0016:しょーつジャナイヨ大臀筋矯正さぽーたーダヨ
表向きの服ばかり気になって、変身後の下着がどうなってるかなんて、想像もしていなかった。
等身大のフィギュアに支えられた、ひょろ長い背の男。
その目を血走らせて一体何を凝視しているのかと思えば、視線を追った先にあったのは自分の尻。
年頃のお譲さんとして、その時の旋崎雨音の驚愕と言ったら尋常ではない。
屋外で丸出しのお尻を変態男の前に晒しているなど、世界が崩壊したかと思うほどの衝撃だった。
実際にはきちんと――――――しているかは兎も角――――――下着は履いていたのだが、雨音からそれが見えず、ツルンとした形の良い小尻の大半が露わになっていた事実に変わりは無く、全くと言って良い程慈悲は無い。
自分に与えられる慈悲が無いのに、ヒトにかける慈悲など絶無である。
「というワケで死刑執行だオラァぁあぁァアア!!!!」
超速クイックリロードで再装填を終えた雨音は、怒りと羞恥の弾丸を再びひょろ長男へ叩き込もうとし、
しかし今度は、直撃する寸前で等身大フィギュアの群れに止められていた。
「はぁッッ!!?」
その防ぎ方に、雨音は仰天させられる。
要するに人間――――――というか人形――――――の盾だ。
複数のフィギュアが寄って集ってひょろ長男と雨音の間に入り、自らが砕け散るのも厭わず弾丸を止めていた。
雨音の銃弾は――――――どんな原理か知らないが――――――ヒトは殺さなくても、物は容易く破壊するらしい。
相手が無機物とはいえ、人体に似せた形状の一部が、木っ端微塵となるのを見るのは心臓に悪かった。
「うぇ!? ご、ゴメ――――――――――!!?」
思わず謝ってしまいそうになる雨音だったが、フィギュアの方は謝罪など求めていない。
フィギュアの一体が雨音の方へと駆け込み、ウレタンとシリコン製の腕を振り上げると、
「え――――――――ひゃぁぁあああ!!?」
雨音へ向かって、横から叩き切るかのような右フック。
怖気に後退っていなければ、横っ面に喰らっているところだ。
(うわヤバッッ!!!?)
銃など持っているが、雨音は自分に喧嘩や戦争が出来るとは思っていない。カティには宣戦布告しそうになったが。
いざ正面から暴力を叩きつけられたり、殺意を向けられたりといった経験など、この日本ではそうそう有りはしないだろう。
戦闘経験どころか喧嘩の経験すら皆無な雨音には、鉄火場での立ち回りなんか知り様も無かった。
所詮雨音には、映画で見た程度の知識しかないのだ。
「――――――――グッ!!?」
案の定、早過ぎる展開に身体が付いて行かず、脚を縺れさせた雨音は、またしても尻もちを着いていた。
この致命的な隙を突かれ、フィギュアの一体に首を鷲掴みにされてしまう。
しまった、と思う間もなく、人間の物ではない力で、雨音の華奢な首は絞め上げられようとした。
その直前、
「イェアァアアアアアア!!!」
「ッとぉ!!?」
雨音の頭のすぐ上を、カティの大刀が駆け抜けていく。
首を締め上げようとしていた等身大美少女フィギュアは、腕と胸から上の部分を横一文字にブッた斬られていた。
すぐ近くで起こった凄まじい破壊に、僅かな間頭が真っ白になっていた雨音は、ワンテンポ遅れて我を取り戻す。
「ぉ、あ、あぶね! 助かったわカティ――――――ぃぃいぃいいいいいぃぃ!!?」
「チェイサー!!!」
我を取り戻してなかったら、次のカティの袈裟斬りに対応出来ない所だった。
「ここここらカティ!! あんたあたしは敵じゃないとさっきから――――――――――――!!」
「カティの知り合いに露出過剰な黒アリスみたいな格好したトリガーハッピーはいないデース! ちょっと銃が好きなだけのクールビューティーなフレンドはいるケド基本パンツはストライプとかシンプルなのばかりでそんなHENTAIショーツ履いてまセンねー」
「それについてはあんた後でキッチリ話し付けるわよ!!」
回転拳銃の銃身で刃を受けつつ、逆鱗に触れられた雨音が牙を剥く。
そもそも、雨音のスカート後ろ半分を斬り捨ててくれたのは、この猪武者娘である。おかげで雨音がトラウマ級の恥を精神に刻む事に。
無事に帰ったら同じトラウマをこの暴走娘に刻んでくれようと、雨音は強く心に誓っていた。
その為にはまず、ひょろ長い男や、動く等身大フィギュアの連中をどうにかせねばならなかったが。




