのヒト達(・・・・・)と同じ!?」


 倒れた人間達は、ほとんど全てが鎧らしき物を装備していた。

 それは、巨大生物との遭遇前に、黒アリスと相棒の巫女侍が偶然発見してしまった謎の集団と同じに見える。


「これだけの数が……怪物と一緒に隠れてた!? でも……それならみんなはどこ行ったのよ!!?」


 込み上げる心細さと不安に、押し潰されそうな小心者の魔法少女は、再びアクセルを力いっぱい(・・・・・)踏み込んだ。


 直後、バゴンッ――――――!? と。


「んぎゃ!?」

「わーッ!!?」


 突然クルマの前に飛び出して来た銀髪の少女を、魔法少女の軽装甲機動車(LAV)が跳ね飛ばしていた。


                        ◇


 9月最終週の日曜日。

 いまさら改めて言われるまでも無い巨大生物の脅威を、胡散臭い外務省の官僚にチラつかされた為に、魔法少女の黒アリスは太平洋のある島(・・・)へと赴いていた。

 それは、世界を襲った巨大生物の出現地点を探る調査で発見された、新たな巨大生物が目撃された島。

 その島は、『アイアンヘッド』と名付けられた。


 胡散臭い笑みを浮かべる官僚に言われるまでも無く、6月末の件では思うところもあった黒アリスは、自らの意思で『アイアンヘッド』へ向かう決意をする。

 島では既に東米国(モダンアメリカ)と日本の合同調査団が入っていたが、出現する巨大生物と怪生物の襲撃により多大な被害が出ており、実際の調査は遅々として進んでいないのが現状だ。

 黒アリスや巫女侍、その他日本の能力者は、調査団への応援という名目で『アイアンヘッド』に派遣されていた。


 海兵の注目を集め、因縁のある能力者に睨まれ、日本と東米国(モダンアメリカ)の政治的な思惑の最中にあっても、黒アリスの目的はただ一つ。

 新たな巨大生物の脅威を確認し、必要であれば排除する。

 6月末に共に戦った魔法少女達は、今回は居ない。

 能力者の数だけなら6月末の時よりも多いが、アテに出来るかどうかは、まるで分からない。

 このように不安要素だらけの中、黒アリスは海兵に伴われ、巨大生物と島の調査に乗り出した。


 しかし、島内の捜索を開始して暫く後、黒アリスは巨大生物の前に、奇妙な人物と遭遇する事になる。

 それは、高校生の旋崎雨音(せんざきあまね)よりも3~4歳年上か。

 白銀の長い髪に、少し紅が混じる黒い瞳。

 薄汚れていても衰えない、理知的な美しさ。

 まるで、騎士のような屈強な男達に(かくま)われていた、姫君が如き謎の女性だった。


 言葉すら通じない怯える女性を、どうにか落ち着かせたいと、行動で訴えかけようとした黒アリス。

 彼女が何者で、どこから来たのか。

 だが、その辺の詳しい話を少しも聞けないまま、「よりにもよって」なタイミングで巨大生物が出現してしまう。


 本命の出現により、海兵と能力者達は、巨大生物への総攻撃を開始。

 黒アリスも他の能力者より抜きん出て破壊力のある魔法を叩き込むが、巨大生物の圧倒的な耐久力により有効打とはならず。

 その上、最も脅威度が高いと認知されてしまったか、黒アリスに対して巨大生物からの攻撃が集中。

 巨大生物と黒アリスは島の中央、『ポイントゼロ』で真っ向からぶつかる事となったが、そこで誰もが想定しなかった、そして理解も出来なかった事態が発生する。


 その結果、黒アリスは突如として猛烈な砂嵐の中に放り込まれ、無数の異形の大群に飲み込まれ、逃げ出したところで人身事故を起こした、というのが、ここまでの最近の流れである。


