0017:何とかに刃物、何とかに銃
「邪魔くせーデース!!」
「ぐあッち!?」
カティは雨音を蹴り倒すと、その向こうから突っ込んでくる3体のフィギュアへ大刀を振るう。
踏み込みは路面を揺るがし、力任せに振り回される刀は突風を生み、ウレタンとシリコンの人型を木の葉のように吹き散らした。
(なんなのこの怪力!!?)
無人攻撃機の映像からカティの強さは知ってたが、間近で見ると、また凄まじかった。
雨音同様の擬態擬装能力。そして、比べ物にならない身体能力。
つまりそれがカティの選んだ能力なのだろうと雨音は推測する。前から侍かぶれだったし。
だが、今は正直カティを気にかけている余裕はない。
「ちッ!? ちょちょちょちょちょと待って!!!」
カティに向かっていく等身大フィギュアがいる一方で、雨音の方にも半分くらいが向かって来ていた。
無表情で声一つ上げない人形の集団が、視界いっぱいに迫ってくる。こんなのどうしろというのだ。
「ゲハハハハ! とっ捕まえて裸に剥いてオンナに生まれた事を後悔させてやるでござる!! 変身ヒロインは悪落ち快楽調教してやるれ展開!!」
何やら角付き兜にマントを付けたフィギュアに、前屈みで腰をトントン叩かれているひょろ長男が哄笑を上げていた。
見た目的には非常に情けないが、持ってる能力の方は洒落にならない。
おまけに変態だ。捕まったら何をされるか分からない。カティだって危ない所だったのに。
そして、雨音の手には強力極まりない兵器。前には敵。命もそうだが貞操の危機。それが自分と友人の二人前だ。
それでも雨音は発砲を迷ってしまう。銃で人や何かを撃つのも、異常な特殊能力を振るう事も。
既に10発ばかりぶっ放し、それ以前にカティを探しにとんでもない物まで作り出してしまったとはいえ、ここで自らの意思で引き金を引くのは、何か決定的に戻れない道を往くような気がしてしまい、
「特にそっちの気の強そうなメイドはア〇ル調教決定! ヤバすエロゲー的な夢が無限大に!!」
ひょろ長男の科白が、雨音の中の引き金を引いてくれた。
無表情になる、黒いミニスカエプロンドレスの少女。
その手にした見た目以上の大威力を秘める魔法の杖を、ゆっくりと持ち上げ、
「………ガンスミス・アーセナルッ!!!」
等身大フィギュアの集団に向けられる銃口から、魔法の呪文と共に銃弾が発射される。
同時に、一斉に構える等身大フィギュア軍団だったが、撃ち放たれた銃弾がそれらを砕く事はなかった。
何故ならば、弾丸は銃口から僅か十数センチの空中で止まっていたのだから。
直後、銃弾は一瞬で姿を変える。
出現したのは、大口径の弾丸とは比べ物にならないほど大きな重火器。
5.56ミリ軽機関銃、M249『ミニミ』。
雨音は宙に浮いている軽機関銃の銃把を掴み取ると、そのままバッタリと前に倒れ込み、
一瞬で二脚を立て、伏射姿勢による情け容赦無い無差別掃射を開始した。
「は―――――――――ヒギャァぁぁあぁアアぁ!!!!!?」
毎分約720発、毎秒約12発ブッ放される5.56ミリ弾は、3ミリの鉄板を撃ち抜くほどの威力がある。
ウレタンやシリコン、合成樹脂など豆腐に等しく、圧倒的な数を誇る等身大フィギュア軍団は、一瞬で穴だらけにされていた。
集団によって守られていた筈のひょろ長男の至近距離を、大量の流れ弾が飛んで行く。
止まらない炸薬音。
マズルファイアの閃光が通りの横幅いっぱいに広がり、バラ撒かれる弾丸が倉庫や他の建物に無数の弾痕を穿つ。
動く物は尽くが軽機関銃の照準に捉えられ、雨のような集中砲火を喰らうハメになった。
「ギャァァァアぁあ死ぬ!! 殺される!! 助け――――――――――ふぁべら!!?」