                       ◇


 軽装甲機動車(LAV)は基本的にAT車(オートマチック)であり、その気になれば子供にだって操作できてしまう(・・・・・・)クルマだ。

 しかし、雨音は操作する事と運転出来るという事は別物だと考えている。

 単にクルマを操る事と、交通法規を理解して運転する事の違い。

 それは、法律上許されるか否か等という話ではなく、事故を回避する知識と意識を持ち、ヒトの生活圏でクルマに乗るルールを多少なりとも知っている、という事だろう。

 だが、そもそも運転免許を取る過程で、その辺の知識と技術も学んでいる筈だ、との前提に立っており。

 ちなみに、旋崎雨音(せんざきあまね)は現役の高校1年生。

 日本の法律では、クルマの免許は18歳から取得出来、これは大体、現役ならば高校の3年生にあたる。

 アイハブノーライセンス。


「や、やっちまっただ……無免許の上に交通事故…………」


 これまでにも怪生物をクルマで跳ね飛ばした事はあったが、自分の運転で、ヒトの姿をしたモノ相手だと、またインパクトがケタ違いであった。

 涙目で真っ白になり、ガクガクプルプル震えていた白アリスだったが、差し迫った危機の前に、どうにか現実から逃避せず踏み止まる。

 黒いミニスカエプロンドレスの少女は運転席から飛び出すと、ゴツいクルマの前でひっくり返っている鎧姿の少女へと駆け寄った。

 やっちまったものは仕方ないにしても、要救助者なら放ってはおけないと、恐る恐る、同時に急いで少女を仰向けにし、


「んんッ!?」


 そんな場合ではないのだが、倒れている銀髪少女の顔を見た途端、黒アリスは少しばかり自分の目を疑ってしまった。

 長い銀髪に白い肌、半分白目を剥いて(ヨダレ)を垂らしている残念な顔だったが、紅混じりの瞳の色に、本来は整っているであろう美しい顔形(かおかたち)は、つい最近見た覚えがあった。

 というか一瞬、同一人物かとも思ったのだが。

 しかし、巨大生物と遭遇する直前に会った彼女(・・)に比べると、ふたつ(・・・)みっつ(・・・)ばかり若く見える。

 それこそ、変身前の雨音と同じくらいの年頃だろうか。

 コレは一体どういう事だ? と悩む間もなく、黒アリスは白銀の回転拳銃を、向かって来た怪物の一体にブッ放した。


「ギィイイイイイイ!!」

「グゲッッ!?」

 

 昆虫なんだか猛獣なんだか分からない生物を更に2体、50口径のハードナックルで殴り倒す。

 弾倉(シリンダー)には残弾2発。

 黒アリスは再装填(リロード)するより、回転拳銃(リボルバー)その物を大弾数の兵器に変形させようと、した。



 収まりつつある砂嵐の中に、異形の怪物と巨大生物の大群を見た瞬間に、考えを改めた。



「ん…………な…………あ…………あ?」


 

 人間大の怪物が、数え切れないほど。

 それに、遠近感がおかしくなりそうな程、巨大過ぎる威容が幾つも(そび)え立っている。

 黒アリスの戦意は、コンマ数秒ももたなかった。


 思考停止状態のまま、黒アリスは近くの地面目がけて一発発砲。

 陸路での逃走など問題外。

 魔法の50口径弾を特殊戦輸送ヘリ、MH-60(ブラックホーク)へ、銀の回転拳銃ガンスミス・リボルバーを空挺仕様5.56ミリ軽機関銃(M249Para)へ変形させる。


「ッ……お、重いわよ無駄に! ジャック! 居るなら手伝って!!」


 10キロ以上ある軽機関銃の重量を無視し、向かって来る怪物を片手持ちで迎撃する黒アリスだが、自分が()いた鎧の銀髪少女の重量までは無視できず、歯を食いしばってブラックホークまで引き()って行った。

 やはり操縦席にジャックはおらず、黒アリスは強引にヘリの乗員席(キャビン)へ銀髪娘を押し込むと、自分も搭乗――――――する前に機関銃(M249Para)で迫る怪物を掃射。

 大容量弾倉(Beta-C_Mag)を入れ替えると、操縦席から撃ちまくりつつ、ブラックホークのエンジンをスタートさせる。

 ヒィイン……という音を立て、回転翼(ローター)が回転を開始。

 怪物は密度を増やし、操縦席の逆側からは赤黒く大きな爪が、ブラックホークを引っ掻いていた。

 黒アリスはエンジン出力を上げ、怪物を蹴散らしながら機体を一気に浮上させる。


「ッ…………! くぬッッ!?」


 不慣れな為か、急な離陸で機体が勝手に横回転した。

 足元のペダルでテールローターを操り、黒アリスも機体を安定させようとする。

 不幸中の幸いで、この回転で車輪に取り付いていた怪物達は振り落とされていた。


 横滑りする操縦席からの風景。

 とにかく高度を、少なくとも600メートル以上、と必死になってブラックホークを上昇させていた黒アリスだが、ようやく機体が安定してきたところで、またしても意識が飛びかけた。


 砂嵐は収まっていた。

 ヘリの操縦席から下を見ると、そこはまるで地獄が溢れたかのような光景が広がっている。

 ひらすら暴走する、地上を覆い尽くす怪物の大群。

 巨大な昆虫、巨大なヤドカリ、何処かで見た巨大な緑の首なしゴリラ、巨大な――――――もはや何と表現するべきか分からない、何体もの巨大生物達。


 そして、そこは島などではなかった。

 回転するパノラマで見たのは、遥か遠くまで広がる地平線。

 横たわる山脈。

 霞んで見える大きな湾に、街らしき幾何学的な形状物の集まる地形。


 完全に理解出来る範囲を超え、頭が真っ白になる黒アリスだが、極限までシンプルになった思考は、オッカムのカミソリの如く正しい結論を導き出していた。


 つまるところ、消えたのは海兵や能力者、相棒の巫女侍ではない。

 自分こそが、あの島から消えていたのだと。



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