ひょろ長男はパニックになって逃げ惑い、コントロールを失ったのか、フィギュア達までもが銃弾の雨の中を右往左往する。
しかも、
「痛ッタァ!!? ちょ、待つデス!! キャァァアアア!!!?」
無差別発砲なので攻撃目標の区別が無く、カティまでもが諸共に薙ぎ払われていた。
現場は、阿鼻叫喚の地獄絵図と化している。
元から戦の場ではあったが、今は戦争に用いられる重火器によって蹂躙される、硝煙と銃声轟く本物の地獄の戦場だ。
その銃声が、唐突に止む。弾切れだ。
分間720発の発射速度を誇るとはいえども、給弾ボックスには200発しか入っていない。
もっとも、銃砲系魔法少女には、大した問題ではなかったが。
雨音はエプロンポケットに収まっていた魔法の杖を、今度は2発連続で発砲。
先と同じプロセスを経て、圧倒的火力で猛威を振るった軽機関銃を作り出す。
しかも、今度は2挺。
黒いミニスカエプロンドレスの少女は、それを左右に抱え込むと、無言のまま立射で撃ち始めた。
いや、
「………フフ………」
マズルファイアに照らされた雨音の顔は笑っていた。
20キロを超える重火器の重量も、無数に炸裂する火薬の反動も、銃を使う事への抵抗も、何もかもを銃弾と一緒に彼方へ吹き飛ばして、少女は壮絶な笑みを浮かべていた。
「…………は……あはは……………アハハハハハハハハハ! アハはハハはハハハ!!!!! ハーーーーーーーーーッハッハッハッハァァそぉおらお亡くなりになりやがれぇえぇぇぇえええ!!!!! フハハハハハハはハハは!!!!!!」
魔法少女の皆殺しモード。
逃げる奴は変態だ。逃げない奴は良く鍛えられた変態だ。
等身大フィギュアはほとんどが木っ端微塵にされ、ひょろ長男が泡を噴き、カティは子供のように頭を抱えて縮こまり、電柱は倒され自動販売機は爆発し、警察車両が炎に包まれ、消化栓が噴水と化する。
そして、また弾切れ。
僅かな静寂に生存者たちが雨音を見るのと、少女が手にしていた回転拳銃が火を噴いたのが、同時。
次に出てきたのは6連装回転銃身を持ち、7.62ミリ弾を秒間100発という発射速度を誇る機関銃。
M134、通称『ミニガン』、携行型。
あまりの事に、その場にいる誰もが絶望した。
あんな銃のバケモノで撃たれた日には、死体どころか肉片に変えられてしまうのでは、と。
事実を知らなければ、そう思うのも無理からぬ事であった。
だが、そのバケモノ機関銃の砲身が回転を始めた直後、雨音のすぐ横に、角ばったクルマが走り込んで来る。
「アマ――――――お姉ちゃん! 警察が来るよ! すぐに逃げないと!!」
「あ゛? …………………………はぁッッ!!?」
同時に、ヤバイ目をしていた雨音が、皆殺しモードから通常モードに復帰した。
正気に戻ってみると、周囲は見るも無残な有様。こうなると思ったから、実用で銃を使うなんてイヤだったのに。
銃声が消えてみれば、今度は警察車両の無数のサイレン音が近づいて来ているのが聞こえた。これだけ大騒ぎすれば当然だろう。
そして、この惨状を作りだした当人はといえば。
(これ……器物損壊……公務執行妨害……銃刀法違反……傷害……殺人未遂――――――)「――――――ジャック! ズラかるわよ!!」
一瞬で――――――主だった罪状の――――――考えを纏めると、黒いスーツを着た大柄の男が運転する軽装甲機動車に飛び乗る。
「出して! あ、いやあの娘の前で止めて!!」
「わかった!」
「………エ?」
軽装甲機動車はボロボロになっているカティの前で一時停止すると、車内から雨音がカティを引き摺り込み、そのまま猛スピードで逃げだしていった。




